クリエイティブRPG

サンサーラ・ナラティブ

サンサーラ・ナラティブ/4th

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サンサーラ・ナラティブ/4th
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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 外壁内側階段・2


 ミレンダ・ファティオーは、憤りを以って真東京タワーへ赴いていた。
(冗談じゃないわ。
 今更タカマガハラの復活なんて、何の意味があるというの)
 ミレンダにとって、前世は過去に過ぎなかった。
 たとえ今の世界が歪みきっていて先が無いのだとしても、あの頃に戻りたいという誘惑が理解できても、「ミレンダ」か生きたい世界はタカマガハラではなく、今ここにある世界だった。

 タワーの外壁から、靄のようなものが滲み出て来る。
 タワーの何かに惹かれて来るのだろうそれは、タワー内部に至った時、より近くに存在するフォーリンソウル達に惹かれて近づき、反応して同じ形を造り出した。
 これも『歪んだ者』の一種なのだろう。
 靄の塊が自分の形になるのを、ミレンダは嫌悪感を感じつつ見据え、扱い慣れないアストラルショットガンを構えた。
 たたらを踏み、階段を踏み外しそうになったミレンダを、近くにいたアーティ・ワインズが支えた。
「大丈夫ですか」
「すみません。ありがとうございます」
 ミレンダが撃った靄の塊は、ライラ・スワンソンが踏み込んで斬り捨て、とどめを刺す。
 靄は霧散して消滅した。

 何度か戦いを繰り返す内、ミレンダは慣れなくても、前世のエルシノアにはそうでもないらしく、思いの外早く戦えるようになった。
(皮肉なものね。
 これも過去に救われているということになるのかしら)
 苦笑するが、そんな思いに囚われるわけにはいかない。
 ミレンダは気持ちを切り替える。


(他の人達は……儀式を止めたいと思っているんですね)
 アーティは、頂上を目指す人々の様子を見て、自分の考えとの差異に戸惑っていた。
 タカマガハラの顕現が可能かについては不安が残るものの、その儀式は、これまでに増えてきた『歪んだ者』や、変容しつつある現世世界、害を及ぼす事象を好転させるものだと信じていたからだ。
 アーティは、儀式を行う人達を守り、手伝う為に来たのだった。
 立ちはだかる敵として、大勢のヘルメスが現れていることも、儀式の手伝いに来たのだと言えば道を開けてくれるのではと思った。
 だが、皆にそう言い出すことは躊躇する。
 敵が、量産されたヘルメスだけではないことも悩ましい点だったし、他の人達と対立してまで成すべきなのかと考えると、迷ってしまう。
 そしてもうひとつ、行方不明という秋津島飛鳥のことも気になっていた。
(飛鳥さんは、この儀式に肯定的なのでしょうか?)
 探して、話をして、儀式の場所に一緒に行きたいと思っていたのだ。
 誰を、誰から守ればいいのか、判断が難しい状況になっていた。
 得られる情報があれば、聞き漏らさずに行動して行こう、とアーティは考える。
 やるべきことを、やり漏らさないように。


「アリシャ」
 前世の名で呼ばれて、アーティは振り向いた。
 その表情を見て、ライラはフッと眼を細める。
 誰かが苦しむのは辛いと思うのは相変わらずだ。
(アリシャ。
 ――私の天使)
 思えばライラの前世、イドリスカヴェルは、人間不信になっても仕方ないような酷い血縁関係だったととライラは感じた。
 故に、無垢な龍、アリシャに惹かれたのだろう。
 アリシャだけでも最後まで生き延びて欲しい、そう願った世界は、アリシャと共に死んだ。
 アリシャは生まれ変わって此処に居る。
 ――もう、タカマガハラは要らない。

「……滅びた世界は滅びたままが自然かと、わたくしは思いますわ」
 そう、それもひとつの意見。
 アーティは頷く。

 ライラは、何が起きてもいいようにと、輪廻融合で前世の姿を降ろしていた。
 羽毛の黒翼を生やした悪魔の姿。
 ライラは自らの角に触れた。
(龍に似た角は折ったはずだが……ある、か)
 ライラの中で、イドリスカヴェルの意識が強くなっているのを感じるが、この意識はあくまでも死者のものだ。
「邪魔だ。私達を通せ」
 靄の塊を蹴散らして、ライラは力技で進んで行く。



「……滅びは、避けられないものでした」
 ヒルデガルド・ガードナーは、その時のことを思い出しながらも、足を止めず、階段を登り続ける。
 今日も、いつもの尼僧服ではなく、土蜘蛛の装束を纏い、巨大なツーハンドソードを手にしている。
 ヒルデガルドの前世、天使ガブリエルは、あの世界の最後を見届けた。
 自身の命を犠牲にして、滅び行く世界の向こうに、新しい世界の到来を感じたのだ。

「これで……新しい……世界が……」

 それが、我が主の世界でなくてもいい、と思った。
 すべてが幸せであれば、それでいい、と。
 そして、新しい世界に今自分は生きている。
「前世の為に……今の世界は不要?」
 そんなことはない。ヒルデガルドは断言する。
 新しい世界の為に、前世は動いてきたのだ。
 たとえ今が、望んではいなかった世界だとしても、否定はしない。
 儀式は防がなければならない。
 前世も現世も、どちらも自分にとっては大切なのだから。

 そして、自分は行かなくてはならなかった。
 ヒルデガルドは可能な限り、戦闘を避けながら進んだ。
 同行者が多く、ヒルデガルドが戦わずとも戦力は充分だったが、それでもヒルデガルドに向かって来るものもある。
 ヒルデガルドは輪廻融合で天使の姿を身に降ろした。
 かつてガブリエルが悪しきものを打ち払った破邪の光撃で、歪んだ者を打ち倒す。
「下がりなさい。
 愛ゆえに見届けねばならぬのですから」
 
 
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