■プロローグ■
―――旧市街、旧渋谷エリア
『それ』が生まれたのはいつだっただろうか。『それ』自身も自分がいつ生まれたのか覚えていない。
本能のままに徘徊し破壊し殺戮していた記憶はあるが、どこかぼんやりとしていて自分の経験であるという実感がない。
まるで“夢”でも見ていたかのような。
記憶がはっきりとしだしたのは最近だ。何気なく建物に入ったあと、そこに納められていたものを手当たり次第に取り込んだことで、そこに記されていたもの―――知識、感情といったものを理解し、自我と呼べるものが萌芽した。
しかし、『それ』は生まれたての“赤子”に近い。故に、さらに求めた。知識を、感情を、そして力を貪欲なまでに。
そうして力を蓄えていると、『それ』は知った。どこか遠くで、自分と同じように自我を得た”者”が斃れたことを。別に仲間意識があるわけではないが、それについて考察する意義は十分にある。
同族を倒した者を理解すればそれに備えることができ、超えることが出来ればより強くなれると本能的に理解していたのだ。
そして、その答えはすぐに分かった。
「あの奥だな?」
「はい。アカリちゃんも用心して下さいねぇ」
「……いる!!」
何者かの声が聞こえ、『それ』が警戒を滲ませると目の前に光が広がった。
侵入者が刃を振るい、薄いスクリーンを斬り裂いたのだ。
その瞬間、『それ』は直感した。目の前に現れた小さき者たちが、同族を倒した者たちであり、自分が滅ぼすべき存在であると。
「……覚エタ。力……必要……足リヌ」
“小さき者”との戦いの中で、『それ』はまた一つ理解した。
この場で小さき者たちを倒すのはそう難しいことではない。しかし、小さき者はここにいる三人だけではなく、より多くの“群れ”となっているのだ。
この三人は言うなれば先遣隊や調査隊。倒したところで意味は薄い。狙うならば本体。しかし、流石に無策で突撃しても勝てる見込みは少ない。
故に、今はまだ仕掛ける時ではない。相手を知り、力を蓄える時なのだ。
「………」
小さき者が放った煙幕が晴れると、『それ』は天井に開いた穴から静かに飛び立った。
■目次■
プロローグ・目次
【1】旧渋谷市街を調査する
旧渋谷探索 1
旧渋谷探索 2
旧渋谷探索 3
渋谷ピクニック() 1
渋谷ピクニック() 2
旧渋谷探索 4
成長無くして技量上昇は無し
旧渋谷探索 5
旧渋谷探索 6
【2】鎮守の杜を調査する
飲み込まれた刻(とき)
飲み込まれた刻(とき)2
飲み込まれた刻(とき)3
極相林の支配者
極相林の支配者2
神が居た場所
神が居た場所2
神が居た場所3
馨しき毒
馨しき毒2
馨しき毒3
錆色の刃
錆色の刃2
錆色の刃3
錆色の刃4
錆色の刃5
錆色の刃6
錆色の刃7
【3】特殊個体の手がかりを追う
廃ビルの調査―1
廃ビルの調査―2
廃ビルの調査―3
廃ビルの調査―4
エピローグ