・静謐なる巌、四天王テッラを討て2
「獲りに行くぞ! 防御が下がったこの時間を逃すわけにはいかん!」
そこへ飛び込んだのはウォークスだった。
鍛冶師の職能で予め鍛え、鋭さを増したルツェルンLV9を担ぎながらアクセラレートLV7で加速し、先ほどから観察していたテッラの利き腕ではないほうへと回り込む。
(最初に右腕を使ったな? それが意識的にせよ無意識にせよ、お前が使い慣れているほうだろうさ)
テッラの左側へと踏み込んだウォークスへとテッラは指先を向け、隕石が降り注ぐ。
(させませんよ……!)
佳宵がサンダーボルトLV5を構築し、頭上から打ち下ろす。
(一撃の効力としてはいまいちかもですが……何度も続ければ変わってくるかもしれませんよ)
スチールピストルLV7も連射する。
ビーシャの天技の影響もあり、みるみるうちに装甲が削れていくようであったが、テッラ自身がうろたえたような様子は見せない。
(言葉を発しないと言うのは分かり辛くっていけませんね……!)
「打ち砕く!」
低い姿勢で隕石をやり過ごそうとするウォークスだが、容赦なく地面へと巨大な岩塊が叩きつけられ、凄まじい衝撃と轟音が一帯に広がっていき、ウォークスだけでなくライトニングや恭也も纏めて吹き飛ばす。
(なんの……!)
テッラが指先を払ったその時には、鋼鉄の兜LV2だけが残されている。
確殺を感じ取り、テッラがウォークスから視野を逸らしたその頃、ウォークス自身はマッドダイバーLV3で地面に潜っていた。
(討ったと思い込んでいるだろうな……いや、そう思ってもらわなければ困る。さて、反撃と行こうか)
衝撃から逃れきれず満身創痍のウォークスではあるが、チャージLV3で力を溜め込みつつも、地中のテッラの直下を観察し地下に術者が存在しない事を確かめる。
(ということは、この岩石そのものがテッラ・グノーム本体か。最悪の想定の可能性が消えただけでも御の字だ。さて、その股下、断たせてもらおうか!)
テッラがウォークスの存在を察知したその時には既に遅い。
「このまま……両断するぞ!」
股下から浮上したウォークスは痛烈な一撃を与え佳宵自身も攻撃に移れば、テッラの自動治癒も流石に回復が追い付かない。
「行きますよ……天技……狐日和!」
狐日和LV2。それは遠くでキノコ雲が立ち上り、白熱した粉塵が大地を煮立たせつつ猛烈に迫り、破壊の感覚をテッラに想起させる――という幻覚を見せると共に、現実でもほぼ同等の熱波を浴びせで攻撃する天技だ。
(大げさですが、それと同じ威力を受けることにはなります。さて、身じろぎ一つしないテッラはどう動きますかね?)
熱で炙られ体を構成する岩が崩れていく中で、テッラは手を払い佳宵をオベリスクLV8の尖った岩柱で叩き上げようとするのを、マッドダイバーLV3で地面に潜って回避する。
(庇うような仕草をしないことから、なるほど術者は居ない、完全独立の存在と見るべきでしょうか。なら、とにかく連撃を浴びせて動きを留めましょうか)
浮上するなりフリーズブリーズLV4で凍結させようとする。
局所的な冷気とそして先刻からの攻め手でテッラの動きは鈍っていた。
膝をついた瞬間を狙い、恭也が天技を発動させる。
「このまま押し込む……! 天技、発動!」
天技:ギガンティックアームLV3により宙に浮く巨大な機械製の両腕が具現化され、テッラの胴体へと叩き込まれる。
(ひたすらぶん殴る……! 構造上、どこかが弱点と言うよりかは全身を砕いたほうが速ぇだろ。胴体をぶち抜く……!)
胴体へと鉄拳を打ちつけたその直後、恭也の直上の空が翳る。
(何だ……? まさか……!)
上空に構築されたのは巨大な一枚岩だ。
先刻の隕石と同程度か、あるいはそれよりも素早く形成された巨大な一枚岩の重量に超重力が荷重される。
それこそがテッラの持つ天技:グレートモノリスLV3であった。
一枚岩の誇る重圧と、そして即座に落下してくる動きに対処する術はあまりにも少ない。
恭也はアダマンキャリバーLV11を盾にしてその衝撃波を減殺しようとしたが、拡散重力を前に吹き飛ばされかける。
「なんのぉ……ッ!」
ギガンティックアームを上に向け、巨大な一枚岩を単身で支える恭也。しかし、加護が同等であれば素の能力が高いテッラの方が勝る。徐々に押し込まれており、長い時間を耐えることはできないだろう。
「テッラは状況の立て直しを狙っているです……! 今攻め込まなければ……逃しますですよ!」
伊織の声に、吹き荒ぶ粉塵の中でビーシャはテッラの脚に絡みつかせたサンダーテールLV9を離さない。
(たとえ自分自身に危害が及ぼうとも……ここで離しちゃチャンスを失う……!)
フィーリアスは天技:チートキャンセラーLV1を発現していた。
(ここで持ち堪えなくっちゃ……何になるって言うのよ……!)
それは降り注ぐ一枚岩の超重量と重力を減殺し、支える恭也の負担をごく僅かではあるが軽減した。
「このまま……その装甲を薄くさせるわよ……!」
ディスアピアLV6で気配を殺したフィーリアスが、スチールピストルLV9の弾丸を撃ち込めば、ビーシャの天技の効果が切れて硬さを取り戻したテッラの装甲を再び脆くする。
「よく持ち堪えてくれた。ここは俺の天技の使いどころだな。……行くぞ」
恭也とフィーリアスで稼いだ貴重な数秒の中で、ジェノは天技:極光昇華LV4を発動し、アダマンキャリバーLV10を振り上げながらテッラへと迫る。
(ここが決め時ね……! ジェノと呼吸を合わせる……!)
遥も天技:聖剣抜刀・真打LV4を発動し、自身の記憶と武器を触媒にして聖剣を生み出す。
光り輝く刃を翻し、ジェノと共に呼吸を合わせてローンモウLV10の薙ぎ払いを浴びせる。
(届け……!)
テッラの躯体をジェノの天技の特性で光へと変換し、今も舞い降りてくる巨大な一枚岩を光の粒子へと還元する。
すかさずテッラが手を払い、印を結んで再び魔法攻撃に移ろうとした所で、ウォークスが天技:コブルシールドLV2で弾性を最大に設定した半透明の盾を空中に作り出し、それを足場に高く跳び上がる。
(ここで二段ジャンプ! 必殺の一撃に少しでも貢献させてもらおうか!)
落下しながらのローンモウLV10の薙ぎ払いを放ち、衝撃波でテッラが魔法を撃つ前にその体勢を崩す。
その瞬間、遥の聖剣が一際強い光を放つと共に振り切られ、せめてもの防御にと翳されたテッラの強固な両腕を消し飛ばす。
(今よ……!)
ジェノの光へと還元する一太刀もまた振り切られ、テッラの鋼鉄の装甲を消し去り、直後には頭上の一枚岩も完全に消滅させるのだった。
(さしものテッラと言えども……これで再生は難しいはずだが……)
テッラの躯体全体に亀裂が走りぼろぼろと崩れていく。
半身を砕かれたまま、テッラが動こうとして陽炎を纏ったイグニスが割って入る。
「テッラ……! こんなになるまでやられちまったのかよ……!」
イグニスの乱入に全員に緊張が走るが、テッラほどではないにせよイグニスも手傷を負っている様子であった。
このままイグニスごと倒し切るべきか。そう考える冒険者たちだったが、イグニスから数秒ほど遅れてテンペスタスも風と共に現れた。
「どうやら、我々は人族を甘く見ていたようだね……」
流石に、テッラとの激闘で消耗しきった状態で、四天王のうち二人を同時に相手取ることは難しいだろう。絶望的な状況に冷や汗を流す冒険者たちだが、イグニスとテンペスタスは冒険者に構うことなくテッラの体を支え退いていく。
「……ここは撤退させてもらうぜ。ここまでやってのけたこと……俺様たちは絶対に忘れない。次に会った時には命がないと思え」
「精々首を洗って待っていることだな!」
テッラを抱えたイグニスとテンペスタスが風に乗って遠くへと消えていく。
ようやく緊張を解いた総員は、これほどまで傷だらけの接戦を制したことに安堵の息をついていた。
「四天王は何とか退けられた……。だが、完全に倒したわけじゃない。いつかまた……」
恐らく四天王は再起を図るだろう。その時がいつになるかは分からないが、再び戦うその時こそ決着をつけなければと、冒険者たちは四天王の去って行った空を見つめるのだった。