晴れは来るか
時を同じくして、比較的怪我の程度の軽い部屋にてエクステンシブヒールLV10を使用し、深呼吸をするは
風華・S・エルデノヴァ。
――せめて今日の終わりを、心より休み、再起に繋がる安眠のため頑張りましょう。
「どうか、お気を確かに」
そう言葉をかけて、怪我の程度を見てはひとりひとり声をかけていく。風華の軽やかかつ穏やかな声に安堵する兵卒も多く、民間人もまた同じであった。
怪我人の様子を見ていれば、アキコが意外なことに献身的に包帯を巻いたり、簡単に回復魔法を使用しているのが見受けられた。視線を向けられたことに気づくと、ハイ終わり、と処置していた相手の背を軽く叩き、風華に向き直る。
「アキコさん……首尾の方はいかがですか?」
「ん、いくら冒険者が回復魔法使えるからって、ポーション飲んで無理しても何だと思うから、簡単な手当てはこうやって包帯巻いて……なによ」
「いえ、励んでくださり、ありがとうございます」
「あーあー! そういえ照れくさいのマジでいいから!」
そう言うアキコは心底面倒くさそうな表情をしている。しかし、アキコなりの打算があるとはいえ、こうして働いてくれることは、風華にとっては心証の良い行動であった。
「そういえば、王都への道はわかりますか?」
「はい、それじゃあ情報料……なんて冗談よ。王都へは――」
さしものアキコもここで嘘はつくまい、『冒険の書』に書き記していく。
治療がある程度終わり、動ける人員は先んじて避難することを兵士に伝達すると、万一のためのホーリーウォールLV9を出す準備はいつでも万全にしながら、風華は砦をあとにする準備をした。
――治療に先立ち、ちと『根回し』しておこう。
佐門 伽傳の提案は、以下のようなものであった。
今は怪我の程度によって部屋分けされているが、同じ町や村から避難してきた人々がバラバラになっている可能性が高い。
そのために、町や村の長、顔役と顔を合わせて簡単な名簿を作成、一緒に避難したほうが良い者達――家族や親類、友人や恋人など――をまとめあげた。
治療が済んだ者から順に避難を……というのは無論であるが、親しい間で励まし合い避難するさまは精神の安定となる。事実この采配に感謝を述べる者は多かった。
感謝を述べるのならば町や村の長へ、と控えめに言う伽傳に、それでもお父さんと会わせてくれてありがとう! と感謝する子供も居た。
「うむ。はぐれないように気を付けてな」
忌ノ宮 刀華も避難の手伝いをしてやり、励ましの声をかける。
さて、観察眼LV3によって人となりを見ながら、避難誘導や治療の手伝いができる者から治療していく。人手は多いほど良い。
リングオブマジックLV1、それにより威力を増幅させたファストエイドLV1、ダブルヒールLV5の効果は覿面である、怪我の程度で使い分けつつも、しかし疲労はどうしても抑えきれない。
消耗する分は魔力ポーションLV1にて、ここが正念場、といったところであろう。
「ありがとうございます……」
「当然のことをしたまで、である」
――治療に専念したい、ところではあるが――……。
四天王、とやらが居る方角を睨みつける。いつ襲来してもおかしくはない状況、備えはしているが、さて。
「今から痛みは引きますからね」
永見 玲央はそう声をかけながらヒーリングロッドLV2からファストエイドLV1を放つ。
「ありがとうございます、大変楽になりました……」
恐縮しきりの怪我人に、いえいえこれが仕事ですから、と玲央は立ち去るのを見送る。きちんと自分の足で立って歩ける――充分だ。
「他にまだ怪我人はいませんか?」
問いかけつつも、治療術の知識で怪我人を見つけ次第その手で癒していく。必要があればダブルヒールLV5を使うことも厭わない。少々消耗が激しく、よろめく前に魔力ポーション(大瓶)LV2から魔力の補給を行う。癒やす側が心配させてはいけない、その一心だ。
伽傳の手筈によってグループ分けされていく人々の顔が明るくなっていくことに安堵する。
玲央が問題としていたのは精神的なケアだった、地球で起きた災害に遭った人々のことを想う。
――心境としては、あのような天災に遭ったような感覚に近いのだろうか……。
まだ避難が叶わない家族連れに声をかけ、その不安を聞く。
「魔王軍の四天王が一度に来ただなんて、どうすればいいかわからなくて……」
「大丈夫です。我らが同胞が戦っているのですから、必ず勝利を勝ち取れるでしょう」
ですから、貴方達はまずは自分達の安全を考えて。そう微笑みながら述べると、その家族連れは強く頷いた。
そんな養父の姿を見ながら、
永見 博人も自分にできることはないかと探していく。
――そうだ! 同じ、子供の相手をしよう!
怪我をしている子供も少なくはない、ファストエイドLV1で手当てをすれば、こんな状況でも子供は風の子、動きたくて仕方なさそうにウズウズとしている子がいる。
無論、不安で仕方ない子もいるし、第三の砦……と言う、滅多に来ることができない所に来て好奇心が抑えられない子もいれば、恐怖と悲しみで虚無感に陥っている子もいる。
――皆を誘って、このモヤモヤを吹き飛ばそう!
連れ出される子供達の中には、ワクワクしている子から、顔を曇らせている子もいる。
その全員にフロートジュエルLV3を行使してみれば、ふよんふよん、と不思議と体が軽くなる感覚があって、それが面白いのか、暗い顔をしていた子供も、目を輝かせた。
「みんな、砦の人の手当てをしにいこう!」
「手当て……したことがないけれども……」
「大丈夫、こういうのがあるんだ。これを怪我した人の腕につけると、傷が治るんだよ」
リジェネブレスレットLV4を手にして指し示す、なるほど、魔法の道具かー! と子供達は納得すると、つけてまわる順番を担いながら治療して回る。それを見ながら、博人自身もファストエイドLV1で治療にあたっていく。
次々治っていく怪我人達を自分達が治したのだ! ……というのは子供達の自信につながったらしい、暗い顔の子供も、すっかりと明るい顔になっていた。
――砦中を駆け回る。
3人1組で集まってもらい、治癒術を使用する。
毒にやられている者にトリートポイズンLV6を使用し、続けて深い傷を負っている者にダブルヒールLV5を。
砦でヒーリングにあたるヒーラーはほとんどが魔力ポーションを必要とするほど消耗しており、
師走 ふわりもそれに漏れず、魔力ポーションLV1を欠かさずに服用していた。
戦線復帰する余裕がある者がいればマテリアルガードLV6をかけようと思案していたが、突然の四天王の襲来に精神的に響いている者も多く、送り出すことは難しそうだと判断して、引き続き治療に専念する。
ふと、アキコのことを思い出す。ここの作業に取り掛かる前に、アキコに何か他の目的がないかどうか探ったのだ。
曰く思い切り恩は売りたいものの、それ以上のことはないようで、ひとまずそのあたりについては安心といったところだろうか。
聞いたところによると思いの外献身的に働いているようで、恩を売る為か手を抜く事はないようだ。
「ひとまず、彼女については安心、といったところでしょうか……」
ひとりごと、それからまた治療を再開していく。
「ふわり様のご様子は……まだ大丈夫そうね」
無理をなさらないといいけれども、と
アリーセ・クライトもまたひとりごと。
ディスアピアLV6を使用しながら、気配を悟られないようにしつつ、いつ四天王率いる魔王軍が襲撃してきても良いように備える。
巡回ルートは地上を基本としているが、今は砦の上に登って高所からの見回りをしている。
アヤメ・アルモシュタラも見回りに参加し、怪我人と敵の襲来の可能性を同時に見ていた。
アリーセは、チェーンウィップLV5を利用したワイヤードプレイLV7による登攀を行う。
壁に足をやりながら、遠くを見る。
――あのあたりで戦いが――。
遠目にも火の手があがっている部分もあり、どうか戦いが無事に済みますよう、と願う他ない。
襲撃されそうな気配はない、しかし備えるに越したことはない。
いざというときのポケットピストルLV4は用意しつつ、迎撃の準備をして、アリーセは待つ。
――……戦いに向かった者達が無事に帰ってくる未来を。