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カオスな挟み撃ち

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カオスな挟み撃ち
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■「正しくないものは存在してはいけない」

 
 “夜“をテーマにしたライブとほぼ同時進行で、フェスタの敷地内を奔走するアイドル達の姿があった。

 特設ステージから、華やかなライブの音が聞こえてくるが、敷地内はシンと静まり返っている。
 ステージ側の上空には大きなカオティックホールが見えるが、こちらフェスタ側にも1つ、大きなカオティックホールが口をあけている。
 
「……なんだこれは」
 校庭の端にドドンとそびえ立つオブジェを見て、琴切 祥太郎(ことぎり・しょうたろう)が丹精な顔を歪めた。
「ロボット……でしょうね」
「あっ! ここに、『めちゃかっこよロボ。ゼロから始まる伝説……』って刻まれてます」
 祥太郎の周囲をかためているのは、数名のサポメン(サポートメンバー)。
 全員同じ黒服を纏い、黒い目隠しで顔を隠しており個性がないが、頬に記されたシリアルナンバーだけは異なっている。
「目障りだ。破壊しろ」
「了解」
 サポメン達が一斉にオブジェに銃を向けた。

「見て! あそこ、オルタードさんの作品じゃ!?」
「確かに……!」
 ちょうどこの現場を目の当たりにしていたのは、師走 ふわりフロート・シャールの2人だ。
「護らなくては!」
 フロートはジーンアクセル:翼Ⅰで飛翔。オルタードのオブジェに、上空から急接近する。
 ふわりは、オブジェの周辺をステージヴェールで囲んだ。これは物理的な防御壁としては弱いものの、祥太郎達の隙をつくには大いに有効だった。
「???」
 異変を感じたサポメン達が周囲を見回している間に、フロートは彼らの前に降り立ち、銀嵐武舞で襲いかかる――が、その場からは大きく移動しない。彼らとの戦闘ではなく、オルタードの作品を守ることを最大の目標としているからだ。
「オルタードさんの大切なオブジェ」
「護ります……!」
 ふわりは上空に、ナイチンゲールの優しい嘘の小鳥を羽ばたかせ、戦いながらの回復をひとまず確保。
 さらにチルムーンを浮かべたが、祥太郎の銃が一発でこれを打ち抜き、消失させてしまう。
「このガラクタを、守るだと?」
「ええ! 護るわ!」
 フロートは銀嵐武舞の連続攻撃を繰り出し、祥太郎から、破壊の機会を奪い取る。
 とはいえサポメン部隊は手がすいており、こぞってオブジェを破壊にかかるのは目に見えている。
 ふわりは、これを阻止するべくビーチサイドグルーヴを放った。
 銃弾も弾き飛ばすほどの屈強さを持ったサポメン部隊だが、ビーチサイドグルーヴの激しい水流には抗えず、破壊を遂行できない。
「正しくないものは存在してはいけないのだ」
 祥太郎は淡々と語りながら、フロートの超高速の連続攻撃を的確に銃で潰していく。
 そこへ――
「ちょっと! あたしの作品を壊したりしたら、ぶっころだよ!」
 邑垣 舞花空花 凛菜のコンセクエンス号に同乗したオルタードが、駆けつけた。
「ありがとう、舞花、凛菜!」
「間に合って良かったです」
「ふわりとフロートも、あたしの力作を守ってくれてありがとう」
「ひどいガラクタだな」
 戦いの手を止め、しかしいっさいの隙を見せぬまま、祥太郎が冷たい目でオルタードを一瞥した。
「ガラクタ!? ま、まあガラクタに見えちゃうのはしょうがない。芸術には正解なんてないからね。でも、気に入らないからって作品を壊すのはガチのアタオカだから!」
「こんな並び方では、迅速な出撃ができないじゃないか。ロボットならば整列させるべきだ。これは正しくない。正しくないものは存在してはいけない。だから破壊する」
「はぁ? あのね、この子達は、試作品0号機から最新4.6号機までのめちゃかっこよロボなの! それぞれ特性が違うから、一番かっこよく見えるように、こうやって立たせてるの!」
 オルタードの主張など聞いていない祥太郎が、銃口をオブジェに向けた。
 フロートは(ふわりの無事を目視してから)思い切り飛翔し、オブジェの前でホライゾンシールドを構える。
 さらに、
「凛菜さん、私達も……!」
「はい! 舞花お姉様!」
 凛菜はコンセクエンス号から飛び降り、フロートと並び立った。
「私達も、同じ気持ちです」
「凛菜さん……」
 フロートと凛菜は視線を交わして、うなずき合った。
 そして凛菜が、一歩前に出て祥太郎をまっすぐ見つめた。
「次は私がお相手します……!」

「私とふわりさんは、手下達の相手をするわ」
 フロートはジーンアクセル:翼Ⅰの飛翔でふわりと合流。
「無事終わったら、いつものあれで打ち上げしましょう、ふわりさん」
「いちごショート味の、あれですね」
 微笑みを交わした2人はすぐに表情を引き締め、サポメン部隊に向き合った。

「あたしは絶対、ここから動かない!」
 オルタードは『めちゃかっこよロボ。ゼロから始まる伝説……』の前に立ちふさがった。
 
 こうして5人は、それぞれのすべきことを実行した。
 
 舞花は像の前に停車したコンセクエンス号から、サウンドフォートレスで『ワールド☆ミッションNext!』を奏でた。
 これは舞花が凛菜に向けた激励の演奏なので、能力が上昇するようなこともなければ、祥太郎を攻撃力になることもない。とはいえこれを聞くことによって凛菜の気持ちは高ぶり、戦いへの意欲が上がるのは当然の結果だ。
(今日もありがとうございます、舞花お姉様……!)
 ノーブルアティチュードの気品に満ちた所作で、凛菜は極光剣アウローラを構える。
 フレンドのヘルメスの猫が現れ、凛菜の頭の上にピョンと飛び乗った。
「よろしくお願いしますね、ヘルメスの猫さん」
「みゃーお♪」
「その音色で僕を殺すつもりか? だが、貴様達の危険な音楽に屈するつもりはない」
 祥太郎はまったく躊躇せず、凛菜に向けて発砲した。
「にゃおっ! にゃお! にゃおーっ!」
 ヘルメスの猫は『浮かべし星と共に』の力で、光で形成された剣(よく見ると凛菜のアウローラと同じフォルムをしている)を握るとこれを振りかざし、見事、祥太郎の攻撃を弾き返していった。
(あなたは誤解してらっしゃいます、祥太郎さん……!)
 言葉ではそう簡単には信じてもらえないことは承知だったので、凛菜は特に説得はしない。
(私達フェスタ生は、世界を守る為に尽力してきました、
 そのたびに胸に生まれてきた大切な気持ち、願い、希望、憧憬、熱情……
 伝えられるでしょうか、私達フェスタの心意気)
 そのかわり、あふれる思いをこめて、輝くシャイニングジェムを放った。
「ふむ」
 一瞬その輝きに目を見張った祥太郎だが、冷酷に、シャイニングジェムの結晶を打ち砕いた。
 さらに祥太郎は、上空を飛び回っているナイチンゲールの優しい嘘の小鳥を次々に狙い撃ち、ことごとく消失させた。
「これ以上とどまるのは時間の無駄だ。どうせ全てを破壊するのだ。ひとまず放っておいてもいいだろう」
 サポメン達を呼び寄せ、祥太郎は颯爽と歩き出した。
 
 無事だったオブジェを撫でながら、オルタードは表情険しく祥太郎達を見送る。
「あいつら……校舎に向かうつもりなのね」
「大丈夫です。あちら側にも、待機中の皆さんがいらっしゃいます」
「では、私達は万が一に備え、ひとまずこの周囲を守りましょうか」
 4人が持ち場を提案し合っていると、
「あーっ! あいつ、あんなとこに!」
 オルタードが大声をあげた。
 校舎のそばに、“銀獅子”シロの姿を見たのだ。
「あたしを置いてフラフラいなくなったと思ったら……ちゃっかりあんなところに!」
「オルタードさん、どうかシロさんのもとへ行ってください」
「この辺りの建物も作品も、死守します……!」
「少しのあいだですが、これが役に立つかも知れないわ?」
 フロートが、オルタードの行く先に、祥太郎側から見えにくくなるようにステージヴェールを下ろした。
「お気を付けて、オルタードさん」
 こうして。
 ふわりとフロート、舞花と凛菜は、オルタードを見送った。
 
 その頃――
 オルタードの少し前を進んでいた祥太郎達が、ふと、足を止めた。
 校庭のど真ん中。
 ピュアシャリゲーターに騎乗した松永 焔子が、一行を待ち構えていたのだ。
「来ましたわね、琴切祥太郎!」
 サメとワニの雰囲気をふんだんにアピールした超ワイルドな水着姿の焔子が、うさ可愛いらびクロフォンで声高らかに告げた。
 これに気づいたオルタードが、瞳を輝かせる。
「焔子!」
「お会いできて光栄ですわ、オルタード様!」
 焔子はオルタードのそばまでピュアシャリゲーターで接近し、祥太郎と向き合った。
「……貴様、何者だ。その恐ろしい装備で何をしようと企んでいる!」
 激昂する祥太郎にアイドルの微笑みを向けると、焔子はラパン・ジュモーのうさ耳尻尾を装着し、キュートなジャンプ。
「何だかんだと問われても、“まずは笑顔”が真のアイドル。今日の私は……えぇと、ブ、ブレーメンのサメ楽隊ですわ!」
「? どこに楽隊要素があるんだ」
「要素盛りすぎだな」
「“サメ可愛い”は、今年のトレンドですわよ!」
 サポメン達のヤジも気にせず、焔子はらびクロフォンを高く掲げた。すると、
 ピョンピョンピョン♡
 可愛いうさちゃん達がわらわらと出現し、祥太郎達めがけて走り出した。
「かっ、可愛いの洪水だと!? しかし、殺らねば!」
「だめだ、可愛すぎて銃が向けられない」
「何を戸惑っている0003、排除するんだ」
 祥太郎が冷酷に告げ、積極的に発砲した。
(琴切祥太郎、これまでにない敵のように感じますわ。それにしても、エンタメ性を徹底的に排除したアイドルは果たしてアイドルと言えるのでしょうか)
「――あなた、本当にアイドルなんですの?」
 率直な思いをつぶやきながら、焔子は周囲をナーバス・シェードの暗闇で包み込んだ。
「オルタード様、私達にはちゃんと見えていますが、奴らの視界は奪いました!」
「わっ、真っ暗だ!」
「いたたっ、うさちゃん達に蹴られた気がする!」
「バカか0003! あのうさちゃんはただの幻だぞ!?」
 屈強なサポメン達だが、いきなりの暗闇に混乱している。
「いでよ、ラブ&シャーク!」
 オルタードは、ラブリーでチャーミーなサメロボットを創り出した。
「オルタード様! ダブル攻撃ですわ!」
「「Wサメストリームアターック!」」
 オルタードのラブ&シャークは、うさちゃんに負けないキュートなヒレ攻撃をサポメン達にぶちかました。
 そして焔子は、破壊欲望を指示する指を祥太郎の銃に向けた。銃を内部から破壊する計算だ。しかし、焔子はさした指をビクンとさせた。今、明らかに祥太郎と目があったのだ。
「見えている……!?」
「カオティックホールの力を、舐めているのか? 見えているに決まってるだろう」
 祥太郎はひらりと身をかわし破壊欲望を回避。さらに、
「フェスタの片棒を担ぐ、愚か者どもめ」
 凍てつくほどの美しさと冷酷さを孕んだ視線で、ピュアシャリゲーターとラブ&シャークを流し目した。
「「!!!!」」
 まさに瞬殺。両者は一瞬で失神した。
 それから祥太郎は空に向けて銃を乱射し、ナーバス・シェードの闇を破壊。続いて焔子とオルタードの周囲に銃を撃ち込み、2人を燃え盛る炎の壁で囲んだ。
「お前達と遊んでいる暇はない」
 祥太郎はサポメン舞台を引き連れ、歩き出した。
「想定以上にフェスタのアイドルは危険だ。急がなくては」
 炎の壁の内側。その声を聞いた焔子は、タフネスリングの力を全開してオルタードを抱き上げた。
「なっなに? 焔子!!」
「オルタード様、先へお進み下さいませ!」
 持てるすべての力を使い、焔子は炎の向こうにオルタードを放り投げた。
「ありがとう焔子! また後でね……!」
「はい。また後で」
 遠ざかるオルタードの足音を聞きながら、焔子は呟いた。
「私達のサメを失神させたあのキレッキレの視線。琴切祥太郎……彼は間違いなく、一流のアイドルですわ……」
 その瞳は、めらめらと燃えている。
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