スペシャル
特別ノベル
クリエイティブRPGのキャンペーン等で作成された、
PC(プレイヤーキャラクター)様が登場する特別なミニノベルです。

届かない切っ先と届いた想い
「はぁっ!」
「ほっ」
「やぁっ!」
「よっと」

 今井 亜莉沙はルミナス王朝の国王バルタザール・ルミナスと模擬剣で対峙していた。
 亜莉沙の袈裟斬りをバルタザール国王は見切り、最低限身体をずらしただけで回避する。
 続く突きは垂直ジャンプで避け、亜莉沙の切っ先に乗った。

「えっ!?」

 バルタザール国王の足捌きは巧みで、切っ先に乗っているにもかかわらず、亜莉沙は重みをそれほど感じなかった。

「お前の剣は俺には届かねぇ。あの歌の想いはその程度ってことか?」

『代わりに、貴方にあたしの全てを捧げます。
 貴方の為に、あたしを自由に使ってください。
 貴方の剣となり、貴方の先に道を拓きましょう。
 貴方の盾となり、貴方に代わり刃を受けましょう。
 だからあたしを、貴方の側で戦わせてください』

「ま、まだ本気は出していないんだからね!?」
「そうそう、その意気だ。相手が強かろうと関係ねぇ。“想い”で負けた時点で負けだからな」

 亜莉沙の切っ先にバルタザール国王が剣を合わせてくる。

 ――重い。これが国王の持つ重み……。

 同じ模擬戦用の剣を使っているはずなのに、バルタザール国王の剣は重かった。
 亜莉沙は改めてバルタザール国王が背負っているものの重さを剣を通じて知った。

「それでも! あたしは! 貴方の剣となり! 貴方の盾となり! 貴方の側で戦いたいの!!」

 裂帛の気合と共に、長剣を薙ぐ亜莉沙。
 しかし、それも真っ向から止められてしまう。

「くっ……」
「いいねぇ。お前の想いが詰まったいい一撃だ。芯がしっかりしてる女性は嫌いじゃねぇよ。
 だが、俺もいつ国王の座を降りるか分からん。今日かもしれねぇし、十年後からも知れねぇ。
 それに女性同士で正妻を競わせるのも嫌なんでな。
 だから正妻は取らねぇ。俺と結婚するなら側室になってしまう。それでもいいのか?」
「正妻とか側室なんて関係ないわ。あたしはあなたの傍らで共に戦いたいの」

 長剣が軋む。先に引いたのはバルタザール国王だった。

「分かった。花が無くて悪いが性分でな。亜莉沙、今日からお前は俺の側室だ」
「アサリじゃない……よね……うん」

 バルタザール国王らしいロマンチックの欠片もない亜莉沙のプロポーズに対する返答に、彼女は涙ぐみ、指で拭いてながら自信満々に笑った。
 それは確かに王を支える側室としての自信の表れだった。
 こうして今井 亜莉沙は亜莉沙・ルミナスと名を変えることとなった。
※こちらのノベルはクエスト&マーケットキャンペーン!「結婚をテーマにしたPC/NPCとのミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 亜莉沙・ルミナス(SAM0034635)様
ノベル制作 : ディレクターS

プリメアのクリスマス
 アトラはもう一つの地球とも言える世界。
 そんな世界でもクリスマスとよく似たイベントは存在した。
 そうプリメア・イルミネイティの故郷とよく似たイベントだ。
 こちらでは眠っている子供にプレゼントを配るサンタクロースという話は耳に出来なかったのであるのか分からないがお祭りとして街は賑わっていた。
 新東京に赴いたプリメアとエリーシア・ヴォルフガングアイリリー・ヴォルフガングの3人。
 プリメアの故郷とよく似たイベントをこの3人で楽しめるとアイリリーははしゃいでいた。
 先月、プリメアの故郷のクリスマスではどんなことをするのか訊いたアイリリーは今年のクリスマスはプリメアの故郷形式のクリスマスをやろうと言い出した。
 手ごろなツリーを用意して3人で飾ったり、プレゼントを交換し合ったり、クリスマスならではの料理を用意してそれらしいクリスマスをするのだと。
 それにプリメアとエリーシアが乗り、少しずつ用意していったのだ。
 だが似ているようで違う地球では思った品物を用意するのは容易なことではなかった。
 それでもプリメアには故郷の記憶を思い出してほしかったし、エリーシアとアイリリーはプリメアのクリスマスを経験してみたかった。
 アトラのクリスマスではなく。
 それぞれの想いを1つにクリスマス当日まで慌ただしく動き回っていたが、交換するプレゼントは当日までそれぞれ内緒にしてお互いにどこかへ隠すまではたどり着けた。
 家に帰ったら寝る前にクリスマスソングと共にグルグル回して交換するという約束を叶えるために。
 まるで派手に飾り立てたパジャマパーティーのような感じだがこれがプリメアのクリスマスだというのなら喜んで楽しもうとエリーシアとアイリリーは思った。

「食材よし! 簡単な飾りつけのグッズの用意もよし! あとは……」

 クリスマスに必要な物の最後の買い出しを済ませたことを確認し、後はクリスマスケーキを取りに行くだけとなったのを確かめ振り返るアイリリー。
 今回のために特別に発注した自分たちだけのクリスマスケーキ。
 ふわふわのスポンジに純白のクリームが塗られ上にイチゴが乗って、砂糖の家とサンタクロースがいるケーキ。
 デザインから立ち上げそれを作ってもらえる店を見つけるのも苦労した。
 だからこそ絶対にそのケーキじゃなければプリメアのクリスマスにはならないのだ。

「メアちゃん、ねーちゃん早く早く! 予約の時間来ちゃうって!」
「アイ、そう慌てなくてもまだ間に合いますわよ。荷物もあるのですから」
「……うん、急ごっか、アイちゃん。ごめんなさい、エリーさん。今日だけその……」

 プリメアの可愛らしいお願いに、エリーシアはあらあらと笑ってしまう。
 自分だってプリメアの故郷のクリスマスに興味はあるのだ。
 それに内心はしゃぎ気味でアイリリーについて行きたいプリメアにだって気づいている。
 滅多に帰れない故郷のイベントが始まるのだから。

「……仕方ないですわね、行ってらっしゃい。転ばないようにしなさいね」
「わーいねーちゃんありがと! いこ、メアちゃん!」
「はい!」

 街のイルミネーションに、賑やかな2人と穏やかな1人が、ゆっくりと消えていく。
 今日という特別なイベントはきっと忘れられないクリスマスになるだろう。
 綺麗に装飾された部屋に美味しいクリスマスメニュー、交換しあったプレゼントを宝物にして。
 そして誰からともなく言うのだ。

「来年も一緒にクリスマスを過ごそう」と。
※こちらのノベルはクリスマス準備キャンペーン2023「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : プリメア・イルミネイティ(SAM0076558)様 / エリーシア・ヴォルフガング(SAL0076568)様/ アイリリー・ヴォルフガング(SAL0077129)様
ノベル制作 : 冬神雪羅

クリスマスイベントに秘めたデート
「さあ長喜さん、たくさんプレゼントを配るでありますよ!」
「なんで俺が……」

 今日のワールドホライゾンは特別きらめいていた。
 イルミネーションが輝き家々もそれぞれがクリスマスを楽しむように自由に飾り立てている。
 それに加えてメインイベントはなんと言ってもワールドホライゾンを上げて子供も大人の特異者もプレゼントを貰える特別なイベントが開催されるのだ。
 そんな特別なイベントのプレゼンターに選ばれたキクカ・ヒライズミはミニスカプレゼンターに腹だしスタイルだ。
 黒タイツに腕は長い赤い手袋姿で白い袋を担げばプレゼンターの完成である。
 渋々付き合っている名和 長喜にはキクカが無理やりトナカイの仮装をさせてあった。

「メリークリスマス!」
「あーメリークリスマス……」
「ありがとう! プレゼンターさんにトナカイさん」

 プレゼントを受け取った子供の特異者が手を振りながら走っていく。
 それを微笑ましく小さく手を振って見送るキクカ。
 長喜はどうでもいいように死んだ魚の目のまま仏頂面で次へ行こうとキクカのプレゼンターの荷物を担ぎ上げてさっさと歩き始める。
 こういうさり気ない気配りがキクカの胸を締め付けるのだ。
 相手には気付いてもらえなくとも。
 座右の銘は「押してダメならもっと押せ」をモットーにいつか自分の想いに気づいてもらえればそれだけでいい。
 プレゼンターの荷物は1つじゃない。
 クリスマスはみんなのもの。
 補充分の袋がイベント本部にはたくさん残っている。
 キクカは配るプレゼントがたくさんあって良かったと思っていた。
 その分好きな人と一緒にいることができるから。

「あ! 長喜さん。雪でありますよ!」

 上空からはしんしんと静かに純白の雪の結晶が降り注いでいる。
 まるでケーキに粉砂糖を塗すように雪はワールドホライゾンをまんべんなく白くしていく。

「おい、キクカ。あのイルミネーションの電飾一色だけ違うな」
「あ!(あれは伝説の恋を叶えるエンジェルハートであります!)」
「なんだよ、そんな大声出して」
「あれは特別な電飾であるのですよ! ワールドホライゾンを飾っているイルミネーションの中で1つだけ違う発色をする電飾があるのであります。よく見つけられましたね」
「あープレゼント配るのもダルかったから上を見たらなんか見つけた」
「すごいでありますね! 運持っていますよ」

 よくあるジンクスと言われればそれまでだが、何百万粒とある電飾の中で1つだけピンクに光る電飾が存在し、それを見つけられたら恋の願いを叶えられるという噂がまことしやかにワールドホライゾンで広がっていた。
 キクカも見つけられるとは思っていなかったからプレゼンターとトナカイとしてプレゼントを配るだけの淡いデートでもいいと思っていたくらいだ。
 それを長喜が見つけてくれた。
 ジンクスなんて知らないような彼が。
 それが少しだけ可笑しかった。
 恋にも物欲センサーがあるのだろうか? なんて思わずにはいられなかった。
 でも偶然でも雪が降ったから長喜も上を見る気になったのかもしれない。

(どうか長喜さんに私の想いが届きますように。好きでありますように)

 長く願い事はしていられない。
 まだこのままの関係でも十分に楽しいから。
 淡い恋心が花咲くには水が必要だ。
 その水が長喜から与えてくれたらそれだけでいい。
 それだけで大輪の花を咲かせられる気がして来る。

「はぁーまだこれだけ残っているのか」
「本部にもまだ残っているでありますよ」
「ならさっさと配ってしまおう。雪が降ってきたならその服装も寒いだろ」
「(そういうところであります!)わ、私は平気であります! 早くまだプレゼントを貰ってない人に配らないと」
「そうか? 寒かったら本部で防寒具借りた方がいいから早く言うんだぞ」
「了解であります」

 キクカは自分の熱が長喜に伝わっていないか心配だった。
 こんな形で知られたくない。
 まだまだこの関係を続けたいから。

 プレゼンターとトナカイの足跡を残してワールドホライゾンの願いの電飾はピカピカと輝いていた。
※こちらのノベルはクリスマス準備キャンペーン2023「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : キクカ・ヒライズミ(SAL0074740)様 / 名和 長喜(SAM0074115)様
ノベル制作 : 冬神雪羅

サンタをやろう!
 今年もやって来たクリスマス!
 クリスマスと言えば、サンタがよい子が眠っている最中にプレゼントを贈ることで有名だ。
 サーシャ・アルケミアはいつものことながら突如思いついたアイデアを爆発させるようにバルター・アイゼンベルトを自分の部屋に呼びつけた。

「助手君! クリスマスと言えば!!」
「……突然呼び出されたと思ったら何だこれは」

 サーシャの部屋はいつも以上に様々な発明品が山となって転がっている。
 一部の瓶が割れて怪しい色の液体が漏れているのが恐ろしい。
 直ちに背中を向けて見なかったことにしたかった。が、それはサーシャが許してくれないだろう。

「それはあと! さあ、クリスマスと言えば!?」
「あークリスマスツリー?」
「それもあるね! でも今回は違うね! 別の答えを述べるのだ!」

 爛々と輝くサーシャの期待に応えなければ質問も終わらないだろう。
 クリスマスケーキ? ブー!
 クリスマスパーティー? ブー! もっと真面目に!
 七面鳥の丸焼き? なんで!?
 あーじゃあ、トナカイ! 惜しい! そうその路線だよ! 助手君!
 ソリ! 違う! いや、それも必要だけど!!

「分かった! サンタクロースだ!」
「そうだよ! 助手君! 良く導き出したね。褒めてあげる!」
「よっし! ……ってなにがしたいんだよ」
「ふっふっふ。それはね……」

 サーシャはダボダボの裾のサイズが全く合っていない白衣の袖で口元を隠すように何かを企むように唇を震わせるとバッと両手を広げた。

「ボクがサンタをやるのだー!」
「いや、何でだよ! サンタは立候補制じゃないぞ!」
「ヤダー! ボクがサンタになってプレゼントを運ぶんだー!」
「どうやってだよ!?」
「もちろんトナカイで!」
「今から野生を捕まえるのか!?」
「……そんなことしないじゃん。IF機をトナカイ代わりにしてそこにボクの発明品……プレゼントを詰め込んで配るんだ!」
「……IF機でプレゼントを配布、だと?」

 今までツッコミしか入れていなかったバルターがピタリと動きを止める。
 なんせ彼は大のロボット好き。
 トナカイの代わりのIF機でよい子たちにプレゼントを配る……最高ではないか!

「やろう! サンタクロース!」
「そうだよ、助手君! ボクたちがサンタクロースなんだ!」
「プレゼントは何を用意しているんだ?」
「にゅふふ……プレゼントはこれだー!」

 ボールを叩きつければ半径1mに巨大な電流が流れる不審者対策グッズ。ただし自らも感電する。
 効果はバルターが保障する。
 ロングヘア―の妖精人形のスイッチを入れれば笑いながらターゲット目がけて飛んでいく。ターゲティングは精確で一直線に、前方が壁ならば迂回して真正面に現れる精密さを誇る。
 などなど被害レベルはバルター自らが味わって効果は分からされた。
 それによってある意味サーシャには残念ながら正気を取り戻してしまったバルターが危険な代物になりかねない発明品を容赦なく没として仕訳けていく。

「あーボクの傑作たちがぁぁああ!」
「馬鹿野郎! あんな危険物を子供が扱える訳が無いだろう!」
「……IF機でプレゼント配るサンタクロース、やりたくないの?」
「うぐっ! いや、全てを却下してないんだから良いだろう!?」
「でもでも、全部子供たちのためのプレゼントだったのに!」
「意気込みだけは買ってやる。だからほら! ここで揉めてたらプレゼントを配り切れないぞ」
「分かったよー。IF機の操縦は頼んだからね」
「任せろ」

 バルターによって安全なプレゼントに仕分けされた物を詰め込んでIF機は飛び立つ。
 サーシャの「メリークリスマス!」の言葉と共に配り、翌日の朝の子供たちの感想は今年のサンタは独創的だという感想を抱かれたのだった。
※こちらのノベルはクリスマスイラストキャンペーン2022「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : サーシャ・アルケミア(SAL0056839)様 / バルター・アイゼンベルト(SAM0051753)様
ノベル制作 : 冬神雪羅

ささやかなクリスマスパーティー
 ここは慈愛丘陵ユートピア
 暖かな丘陵地となった地形にアルテラ・エデン・ユーラメリカ小世界のメイプルキングダムを主軸に影響を受け、空には虹がかかりメルヘンファンタジーの雰囲気を感じさせる。
 その土地には巨大な中世風の広い敷地面積の城ドリームビヨンドが存在し、優・コーデュロイはドリームビヨンドの食堂にてアップルサイダーをそっと口に含みながら待ち人を待っていた。

「ふふ。どんな衣装を私に作ってくださるのでしょう。楽しみですね」

 アップルサイダーの入れられたグラスを揺らしながら、優は待ち人であるルージュ・コーデュロイを待っている。
 そこへ慌ただしく食堂へ入る少々マナー不足な客がやって来たが、それに眉をひそめずにその足音で正体に気づき微笑んだ優の前に彼女の待ち人であるルージュが立ち止まった。

「遅くなってごめんなさい! でも、すごくいいクリスマスプレゼントを用意できたから期待しててもいいわよ」

 将来実家を超える事を目指して、衣装制作を行ってたルージュは満足げに優へラッピングした個包装を差し出してくる。
 丁寧にラッピングされた包装に可愛らしくカールされたリボンを愛おしく見つめ、優はカバンにしまう。

「大丈夫。そんなに待っていませんから。まずはのどを潤していて下さい」
「ありがとう。最高傑作だから期待してて。でも、製作に夢中で遅刻したことは事実よ。ここの支払いは私にさせて」
「仕方ありませんね」

 遅ればせながらクリスマスメニューを注文。
 ローストターキーを始めに、スタッフィングなどの主食からミンスパイやジンジャーハウス&ジンジャ―ブレッドのスイーツ。
 ドリンクは優はホットチョコレート、ルージュはアップルサイダーを頼んでしっとりとささやかなクリスマスパーティーを過ごしていった。

「ごちそうさまでした」
「なかなかな料理だったでしょ」
「そうですね。こちらには生クリームたっぷりのケーキはないのには驚きました。あ、ルージュ……コレ、受け取ってくれませんか?」

 全ての食器を引き払われたテーブルの上で優はルージュにクリスマスプレゼントを差し出す。
 中身は慈愛丘陵ユートピアで見つけた魔石を加工したアクセサリーだ。

「えっ嘘。優からもプレゼントを貰えるなんて……」
「だってクリスマスですもの。恋人にプレゼントを渡したくなりますよ」
「それもそうね。私だって優のために服を作ったんだし」
「これ、着てみてもいいですか? そして天体観測をしましょう。きっと素敵な夜空ですよ」
「いいね。今日の夜空は一番綺麗に見えそうだわ」

 ドリームビヨンドを後にした二人。
 優はルージュが自分の土地の素材を使って生み出した赤とチョコカラーのワンピース姿で。
 ルージュの首元には優からの魔石を加工したネックレスが輝いて。
 恋人繋ぎで夜空の星を眺めつつ月から隠れるように暗闇に溶け込んでいった。
※こちらのノベルはクリスマスイラストキャンペーン2022「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 優・コーデュロイ(SAM0046649)様 / ルージュ・コーデュロイ(SAL0071339)様
ノベル制作 : 冬神雪羅

安濃津分校初? クリスマスパーティ
「おや、これはダヴィデ殿。体の具合はいかがでござるか?」
「もう大丈夫だ。狐島さん、つかぬことを聞くが……クリスマスについて知っているか?」

 ダヴィデ・ダウナーはクリスマスという行事を知らない。
 元々西洋の宗教にまつわるもの、それも異世界のものであるため、神州扶桑国の住人に馴染みがなくても何ら不思議ではない。
 しかし歴史とは妙なもの。ほとんど同一と言っていい行事が存在し、帝都扶桑市では海外の商材を扱う輸入業者数年前からアピールを始めている。
 輸入品や海外文化を扶桑国に普及させるのが目的のようだが、まだまだ市民に根付くには時間がかかるだろう。

「くりすます? 某は知らぬ。帝都の者が分からぬなら、この安濃津にはおらぬでござろう」

 帝都でさえそのような状況だ。
 遠く離れた安濃津の地となれば、知っていることが奇跡に近い。

「いや、紀南には外国船も来たことがあるでござる。しばし待っておれ、ダヴィデ殿」

 狐島の姿が消えた。
 彼は妖狐の隠密であり、隊士階級は甲。修祓隊士としての実力は高い。
 ものの一時間程度で彼は戻って来た。

「何か心当たりがあったのか?」
「藤林師範代や紀南出身の隊士から話を聞いてきたでござる。
 蘭の国の者曰く、聖誕祭なる祝いの行事であり、街や屋敷の中を飾り付け、馳走を振る舞う。
 要は宴を伴う祝祭にござる」
「お祭りかぁ……」

 断片的ながら、ダヴィデは何をする行事なのかは理解した。

「どうだろう、狐島さん。ここは安濃津の隊士でクリスマスらしいことをしてみるというのは?」
「ダヴィデ殿がそう言うと思い、手配済みでござる」

 狐島も興味があった、ということだろう。
 目を細め、分校の集会場を指さした。

「せっかくだ、少しは着飾っていこうか」

 ダヴィデは一旦本校隊士に貸し与えられている宿舎に戻って美紋装束を纏い、行李に扶桑切子とドドメブランを詰めた。
 そして狐島と共に、飾りつけが行われている集会場の襖を開いた。

「メリークリスマス! ……と、こんな感じでいいのか?」

 狐島が頷いた。
 彼らにとっても、人伝による話からの再現であり、そこに間違いがあろうと気にはしない。
 室内には大きな鶏の丸焼きと菓子が置かれ、それらしい雰囲気には仕上がっている。
 
 ダヴィデと狐島は腰を下ろし、「クリスマスパーティ」を満喫するのであった。
※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2021「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : ダヴィデ・ダウナー(SAM0072724)様
ノベル制作 :クリエイティブRPG運営チーム

青いサンタクロース
 四季のないワールドホライゾンにも、人の定めた暦はある。
 地球で過ごしていた日々をわすれまいとするように。

 ゆえにアルテラ出身のジュリーにとって、12月24日――クリスマス・イブは馴染みのない催しであった。

(……でも、今は違う)

 大切な人と気持ちを分かちあう特別な日。
 少なくともジュリーにとって、クリスマス・イブはそういう日だった。

「見て見てー! 青いサンタさん! かわいい? 似合ってる?」

 リビングのドアを開き、自慢げにくるりと回ってみせる織羽
 青で揃えたサンタ衣装に、プレゼントの袋まで背負っている。
 言わなくてもわかる気合いの入りようだ。

「似合ってるよ。君の瞳と同じ色だ。
 でも――」

 ジュリーがすっと立ち上がる。
 そしてクローゼットの櫃から、自分の青いマントを取り出すと、織羽のむき出しになっている肩にかけた。

「あまり肌を出すと冷えるよ」

「わぁ……ありがとう!」

 感激した織羽はジュリーにぎゅっと抱き着いて、彼の胸に顔をうずめる。
 気持ちが行動に出やすい織羽を受け止めるジュリー。
 そしてふと、抱きしめる力が強いことに気づいた。

「地球にいた頃はね、毎年パパがサンタさんして、ママはご馳走作ってくれたんだ。
 ……もう、会えないけど……」

 織羽の肩が震えていた。

 ワールドホライゾンの暦は、おおよそ地球のそれにならっている。
 それは、戻れなくなった故郷のことを思い出してしまうということでもあった。

「だから……会えるジュリーは、ご両親を大切にしてね」

 潤んだまなざしを向けて、織羽がジュリーに言う。
 そしてジュリーは涙をぬぐいつつ頷き、額に軽くキスを落とした。

「でも、僕が一番大切なのは織羽だってことは、わかってほしいな」

「あわわわわ……そ、その……はい……」

 腕の中で顔を真っ赤にして、言葉を失う織羽。
 だが誤魔化すように咳払いをすると、織羽は取り落した袋を再び持った。

「こほん! じゃあ気を取り直して――ジュリー!
 オルハサンタからのクリスマスプレゼント、何がいーですかっ!?」

 その中に全部用意してあるでしょ、という言葉を飲み込み、ジュリーは織羽の茶番に付き合うことにした。

「君からのプレゼントなら、どんなものでも。
 ……けどプレゼントって、いい子じゃないともらえないんじゃなかった?
 僕に受け取る資格があるかどうか」

「いいの! 私がジュリーをいい子認定します!
 じゃあ……これ! メリークリスマス!」

 そして織羽はにこっと笑い、青いリボンの小さな包みを、ジュリーに差し出した――。
※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2021「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 織羽・カルス(SAM0012805)様
ノベル制作 :クリエイティブRPG運営チーム

白い虎と橙色の狐
 クリスマス・イブ。
 ホライゾンフィールは鮮やかなイルミネーションに飾られ、行き交う特異者たちでにぎわっていた。

「あ……見て見て、了!」

 クリスマスパーティの買い出しを終え、家に帰ろうとしていたその途中のことだった。
 何かを見つけたらしい春奈が、組んでいたの腕を引いて呼びかける。

「どうしました、春奈?」

 彼女が向かったのは、古風なオモチャ屋のテナント。
 クラシカルな構えのショーウィンドウには、ぬいぐるみが飾ってあった。

 それを見て、了は春奈の言わんとしていることに気づいた。
 ひとつの椅子を分け合って座る、白い虎と橙色の狐のぬいぐるみ。
 それはまるで――

「僕たちみたい、ですか?」

 同じ事を考えていた春奈は、気持ちが通じたように思えてはにかんだ。

「うん! やっぱり了もそう思うよね」

「せっかくですし、お迎えしましょうか」

 買い出しの荷物もあって少しかさばるが、それはそれ。
 こうして出会ったのも何かのめぐりあわせなのだろう――そう思い、ふたりはぬいぐるみを買って家路についた。



 了と春奈はそれぞれ、ぬいぐるみの包みをほどいて抱き上げた。
 こうしてまじまじ見ると、なおのことお互いに似ている気がする。

「えへへ……かわいい」

 ぎゅっと抱きしめたりほおずりしたり、春奈はその白い虎のぬいぐるみを大変気に入ったようだった。

 『自分と似ている』と言って買ったぬいぐるみが、ここまで可愛がられている。
 その状況に、了は言葉にしがたい気恥ずかしさを感じていた。

「……自分がされているわけではないのに、なんだか恥ずかしいですね」

 だがそう言う了のほうも、もみじ色をした狐のぬいぐるみを撫でて、触り心地を確かめている。
 了の物言いにあてられた春奈も、どこか自分が撫でられているような気がしてぽっと赤くなった。

「変なこと言わないでよー。こっちまでむずむずするじゃない」

「それくらい似ているということで……あ」

 はたと気づいて、了は小箱にしまっていた青いブローチを取り出した。
 以前春奈と互いに贈りあった思い出の品である。
 了はそれを、虎のぬいぐるみのチョーカーにひっかけた。

「似合ってる……! じゃあ、私も」

 春奈も狐のぬいぐるみの首輪に、赤いブローチをとりつけた。
 とてもよく似合っている――
 そう感じるのは贔屓目かもしれないが、ふたりで同じ気持ちになれることなら、なにであれ幸せだと、了と春奈はかみしめるのだった。

「さて、パーティを始めましょうか。春奈の手料理が楽しみです」

「うん、任せといて。これは期待に応えなくっちゃね!」

 ぬいぐるみと同じように寄り添い、あたたかなひと時が過ぎていく。
 ふたりのクリスマス・イブは、そうしてふけていくのだった――。
※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2021「クリスマスを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 燈音 了(SAM0063911)様 / 燈音 春奈(SAM0063847)様
ノベル制作 :クリエイティブRPG運営チーム

Honey*Time
イラスト

 挙式直前の控室。

「良かった。震え、止まったな」
 ほっとため息をついた世良 潤也が重ねた手を離そうとすると――
「っ!」
 星川 鍔姫が強い視線を潤也に向けた。
 ――震えてなんかいないわよ!
 そんな返しを予感した潤也の耳には、意外な言葉が飛び込んできた。
「離さないでっ」
「え?」
 真っ赤になった鍔姫が、つっけんどんに言い放つ。
「離したら……また震えちゃうでしょ!」
「じゃあ、このままで」 
 にっこり笑った潤也は、改めて鍔姫の手に自身の手を重ねる。

「あんた本当に緊張してる? 余裕そうに見えるわ?」
「言っただろ? “一番近くで鍔姫を支える”って。
 でも、正直余裕なんてないよ。鍔姫の花嫁姿を見てからは、ぼーっとしちゃって大変なんだぞ?」
「バ、バカ! そんなこと面と向かって言われたら……」
「言われたら?」
「っは、恥ずかしいじゃない」
 とうとう鍔姫はうつむいてしまった。
 花嫁の装飾を施したツインテールの髪束の合間に、真っ赤な可愛い耳が見える。
「本当に、鍔姫のウェディングドレス姿、すごく綺麗だし可愛い」
「それ……さっきも聞いたわ?」
 顔を少しあげた鍔姫は上目遣いに潤也を睨むと、
「あ……」
 なにかを言いかけた。
「ん?」
「あんたのそのタキシード姿も、な――なかなかいい感じよ?」
「えっ」
 驚きと感激で言葉を失った潤也に、鍔姫が食ってかかる。
「あんたもカッコイイわよって言ったつもりなんだけど!?」
 ぷいっとそっぽを向いた耳元に、潤也の唇が近づいた。
「嬉しすぎて、絶句しちゃったんだ」 
 潤也は鍔姫の金色の髪にふれると、そのままそっと抱き寄せた。
「わ……分かればいいのよ」
 鍔姫が照れくさそうにからだを預けてきた。
「それからね? あたしだってあんたのこと支えてあげるつもりだから……その……」
 彼女の声色はいつになく甘く、今日が特別な日であることを物語っている。
 しかし最後は鍔姫らしく、強気な瞳で潤也を見上げた。
「感謝することね!」
「うん。俺の一生をかけて、感謝するよ」

 コンコンコン――
「式の準備が整いました」
 ノックの音とスタッフの声が聞こえた。
「さあいこう鍔姫」
「うん」
 手を取り合ったふたりが扉を開けると、廊下から“はちみつ”の甘い香りがなだれこんで来た。
 今まさに厨房では、披露宴でふるまわれる品々が続々と仕上がっているのだ。
「いい匂い!」
 明るい笑顔を浮かべた鍔姫を見つめ、潤也はしみじみと微笑む。
 
 ――俺が、この笑顔を守っていくんだ。大切に、大切に……

「ケーキも料理も、楽しみだなぁ」
「あら、ドリンクも外せないわよ?」
「ははっ。その通りだ」
 かたく腕を組んだふたりは、軽やかな足取りで式場へ向かう。

※こちらのノベルとイラストはクエスト&マーケットキャンペーン「お好きなNPCとのイベントカット+ミニノベルのセットのオーダー権」で作成されました。

登場人物 : 星川 潤也 / 星川 鍔姫(NPC)
※改姓前のオーダー・内容のため、ノベル中では旧姓で表記されております。
Illustrator : 楽音
ノベル制作 : 蒼井卯月

“夢”のために
イラスト

「まったく……無茶し過ぎですよ、シンさん」

 ケイ・ギブソンが呆れたように溜息を吐き、飛鷹 シンの右隣に座った。
 救急箱から傷薬を取り出し、手慣れた様子で手当てを始める。

「いてて、サンキューな、ケイ。毎度付き合ってもらってよ」
「あたしが見てないと、どんな無茶するか分かりませんからね。はい、包帯巻きますよ」

 シンはケイが包帯を巻きやすくなるよう、右腕を彼女に向けた。
 柔らかい笑みを浮かべたケイの顔が近づく。
 彼女と正式に恋人として付き合うことになってそこそこの時間が経つが、TRIALに入り浸るようになったのはつい最近のことだ。
 シンには夢がある。全てを――倒すべき敵も含め、世界の存在全てを救うという夢が。
 数々の戦いの中で心をすり減らし、迷いが生じたこともあったが、あるきっかけを経て改めて決心している。
 そのためには、強くならねばならない。
 TRIAL技術部はシンに目を付け、シンもまた“魔窟”である技術部に積極的に関わることにした。
 珍妙な発明品や兵器のテスト、時には技術部員の暴走を止めるために奔走と、スリルと生傷の絶えない日々を送っている。

「シンさん、最近は前よりも楽しそうな顔をすることが多くなりましたね」
「そうか? 楽しい、っていうより、こう何が起こるか分からない毎日を過ごしてたら悩んだりする暇もねぇ、って感じだよ」
「それ、先輩やキョウさんには言わないで下さいよー。
 いいオモチャを見つけたって顔をして、色々無茶ぶりすると思いますから」
「そんときゃそん時だ。それに、ケイくらい色んな事をこなせるようにしたいからな」

 手当を終えたケイが姿勢を変え、シンと並ぶようにして座り直した。

「シンさんの夢、すっごく大変ですよ。何度も失敗すると思います。
 でも、一人で成し遂げようなんて思わないで下さいね?」

 ケイがそっとシンの手の甲に掌を重ねた。

「一人じゃどうにもならなくても、あたしが一緒です。
 夢物語、大いに結構じゃありませんか。それに」
 
 満面の笑みを浮かべ、ケイが言った。

「TRIALに夢やロマンを笑う人なんていません。
 あたしたちがいつもバカみたいなことやってるのは知ってるでしょう?」
「はは、それもそうだな」

 現実なんて知ったことではない。やりたいから思う存分やる。
 それがTRIALにいる人たちだ。
 少しばかりやり過ぎて周囲に迷惑をかけがちなのが玉に瑕ではあるが。

「じゃ、行きましょうか。ノエルさんがパン焼いて待ってますからね」

 二人は立ち上がり、重ねた手を繋いだままTRIAL本部棟へと向かうのであった。

※こちらのノベルとイラストはクエスト&マーケットキャンペーン「お好きなNPCとのイベントカット+ミニノベルのセットのオーダー権」で作成されました。

登場人物 : 飛鷹 シン / ケイ・ギブソン(NPC)
Illustrator : 涼木ソルト
ノベル制作 : 式条蒼

【クリスマス】はBAR『BB』で
イラスト

 水城頼斗は昨日から仕込んで寝かせておいたローストビーフを、よく研いだ包丁で極薄くスライスしていた。
 ローストビーフの焼き加減は絶妙で、中は美しい紅色だ。
(この色を活かして薔薇の花の形に盛り付ければ、クリスマス限定メニューの特別感が出るな……)
 頼斗が思考を巡らせていると、後ろから遠近薫の声がした。
「らい兄、コンソメのジュレ、もう固まってます」
 薫が覗き込んでいる冷蔵庫の中には小さめのグラスがたくさん、琥珀色に輝くコンソメのジュレを底に抱えて行儀よく並んでいる。
「おー、そうか。じゃ、仕上げてしまうから、トレーごと出してくれるか?」
 頼斗は切ったローストビーフにラップフィルムを掛けながら頼んだ。
 薫はグラスが滑って落ちないよう慎重に、そうっと取り出して頼斗の前に置いた。
「はい」
「サンキュー」
 薫に優しく微笑んでから、頼斗は手際よくグラスの中を飾り付けていく。
 ジュレの上にカブのムースを薄く敷いて白いキャンバスにしてから、枝豆ペーストの緑とクランベリージャムの赤で模様を描き、真中にキャビアを盛って、仕上げに小さくちぎったディルの葉を乗せれば、クリスマスカラーの前菜が完成だ。
 トレーの上はケーキが並んでいるみたいに華やかになった。
「素敵ですね……」
 横から見ていた薫が思わずため息を漏らした。
「だろ? 見た目も美味しさのうちだからな。一つ味見してみるか?」
「いいんですか?」
「予備も含めて多めに作ってあるんだ。俺たちが味見する分も当然入ってるのさ」
 頼斗はティースプーンを取り出すと、ジュレのグラスと共に薫に手渡した。
「模様を崩してしまうのがもったいないです」
 と言いつつも、薫はジュレとムースとペーストとジャムとキャビアが全部一匙に乗るように掬った。
 そっと口に入れると、滋味のある優しい味わいが口中いっぱいに広がり、キャビアの塩味と食感がアクセントになって面白い。
「んーー、これはまるで……クリスマスパーティーみたいな味ですね!」
「どんな味だよ」
 笑いながら頼斗もグラスを一つ取ってスプーンを入れた。一口ゆっくり味わって飲み込んでから、
「……なるほど、確かに」
「でしょう?」
 二人で小さく笑い合う。
 こんな他愛もないことがこの上なく楽しい開店前のひと時。
「おっ、もうこんな時間だ」
「今日は予約のお客様もいらっしゃるし、私、ここを片付けて準備しますね」

 ――BAR『Black Blade』間もなく開店です。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 水城 頼斗 / 遠近 薫
Illustrator : しらたき
ノベル制作 : 浅田 亜芽

【クリスマス】はふたりきりで
イラスト

 カコン――。
 シャンパングラスが触れ合う澄んだ音が、穏やかな静寂の中に響く。

「ディス様、メリークリスマス、ですわ」
 リルテ・リリィ・ノースの改まった挨拶に、夫のディセンバー・ノースは、
「へーへー、メリクリメリクリ」
 などと茶化して返した。堅苦しいのは苦手だし、照れ隠しだったのもある。
 ディセンバーにとって、クリスマスよりも大切なのは愛しい妻の誕生日の方だから、
「……それから、ハッピーバースデー、マイレディ」
 と付け加えるように言っても、その声には深い愛情がこもっていた。
 それをリルテは確かに聞き取って、ふふ、と柔らかく微笑んで礼を述べた。

 テーブルの上には二人で一緒に作ったお祝いの料理がずらりと並んでいる。
「これ、美味しいですわね」
「鮮度の良いやつが手に入ったからな」
 一つ一つ感想を言い合いながら味わえば、美味しさも増す。

 結婚して以来、二人で一緒に行動することが多くなった。外出先から一緒に帰り、一緒に料理をして、一緒に食べ、一緒に眠る。
 何気ない日常の中にもいたるところに幸せがあり、幸せを共有できる人が今そばにいることに、リルテは感謝の念を抱かずにはいられない。

 デザートのケーキを堪能した後、二人はソファで寄り添ってリラックスしていた。
 シャンパンで少し酔ったリルテが、甘えてディセンバーの肩に頭をもたせかけると、ディセンバーはリルテの肩に腕をまわして抱き寄せた。そして肩先に零れ掛かっている美しい空色の髪を指で弄ぶ。
「大晦日にはディス様のお誕生日をお祝いしませんとね」
 夢見るように言うリルテに応えて、
「わざわざ当日まで待つ必要ねェだろうが。丁度『プレゼント』も目の前にあるんだからよ」
(え? プレゼントですか?)
 不思議に思ったリルテが頭を起こして見ると、ディセンバーは不敵な笑みを浮かべてリルテを見つめている。
 リルテが何か言おうとする前に、ディセンバーは素早く妻の顎を捉えて唇を奪ってしまった。
 不意打ちに驚いて一瞬体を固くしたリルテ。
 しかしディセンバーの言った言葉の意味を理解すると全身にじわじわと喜びが広がり、同時にこわばりも解けて、リルテは愛する夫に身を任せた。
 強引なのに甘くて熱く包み込むような口づけは、リルテの身も心も蕩かせていく――。

 窓の外では雪が舞い、しんしんと冷えるクリスマスの夜。
 キャンドルの灯る暖かい部屋の中で、二人は幸福に溢れた時間を過ごすのだった。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : リルテ・リリィ・ノース / ディセンバー・ノース
Illustrator : 谷崎 メイコ
ノベル制作 : 浅田 亜芽

Happy Holy Night
イラスト

 意外なことかもしれないが、ネヴァーランドの神様は身寄りのない子供たちを引き取って、孤児院で面倒を見ている。
 その孤児院にやって来た世良延寿は、食堂にいた子供たちに呼びかけた。
「みんな! クリスマスパーティーをしようよ!」
「クリスマスってなあに?」
 一番近くにいた幼い女の子が延寿を見上げて尋ねた。
「クリスマスは神様の誕生日をお祝いする日なんだよ!」
「お誕生日パーティーやるの!?」
 面白そうな気配を敏感に察知して集まってきた他の子供たちも、目をキラキラと輝かせている。
「そう! だからね、今から皆でおっきなケーキとか作って準備しよう? 神様にはまだ内緒だよ?」
 延寿は子供たちをわくわくさせるために、秘密の共有というエッセンスを仕込んだ。これは長年アイドルとして活動してきた延寿が自然に身につけた技なのだろう。
「わ~い!」
 たちまちテンションの上がった子供たちは、大はしゃぎで準備に取り掛かった。楽しそうな子供たちを見ると、延寿も思わず笑顔になってしまうのだった。

 ケーキとご馳走をテーブルに並べて準備が整ったので、子供たちは神様を呼びに行った。
 その間に延寿はミニスカサンタの衣装に着替えておく。赤と白を基調にしたこの服は、可愛いピンクのリボンがふんだんにあしらわれていて、延寿にとてもよく似合う。

 神様が食堂に入るなり、延寿と子供たちは声を揃えて言った。
「「神様、お誕生日おめでとう!」」
「えぇ! サプライズ? 僕、感激しちゃうな」
 神様はニコニコして嬉し涙を拭う真似なんかしている。

 子供たちと延寿が神様のために祝福の讃美歌を歌った後、早速皆で一緒にご馳走を食べた。
 延寿は神様にケーキを一切れ取り分けてあげた。
「神様、このケーキは皆で作ったんだよ?」
「どれどれ……わ、おいしい!」
 神様が笑顔で食べてくれて、延寿は嬉しい。
「そういえば、あの時もキミのケーキを食べたっけ」
 懐かしそうに呟く神様の言葉で延寿も思い出した。あの時も、カフェで悪戯する神様をケーキで笑顔にさせたなあ、と。

 食事が終わる頃、延寿はサンタ役になって皆にプレゼントを配った。
 包みの中身は『神様と†タナトス†のぬいぐるみ』。
 延寿の手作りだと聞いた神様は驚いて目を丸くした。
「全部キミが作ったの? 凄いなあ。ありがとう、大切にするね!」
 神様はとても気に入った様子で、自分と†タナトス†の分身を両手に持って、お人形ごっこのように二人の会話を再現して遊ぶのだった。

※こちらのノベルはクリスマスキャンペーン2020「イラストを題材にしたミニノベル」で作成されました。

登場人物 : 世良延寿 / 神様(NPC)
Illustrator : 黒鶫縺姫
ノベル制作 : 浅田 亜芽

乃々華の想い
イラスト

「これは……ノエルさんの日記……ですよね?」

 おかしな言い方だと思われるかもしれませんが、私、慎 乃々華は、ある日突然バーナード準男爵家の三女ノエルに転生してしまいました。
 突然のことで戸惑うことも多かったのですが、そんな私に家族はとても優しくしてくれました。
どうにか日々の暮らしに慣れてきた頃、ノエルという方がどのような人で、将来彼女がなにをしたかったのかを知るべく、そのヒントを探すことにしたのです。
 突然ノエルになってしまった私にできることといえば、彼女の意志を尊重した人生を送ることくらいなのですから。
 暫く彼女の……今は私の部屋を探ると、小さな本棚にノエルが書いたと思われる日記を発見しました。
 急いでその中身を読んでみると……。
「ノエルは、このバーナード準男爵領の外の世界に出て、自由に生きてみたいのですね。冒険者になりたい、と書かれています」
 この世界において、女性が外の世界で生きていくのはとても大変だと聞いております。
 特に私……ノエルは貴族の娘なので、政略結婚の駒として扱われるのが普通です。
 さらにノエルには魔力があることがわかり、それならば余計に……と思ったのですが、家族は私が領地の外に出ることに賛成してくれました。
 たとえそれが、バーナード準男爵家の継承問題をややこしくしないためとはいえ。
 小さな領地において、長男長女以外の子供に魔法の才能が備わってしまうことがどれだけ危険か。
 実際に、この世界の常識に触れなければわからないのですから。
 ノエルの日記に書かれた、強き自由への意志。
 乃々華であった頃の自分ならば、領地の外に出るのを躊躇してしまうかもしれません。
 ですが私はノエルの意志を尊重するため、覚悟を決めてブライヒブルクの冒険者予備校へと旅立つことを決意しました。
 そしてその前日、伸ばしていた髪を短く切りました。
 家族はとても驚いていましたが、これは新しい世界へと踏み出すための私の覚悟なのです。

 私は、生まれて初めて領地の外に出て、ブライヒブルクへと向かいました。
 立ち止まらず、自由への第一歩のため。


「ノエル! 向かったわよ!」
「ブリジット様、確認しました。これは大きいですね」
「『土壁』で阻止しちゃって」
「ノエル、俺はそのデカブツにトドメを刺す!」
「わかりました、『身体強化』をかけます」
「すまねえ」

 ブライヒブルクの冒険者予備校を卒業した私は、同級生たちとパーティを組み、ブライヒブルクに一番近い魔物の領域で狩りを始めました。
 私たちに迫りくる巨大な熊を『土壁』で囲って動きを止め、パーティメンバーたちが攻撃をする。
 その際にも、彼らへの『身体能力強化』などのサポートを忘れません。
 派手な攻撃魔法は性に合わず、パーティのみんなが怪我をしないよう、私はみんなのサポート役に徹する。
 私らしいのかもしれませんが、どうにか冒険者として暮らせています。
 領地の外の世界は大変なこともあるけど、ノエルが日記にその思いを綴るに相応しい世界です。
 なにより、ここには自由があるのですから。
「こいつは、思った以上にデカかったな。ノエルの魔法があって助かったぜ」
「そんなことは。ダスト様による大斧の一撃が凄かったからだと思います」
「ノエルの『土壁』による足止めと、『身体能力強化』のおかげさ。パーティメンバーに魔法使いがいるなんて、俺たちは恵まれているのさ。いなかったらこんなデカブツ、普通は命がけで倒すものだからな」
 魔法使いは貴重な存在です。
 おかげで私は直接武器を振るう必要もなく、後方からみんなをサポートする役割に徹することができました。
「そういえば、魔法使いといえば……」
「ブリジット様、魔法使いがどうかなされましたか?」
「ノエルは覚えてない? 特待生で入ってきたけど、夏休み後に見なくなった天才魔法使い君のことを。バウマイスターとかいう零細貴族の八男だって聞いたわ」
 そういえば、そんな方がいたような……。
「八男……それはまた。身分に関係なく、実家での立場が容易に想像できるというか……」
「でも噂によると、成人前に竜を二体も倒し、『ドラゴンバスターズ』というパーティのリーダーになって、デビュー戦でも大活躍したらしいわ。さすがは特待生様って感じね」
 私と同じような境遇の人……。
 どのような方なのか興味は尽きませんが、今の私はノエルの意志を継ぎ、どうにか立ち止まらず、この世界で私なりの物語を紡いでいくのです。

 その方も、私と同じく今後も外の自由な世界を楽しめるよう、心から祈っております。

※こちらのノベルは「八男って、それはないでしょう!」コラボシリーズ スタートキャンペーン「「八男って、それはないでしょう!」原作者Y.A先生へのショートノベルオーダー権」で作成されました。

登場人物 : 槙 乃々華
Illustrator : 橙雛
ノベル制作 : Y.A / TVアニメ「八男って、それはないでしょう!」公式サイト