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カオスな挟み撃ち

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カオスな挟み撃ち
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■「こんなの……初めて♡」


(“夜”について、雛乃さんご本人には、どんなイメージがあるのでしょう……)
 天才肌の神童、雛乃が“夜”をライブテーマに指定してきたことに、藍屋 あみかは特別な想いを抱いていた。
 あみかはデビュー以来ずっと、ひたむきに“夜”をテーマにアイドル活動をやってきた。これから仲間と歌う『あなたの夜へ』も夜をテーマにした楽曲で、フェスタに入学したての頃、あみかが一番最初に作ったものだ。
「おねえちゃん……」
 あみかをずっとそばで見てきた藍屋 むくは、
「あのね? “夜”は、おねえちゃんのいちばんのアイドルテーマなの。むくなりに、おきゃくさんに歌でつたえたいな」
 気合の入った瞳で、隣りに佇むミイレンを見上げる。
「むく様。わたくしも、精一杯お手伝いさせていただきます」
「よーし! むく、がんばるね!」
 みくはあみかとミイレンの手を引き、メンバーの狩屋 恋歌甘味 愛歌を振り返る。
「恋歌お姉さん、愛歌お姉さん、いこう?」

 こうしてステージにあがった『睡奏楽団』の4人は、それぞれの個性と想いを表現した制服風衣装(カオティック・フェスタ)をまとっており、すぐに観客がこれを目にとめた。

 ルーメン・ルーナエを奏でるあみかの衣装は、『ノクターナル・フェスタ』。“夜”にこだわってきたあみからしい、藍色や銀色、夜や星のモチーフだ。
「きゅ♪ きゅ♪ きゅ♪」
 あみかの周囲では幼生神獣のファーブラが飛び回り、楽しげに音色に共鳴している。
「♪星の光り 輝き始めれば 街の明かり 灯るでしょう
 ♪藍の時間 薄い影法師 一人じゃないと つつめたなら
 ♪空の光り 人の光り あなたの夜を 始めましょう」
 歌うむくの衣装は、むくらしさが活かされたデザインの『メディエート・フェスタ』。メディエート(調停)の名を持つ衣装には、次々に現れるカオティックアイドル達と、可能な限り穏便な解決(調停)を……そんなの願いが託されている。
 さらに、今日のむくはここにラパン・ジュモーのうさ耳尻尾をつけて、可愛いうさちゃん姿になっている。
「お似合いです、むく様」
「えへへ。ありがとう」
 ミイレンの言葉に、みくは満面の笑みを浮かべる。その自然でハッピーなスマイルは“むくらしさ”に満ちており、
「幸せそう!」
「かわいいね、うさちゃん!」
 好意的な声がむくに送られる。笑顔でこれに応えると、
「みんなをすてきな夜に、ごしょうたーい」
 むくはナーバス・シェードを展開。周囲は暗闇に包まれる。
「♪~」
 むくと共に歌うミイレンは、『宵の明星』の歌唱法で歌を響かせた。
 愛のこもったその歌の力は、光をうみ暗闇を照らし、さらに人々に心地よい安心感を与える。
 場内には不思議な一体感に包まれ、客席には、穏やかで自然な笑顔が溢れていく。
 
「見て、お姉ちゃん。みんな楽しんでくれてる……」
 らびクロフォンでバックコーラスを歌っていた恋歌が、客席を見て嬉しそうに微笑んだ。
 恋歌の衣装は『あなたの夜の桃星』。夜を思わせる色合いで、ところどころに飾りリボンや裾フリル、ピンク色の星モチーフが装飾されている。
「♪~」
 恋歌の周囲には、らびクロフォンから出てきたうさちゃん達がかわいくぴょんぴょん踊っている。
 このうさちゃん達に、淡いピンクのもふもふうさぎの星獣、コットンも紛れている。
「こっちにもうさちゃん達が……!」
「か、可愛い……!」
 観客から声があがる。
 恋歌は客席に微笑みを返し、色とりどりの光の粒(ディスパークル)を放った。

「ふふふ。そうでしょうとも」
 客席の反応に満足そうな笑みを浮かべた愛歌が纏うのは、『あなたの夜の紅星』。恋歌と同じく夜を思わせる色合いだが、ところどころに飾りリボンや裾レース、赤色の星モチーフが装飾されており、恋歌と比べると大人っぽい印象だ。
(雛乃ちゃんは、確かにとっても可愛いけど、れんちゃんだって、あみかちゃんもむくちゃんもミイレンちゃんだって、可愛いんだから!)
 芸器を奏でていた愛歌は、思いをこめて舞台鳴動。ステージには、星の輝きをイメージしたカラフルな装飾が施された。
「まだまだ、いっちゃうよ~」
 さらに愛歌は、サザンクロスの導きを展開。客席とステージを十字状の光の道で橋渡しした。
 
 いつしか周囲の景色は、ナーバス・シェードの暗闇から、あみかが展開した穏やかな夜の海――ミッドナイトマリンへと移り変わっている。
「♪人の光り 輝き始めれば 夜の舞台 灯るでしょう
 ♪光り巡り 踊る影法師 心ひとつ 集えたなら」
 ♪人の光り 空の光り――」
 あみか、ファーブラ、むく、ミイレン、恋歌、コットン、愛歌。全員で歌い奏でながら、光の道を歩き、観客の間近へと進む。
 ファーブラはキラキラフィードで光っており、コットンは星の煌めきのようなスズの音色を響かせている。
「恋歌お姉ちゃん、愛歌お姉ちゃん、すてきなドレス!」
「むくちゃんとあみかちゃんのドレスも、すっごく可愛いよ。ね、れんちゃん」
 光の道の上で微笑みをかわす『睡奏楽団』。
 彼女達の心からの笑顔を見た観客は、誰もが自然と笑顔になっている。
「いよいよ、クライマックス!」
 むくのオープンクライマックスで『メディエート・フェスタ』は、星空の藍色スカート、銀の星やリボン飾りを施したドレス風に早変わり。
 客席から拍手が起こる。
「皆さん、ご一緒に……!」
「♪~」
 らびフォンのうさぎ達やコットンと共に、恋歌は会場のバイブス(吠舞子)を高め――

「♪あなたの夜を 始めましょう」

 最後のリフレインは、客席を巻き込んだ場内の全員で歌い上げることとなった。

「ふうん……?」
(もしかして、手放しで楽しんでる場合じゃないかも?)
 これまでにない神妙な顔で、雛乃はステージを見つめている。その時、
「……あっ……」
 ステージからはけようとしたあみかと、雛乃の視線が偶然ぶつかった。
「なかなか良かったじゃん♡」
 素直に笑う雛乃に、あみかが駆け寄った。
「雛乃さん。なぜ、“夜”をテーマに指定されたんでしょうか」
「んー? 秋といえば夜が似合うし、なにより明るい時間の野外でやるにはちょっと難しいテーマでしょ? あなた達フェスタの実力を知るにもちょうど良いかなーって」
 それに――と付け加え、雛乃がくすっと笑う。
「こんな子供に、ミステリアスで大人っぽい演技を見せられたらびっくりするでしょ?」
 すべては、計算され尽くしたチョイスだったのだ。
「軽い気持ちだったけど、“夜“を選んで良かったって思ってる。おかげで、本気がみなぎってきた……」
 武者震いのようにぶるっと震えて、雛乃はにぱっと笑った。
「こんなの……初めて♡」
 
 
(このカオティックホールの大きさが、そのままカオスアイドルのポテンシャルってワケか)
 黒瀬 心美は暮れ進む空にぽっかり開いたカオティックホールと、小さな雛乃を見比べた。
「ちっこいナリして、可能性は特盛レベル……いいねぇ、燃えて来た!」
 瞳を輝かせながら心美はステージに躍り出て、ビシッと雛乃を指さした。
「可能性の力なら、アタシらだって持ってるよ。いや、アイドルなら誰だって持っている。何故なら、常に新しい楽しみをライブの中に見出していくのがアイドルだからさ!」
 そして心美は妹の黒瀬 心愛と並び立ち、いつもの決めゼリフを口にした。

「身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい? さぁみんな……、ついておいで!」

 2人が演奏する楽曲は、『カオスダイバー!』
 心愛はルーメン・ルーナエを響かせ、心美が歌う。
「♪アタシの中に宿る 確かな記憶
 ♪駆け抜けた世界 出会った仲間」
 出だしの抑えめな曲調にのって、周囲は心美が展開したナーバス・シェードの暗闇に包まれる。
 この暗闇は柔らかい印象なので、観客はゆったりとした雰囲気で演奏に耳を傾けていたが……
「アタシ達は、『レッド・フレイム』! うちのライブは激しいのがウリだからね。夜だからって眠ってるヒマなんて無いよ!」
 心美がワイルドアクトで、パンチのきいたダンスを踊れば、
 ゴォォォッ
 柔らかな暗闇のなか、ステージには帯状の真っ赤な炎(=Red Flame)が出現する。心愛が放ったフレイムバウンダリーだ。
「おおーっ!」
「やっぱりライブはこうでなくっちゃ」
「いいねー!」
 観客からは期待のこもった声が上がった。
 この勢いにのって心美と心愛の『カオスダイバー!』も一気に加速。激しいビートを刻んでいく。
「♪響かせろ灼炎の歌 混沌の先へ!
 ♪今よりも 強く 強く 未来へ届け!
 ♪加速する「想い」が 夢を描いていく
 ♪闇を駆け抜け 明日をつかめ! 紅のカオスダイバー!」
 ストームストリームの荒々しい演出が、サビの激しさを煽り客席を盛り上げる。
 フレイムバウンダリーの炎も変わらず赤く熱くステージを照らし、心美はオープンクライマックス。衣装をきらびやかに変化させ、客席が湧いた。
 そしてここ一番のクライマックス。
 心美は心愛を巻き込んでブレイジングチェンジ。2人は炎の渦に包まれる。
「暗い夜の中だと、真っ赤な炎(=Red Flame)がより濃く鮮やかに見えるだろう?」
 心美の言う通りだ。暗闇のなか燃え上がる炎は、夕暮れどきのステージで見るよりも遥かに濃く、赤く、鮮やかだろう。

「夜のライブなんてお手の物だって言いたいわけね♡」
 雛乃は不敵な笑みを浮かべ心美を見ている。

 ブレイジングチェンジの炎に包まれた2人は、それぞれのイメージカラーをふんだんに取り入れた色違いのきらびやかな衣装に変身した。
「おおっ……心愛らしさとアタシらしさのいいとこどり! アタシにはちょっとかわいすぎるかい? これも、ライブならではの新しい発見だね」
「逆に、私にはちょっと過激すぎますが……アイドルとしての新しい引き出しが、開いた気がします」
 見つめ合い微笑みを交わす2人。
 これまでにない雰囲気の衣装を纏った2人の笑顔は、爽やかで自然で、心から楽しそう。
 観客もつられて自然と笑顔になり、心愛がブルーミングネイブ。
 ナーバス・シェードの闇は消失し、暮れ始めの空の下、明るくカラフルな花びらが舞い散り『カオスダイバー!』は終演となった。
 
「2人ともその衣装似合ってるよ!」
「これが『レッド・フレイム』か。まさに真っ赤な炎だったな」
「その名前、覚えたよ!」
 客席からは、拍手が巻き起こった。
 
「あーあ。みんなフェスタに心奪われてるじゃん」
 客席を見回しながら、雛乃は瞳を輝かせている。
「これってもしかして、もはやあたしよりウケてる……!?」


「見てくださいマスター、デカいカオティックホールですね~」
 『ヒロイックゲーマー』の村雲 クロティアナレッジ・ディアは、出番待ちのスペースで、暮れゆく空に開いたカオティックホールを見上げている。
「“可能性が巨大すぎるカオティックアイドル”ですっけ? 大ききゃいいってもんじゃあないのよ」
「確かに。一般生徒のマスターは、小さい出力ながらアイデアと技術で格上の敵を次々と倒してきましたもんね。今回だって、やってみせますよ! ですよね、マスター!」
「一般生徒として教えたいことは、確かにあるわ? とにかく……ゲーム、スタートよ!」
 そして2人は、ステージに躍り出た。

「二次元にいるもう一人の私……プライ! 力を貸して! ゲーム機起動!」
 クロティアが、芸器の携帯ゲーム機を高く掲げた。
 ♪~
 ゲーム機からテクノ系のバトルBGMが響き出すと、ナレッジがフレイムバウンダリーの炎をステージに出現させた。
「始まった!」
「次はどんなアイドルの、どんなライブなの?」
 客席の期待感を煽りつつ、2人は宣言する。

「私達は、ヒロイックゲーマー!」
「「『コンバートゲーマー』、スタート!」」

 それぞれの足元には水色の雷のエフェクトが出現。2人はこれをほとばしらせながらステップを踏み、踊る。
 携帯ゲーム機からは、ホログラムのキャラクタープライが登場し、2人の踊りに加わった。
 するとステージに、『Touch!』の文字が現れる。
「任せて!」
 クロティアが手を伸ばしこれをタッチ。成功を知らせるエフェクトが展開し、携帯ゲーム機からの演奏がひときわ美しく響き観客を魅了した。この一連の流れこそが『コンバートゲーマー』なのだ。

 クロティアとナレッジは協力しあい、複数回出現する『Touch!』を都度クリアしながらコンバートゲーマーを進めていく。
 もちろん、ライブそのもの――踊りや演出も同時に繰り広げる。
 クロティアはライトリリースの光の粒でマイクスタンドを彩り、夜の星っぽさを演出。さらにダンスにワイルドアクトのインパクトを取り入れ、ホログラムのプライと共に踊る。
 ナレッジはフラワーバウンダリーで、夜を思わせる深い色合いの花々をステージに飾り、雰囲気を盛り上げる。
 やがて――
『Touch!』
「さあ、これで最後よ!」
 クロティアが最後の『Touch!』をクリアすると、オールクリアを示すエフェクトと共に光の球(ハルモニア)が上空で炸裂。
 輝く光の粒が、いくつもの流れ星のようにステージに降り注ぎ、客席が大いに盛り上がった。
 降り注ぐ光の粒の下。クロティアは、ホログラムのプライと合体するように重なり立つと、密かに携帯ゲーム機のホログラムのプライをオフにした。
 そしてオープンクライマックス。水色の装飾など、プライを象徴する要素を自身の衣装に付け加えた。
 一見すると、プライとクロティアが合体したように見せる演出だ。
「まさか……!?」
「ホログラムと合体した!?」
 これを盛り上げるかのように、ナレッジがブルーミングネイブで色とりどりの花びらを散らし、クライマックス感を叩き出す。
 そしてクロティアは、観客を見回して威勢よく叫んだ。
「目的も方向性の無い巨大な可能性は一歩間違えたら自分自身を迷走させる猛毒よ。可能性は“ある”だけじゃ意味がないわ。その先の『選択』をしなくちゃ、何者にもなれないままなんじゃない?」
 ここでクロティアが、口調をかえた。
「ちょっとクロティア、僕にも喋らせてよ! 僕はプライ! 面白そうだから、携帯ゲーム機から出てきちゃった」
 その口調や雰囲気はクロティアとは別物だった。オープンクライマックスの衣装変更だけでなく、ワイルドアクトを駆使しているからだと思われる。(とはいえ、お芝居でなく本当にクロティアのマインドがプライという存在に引っ張られている可能性は大いにある。ちなみに後にこの時のことをナレッジが尋ねると、クロティアは「うーん、夢中だったからあんまりよく覚えてないわ」と答えたという)
 
「僕は……クロティアはゲーマーになった。貴方達はどうなの? 何者になるか、選べる? 選ぶべき選択肢を持ってる? 雛乃はどう?」
 プライになり切ったクロティアに続き、ナレッジも声をあげた。
「ナレッジ達には、雛乃さんのような可能性は殆どないかもしれません、だけどそれは、ナレッジ達がこの道を選択したからです! だから、後悔はしていません。この道を進むことを決めた自分を、むしろ褒めてあげます」

「そんなのは……ざこ犬の遠吠えだもんねーっ。選択ってそんなに大事? あたしは、なんにだってなれるからいいんだもん」
 雛乃がツーンとそっぽを向いた。
 
「え、なに、いまの……」
「あんな雛乃ちゃん初めて見た」
「か、可愛い……」
 客席の雛乃ファンは、嬉しそうにざわついている。
 
「ふふん、どっちが遠吠えだか」
 ニヤッと笑ったクロティア(プライ)は、ナレッジを引き連れ、颯爽とステージをあとにした。
「ふーんだ!」
 雛乃は、ほっぺを膨らませた。
 
「フェスタのおかげで、見たこともない雛乃ちゃんを知ることができたなぁ」
「フェスタもなかなかいい仕事しますね~」
 相変わらず雛乃ファーストだが、客席はすっかりフェスタに好意的だ。


 龍造寺 八玖斗はそんな客席を、ステージもろともナーバス・シェードの暗闇で包みこんだ。
「おっ、始まった」
「次はどんなライブだ?」
「ん? あれは……?」
 人々は、暗闇のなかで目をこらす。

 暗闇の中心で、煌めく何かが飛んでいる。
 八玖斗とお揃いのシミラーグリッターの効果で、光の粒を纏った犬の姿の星獣モコナだ。
 女形衣装(弁天装束)を纏った八玖斗は、モコナのトランペットの音色のもと、月の光を湛えた剣(とこしえの月桂)を手に舞っている。
「トランペットで、女形の剣舞?」
 客席は、八玖斗とモコナの和洋折衷な出し物に興味を示している。
 ひととおり舞い終えると八玖斗は女形の所作から男性の立ち居振る舞いに戻り、
「見たな」
 ステージの上から観客を見回し、不敵に笑った。
 その瞬間、女形姿だった弁天装束は、盗賊風(白波物)の衣装にモードチェンジ。
「知らざぁ言って聞かせましょう!」
 変身を遂げた八玖斗がセリフを述べ始めると、周囲に光る風が巻き起こった。
「えっ!?」
「今のは?」
 観客が瞬きするあいだに、八玖斗の隣りには白陽秋太郎が立っている。
 疾風の一閃による速駆けだ。
「我等、今宵皆様の心を奪う、怪盗団!」
 掛け声に合わせ、八玖斗とモコナと秋太郎の3人が決めポーズ。
 そして八玖斗は、節をつけ、歌うように言葉を綴る。
「闇が濃くなるほど光は強く、日が高くなるほど影は伸びてく、
 朝と夜で街も人も心も全て変わっていく」
 これに合わせて秋太郎はノスタルジックバックを発動。徐々に子どもの姿に戻りながら、舞い踊る。
「変幻自在のままならない世の中、楽しい事、嬉しい事、
 本気で望むなら、君達が手を真っすぐに伸ばすなら、
 その気持ちに応えてオレ達も全力で魅せるぜ、
 目的はたった一つ……それは君達の笑顔!」
 子どもの姿になった秋太郎と並び、八玖斗はブレイジングチェンジ。2人は、お揃いにして色違いの盗賊姿(白波形態の弁天装束)になった。
「”月が綺麗ですね”なんて古い告白、そんなんじゃ足りない!
 オレ達は綺麗な月も奪って君にあげるさ」
 八玖斗が月に跳ぶ兎を発動。
 ステージに月を浮かべると、秋太郎と2人、まるでその月を自分達で盗んで来たかのような身振りを繰り広げ、演目は終演。
「これもまた、今までと全然雰囲気が違うライブだったね」
「いったいどれだけの引き出しがあるんだか……」
 感心する場内から、拍手が起こる。
 
 演出の闇が消失していくなか、八玖斗は雛乃をまっすぐ見た。
「最後にお嬢ちゃんに一つ聞きたい、オレはさっきのまんま、客が楽しけりゃ人も巻き込んで何でもやる、それがしたい事だから。
 確かにお前は凄いけどよ、可能性の先にやりたい事は無いのかよ? 目的の為に何でもやるのと、何でも出来るからただやってるは違うぜ」
 
 先ほど同様一瞬言葉を失った雛乃は、
「うるさいわね、あなたもそんなこと言うわけ? 誰だって、自分の限界を試したいものでしょ? あたしはそれを、やり尽くしてるだけ」
 強い口調でそう言い放った。
「ふうん……結局、はっきりした答えはないってことか」
 八玖斗の言葉に、雛乃は何も言い返せない――
「さ、行こうか秋太郎。怪盗ごっこに付き合わせて悪かったな」
「余談を許さない状況だからな。必要なら、女形でもなんでも演じてやるぜ」
 秋太郎はまだノスタルジックバックのままなので、いつもよりちょっと子どもっぽい。
「ありがとう、秋太郎。楽屋でジュースでも買ってやるよ」
「♪~」
「モコナもサンキューな」

「むぅぅ」
 和気あいあいと退場する八玖斗に、ちょっと悔しそうな視線を送る雛乃が、ふと、空を見上げて息を呑んだ。
「ホールが、小さくなってる……!」
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