・パーチェとの戦い2
特異者たちの間を駆け回りながら、パーチェのソウトは暴れ回った。
ずっと追いかけ続けるリズのタクティカルジャケットだったが、中々追い付くことができない。
当然だ。
元々砂漠での機動戦で優れた適性と性能を発揮するソウトだが、これはそこからさらにパーチェ用にカスタマイズされた指揮官仕様機。
その機動性はさらに高まり、そう簡単には手が付けられないものとなっている。
事態を打破するべく、
高橋 蕃茄のタクティカルジャケットが動いた。
『遠距離から仕留めるのは骨が折れそうか。……近接戦で仕留めるぞ。援護を頼む』
『りょうかーい』
『切り払われると分かっていても、何もしないよりはマシでしょう。弾幕を展開するわ』
パーチェのソウトへと突っ込んでいく蕃茄のタクティカルジャケットを支援するべく、
エイミー・マームのタクティカルストライカーと
鼠家 蒲桃が連携して仕掛ける。
蕃茄のタクティカルジャケットを追いかけたエイミーのタクティカルストライカーが、側面に回り込んでガトリングガンの弾幕をばらまくと、その反対側に移動した蒲桃のスカイフォートレスが、主砲と副砲で砲撃を行う。
スカイフォートレスの艦砲射撃は強烈だ。
主砲は単装砲、副砲も戦車砲を転用したものだが、使用されている弾丸はどちらもイカルス製の最新のもの。
威力については申し分ない。
ガトリングガンと艦砲射撃、大小二つの弾幕が、交差するように両側からパーチェのソウトを襲う。
しかし、やはりパーチェのソウトも反応速度が凄まじい。
イカルスソードを振るい、回避機動を取りながら両側からの弾幕を捌き切る。
切り払われたイカルスの燐光が、淡く輝いて消えていく。
『相手に不足はない。……全力でいかせてもらうぞ』
『ああ、もっと来い! 楽しいぜ!』
突撃する蕃茄のタクティカルジャケットが、ブレードを振るいパーチェのソウトに斬りかかる。
それを片方のイカルスソードで受け止めたパーチェのソウトが、もう片方のイカルスソードで反撃してきた。
片方の手で鍔迫り合いをしつつ、シールドで受け止める。
相手のイカルスの刃を、蕃茄のタクティカルジャケットも自分のブレードとシールドのイカルスコーティングをオンにすることで押し切ろうとする。
燃料切れを意識するならあまりコーティングを使用したくはないが、相手だけイカルス製の武装という条件ではさすがに対抗するのが厳しい。
『近接勝負といこうじゃないか! チップは互いの命だぜ!』
『悪いが付き合う気はない』
猛攻を仕掛けてくるパーチェのソウトに対し、蕃茄のタクティカルジャケットは防御主体で動き、凄まじい頻度で繰り出される二刀連撃を捌いていく。
二刀の手数は凄まじいが、蕃茄のタクティカルジャケットは近接戦に優れシールドがあり、機動性も悪くなく、防御と回避の性能バランスがいい。
パーチェの猛攻には、戦法を防御主体に切り替えることで、対応することができた。
そして蕃茄の奮戦を引き続きエイミーのタクティカルストライカーと蒲桃のスカイフォートレスが援護する。
蕃茄のタクティカルジャケットがとパーチェのソウトが離れて再度激突する一瞬の隙間を縫って、攻撃を差し込んでいく。
『邪魔するなよ!』
横槍が鬱陶しかったのか、跳躍して飛行したパーチェのソウトが、凄まじい勢いで蒲桃のスカイフォートレス目掛けて空中を駆けていく。
急いで追う蕃茄のタクティカルジャケットだったが、どう考えても間に合わない。
『そう易々と落とせるとは思わないで!』
自衛する蒲桃のスカイフォートレスが、肉薄するパーチェのソウトを叩き落とそうと、弾幕を拡散させた。
散弾のように扇状に広がった弾幕を切り払い、パーチェのソウトがイカルスソードを手に、蒲桃のスカイフォートレスに取りつこうとした瞬間。
その真下に、エイミーのタクティカルストライカーが高速で滑り込んできた。
『もらったぁ!』
真下から放たれた弾幕が、パーチェのソウトへと直撃した。
ようやくまともに一撃入れることに成功した特異者たちだったが、撃破には程遠い。
銃撃やミサイルの悉くを打ち落とし、それができない艦砲射撃を避け、一度離脱して仕切り直すと、なおもパーチェのソウトは再突撃してきた。
今度は亜莉沙のタクティカルジャケットその進路上に立ち塞がり、シールドを掲げて二刀連撃を受け止めようとする。
嵐の如く叩き込まれる怒濤の連続攻撃を、その場から一歩も動かずに、亜莉沙のタクティカルジャケットはシールドを犠牲に耐え凌いだ。
壊れかけのシールドで亜莉沙のタクティカルジャケットが、パーチェのソウトを殴りつけた。
砕け散るシールドの破片が飛び散り、パーチェのソウトがたたらを踏む。
亜莉沙のタクティカルジャケットとパーチェのソウトは、互いに次の攻撃の先手を取ろうと反応速度を競い合った。
結果は、直前でパーチェのソウトの体勢を崩していたこともあり、亜莉沙のタクティカルジャケットが上回る。
『今ナラ成功する確率ハ、限リナク百パーセントニ近いト推測。使用ヲ推奨』
『言われなくとも! 今よ!』
即座に判断を下した亜莉沙が、砂の中に隠していたウインチを巻き上げた。
浮き上がった鎖が、パーチェのソウトの足を一本絡め取る。
すぐに鎖を斬り飛ばしたパーチェのソウトだったが、確かに一瞬の隙ができた。
それを見逃す特異者たちではない。
リズは即座に切り札を切った。
『アヤメちゃん、補助を頼むさー!』
『承知。機体ノ追従性ヲ高メルデゴザル』
一回限りのブースターに火を入れたリズのタクティカルジャケットが、瞬間的に爆発的な火力を見せ、瞬く間にパーチェのソウトに追い付いた。
勢いに乗って跳躍すると、大きくハンマーを振り上げその背中へと振り下ろす。
榴弾が炸裂し、大きくパーチェのソウトが態勢を崩した。
好機を
壬生 杏樹のタクティカルジャケットは待ち続けてきた。
『ようやく来たね。これで決める』
パーチェの実力がどれほど高くとも。
指揮官仕様機のソウトがどれほど機動力に優れていようとも。
砂漠という極限状態の戦場が、どれほど相手に地の利を与えていようとも。
戦いというものは、それだけで決するものではない。
『チャンスは、逃さない』
静かに、さざ波ひとつ立たない、静謐な杏樹の心は、それでも確かな確信を伴って、身体にタクティカルジャケットが持つ対物ライフルのトリガーを引かせた。
轟音が響き渡り、銃口から瞬間的に光と共に弾丸が吐き出される。
強い反動を飼い慣らし、杏樹はタクティカルジャケットをまるで身体の延長線上のように扱った。
飛んでいった弾丸は、狙い違わず吸い込まれるようにパーチェのソウトに命中し、飛行中の機動力を担保する推進部を破損させた。
『ちぃっ!』
急激に下がった機動力に危機感を感じたか、パーチェはソウトを降下させ地上戦闘に切り替える。
これで空中にいる味方は狙われにくくなった。
第二射を試みるも、今度は避けられてしまった。
さすがにもう警戒されてしまっているようだ。
狙撃を咎めようと、パーチェのソウトが突っ込んでくる。
しかしパーチェが意識を杏樹のタクティカルジャケットに割いたことで、今度は
風花 ユキのスカイフォートレスが活き活きとし始めた。
『近付かせないわ!』
猛烈な勢いで主砲と副砲の砲撃が行われ、ユキのスカイフォートレスの前方に弾幕が形成される。
その弾幕の中を、パーチェのソウトは強引に切り払いながら突撃してくる。
地上では相変わらずの凄まじい速度を発揮するパーチェのソウトだったが、空中での機動はもうその限りではない。
特異者たちは次第に空中戦闘の頻度を高めていく。
『避けられるなら、それ以上の弾幕を叩き込んで、飽和攻撃するまでよ!』
かなりの速度で突進してくるパーチェのソウトだったが、推進部の不調はとは別の要因で、次第にその速度が落ちてくる。
弾幕を維持しているのはユキだけではないのだ。
遠距離攻撃手段を持つ多くの特異者たちが、この瞬間に、パーチェのソウトへ向けて大量の弾幕を叩きつけていた。
それを超人的な反射神経と、操縦技能、そして追従性能で弾いていくパーチェとソウトは、急激に速度を落としながらも、じりじりとユキのスカイフォートレスへ向けて近付いていった。
パーチェの眼前に、躍り出るスカイフォートレスがあった。
一夫のスカイフォートレスだ。
傍には、護衛として実麗のタクティカルストライカーを伴っている。
進路を塞がれたパーチェのソウトが、二刀連撃で一夫のスカイフォートレスに襲いかかる。
弾幕を展開して迎撃する一夫のスカイフォートレスを、実麗のタクティカルストライカーが援護した。
『なんだかんだ、最後は作戦どおりになったようですな』
『そうですね。……ですが、あまり無理はなさらないでくださいね? 心配してしまいますから』
実麗の事前調整によって引き上げられた防御力で、何とか一夫のスカイフォートレスが耐えているうちに、実麗はガトリングガンとミサイルを次々にパーチェのソウトへ向けて発射して弾幕を形成すると、一夫のスカイフォートレスの修理を行うべく、甲板へと降り立つ。
押し切られて一夫のスカイフォートレスが撃墜されないよう、危険を承知でダメージコントロールを行った。
他の得意者たちも次々に弾幕の勢いを強めていく。
密度を増す弾幕に押し留められ、ついに、パーチェのソウトの足が完全に止まる。
切り払い続けるパーチェだが、もう、一夫のスカイフォートレスには届かない。
かといってどこにも退路はない。
逃げ場など存在しなかった。
最後に、パーチェへ向けてリズから降伏勧告と交渉が行われた。
内容は、「共和国と統合国の戦争を望む者」について一緒に調べないかというもの。
そうすれば、攻撃を中止する。
リズはそう約束した。
パーチェは今にも爆発しそうなソウトの中で、歯を剥き出しにして笑った。
『興味がないね。あたしなりにこの終わり方には満足してるんだ。誘うなら、他の奴を選べ』
拒否された以上、撃破するしかない。
そして、ソウトが爆発し、
モニターに映っていたパーチェの姿は、炎に包まれ消えていった。