クリエイティブRPG

サンサーラ・ナラティブ

サンサーラ・ナラティブ/4th

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サンサーラ・ナラティブ/4th
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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 タカマガハラを呼ぶ街2


 夢を叶える方法を話しあうのは楽しかった。
 魔剣、不動盈月と龍、夜刀季が計画する世界遊戯化計画は、二人の友人達にも広がって行く。
「どういうのがええかな。
 眠っとる人も起こすようなどんちゃん騒ぎにしたい」
「いいですね」
 不動盈月の言葉に、夜刀季も賛成する。
「眠気も覚める……素敵です。
 タカマガハラの果てまで響くような、そんな調べを」
 実現の暁には、サクラとなって盛り上げて欲しい、と、不動盈月は巫女ツツジにも根回しをした。
 ツツジは
「サクラなんて言わず、是非、私もまぜてください」
と楽しみにしていた。
 夜刀季もまた、巫女の神坐をこの計画に誘っていた。
「御賛意頂けるなら是非もなく。
 市井の民にも伝わりましたら……」
「楽しそうですね」
 神坐も、その計画に賛同する。
「沢山の方に、歌が伝われば……」
 それはきっと、とても素晴らしいことだろう。計画は広がっていく。




 スピリチュアルな趣味が役に立ったと内心で思う。
 風華・S・エルデノヴァは、前世で人の姿を取る時に纏っていた狩衣に似せた和装、徽梲衣を見に纏った。
 前世で着慣れていた為か、思ったよりも身に馴染む。
「風華ちゃん、素敵な装いね、やっぱりモデルだと違うね、私は何だか可愛くなくて……着こなしポイントとかあるの?」
 転老袴がやぼったいような気がして、ノーラ・レツェルはぼやく。
「確かに、この衣装は合わせるものに悩みそうですね。
 その装いに弓もお持ちでしたら、私は前世で烏帽子をつけていたような」
「烏帽子かぁ」
「勿論、今どなたかお知り合いの方とお会いした場合は、仮装だとお伝えしますけれど」
モデルをしていて顔が広いと、どこで知り合いに会うか分からない。
 その時、うろたえたり、恥ずかしがったりしては駄目だ。
「知り合いか、まあ今回は皆寝てるみたいだし、転生者とかバレないでいけるかな」
 これまでは、それを恐れて目立った行動を取れないでいたが、一般市民に影響が及んでいる今回、人助けすることで名前を売ることができるのでは、と考えて、ノーラははたと我に返った。
(あれ?
 ボクこんなこと思うタイプじゃなかったはずだけど……
 もしかして、前世の影響なのかな)
 前世と現世の自分が同化していっている気がする。
 そんなことを考えるも、とりあえずノーラは雑念を振り払った。
 女優になる為に、有名になりたい。
 そんな打算はともかく、人助けはした方がいいのだから。


 ノーラと風華は二手に分かれ、霧が漂い、微妙に視界の悪い新宿の街を走り回った。
 流石に道の真ん中で寝ている人はいなかったが、寄りかかれそうな場所に倒れ掛かっていたり、ベンチに座り込んでいる人々を見つける。
 ノーラは周囲を警戒しながら走り寄って声を掛けた。
「眠ってる暇はないよぉ、起きて、ね」
「う、うう……。何で、私……」
 起こされた女性が、ぼんやりと目を開ける。
「爆発が起こるかもしれないんだ……。逃げて!」
「爆発?」
 夢を見てるのだろうかと、女性はポカンとノーラを見る。
「とにかく、真東京タワーから離れよう、ね」
 手を引くと、女性は立ち上がって歩き出す。
「フォーリンソウル……? それ関連の事件なの?」
 怪訝そうに訊ねてきた。
「詳しいことは、僕も分からないけど……
 何か起きてるのは間違いないし、とりあえず逃げといた方がいいよ」
「そうね……」
 段々はっきり意識を取り戻してきたのか、周囲を気味悪そうに見渡して、女性は頷く。
「平気?
 なら、僕、他にも眠ってる人がいたら起こしてくね」
「分かったわ。ありがとう」
 女性は礼を言うと、タワーとは逆の方向へ走って行った。

「どうかお目覚めを。
 あなたの眠る場は此処ではないのです」
 蹲っている少年を見つけ、風華は揺り起こした。
「やだ……眠い」
 少年はムニャムニャと反論する。
 風華は周囲を見渡した。保護者らしき人物は見当たらない。
「あなたの眠りを、知らぬ誰かに預けないで下さい……!」
 両肩を掴み、真摯な言葉で訴える。
「ううー、誰ー?」
「親御様はいらっゃらないのですか?」
「わかんない……」
「では共に参りましょう。
 此処は崩れます。手を取って共に……!」
 風華は少年の手を取って立ち上がらせた。
 立ち上がりながら、霧の中に、人ではない影が揺らめいているのを確認する。
 近くは無い。やり過ごせるだろうか。
 風華は、タカマガハラの澱んだ気を集める熊笛を吹く。
 これを嫌がり、離れてくれるといい。
 様子を伺っていると、気配が遠くなって行く。
 また、この笛の音が少年の意識も目覚めさせたようだった。
 幾分はっきりした表情になってきた少年の手を引いて、風華は歩き出した。



 橘アオイの姿が高校から消え、その消息が分からなくなっている。
 エルザ・バルツァーは、転生についてより実感を高めている今、アオイもまた、前世と現世の間に立っているのでは、という気がしていた。
(一緒に、未来のことを思った……来世のことを)

「いつかこの日々が終わるとしても。
 またお友達になっていただけたら」

 神坐とビクニは、そう語り合い、そして創成高校で再会した。
 悩んだり迷ったりしても、いつか普通の日々を過ごしたい。
 アオイが、自分を友達と思っていてくれていたら嬉しいのだが。
 そんなことを思い、エルザの口元にふと苦笑が漏れる。

 その時、熊笛の音が聴こえてきて、我に返った。
 誰かが周辺住民を避難させ、遭遇した敵を撃退しているのだ。
 自分も協力しようと、エルザは霧の中を探す。


 一般市民の救助に駆けつけた師走 ふわりは、道端に倒れている人を見かけて駆け寄った。
「しっかりしてください、こんなところで眠っては駄目です」
 呼びかけに、その男性は重い瞼を何とか開く。
「くそ……何だかすごく眠いんだ……」
「ここにいては駄目です。逃げてください」
 何か異常が起きている。それは男性にも理解できたのだろう、ふわりの説得に、男性は何とか立ち上がる。
「この異常の中心に、真東京タワーがあるみたいです。
 タワーからなるべく離れてください」
「わかった」
 男性は、よろめきながら歩き出す。
 ふわりはそれを見届け、他にも眠っている人がいないか探した。


 霧の中から唸り声がする。人のものではない。
「きゃっ……」
 押し殺した悲鳴が聞こえて、ふわりは走った。

 眠った人を助け起こそうとして、エルザは屈み込む。
 その背後から、歪んだ者が近づいていた。
 気付いたエルザは、前世の残光を放ってそれを退けようとしながら、熊笛を吹く。
 豹の姿に、顔半分が人間だった。
 前足も人間に近い部分がある。
 熊笛の音に当てられ、歪んだ者は怯んだが、追い払うことはできなかった。

「大丈夫ですか!」
 そこに駆け寄ったふわりは、輪廻融合でツツジの力を解放する。
『関係ない方を巻き込むのは、わたしが許しません!』
 そう言い放ったのは、ふわりではなくツツジだった。
 アストラルアローで魔法弾を放つ。
 歪んだ者は魔法弾に撃たれて後方に転がったが、別の一匹が横から飛び出して来た。
「他にも!」
 エルザが金属パイプを握り締める。
 二人の前に、スッと何者かが走り込んだ。
 ヒルコだった。
 ヒルコが右手を掲げると、歪んだ者の動きが止まる。
 硬直したように動かなくなったが、同時にヒルコの額からも脂汗が滲み出た。
「……ソウルテイム?」
 エルザが呟く。
 それは動物に転生したフォーリンソウルを操る技のようだった。
 だが、何かが違う、と思ったその時、歪んだ者が、人間の姿に変わった。
「えっ!?」
 豹と人間が混ざりあった姿から、豹の姿が抜け、人間の姿が残った。
 その人物はばたりと倒れ、ヒルコもまた、力を使い果たして座り込む。
「まさか……こんなことが可能なのですか?」
「可能だけどね……一日に何度も使えるわけじゃないのよ。
 はあ……タカマガハラが顕現すれば手っ取り早いのに……」
 ヒルコはぐったりとしたまま言う。
 先にふわりが退けた歪んだ者が、体勢を立て直して再び襲い掛かって来た。
 助けられるのかもしれない、と思うと攻撃に躊躇してしまったが、ヒルコはもう動けなかった。
 そこに、熊笛の音を聞きつけていた人見 三美らが駆けつける。
「大丈夫ですか!」
 三美達が歪んだ者を倒すのを、ふわりは複雑な思いで見つめた。
「気にすることないわよ」
 ヒルコが苦笑する。
「そうするしかないんだから。
 でも私は、ツチグモだからね」
 最も正確には、ツチグモなのは自分ではなく、今はもういない草薙環なのだが。

「無事ですか」
 歪んだ者を仕留めて歩み寄った三美を見て、ふわりは思い出した。
 ふわりの前世、ツツジが、三美の前世、魔剣チーシンから託されたものがあったはず。
 ツツジはチーシンを疑うことをせず、素直にそのまま受け取ったのだが、それが何だったのかをふわりは思い出すことができなかった。
(……そう、それから、ネーヴェさん……)
 何か、大事な約束を交わした気がする。
 今、三美と出会ったことで記憶の一部を思い出したように、本人に出会えればその約束も思い出せるのだろうか。
 
 
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