・暗黒の刺客、四天王アートルムを討て
四天王が一人、アートルムは並び立つ冒険者を眺めていた。
そんな中で
紫月 幸人が早速アートルムへとアピールする。
「アートルム氏ぃ! 行商人である俺としてはぜひとも仲良くしたいですぞぉー! 早速スカウトですなぁー!」
「ひっ……な、何を言っているんですか……。これだから冒険者と言うのは……」
「なに! 具体的な職場環境としては諜報メインで荒事は基本的にはなし! あと他の人と喋ったり、今回のように名乗りとかはしなくて良いですな! 仕事が速いに越したことはないですが基本的にはある程度決まった期間内に成果を出してくれれば良い仕事ですぞー! もちろん、福利厚生もバッチリ! 傷病休暇に有給もオッケー!」
「な、何を……僕は四天王……ですよ……一応」
「だからこそ、勧誘しているんですがねぇ! ……まぁ、戦わずに分かり合えませんか、と言っているのですが……」
「そ、そんなの駄目です……僕は四天王、アートルム・シェイド……あなたたちを……殺します……」
「うぅーむ! 交渉決裂ですかぁー! では仕方ありませんなぁー! 警告はしましたぞぉー!」
人見 三美は武器を構え、ハイテンションな幸人とは対照的にアートルムを警戒する。
(あの立ち振る舞い……まるで四天王とは思えませんが、それでも明らかに強者のオーラが見え隠れしますね。彼のような手合いには拠点に入り込まれて工作される怖さがあります。まずは……)
「まずは名乗るのが礼儀でしょう。私は人見三美。先刻はちゃんと名乗れなかったのですから、あなたも口上を述べてください」
「あっ……そう言われると……うぅ……やっぱり僕なんて……あ、僕は四天王のアートルム・シェイド、です……」
(ネガティブに? ふーむ……より謎が深まりますが、油断大敵。きちんと対処いたしましょうか)
リングオブパワーLV1で筋力を強化し、マキシミリアンLV7を纏って素早さを引き上げた
春夏秋冬 日向は、ディスアピアLV6で気配を隠蔽しながらアートルムを見据え、その在り方が自分に似ているのを察知していた。
ディスアピアLV6で気配を隠蔽しているものの、日向はアートルムのあり方が自分に似ているのを察知していた。
(恐らくはアートルム自身もシーフか……魔力を隠蔽することはできても完全に気配を消すことはできない。つまり、俺には敵が“視える”。さて、どのような攻撃手段を取って来るか……)
七々扇 静音は風の声に耳を澄ませつつ、アヴィエーションLV6で飛翔していた。
(御庭番として、忍びとしてその在り方は気になりますね。……さて、ではどれだけその気配が薄くとも、武器を見抜かせていただきますよ)
学者として身に着けた知識から、所有する武具がどの程度のレベルを持つか調べる前にアートルムが動く。
「どうせ僕なんて……うぅ……鬱だけれど仕方ない。――殺させてもらいますよ」
不意に気配が変わる。
纏っていた鬱々とした空気が消え去り、直後には気配遮断LV10で姿を晦ましてからの毒霧LV6が散布されていた。
周囲を瞬く間に押し包んでいく紫色の濃霧に、全員が毒の対応策を迫られる。
「……遅いですよ」
(……速い……!)
静音の背後へと立ち現れたアートルムに、スターフレイルLV4で相対しようとしたが武装を振るったその時にはアートルムの姿はない。
「……影を……渡っている?」
影の中に隠れながら奇襲を仕込もうとしたのを感知できたのも束の間。
「……攻めさせてもらいますよ」
闇の魔力で形作られた球であるダークスフィアLV7を放出して牽制しつつ、ウィキッドカースLV8の暗黒の靄が拡散し呪いをかけていった。
(ミスリルクロースを纏っていても、ここまでレベル差が大きければ……!)
咄嗟に静音はトリートポイズンLV6を自身と日向、それに三美に掛け解毒をしていくも、呪いまでは打ち消せない。
(少しの間だけですが……それでも対処に出られます)
「ありがとう、静音さん……。これで多少は攻勢に出られます……!」
獣の嗅覚で三美はアートルムの実体を探す。
影を移動し、ほぼ完全な気配遮断を実現しているアートルムを捉えるのは至難の業。
(四方八方、どこからでも攻撃が飛んでくる可能性がある……! 自称とはいえ、四天王の名は伊達ではありませんね……!)
暗殺者を極めていると思われるアートルムはほぼ確実に先手を取れる。
よって、全て後手に回るしかなく。
三美はアクセラレートLV7で自身の機動力を引き上げて回避を狙いつつ、纏ったパワークロークLV7によって筋力を増強し、反撃の一打への布石を打っていく。
(攻撃……してきなさい……!)
リンデンスタッフLV9を構えて腰を沈め、アートルムの次手に備える。
「……構えましたね。では……獲らせていただきます」
黒い球が放たれるのに対し、三美はグリントオブライトLV6で照らし出していた。
一時的に影が消え、闇球を消し去ってアートルムの姿を見出すも、すぐに影に隠れようとする。
「そうはさせませんぞぉー! アートルム氏ぃー! 隠れるのがお得意だと言うのならば、その隠れ場所を消し去って見せましょうぞ! 我がゴォールデン、アーマーで! さぁ、この金色の輝きをご覧あれぇー!」
「ま、眩しい……」
幸人の装備するゴールデンアーマーLV9によって影が消え去る。
その好機を日向は逃さなかった。
(もらった!)
スチールピストルLV7を放つ。
その大仰な銃声にアートルムが振り返り銃弾を斬り払うも、そこには誰も居ない。
(驚いているその間を……ほんの一瞬にしかならない隙だろうが、狙わせてもらうぞ)
アクセラレートLV7で加速し、アートルムへと肉薄する。
「その……死んでください!」
漆黒の忍者刀である宵闇LV6を咄嗟に振るうアートルムであったが、日向はシャドウプレイLV9で残像を生み出し回避していた。
「これならば躱しきれまい」
ゼロ距離で引き金を絞り、アートルムの痩躯が吹き飛ばされる。
「く、くぅ……」
「戦闘せざるを得ないのであれば、天技を使うしかありませんな。覚悟してくだされ! この俺にも何が起こるか分からぬゆえ!」
幸人は天技:ゼロオアハンドレッドLV2を実行していた。
それは理不尽なほどの幸運であらゆる困難を凌駕する、幸人自身でも何が起こるかは不明な天技である。
「はぁい! 警告しましたぁー! あとはどんな目に遭っても自己責任でお願いしぁーすぅー!」
「ど、どんな目に遭っても……? そ、そんな……」
「接敵します!」
日向の魔力ポーション(大瓶)LV2で魔力を補充した三美がアートルムの間合いに入る。
杖術による打撃で押すも紙一重で避けられ続けてしまう。だが、その間に静音が天技:五行展開LV1の発動準備に入っていた。
「行きますよ……五行展開!」
魔力感知に秀でた天技でアートルムが次に隠れようとしている影を見極める。
「アートルムは三時方向の影に隠れようとしています。使うのは先ほどの黒い球での一時的な牽制。レベルは7相当」
(ここまではなんとか戦えているな。このまま一息に……!)
日向はアクセラレートLV7で加速しながら今一度、アートルムへとゼロ距離射撃を敢行しようとして、結ばれた印に咄嗟に反応する。
「……みんなが……悪いんですよ……!」
行使されたのは天技:暗黒分身LV3――アートルム自身を漆黒の闇の塊とする。
(何だと……!)
日向が射撃するもその時には無数に分裂を果たしたアートルムが縦横無尽に駆け回る。
「これはこれは! アートルム氏がたっくさん!」
「……みんなが……みんなが悪いんだぁ……!」
(まずいな……こいつらまさか……)
銃を一射し、分身のうち一体を撃ち抜くがアートルムは怯まない。
三美もリンデンスタッフLV9による一撃を叩き込み、分身体の首を折るがそれでも霧散する様子はない。
(……まさか、全て本体……?)
アートルムの分身体が刃を走らせ、三美へと接敵する。
一体を相手取っている間に、もう一体が影から顔を出し、奇襲を仕掛けようとしていた。
「危ないですよ!」
静音が察知し、魔力活性薬LV2を服用してからシャイニングビームLV5を放つ。
アートルムは魔族であるため、本来のレベル以上の威力を発揮して貫いていく。
「皆さん! 一体ずつの脅威判定は下がっています! ……ですが、数が多過ぎて……」
光線で焼き払っていくが、アートルムの勢いはまるで衰えを見せない。
「……数による圧倒とは。アートルム氏ぃ! それは確かに忍者としての本懐でしょうが、俺がやるのは常にぃー! ゴールデンな戦い方ぁー!」
幸人は自身を中心にして、ゴールドアーマーLV9の輝きを放つことでアートルムが忍ぶ影を掻き消していく。
四方八方から迫ったアートルムの刃が幸運によって全て逸れ、幸人は健在であった。
分身が集まった好機を逃さず、日向は天技:霊眼LV4を用いる。
(行くぞ……霊眼……発動!)
対象の魔力量を捉える視線で日向はこの天技がどれほど継続するのかを計測する。
「……分身の総数が増えるほど、アートルム自身の戦闘力は落ちている……これは間違いない。静音! アートルムの位置を伝えてくれ! ……俺は、奴らが結集した地点へと銃撃を続ける!」
「了解しました! ……私の天技であれば影からの奇襲は読めます! 七時方向、密集した魔力を感知!」
「そこだ!」
日向が銃撃する。
「続いて五時方向!」
「もらった!」
三美が武器を杖から天技:鏡の籠手LV3へと切り替える。
その拳に纏った鏡の輝きを誇る籠手でアートルムの躯体を打ち抜き、連撃で叩きのめす。
「くそっ……! くそぅ……!」
幸人に仕掛けるアートルムだが、その刃は理不尽なほどの幸運で回避されてしまう。
加えて幸人の放つ黄金の鎧は影を掻き消すためにアートルムにしてみればやりにくい相手だ。
「そこ……ですっ!」
グリントオブライトLV6で光を放ち、三美がアートルムの影に潜む奇襲攻撃を制し、鏡面の籠手で打ち抜いていく。
(それにしても、数が多いな……。まさか全て葬らなければ倒せないのか……?)
「二時方向! 来ます!」
奇襲攻撃を静音のアシストで回避しながら日向はトリガーを引き絞る。
「回復します……! 粘れば勝てる可能性がありますので……!」
三美がダブルヒールLV5を飛ばし、仲間たちの傷を治していく。
「……抵抗は無駄です」
粘る冒険者たちだが、数の利はアートルムにある。目の前の分身を倒しても、死角から別の分身が襲い掛かってくるのだ。それも一体や二体ではない。一体あたりの戦闘力は落ち、攻撃力も下がっているようだが連続して何度も受ければいずれは削り切られてしまう。
「……はっ、マーレさん! テッラさん!」
あわや全滅かと思ったその時、何かに気付いたアートルムが影の中へと消えていく。
しかし、冒険者たちは体力の限界が訪れており、誰一人として追撃することができず誰ともなく呟くのであった。
「……これほどの強者が……まだ四人も……」