序幕・〈決着(1)〉
配下に残った
“魔天七十二殺王”を従え、
魔天神は目を眇めた。
『来たか……』
魔天神の呟きを合図に、“魔天七十二殺王”たちは主の視線の先に現れた幾人もの人影に突撃を開始する。
しかし、前方に突撃した筈の“魔天七十二殺王”の一人が凄まじい威力で魔天神の横を掠め彼方後方に吹き飛んだ――正確には銃撃によって吹き飛ばされたのだが。
『こちらは引き受けた。其方らは魔天神を止めろ。今度こそ、皆で太陽神アマテルを助け出すのだ』
鍛冶神タケミカヅチが、銃口から神氣の残滓を燻らながら御魂闘士たちに告げる。魔天七十二殺王の一人を撃ち抜いたのは、彼女の銃弾だった。
『鍛冶神タケミカヅチに……剣と政の神ニニギか』
魔天神は表情を変えることなく常陸八柱神の二柱を見やる。そして、
剣と政の神ニニギと目が合うと、
『よくも騙してくれたな、などという陳腐な台詞を吐くつもりはない。だが、其方はこの私を謀ろうとしたのだ。故に其方はここで滅せられ、二度と常陸の地を踏むことは叶わぬぞ。そもそも、其方は武神スサノオに敗北した挙げ句、あのような脳筋の神に尻尾を振る程度の神だ。私が直接手を下さずとも、残る魔天七十二殺王の手に掛かればどのみちここで果てる』
と嘲った。
『狗涅国の神は、余程配下を切り刻まれ丸裸にされたいようだな』
剣と政の神ニニギがそう言った直後、別の魔天七十二殺王の体に雷を帯びた幾筋もの斬撃が刻まれ、文字通りその体は切り刻まれる。
『覚えておくがいい。あれを『脳筋』と呼んでいいのは、この私、剣と政の神ニニギただ一柱のみ』
剣と政の神ニニギは再び剣を構えると、御魂闘士たちに声を上げた。
『御魂闘士よ、そして覚醒した荒神たちよ。お前たちの真価を奴に見せつけてやれ!』
剣と政の神ニニギの言葉に背を押されるように、狗涅国に突入した御魂闘士たちは得物を手に魔天神に立ち向かう。
「遥々海を渡ってやって来た! サモエド座の荒神! 弥久ウォークス!」
「私は鮫座の荒魂、松永焔子! 懲りずに狗涅国まで再戦に参りましたわ!」
魔天神との因縁を抱えた
弥久 ウォークスと
松永 焔子が地を駆けた。足元の車輪を高速回転させ、排気音を轟かせながら魔天神の周りを旋回するようにして近付く焔子に続き、ウォークスも魔天神に迫る。
「竜神ジェノ、再度の挑戦……いざ、参る!」
二人が魔天神に突撃している間に、
ジェノ・サリスは魔天神から距離を取りつつ外周を囲うようにして走ると、銃を構えて魔天神に照準を合わせた。それとほぼ時を同じくして、
リーフリット・テュルキースが気配を消して上空に羽ばたく。
地上ではジェノやウォークス、焔子の動きを見ながら、
「鍛冶神の番犬、小犬座の荒魂 伊織。この牙突き立てさせていただくです」
と
土方 伊織が、
「斬撃の荒神、遥。この一刀でその闇の力を断ってみせるわ」
と
水元 遥が、各々刃を光らせ魔天神との距離を詰めに掛かった――が。
『其方らはここを何処だと思っている』
先程までは悠然ささえ感じられた魔天神の口調が一気に殺気を帯びた。刹那、地鳴りとともに荒涼とした大地が激しく揺れ、御魂闘士たちは足を縺れさせる。更に、上空のリーフリットの側頭部を闇の氣弾が直撃し、闇の龍が銃を持つジェノの腕に食らいついた。
落下するリーフリットを視界の端に捉えた伊織は、全力の斬撃を放とうと魔天神に踏み込むが、魔天神は小剣を握る伊織の手を掴むと、まさに赤子の手を捻るかの如くいとも容易く捻り上げる。伊織は腕のみならず全身に激痛を感じ、呼吸さえままならない。体内の血が沸騰し爆発するのではないかと錯覚するほどの痛みに、伊織の視界は白んだ。
「相変わらずやることが滅茶苦茶だな、魔天神!」
凄まじい地面の揺れの中、ウォークスだけは歯を食いしばって体勢を維持し、魔天神に肉薄する。そして、
創世御名 蛇々も地震を逃れるように飛び立った。
ウォークスは籠手に神氣を通して作り出した三叉の蛇を魔天神に差し向ける。
『滅茶苦茶? それは私との絶対的な力の差に狼狽する其方等の方であろう』
襲い掛かる三叉の蛇を払い、魔天神はウォークスの腹に一打を埋めた。
ウォークスが小さな呻き声とともに耐えて一歩後退ると、不意に魔天神の顔が上空に向けられた。上空では蛇々が魔天神を警戒しながら接近を試みようとしていたが、魔天神と目が合った直後、蛇々は己の中を流れる神氣が急激に淀むような不快な感覚に襲われる。魔天神を神通力の射程圏内に捉えたら発動させようとしていた術を、どう発動させたらいいのか分からない……そんなあり得ない状態に陥ったのだ。そして、困惑する蛇々を魔天神の氣弾が容赦なく襲う。
目次
序幕・〈決着(1)〉
【1】魔天神を倒す
〈決着(2)〉
〈決着(3)〉
〈決着(4)〉
〈決着(5)〉
〈決着(6)〉
〈決着(7)〉
【2】常陸で殺王闘士の残党を倒す
残党狩り(一)
残党狩り(二)
残党狩り(三)
【3】各府の復興を手伝う
肥護府復興
火鎧府・網場復興
復興の舞
〈豊護府、その後(1)〉
〈豊護府、その後(2)〉
〈豊護府、その後(3)〉
〈豊護府、その後(4)〉
〈豊護府、その後(5)〉
終章