平地での戦い
リキニウスの街から北西へと向けて侵攻しているのは『カッキン独立連隊』だ。シンプルな攻め口ゆえに、迎撃する手も数多のはずであり、その想定で構えていた面々だったが、その予想は少しだけ外れていた。
「ふむ、敵陣の様子ですが……万全の状態ではない、と見るのが正しいでしょうか」
『ガレアス型飛空艦“炎洛号”』に乗る
川上 一夫は、『パッシブソナー』で敵陣を観測するが、その数はかなり少なくなっていた。
「同感じゃのう。先に動いている者たちがおったはずだが、そやつらが上手く揺さぶってくれた、ということか?」
『クナール型飛空艦』に乗る
リーネ・タカタも同様の観測結果に首を傾げる。
これは、ライトニング独立連隊の動きによって半島各地から少しずつ戦力が動いたことによるものだった。
「と言っても、敵は少数ではありません。皆さん、ご用心を」
索敵を終えた一夫とリーネは仲間たちにそう伝え、出撃を促した。
「敵は既に気付いているだろうが、先手は打たせてもらおう。出る!」
「お気をつけて! 援護はお任せを!」
最初に動いたのは
フォーゼル・グラスランドだった。パートナーの
守塚 桜花が操舵する『クナール型飛空艦』から『振電弐型(皇国)』で出撃したフォーゼルは、平野を陣取る敵部隊の上空を飛び回り、攻撃を引き付けながら敵陣の様子に探りを入れつつ攪乱を行う。
弾道予測システムを利用した回避性能に加え、『戦場の殺気』、『戦場の地形把握』なども活かしたフォーゼル機は捉えるのがかなり難しいだろう。このまま弾を撃ち尽くさせるのも手だが、それでは時間がかかり過ぎる。そう考えたフォーゼルは、特に強力な機体と思しきパルサークレフテスに狙いを定め、『試製蜂巣砲』を発射する。
だが、パルサークレフテスはフォーゼルの動きを読んでいたかのように回避すると、そのまま反撃に移る。周囲の随伴機も一斉にフォーゼルを狙い始め、フォーゼルは危機に陥る。
「そう易々と……!」
上空に構える桜花はフォーゼルを援護するため『サンダーカノン』を、やはりパルサークレフテスに向けて放つが、これも当たらない。『投下型アイスデプスチャージ』をばら撒くことで何とかフォーゼルの救出に成功する。
フォーゼルはそのまま桜花の艦ではなく、リーネの艦に着艦すると、そこで
レニ・ファルエから『補給用カートリッジ』を受け取る。
「数は想定より少ないけど、粒ぞろいのようね」
「あぁ。油断したつもりはなかったんだが、アレの撃墜には骨が折れそうだ」
レニはフォーゼル機の整備をしながら情報を共有し、フォーゼルもまた対策を練る。
「今度は俺も出るよ。二人なら……」
「いや、アレ一機にそこまで手間をかける必要はない。ここは敵数を減らして、前に進むことが重要だ」
リーネ艦に同乗していた
他方 優が、連携によるパルサークレフテスの撃墜を提案するが、フォーゼルは逆に他の手を提案する。優もまたその意図をよく理解し、狙いをトライポッドや七〇式戦車に絞る。
「よし、それじゃあ行こうか!」
その言葉とともに優はフォーゼルを伴い、『グレートファルシオン(皇国)』で出撃する。
「大いなる刃、グレートファルシオン見参!」
そして、フォーゼルの動きを援護するべく前衛として『雷鳴刀』を構えると敵からの攻撃を一手に引き受ける。
派手な登場とは裏腹に、その動きは『払い』や『受け』など丁寧な立ち回りであり、猛攻を物ともしない。そして、決定的な隙には雷を放つことで反撃したり、隙を見せない際には『飛去来器“飛刃兜”』による牽制を行ってからフォーゼルの射撃に繋げるなど、後衛の援護としては最高の働きを見せる。
また、フォーゼルも弾を打ち尽くすと『雷鳴刀』を振るい、優と息を合わせて接近戦に応じるという動きも見せている。多勢に無勢だが、二人の連携によって敵部隊は混乱を来す。
しかし、この動きによって敵部隊はカッキン独立連隊の排除に本腰を上げ始めた。
「ようやくエンジンがかかったか! 俺たちも舐められたものだな!」
敵の動き察知した
弥久 ウォークスが吼える。
「全機出撃! 行くぞ、風花、リリア!」
「了解よ! 一夫さん、行ってきますね」
「後ろはお任せなのです」
「はい、お気をつけて」
『大鐵神・安底羅』に乗ったウォークスと『デュランダルⅢ』に乗った
桐島 風花、そして『プギオ(連盟)』に乗った
リリア・リルバーンが、一夫の艦より出撃する。
ウォークスは降下するや『人神一体』を発揮し、『鬼砕破砕拳』による『電光石火撃ち』をメインに戦闘を開始する。狙いはトライポッドや七〇式戦車に定め、まずは数を減らす戦法を取る。
ウォークスの戦い方では電光石火撃ちで鬼砕破砕拳を放った後に戦闘力が低下するが、その間は『心眼』を発揮し、『引き』などの技術で回避に徹する。
「おおっと、隙を埋めるのはボクのお仕事なのですよ」
その間に、リリアは『アサルトライフル』でウォークスを狙う敵を銃撃する。一見すると適当に弾をばら撒いているように見えるが、実際は『モノクルターゲット』による正確な射撃となっており、適時『ダブルバースト』を実行することで火力も増している。リリアの動きはウォークスが戦闘態勢を整えるまでの時間稼ぎに見せかけて、撃破を狙った強力な援護と言える。
また、リリアを狙って攻撃したとしても、『オブザベイション』による戦況分析を活かした的確な回避を心掛けているため、敵はリリアが手に届く範囲でありながらなかなか捉え切れていない。
ウォークスやリリアが遠・中距離での戦闘をメインにするのとは逆に、風花は『天喰刃』を構え、敵に斬り込む。『遍現跳躍』による意表を突く機動を以て素早く肉薄するという立ち回りに、敵は対処し切れていない。加えて、風花が狙うのは徹底してウォークスが狙う敵機と同じであるため、一度狙われた機体は撃墜されるまで追われる。
「お父さん、上!」
「応!」
時折、空からパルサークレフテスが襲い掛かってくるが、連携する二人の内どちらかが察知し、互いに接近を知らせるため、すぐに回避行動に移れている。そして反撃してくるパルサークレフテスに対しては『空裂閃』などを同時に叩き込み、主導権を握らせないまま撃墜し切る。
丁寧に、しかし素早く各個撃破していくことで、ウォークスと風花、そしてリリアは確実に敵部隊を削っていく。
「ド派手に行かせてもらうぜー!」
「無理するんじゃないわよー!」
ウォークスの出撃指示を受け、他の位置から降下したのは『大鐵神・安底羅』を駆る
ミューレリア・ラングウェイだ。ミューレリアは
ウルズラ・バルシュミーデの『クナール型飛空艦』から出撃するや『人神一体』を発動させると、一気に敵までの距離を詰めて『掘削破砕拳』を叩き込む。
「必殺! ブレイズレーザー!」
そして続けざまに、『燕返し』の要領を活かした『胸部熱線砲熱板・丙型“ブレイズレーザー”』を至近距離で放つ。運悪くミューレリアに狙われたトライポッドは凄まじい威力のドリルと熱線を連続で浴びせられ、その場で爆散する。
「次ィ!」
ミューレリアは間髪を入れず、次の標的に狙いを定めると、今度は掘削破砕拳を射出。敵機はこれを寸でのところで躱すも、戻ってきた破砕拳が直撃。その場に倒れる。
その後もミューレリア次々に標的を変え、敵を撃破していく。が、押せ押せの場面でもパルサークレフテスの動きにだけは注意しなければならない。ミューレリアもそれをよく理解していたが、それでもパルサークレフテスは敵集団の中からその隙を突いてきた。
「グレートキィィック!!」
しかし、ミューレリアの危機に優のグレートファルシオンが飛行能力を活かした飛び蹴りを見舞うことで割り込む。パルサークレフテスは寸でのところで割り込みに気付き、軽やかに身を翻すことで躱したため、ダメージは与えられなかったものの、ミューレリアの救出には成功する。
「くっそー、アイツだけはホントに油断できないね。助かったよ、ありがとう!」
「気にしないで。でも、やっぱりアレを無視して戦うのは難しくなってきたかも」
各々の活躍でかなりの敵数を減らしてきたが、パルサークレフテスの数は変わっていない。
気がかりなのはそれだけではない。敵陣には指揮官機がいるはず。その所在が未だに掴めていないのだ。
索敵には一夫やウルズラ、リーネらが『パッシブソナー』を全開にして指揮官機の接近をいち早く察知しようとしているのだが、未だその索敵網にかかっていない。パルサークレフテスに苦戦する中で指揮官機とその随伴機や部隊に叩かれると、全滅もあり得る状態なのだ。
故に、旗色の良い状態でパルサークレフテスを撃墜しておきたいところなのだが、現在の戦力では難しいようだ。
俄かに、カッキン独立連隊に焦りの色が見え始める。
「皆さん、どうか慌てずに。増援の皆様が見えましたよ」
そんな仲間たちに、一夫の通信が届いた。見ると、後方より確かに増援の飛空艦が向かって来ていた。
現れたのは『晴山吹連隊』の面々だった。一夫は晴山吹連隊と連絡を取り合い、援護に来てほしい旨を伝えていたのだ。
「やーやー、我らこそは晴山吹連隊にございまーす! 早速ですがー、砲撃開始ィ!!」
晴山吹連隊の隊長、
取間 小鈴は現れるや否や『かぶとぎうす号“新かぶとぎうす号”』から地上に向けて砲撃を開始した。
「狙い撃ちますよ!」
新かぶとぎうす号に搭載された『ドキュウ(副砲)“13.3 cm特三連装副砲”』を構え、
星宮 希凜はカッキン独立連隊を援護するべく『カバリング・ファイアー』を実行。増援である自分たちに対処する暇を与えぬよう、先手を取りつつ牽制する。
希凛の狙いはあくまで援護であるため、カバリング・ファイアーの他に『カマイタチ』による転倒や『スパイダーネット』による移動の妨害など、仲間たちの行動を支える行動がメインだ。味方機が危険な場合は、『ソイルウォール』を展開する準備もある。
「どうか抵抗はなさいませんよう……」
他方では、
人見 三美が『火鬼讐筒』を構え、副砲の射手として地上を炎上させていた。その目的は、味方機降下の援護。晴山吹連隊も、機動兵器を戦場に投入する準備を整えていた。
「準備が整いました、焔村丸様」
「機体の整備、ありがとう。イオン、出るぞ!」
「了解じゃ」
そう言って新かぶときうす号から出撃したのは『大鐵神・宮毘羅“宮毘羅・陽炎”』を駆る
千波 焔村丸と、『ツヴァイハンダー』を駆る
イオン・ノートだ。
陽炎には三美によって『シールドエンチャント』が施されており、その耐久性能は向上していた。そして、出撃と同時に『噴火大筒』で加速するとすぐに敵に肉薄する。
「白き静謐……この白刃で貴様らの目論見ごと斬り裂く!」
敵機に急接近した焔村丸は『白刃の薙刀』の一薙ぎで敵機を斬り裂き、その出現をアピールする。こうやって敵の注意を引き付けることで後衛やカッキン独立連隊への援護とすることが焔村丸の目的だった。そのためのシールドエンチャントだったのだが、焔村丸も被弾上等で攻め込むことはしない。あくまでも保険だ。
焔村丸は多くの敵の注意を引き付けると、今度は回避主体に立ち回りつつ、攻撃する隙を見つけては反撃を見舞うなど、無駄のない立ち回りを見せる。これは、相手がパルサークレフテスであっても同様だ。
既に一夫からパルサークレフテスは強力であるという情報を得ていたので、その戦力は分析済み。焔村丸はパルサークレフテスがレンジを問わず戦える能力を逆手に取り、遠近どちらで戦うべきか迷うレンジで戦闘する。白刃の薙刀はその戦法にはうってつけだった。
「そこだ……!」
そして、パルサークレフテスが攻撃手段を切り替える一瞬の隙を突いて、『糸の一打』を見舞うことで撤退へと追い込む。
「油断するでないぞ!」
強敵を撤退へと追い込んだ隙を埋めるのはイオンのツヴァイハンダーだ。イオンは『龍走弓』による遠距離射撃を以て、焔村丸の隙を突こうとした七○式戦車を射貫く。『秒の一打』の要領で放たれたこの一射を七○式戦車は認識することすら出来ず、その場に倒れる。連射の利かない龍走弓と言えど、この威力と速度、そしてイオンの正確な射撃技術は七○式戦車にとって脅威だろう。
そのため、焔村丸からまずはイオンを仕留めようと動く七○式戦車の姿もあるが、そういった七○式戦車は焔村丸に察知され、優先的に攻撃されてイオンへの攻撃は届かない。そしてイオンは最後方から落ち着いて強烈な一矢を放ち続ける。
「ふうむ、なおも指揮官機の気配はなし。更にはここを救援すべく動く部隊の姿もなしですか」
旗色のいい戦況から一時目を離し、小鈴は更に広く戦場を見渡していた。敵陣の後方には峩々たる山岳地帯が聳え、そこにも敵部隊が配置されているだろうに、動く気配がない。その動きの無さに首を傾げる小鈴だったが、すぐに合点が行った。
その山岳地帯に向け、味方の連隊が向かっていたのだ。