スペシャル
特別ノベル
“夢”のために
イラスト

「まったく……無茶し過ぎですよ、シンさん」

 ケイ・ギブソンが呆れたように溜息を吐き、飛鷹 シンの右隣に座った。
 救急箱から傷薬を取り出し、手慣れた様子で手当てを始める。

「いてて、サンキューな、ケイ。毎度付き合ってもらってよ」
「あたしが見てないと、どんな無茶するか分かりませんからね。はい、包帯巻きますよ」

 シンはケイが包帯を巻きやすくなるよう、右腕を彼女に向けた。
 柔らかい笑みを浮かべたケイの顔が近づく。
 彼女と正式に恋人として付き合うことになってそこそこの時間が経つが、TRIALに入り浸るようになったのはつい最近のことだ。
 シンには夢がある。全てを――倒すべき敵も含め、世界の存在全てを救うという夢が。
 数々の戦いの中で心をすり減らし、迷いが生じたこともあったが、あるきっかけを経て改めて決心している。
 そのためには、強くならねばならない。
 TRIAL技術部はシンに目を付け、シンもまた“魔窟”である技術部に積極的に関わることにした。
 珍妙な発明品や兵器のテスト、時には技術部員の暴走を止めるために奔走と、スリルと生傷の絶えない日々を送っている。

「シンさん、最近は前よりも楽しそうな顔をすることが多くなりましたね」
「そうか? 楽しい、っていうより、こう何が起こるか分からない毎日を過ごしてたら悩んだりする暇もねぇ、って感じだよ」
「それ、先輩やキョウさんには言わないで下さいよー。
 いいオモチャを見つけたって顔をして、色々無茶ぶりすると思いますから」
「そんときゃそん時だ。それに、ケイくらい色んな事をこなせるようにしたいからな」

 手当を終えたケイが姿勢を変え、シンと並ぶようにして座り直した。

「シンさんの夢、すっごく大変ですよ。何度も失敗すると思います。
 でも、一人で成し遂げようなんて思わないで下さいね?」

 ケイがそっとシンの手の甲に掌を重ねた。

「一人じゃどうにもならなくても、あたしが一緒です。
 夢物語、大いに結構じゃありませんか。それに」
 
 満面の笑みを浮かべ、ケイが言った。

「TRIALに夢やロマンを笑う人なんていません。
 あたしたちがいつもバカみたいなことやってるのは知ってるでしょう?」
「はは、それもそうだな」

 現実なんて知ったことではない。やりたいから思う存分やる。
 それがTRIALにいる人たちだ。
 少しばかりやり過ぎて周囲に迷惑をかけがちなのが玉に瑕ではあるが。

「じゃ、行きましょうか。ノエルさんがパン焼いて待ってますからね」

 二人は立ち上がり、重ねた手を繋いだままTRIAL本部棟へと向かうのであった。

※こちらのノベルとイラストはクエスト&マーケットキャンペーン「お好きなNPCとのイベントカット+ミニノベルのセットのオーダー権」で作成されました。

登場人物 : 飛鷹 シン / ケイ・ギブソン(NPC)
Illustrator : 涼木ソルト
ノベル制作 : 式条蒼

【クリスマス】はBAR『BB』で
イラスト

 水城頼斗は昨日から仕込んで寝かせておいたローストビーフを、よく研いだ包丁で極薄くスライスしていた。
 ローストビーフの焼き加減は絶妙で、中は美しい紅色だ。
(この色を活かして薔薇の花の形に盛り付ければ、クリスマス限定メニューの特別感が出るな……)
 頼斗が思考を巡らせていると、後ろから遠近薫の声がした。
「らい兄、コンソメのジュレ、もう固まってます」
 薫が覗き込んでいる冷蔵庫の中には小さめのグラスがたくさん、琥珀色に輝くコンソメのジュレを底に抱えて行儀よく並んでいる。
「おー、そうか。じゃ、仕上げてしまうから、トレーごと出してくれるか?」
 頼斗は切ったローストビーフにラップフィルムを掛けながら頼んだ。
 薫はグラスが滑って落ちないよう慎重に、そうっと取り出して頼斗の前に置いた。
「はい」
「サンキュー」
 薫に優しく微笑んでから、頼斗は手際よくグラスの中を飾り付けていく。
 ジュレの上にカブのムースを薄く敷いて白いキャンバスにしてから、枝豆ペーストの緑とクランベリージャムの赤で模様を描き、真中にキャビアを盛って、仕上げに小さくちぎったディルの葉を乗せれば、クリスマスカラーの前菜が完成だ。
 トレーの上はケーキが並んでいるみたいに華やかになった。
「素敵ですね……」
 横から見ていた薫が思わずため息を漏らした。
「だろ? 見た目も美味しさのうちだからな。一つ味見してみるか?」
「いいんですか?」
「予備も含めて多めに作ってあるんだ。俺たちが味見する分も当然入ってるのさ」
 頼斗はティースプーンを取り出すと、ジュレのグラスと共に薫に手渡した。
「模様を崩してしまうのがもったいないです」
 と言いつつも、薫はジュレとムースとペーストとジャムとキャビアが全部一匙に乗るように掬った。
 そっと口に入れると、滋味のある優しい味わいが口中いっぱいに広がり、キャビアの塩味と食感がアクセントになって面白い。
「んーー、これはまるで……クリスマスパーティーみたいな味ですね!」
「どんな味だよ」
 笑いながら頼斗もグラスを一つ取ってスプーンを入れた。一口ゆっくり味わって飲み込んでから、
「……なるほど、確かに」
「でしょう?」
 二人で小さく笑い合う。
 こんな他愛もないことがこの上なく楽しい開店前のひと時。
「おっ、もうこんな時間だ」
「今日は予約のお客様もいらっしゃるし、私、ここを片付けて準備しますね」

 ――BAR『Black Blade』間もなく開店です。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 水城 頼斗 / 遠近 薫
Illustrator : しらたき
ノベル制作 : 浅田 亜芽

【クリスマス】はふたりきりで
イラスト

 カコン――。
 シャンパングラスが触れ合う澄んだ音が、穏やかな静寂の中に響く。

「ディス様、メリークリスマス、ですわ」
 リルテ・リリィ・ノースの改まった挨拶に、夫のディセンバー・ノースは、
「へーへー、メリクリメリクリ」
 などと茶化して返した。堅苦しいのは苦手だし、照れ隠しだったのもある。
 ディセンバーにとって、クリスマスよりも大切なのは愛しい妻の誕生日の方だから、
「……それから、ハッピーバースデー、マイレディ」
 と付け加えるように言っても、その声には深い愛情がこもっていた。
 それをリルテは確かに聞き取って、ふふ、と柔らかく微笑んで礼を述べた。

 テーブルの上には二人で一緒に作ったお祝いの料理がずらりと並んでいる。
「これ、美味しいですわね」
「鮮度の良いやつが手に入ったからな」
 一つ一つ感想を言い合いながら味わえば、美味しさも増す。

 結婚して以来、二人で一緒に行動することが多くなった。外出先から一緒に帰り、一緒に料理をして、一緒に食べ、一緒に眠る。
 何気ない日常の中にもいたるところに幸せがあり、幸せを共有できる人が今そばにいることに、リルテは感謝の念を抱かずにはいられない。

 デザートのケーキを堪能した後、二人はソファで寄り添ってリラックスしていた。
 シャンパンで少し酔ったリルテが、甘えてディセンバーの肩に頭をもたせかけると、ディセンバーはリルテの肩に腕をまわして抱き寄せた。そして肩先に零れ掛かっている美しい空色の髪を指で弄ぶ。
「大晦日にはディス様のお誕生日をお祝いしませんとね」
 夢見るように言うリルテに応えて、
「わざわざ当日まで待つ必要ねェだろうが。丁度『プレゼント』も目の前にあるんだからよ」
(え? プレゼントですか?)
 不思議に思ったリルテが頭を起こして見ると、ディセンバーは不敵な笑みを浮かべてリルテを見つめている。
 リルテが何か言おうとする前に、ディセンバーは素早く妻の顎を捉えて唇を奪ってしまった。
 不意打ちに驚いて一瞬体を固くしたリルテ。
 しかしディセンバーの言った言葉の意味を理解すると全身にじわじわと喜びが広がり、同時にこわばりも解けて、リルテは愛する夫に身を任せた。
 強引なのに甘くて熱く包み込むような口づけは、リルテの身も心も蕩かせていく――。

 窓の外では雪が舞い、しんしんと冷えるクリスマスの夜。
 キャンドルの灯る暖かい部屋の中で、二人は幸福に溢れた時間を過ごすのだった。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : リルテ・リリィ・ノース / ディセンバー・ノース
Illustrator : 谷崎 メイコ
ノベル制作 : 浅田 亜芽

Happy Holy Night
イラスト

 意外なことかもしれないが、ネヴァーランドの神様は身寄りのない子供たちを引き取って、孤児院で面倒を見ている。
 その孤児院にやって来た世良延寿は、食堂にいた子供たちに呼びかけた。
「みんな! クリスマスパーティーをしようよ!」
「クリスマスってなあに?」
 一番近くにいた幼い女の子が延寿を見上げて尋ねた。
「クリスマスは神様の誕生日をお祝いする日なんだよ!」
「お誕生日パーティーやるの!?」
 面白そうな気配を敏感に察知して集まってきた他の子供たちも、目をキラキラと輝かせている。
「そう! だからね、今から皆でおっきなケーキとか作って準備しよう? 神様にはまだ内緒だよ?」
 延寿は子供たちをわくわくさせるために、秘密の共有というエッセンスを仕込んだ。これは長年アイドルとして活動してきた延寿が自然に身につけた技なのだろう。
「わ~い!」
 たちまちテンションの上がった子供たちは、大はしゃぎで準備に取り掛かった。楽しそうな子供たちを見ると、延寿も思わず笑顔になってしまうのだった。

 ケーキとご馳走をテーブルに並べて準備が整ったので、子供たちは神様を呼びに行った。
 その間に延寿はミニスカサンタの衣装に着替えておく。赤と白を基調にしたこの服は、可愛いピンクのリボンがふんだんにあしらわれていて、延寿にとてもよく似合う。

 神様が食堂に入るなり、延寿と子供たちは声を揃えて言った。
「「神様、お誕生日おめでとう!」」
「えぇ! サプライズ? 僕、感激しちゃうな」
 神様はニコニコして嬉し涙を拭う真似なんかしている。

 子供たちと延寿が神様のために祝福の讃美歌を歌った後、早速皆で一緒にご馳走を食べた。
 延寿は神様にケーキを一切れ取り分けてあげた。
「神様、このケーキは皆で作ったんだよ?」
「どれどれ……わ、おいしい!」
 神様が笑顔で食べてくれて、延寿は嬉しい。
「そういえば、あの時もキミのケーキを食べたっけ」
 懐かしそうに呟く神様の言葉で延寿も思い出した。あの時も、カフェで悪戯する神様をケーキで笑顔にさせたなあ、と。

 食事が終わる頃、延寿はサンタ役になって皆にプレゼントを配った。
 包みの中身は『神様と†タナトス†のぬいぐるみ』。
 延寿の手作りだと聞いた神様は驚いて目を丸くした。
「全部キミが作ったの? 凄いなあ。ありがとう、大切にするね!」
 神様はとても気に入った様子で、自分と†タナトス†の分身を両手に持って、お人形ごっこのように二人の会話を再現して遊ぶのだった。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 世良延寿 / 神様(NPC)
Illustrator : 黒鶫縺姫
ノベル制作 : 浅田 亜芽

乃々華の想い
イラスト

「これは……ノエルさんの日記……ですよね?」

 おかしな言い方だと思われるかもしれませんが、私、慎 乃々華は、ある日突然バーナード準男爵家の三女ノエルに転生してしまいました。
 突然のことで戸惑うことも多かったのですが、そんな私に家族はとても優しくしてくれました。
どうにか日々の暮らしに慣れてきた頃、ノエルという方がどのような人で、将来彼女がなにをしたかったのかを知るべく、そのヒントを探すことにしたのです。
 突然ノエルになってしまった私にできることといえば、彼女の意志を尊重した人生を送ることくらいなのですから。
 暫く彼女の……今は私の部屋を探ると、小さな本棚にノエルが書いたと思われる日記を発見しました。
 急いでその中身を読んでみると……。
「ノエルは、このバーナード準男爵領の外の世界に出て、自由に生きてみたいのですね。冒険者になりたい、と書かれています」
 この世界において、女性が外の世界で生きていくのはとても大変だと聞いております。
 特に私……ノエルは貴族の娘なので、政略結婚の駒として扱われるのが普通です。
 さらにノエルには魔力があることがわかり、それならば余計に……と思ったのですが、家族は私が領地の外に出ることに賛成してくれました。
 たとえそれが、バーナード準男爵家の継承問題をややこしくしないためとはいえ。
 小さな領地において、長男長女以外の子供に魔法の才能が備わってしまうことがどれだけ危険か。
 実際に、この世界の常識に触れなければわからないのですから。
 ノエルの日記に書かれた、強き自由への意志。
 乃々華であった頃の自分ならば、領地の外に出るのを躊躇してしまうかもしれません。
 ですが私はノエルの意志を尊重するため、覚悟を決めてブライヒブルクの冒険者予備校へと旅立つことを決意しました。
 そしてその前日、伸ばしていた髪を短く切りました。
 家族はとても驚いていましたが、これは新しい世界へと踏み出すための私の覚悟なのです。

 私は、生まれて初めて領地の外に出て、ブライヒブルクへと向かいました。
 立ち止まらず、自由への第一歩のため。


「ノエル! 向かったわよ!」
「ブリジット様、確認しました。これは大きいですね」
「『土壁』で阻止しちゃって」
「ノエル、俺はそのデカブツにトドメを刺す!」
「わかりました、『身体強化』をかけます」
「すまねえ」

 ブライヒブルクの冒険者予備校を卒業した私は、同級生たちとパーティを組み、ブライヒブルクに一番近い魔物の領域で狩りを始めました。
 私たちに迫りくる巨大な熊を『土壁』で囲って動きを止め、パーティメンバーたちが攻撃をする。
 その際にも、彼らへの『身体能力強化』などのサポートを忘れません。
 派手な攻撃魔法は性に合わず、パーティのみんなが怪我をしないよう、私はみんなのサポート役に徹する。
 私らしいのかもしれませんが、どうにか冒険者として暮らせています。
 領地の外の世界は大変なこともあるけど、ノエルが日記にその思いを綴るに相応しい世界です。
 なにより、ここには自由があるのですから。
「こいつは、思った以上にデカかったな。ノエルの魔法があって助かったぜ」
「そんなことは。ダスト様による大斧の一撃が凄かったからだと思います」
「ノエルの『土壁』による足止めと、『身体能力強化』のおかげさ。パーティメンバーに魔法使いがいるなんて、俺たちは恵まれているのさ。いなかったらこんなデカブツ、普通は命がけで倒すものだからな」
 魔法使いは貴重な存在です。
 おかげで私は直接武器を振るう必要もなく、後方からみんなをサポートする役割に徹することができました。
「そういえば、魔法使いといえば……」
「ブリジット様、魔法使いがどうかなされましたか?」
「ノエルは覚えてない? 特待生で入ってきたけど、夏休み後に見なくなった天才魔法使い君のことを。バウマイスターとかいう零細貴族の八男だって聞いたわ」
 そういえば、そんな方がいたような……。
「八男……それはまた。身分に関係なく、実家での立場が容易に想像できるというか……」
「でも噂によると、成人前に竜を二体も倒し、『ドラゴンバスターズ』というパーティのリーダーになって、デビュー戦でも大活躍したらしいわ。さすがは特待生様って感じね」
 私と同じような境遇の人……。
 どのような方なのか興味は尽きませんが、今の私はノエルの意志を継ぎ、どうにか立ち止まらず、この世界で私なりの物語を紡いでいくのです。

 その方も、私と同じく今後も外の自由な世界を楽しめるよう、心から祈っております。

※こちらのノベルは「八男って、それはないでしょう!」コラボシリーズ スタートキャンペーン「「八男って、それはないでしょう!」原作者Y.A先生へのショートノベルオーダー権」で作成されました。

登場人物 : 槙 乃々華
Illustrator : 橙雛
ノベル制作 : Y.A / TVアニメ「八男って、それはないでしょう!」公式サイト