・ノイマン中尉たちとの戦い2
タヱ子のスカイフォートレスから、響き渡る歌が変わった。
歌を聞いた一部のソウトがタヱ子のスカイフォートレスを狙うべく、突出しようとする。
しかし陣形の乱れに気付いたノイマン中尉にすぐに喝を入れられ、正気に戻った。
それでもタヱ子はしぶとく歌を繰り返し、ソウトの敵意を集めようとする。
ノイマン中尉に対処されてしまうが、それでいい。
対処を押しつけるだけでも、多少の連携阻害は見込める。
囮となったタヱ子のスカイフォートレスは、ソウトによく狙われた。
『大丈夫です、避けられます!』
銃撃を避け、仲間たちを送り出す。
同じように、エクレストンのもとへ向かう仲間たちを見送ったヴァレリーは、タヱ子を助けノイマン中尉の部下が乗るソウトたちを相手取った。
『連携なんてさせないのですよ』
ヴァレリーのタクティカルストライカーから放たれたミサイルが、複雑な軌道を描きながらソウトに迫る。
狙われたソウトは、機動性を活かしてジグザグに走行し、追いかけてくるミサイルを振り切ろうとした。
半追尾するミサイルだが、ソウトの切り返しについていけず、あらぬ方角に逸れていく。
ミサイルを避けたソウトが、ヴァレリーのタクティカルストライカーへ向けてランスを向けた。
銃声と共に、イカルスの弾丸が発射され、火線となって空を舞うヴァレリーのタクティカルストライカーへ伸びていく。
勢いよく加速し、ヴァレリーは己のタクティカルストライカーを射線から逃れさせた。
ノイマン中尉のエクレストンと、その部下のソウトたちとの連携を阻みたいヴァレリーだったが、中々これが難しい。
簡単に引き離されてはくれず、意図を逆に利用されて挟撃を受けそうになることもあった。
『横から失礼、とお!』
横合いから飛び込んできた幸人のタクティカルジャケットが、ヴァレリーのタクティカルストライカーを狙っていたソウトに襲いかかり、ハンマーを振るう。
ソウトは回避ではなく受けを選択し、しかし榴弾があるハンマー部分を受けるのは避け。自ら踏み込んで柄と柄を激しく打ち合わせてきた。
幸人のタクティカルジャケットが握るハンマーを、手元から弾き飛ばす気だ。
弾き飛ばしまではいかなくとも、鍔迫り合いに持ち込めば四足の分突進力があるソウトが有利。
相手の土俵での戦いを嫌った幸人は、タクティカルジャケットを巧みに操縦し、押してくる力をいなして逆らわず、逆に利用し突進の力を逃がしつつ自分は薙ぎ払いの予備動作に繋げ、ハンマーを一閃した。
手応えと共に爆発が起き、ソウトのショルダーシールドが片方破壊され、破片となって飛び散る。
* * *
キョウのタクティカルストライカーが、ノイマン中尉のエクレストン目掛けて突っ込んでいく。
『仕掛けるぞ。照準補正をしろ!』
『了解ドス。逃ガシマセンエ』
ガトリングでイカルス弾をばらまきながら、エクレストンの回避機動を読んでキョウのタクティカルストライカーからミサイルが切り離され発射される。
回避先にミサイルが進んでいくのに目敏く気がついたノイマン中尉は、急制動をかけてエクレストンをその場に踏み止まらせると、自由落下するかのように一気に高度を下げ、弾幕とミサイルの範囲外に逃れ、下からキョウのタクティカルストライカーを狙ってきた。
伸びてくる火線は、イカルスの輝きを帯びている。
エクレストンもしっかり新型の武装に更新してきているようで、攻撃力は申し分なさそうだ。
そう簡単には当たりたくない威力を有していそうである。
脅威と認識いたキョウは、反射的に機体を旋回させ射線を迂回するかのように一回転し、側面に回り込もうとする。
いや、違う。
キョウのタクティカルストライカーが回り込もうとしているのは、エクレストンの背後だ。
戦いの定石を踏み、有利な位置を取ろうとしている。
『──む? この動きは……』
特徴的なキョウのタクティカルストライカーの機動に何か既視感でも感じたか、エクレストンからノイマン中尉の呟きが漏れるが、キョウは無視した。
背後を取ることに成功し、ガトリングガンの銃口を向けた刹那。
引き金を引こうとする一瞬で、エクレストンの姿が眼前から消失する。
戸惑いは一瞬。
反射とも思える速度で、キョウが回避機動を取り、反転しながらガトリングを乱射する。
背後を取り返そうとしたノイマン中尉のエクレストンが、イカルスガンを発射していた。
二機は互いに背後を取るべく目まぐるしくく攻防を行い合い、空中で機動戦を繰り広げる。
イカルスの弾丸だけではなく、キョウのタクティカルストライカーからはミサイルが、エクレストンからはバズーカの砲弾が、何発も互いへ発射された。
やがてキョウは気付く。
エクレストンの動きに、まだ余裕があることに。
キョウは本気でノイマン中尉を仕留めに掛かっているのに対し、ノイマン中尉の攻撃にはあくまでパイロットの命までは奪うまいとする手心が感じられた。
戦闘不能に留めようという手心が。
一方で、ノイマン中尉に対し、特異者たちの中には明確な殺意を向けている者もいる。
正義などがいい例だ。
抑えようとしたソウトたちを蹴散らし、問答無用でコックピットを撃ち抜こうとする正義のタクティカルジャケットを見たノイマン中尉は、放置しておけば正義が部下の被害を増大させる相手だと認識したようだ。
『相手は俺がする。無理はするな。他の奴を狙え』
一糸乱れぬ動きでソウトたちは編隊機動を行い、正義のタクティカルジャケットから離れていった。
それでも銃撃だけは続けていて、イカルス弾が飛んでくる。
背後からの銃撃を見もせずに避け、正義は己のタクティカルジャケットを、ノイマン中尉のエクレストンの方へと進ませた。
『見つけたぞ……!』
アサルトライフルの銃声が鳴り響き、吐き出された大口径の弾丸がエクレストンを襲う。
それらを、ノイマン中尉のエクレストンは正確な回避機動で避けていく。
イカルスガンを向けて反撃の銃撃を撃ち込んでくるエクレストンに対し、正義はタクティカルジャケットを横っ飛びさせて回避した。
しばらく射撃戦が続くものの、無理をしてこないノイマン中尉はリスクのある手を取らず、また正義を戦闘不能に留めようとしているので、互いに有効打にならない状況が続く。
接近戦を狙ってくるかと思っていたが、どうやらノイマン中尉はエクレストンを射撃戦仕様にしてきたようで、先ほどから銃撃や砲撃は行ってくるも、近接戦を挑む様子はない。
むしろ、部下のソウトたちの方が、活発に特異者たちへランス突撃を仕掛けてくるくらいだ。
戦いながらもノイマン中尉は絶え間なく部下のソウトたちに指示を飛ばし、深入りを嗜めたり、特異者側の誘いを看破して窮地を救ったりする。
ノイマン中尉の存在が、ソウトにしぶとさを与え厄介な相手にしていた。
『作戦どおりいくぞ』
地上から、正義のタクティカルジャケットを援護し、恭也のタクティカルジャケットがノイマン中尉のエクレストンを狙う。
両肩の三連装機関砲が轟音と共に大量の弾幕を吐き出し、嵐のような猛射を空中に向けて叩きつける。
凄まじい量の弾幕を避けようとするエクレストンだったが、そこに横から放たれた正義の銃撃を浴び、十字砲火を叩き込まれた。
ショルダーシールドを犠牲に、最低限の損害で収めようとしたようだが留まらず、十字砲火から逃れたエクレストンの各所からは煙が上がっている。
しかしまだ継戦能力は残っている。
まだ数回当てなければならないだろうが、ノイマン中尉はもう十字砲火を警戒しており、ふたりの射線が交わる場所に留まってくれない。
片方が攻撃して留めようにも、さっさと逃げて安全を確保してから反撃してくる。
やはり、必要以上にリスクを取らない厄介な相手だった。
強引に仕掛けて肉を切らせて骨を断とうにも、そもそもその誘いに乗ってこないのだ。
『ならば、わたくしたちの本気を見せるまでですわ!』
正義から合図が来たことで、即座に焔子は決断した。
戦術データリンクが構築され、焔子のタクティカルジャケットを経由して情報が味方に共有され、外付けナビゲーションAIを介してリアルタイムでやり取りされる。
これにより緻密な連携を見せるようになった特異者たちの動きに、ノイマン中尉のエクレストンとソウトたちは少しずつ押され始めた。
ノイマン中尉も何とか反撃の糸口を掴もうとしているものの、それを妨害するかのように焔子のタクティカルジャケットから差し込まれるアサルトライフルの狙撃や、キョウが放つミサイル、そして正義と恭也の十字砲火が、それを許さない。
ソウトたちからの合流は、囮となって砲撃支援を行うタヱ子のスカイフォートレスや、それを守りつつ戦う幸人やヴァレリーに妨害され、さらにタイミングが遅れる。
『……潮時か。無理をするな、基地に籠城するぞ!』
ノイマン中尉の一声で、エクレストンと共にソウトたちが後退を始める。
逃がすものかと、特異者たちが後を追った。