■抗争チェンソー四天王(3)
「「「ごちそうさまでした」」」
秋良、アリヤ、ルベウスがそれぞれ、空になった器に手を合わせる。
「はい、美味しかったです」
「うん、満足だ。こう、お腹も心も満たされた感じがするな」
「美味しかったよ。……まだ抗争、続いているね」
三者が味の感想を口にしてから、ルベウスが周りでなおも続いている抗争に目を向ける。
「王大鋸さんも、今は仲間の契約者との戦いに熱心のようですね」
「秋良、ちょっと行ってきていい? 食後の運動って感じで」
「ええ、いいですよ」
「おう、行ってきな。ちょいと歌で援護してやっからさ」
「ありがと。じゃ、行ってくるね」
アリヤが奏でる心を奮い立たせる歌に背中を押され、ルベウスが席を立って抗争の中に飛び込んでいく。出現させた光の両手剣を投擲すれば着地点にすさまじい衝撃が生じ、周囲で抗争に明け暮れていた不良たちがそちらを向く。
「最強の私が、この抗争を終わらせに来た」
周囲のものを引き寄せて作り上げられた巨大な剣を引き抜き、ルベウスが名乗りを上げる。
「な、なに言ってやがる!」
「ガキが! やっちまえ!」
不良たちは怖気づきながらも、一人の見た目は少女のルベウスに負けていられるかと己を奮い立たせて勝負を挑む。
「見た目だけで判断すると、痛い目を見る……」
『!!』
「ぐわぁ!!」
一振りで数名の不良が宙を舞い、地面に倒れ伏す。人の身では到底扱えない重量の剣を軽々と扱い、神霊と呼ばれる気をまとったルベウスの姿を見た不良は恐怖心に支配され、その場から一歩も動けなくなった。
「リフル、ごちそうさま。これ、俺からのお礼の一品だけど、どうかな?」
「ありがとう。……うん、元気出た」
空の皿を受け取りに来たリフルに、アリヤが特製のスープを差し入れる。
「リフルさんの門出と、ネフェルティティさんのこれからが、幸せなものになりますように願って――」
ビームビットのシールドを張りながら、秋良が二人の良き道を願う。
『どうして、こんなになるまで放っておいたんだ……これはもう手遅れだな』
「ネフェルティティさんの出所祝いと、朝陽君の様子を聞きに来たけどこれは……。
とにかく、彼女のところまで辿り着かないとだね。よろしく、ポーティア」
『致し方あるまい。では、行こうか』
ポーティア・ドロップをまとった
空音 見透がネフェルティティの下へたどり着くべく、まずは周囲の様子を明らかにする。遠くで特に強いと思われる相手――光輝く王大鋸――が他の契約者と激しい戦いを行っており、その他の場所では抗争が続いていたり収まってラーメンパーティーが開催されたりしていた。
「おうおう、邪魔だどけどけ!」
「邪魔なのはキミだよ」
ガンをつけてきた不良を、暗黒の光の槍で薙ぎ払う。それだけで不良は部屋の端まで吹き飛び、飾り物を落として地面に倒れ伏した。
「あっ、いけない。ここはリフルさんのお店だ。被害を出しちゃいけない」
『あの光っている不良以外は、相手にもならないだろう。手早く済ませて挨拶をしに行くぞ』
そうだね、と頷いて見透はネフェルティティの下へ向かう。途中数名の不良がガンをつけてきたが――見た目にはなんてことない一般人だと思われたため――その度に吹き飛ばされ――店に被害が出ないように加減されて――地面を転がる。
「ネフェルティティさん、出所おめでとうございます。
色々ありましたけど、これからは皆で仲良くできたらいいですね」
そして無事、というか余裕でネフェルティティの下に辿り着き、花束を渡して出所を祝う。
「ありがとう。……ん、あなたは確か……」
見透の顔に覚えがあったのか、ネフェルティティがしばし考えた後あぁ、と思い出したように顔をハッとさせて口を開いた。
「そうか、朝陽の名付け親か」
「そうです。朝陽君は今どうしていますか?」
「それはだな――」
ネフェルティティが言おうとした矢先、それぞれの脳裏にテレパシーが届く。
(俺ならここだぜ)
「この声は、朝陽君!?」
見透が辺りを見回すと、部屋の中を三輪車でキコキコ、と進む朝陽の姿があった。
「なんだぁ? あのガキ」
「おい、朝陽に手を出すんじゃねぇ!」
チャイニーズアーミーの不良が朝陽に手を出そうとする前に、パラ実の不良が総出で殴りかかる。
(ふん、落ちこぼれが)
「朝陽、どうしてここに来た」
(おいおい、つれないなぁ。俺がここの保育所に預けられているのは知ってるだろ?
俺はパラ実生徒が大好きだからさ、様子を見に来たんだよ)
ネフェルティティと朝陽の会話から事態を察した見透がなるほど、と頷く。
「ともかく、元気そうでよかったよ、朝陽君」
(おう、お前もな。相変わらず顔だけは何の取り柄もないふっつーだよな)
「顔のことは言わないでくれよ……」
「なるほど、あの光輝いている最も強そうなワルを倒せば、四天王の称号が得られるのですわね!
わかりました、ここはパラ実の流儀に従い戦いましょう! ……あ、後でちゃんとお掃除はいたしますわよ?」
堅固な鎧をまとい、機動力確保のために増加装甲を装着した姿の
エリシア・ボックが大剣を構える。ニルヴァーナで作業中の
影野 陽太の留守を預かる日々、陽太から話に聞いていたリフルのシャンバラ一号店開店祝いに来てみたもののこういった事態に出くわしたことは驚きではあったが、四天王を目指せるなら、と戦う意思を固める。
「あなたのチェーンソーの切れ味、わたしくで試してごらんなさいな!」
挑発するような台詞を口にして光輝く王大鋸の注意を引き、それに乗った王大鋸がチェーンソーを繰り出すも、鎧と盾、そしてエリシア自身の強靭な精神力でもって防ぎ切る。
(お、俺のチェーンソーを防ぎ切っただとぉ!?)
「刃こぼれしないのは流石ですけれども、それではわたくしを斬り刻めませんわよ!」
今度はこちらの番とばかり、エリシアが大剣を振るって連撃を叩き込む。一撃一撃が森羅万象から力を借りており、普通に受ければ武器が砕け散るほどの威力だが、王大鋸はチェーンソーを重ねて受けることでなんとか耐えきる。
(ヤベェぞこいつ!)
どうしてこんなにヤベェやつらが集まってしまったのかと、光輝く王大鋸は嘆くのだった。
「ああ、なんてこと! 今日がネフェルティティ様帰還の日だというのに!」
種もみの塔58階へ、ロイヤルガードとしてシャンバラ女王の妹ネフェルティティの護衛に向かった
騎沙良 詩穂一行が、中で行われていた抗争を目の当たりにする。
「……まあ、いつも通りのパラ実、物理と物理で殴り合う光景が見られてなんか安心した、っていうか。
ハッ! ネフェルティティ様は!?」
慌てて詩穂が視線を巡らせ、仲間と出所祝いを楽しんでいるように見えるネフェルティティが見えて安堵の息を吐く。
「あの、私……リフルさんのラーメンを食べてみたいのですが」
「私も興味がありますわ。リゼクシー殿、一緒に行きましょう」
リゼクシー・リエンダと
佐伯 まおがこのような状況にあっても平然とラーメンを作っているリフルの下へ向かいたい意思を見せる。
「私は守護天使として、ネフェルティティ様の護衛を務めさせていただきます」
『チェーンソー欲しい☆ 王ちゃんのモヒカンがチュイィィィンン♪』
「えーっと。アーニャさんは王ちゃんとガチりたそうだよね。
みんな、アムリアナ様の妹姫様を護衛する、ってのは共通してるけど」
本音が隠してるつもりでただ漏れな
アーニャ・エルメルトに苦笑しつつ、
ロザンナ・神宮寺が口にする。ラーメンを食べるのも王大鋸を始めとする不良と戦うのも、全てはネフェルティティを護衛するため。
「そうだね。束の間の歓迎会をネフェルティティ様に楽しんでもらうために、頑張ろう!」
詩穂の声にそれぞれ頷き、行動を開始する――。
「えっと……これは一体どういうことでしょう」
ネフェルティティの出所祝いとリフルのラーメンレストラン開店祝いに、種もみの塔58階を訪れた
月見里 迦耶が目の前で繰り広げられている光景に目を丸くする。
「…………あれを見てほしい」
迦耶を背中に背負う格好で護衛についた
太神 吼牙が周囲を見渡し、光輝く王大鋸を見つけて迦耶と
護堂 月光に見るように促す。
「王は、ギフトに憑依されているのだと思う」
「ええっ!? 王さんは大丈夫なのですか?」
「そこまではわからないが……今の王は普段の王とは違うのだと思う」
「ナルホド。言ワレテミレバ」
今の王大鋸はモヒカンをチェーンソーに変え、両腕からもチェーンソーを伸ばして契約者と戦っている。契約者はいずれも強者であり王大鋸は互角かやや劣勢の戦いを続けているが、どれだけ攻撃を受けても立ち上がる不死身のような体力を有していた。
「ネフェルティティさんとリフルさんを祝うために来ましたのに……わたし、王さんを放っておけません」
迦耶としては、王大鋸に取り憑いているというギフトと話せるなら話をして、憑依を解いてほしいと思っている。だが今の王大鋸は他の契約者と戦闘中であり、その決着がつくまでは話に行けそうにない。
「……ネフェルティティは、出所祝いを楽しんでいるようだ。
む、あの赤ん坊は……」
「誰ですか……あっ、朝陽さんです。どうしてここに……?」
「本人ニ聞ケバワカルダロウカ。王殿ノコトモ気ニハナルガ、マズハ彼ラと接触シテハドウカ」
月光の声に迦耶が王のことを気にしつつも、ネフェルティティの下へ向かった。
「なるほど、朝陽さんはこの塔の保育所に預けられていたのですね。大きくなられて何よりです」
(へへ、俺ももう立派なメンズだぜ)
ようやく立ち上がれるようになった朝陽が偉そうな態度――2歳の赤ん坊なのでただただかわいい――を取り、迦耶と月光、吼牙を和ませる。
「ネフェルティティさん、出所おめでとうございます」
迦耶が今日のために用意した、前向きな意味の花言葉を持つ花を束ねた花束をネフェルティティに渡す。リフルにも演技の良い花言葉を持つ花を束ねた花束を渡し、それらがカウンターに飾られた。
「後は……王さんですね。どうかご無事で……」
今は状況を見守るしかないことに、迦耶が歯がゆい表情で祈りを捧げるように見つめる――。
「ここヨ、アキラ。……あら、何だか騒がしいワネ」
アキラ・セイルーンを引っ張るようにして種もみの塔58階にやって来た
アリス・ドロワーズが目の前の騒ぎに首をかしげる。
「ま、パラ実だしいつものことだろ。……って、確かあれ何だっけ、ワン・ダージュ?
うお! 向こうのテーブルにネフェルティティもいんじゃん! えっ何今日、何かのイベント?」
「サア……ワタシ、有名なラーメン屋がオープンしたって噂を聞きつけただけダカラ……」
そこに居る人物のことは知っていても、どうしてこうなったのか皆目見当もつかないといった様子で首をかしげていた二人だが、せっかく来たからにはラーメンを食べていこうという結論になり、飛び散った破片や転がっている不良たちを避けてテーブルにつく。
「あっ、先に聞くの忘れてた。なぁ、ペット同伴オッケー?」
「うーん、できれば遠慮してほしい。契約者なら当たり前に連れてるから仕方ないかなって思うけど、そこはちゃんとしておかないとって思うから」
「いや、いいんだ。店のルールには従うよ。
それじゃ注文だけど、俺はラーメンには絶対餃子をセットで頼むんだ。ラーメンは塩バターコーンラーメン、それと餃子と小ライス」
「ワタシ、ニンニクラーメンチャーシュー大盛。それと餃子とチャーハン、あっ、後デザートに杏仁豆腐お願いネ。
そうそう、ワタシこんな身体だから小さい器を別に用意してくれると嬉しいワ」
「わかった」
リフルが注文を取りまとめ、厨房に戻っていく。ラーメンが来るのを待つ間、アキラは席を立ってネフェルティティの下へ向かった。
「俺たちラーメンを食べに来ただけなのに、なんでこんなことになってんの?」
「それは私が聞きたいよ。ただ……見ていると、どちらの陣営もありがたいことに私を慕ってくれているからこそ起きたようなものだと思っているよ」
「ふーん。そういや久し振りに会うけど、最近どう?」
「ははは、いいな、その感じ。
ああ、悪くないよ」
そうこうしている間にラーメンがテーブルに置かれ、アキラはアリスと向かい合って手を合わせる。
「「いただきます」」
「「ごちそうさまでした」」
器を空にしたアキラとアリスが再び手を合わせる。アリスの食欲は見た目からは想像もつかなく、その場を覗き見た不良は終始首をかしげていたのだが二人は知る由もない。
「あ~美味かった。早速SNSにアップして……だぁ! しまった、ラーメンを写メるの忘れてた」
「うっかりさんネ。ホラ、ちゃんとアキラの分も撮っておいたから使いなさいナ」
「助かる~! ……うし、これは絶対映える間違いなしだ。
んじゃ、そろそろ出るか。リフル、ごっそさん。また来るぜ」
アキラが会計を済ませ、アリスと連れ立って店を後にする。
「アリスの美味そうだったな、次はそれにするか」
「オススメの品も食べてみたいワ~」
楽しそうな会話を残して――。