■抗争チェンソー四天王(2)
「お前がギフトか。ロイヤルガードの任務を遂行する」
(へっ、やれるものならやってみな! ロイヤルガードとやらの誇りも価値もズタズタに切り裂いてやるぜぇ!)
光輝く王大鋸に一騎打ちを申し込んだ
ジェノ・サリスが神格装備の篭手による攻撃と、神格装備の盾による防御で対抗しつつ状況を冷静に判断する。
(……仲間を呼んで横槍を入れさせる真似はしない代わりに、王大鋸自身の能力が格段に向上している。
彼もまた、只者ではないな)
(イキってみたはいいが、コイツはヤベェな。正直逃げてぇがメンツが立たねぇ!)
互いが互いを『只者ではない』と思い合いながら、拳とチェーンソーが何度もぶつかり合う。王大鋸の振り下ろすチェーンソーがジェノのかざした盾に阻まれ、ジェノが身体を前に出して押すことで体勢を崩そうと試みるも王大鋸は向上した身体能力でもってその動きを後退する勢いとして距離を空ける。
(わかってきたぜぇ、テメェの動き!)
再びイキリ出した王大鋸の攻勢を、ジェノが受ける。それでもジェノの冷静さは崩れない。
(それが狙いだ)
「これは……何とも混沌とした状況のようですね」
ギフトと思われる謎の光る存在の調査にやって来た
小山田 小太郎と
ヴィーリヤ・プラジュニャーが、中で続いている不良同士の抗争に呆れた表情を浮かべた。
「どうする、兄貴?」
「そうですね、まずはこの抗争を何とかしなくては。
ただ、元々はリフルさんのラーメンレストランで開かれるネフェルティティさんの出所祝いだったはず。それを暴力による解決で済ませるのはあまりにも……」
今回の主役であるネフェルティティを見れば、先に到着していた契約者に守られる形でパーティーを楽しんでいるように見え、またリフルもラーメンを作ることに一生懸命である。ならば、と考え込む仕草を見せた小太郎が、苦笑を交え方針をまとめる。
「これで上手くいく、とは限りませんが……ここは一つ、皆でラーメンを食べましょう。
ヴィー君、申し訳ありませんがお付き合いいただけますか?」
「もちろんだぜ! オレは兄貴の思うようにできたら、最高だと思ってるぜ!」
シャンバラ大荒野で育ったヴィーリヤも、暴力で解決することが最善とは思っていない。力は必要な時に必要なものを振るうべきであり、今求められているのは抗争を終わらせる力と手段。
「さあ、起きてください。争いはもう終わりです」
「うぅ……なんだ、テメェは……」
慈愛の雨によって意識を取り戻した不良が、手を差し伸べる小太郎に不審の目を向ける。
「どうか、本来の目的を思い出してください。あなた達は何のためにここに来たのかを」
「……ハッ! そうだ、オレたちはネフェルティティ姐さんの出所祝いに来たんだ。
あっ、姐さん! す、すいやせん!」
視界にネフェルティティの姿を収めた不良が、佇まいをただす。
「思い出していただけたようですね。では、こちらをどうぞ」
小太郎が厨房から受け取った、ラーメンセットを差し出す。ネフェルティティも食したラーメンを食べることの意味を知っている不良は感謝して受け取り、残っていた席についた。
「……あぁ、お代を受け取り忘れてしまいました。まあ、限度額に余裕はありますからいいとしましょう」
「うおっとぉ! 兄貴、こっちは手こずりそうだ、手貸してくれ!」
たまにはこんなやり方も悪くない、と思いつつ、小太郎はヴィーリヤの要請に応じてそちらへ駆けていった。
「闇の四天王決定戦とは! パラ実のD級四天王として乗らない手はありませんわね」
会場に足を踏み入れた
松永 焔子は周りで暴れている不良たちには目もくれず、光輝く王大鋸に向かって真っ直ぐ歩いていく。
「この素晴らしい愚かさが実にパラ実です。
ところでなに呆けてやがるんですか? 待望の挑戦者が現れたって言ってるんですよぉ!」
そして星鋏アンナトラを二刀に分割して両手に構え、剣の花嫁の戦装束が生み出す爆発的な推進力で飛び込むように斬りかかる。
(うぉっ!? テメェは松永焔子!)
「あら、ギフトに乗っ取られても覚えてくれていたのですね。光栄ですわ」
(相手にしちゃいけねぇヤベェヤツは覚えておかなきゃ、自分の身があぶねーだろがっ!)
「何保身的なこと言ってんですか! 明日のことは今日考える、明日は己が身で勝ち取るってもんでーしょが!」
(メチャクチャ言ってんじゃねーっての!)
言葉でのやり取りに加え、互いの武器が激しい火花をあげてぶつかり合う。距離を空けた王大鋸に小型ミサイルとビームビットの砲撃を浴びせ、無理やり突破してきた王大鋸の振るうチェーンソーをアンナトラの一振りで薙ぎ払う。
「そんなくそぬるい攻撃じゃ、その辺のE級四天王も倒せませんわよ。ザッケンナコラー!」
(大人しくサメと戯れてろってのこのサメキチ!)
「あらあら、これは。まあ、パラ実ですから別におかしい光景ではないのですが……。
あ、ネフェルティティさん、居ましたね。皆さんとリフルさんのラーメンを頂いているようです」
アリヤ・ネムレスと
ルベウス・クレプスクルンと種もみの塔58階に足を踏み入れた
砂原 秋良が周りを見渡し、仲間と出所祝いを楽しんでいるように見えるネフェルティティの姿を収める。
「リフルさん、私たちにもラスターラーメン、お願いします。一番自信のある味のをよろしくお願いします」
「俺もよろしく。オススメのやつがあるならそれで」
「私にも。秋良とアリヤとは別のやつがいいな」
「うん。ラスターラーメン三丁、承った」
リフルに注文を済ませ、四人席を確保した一行は一旦落ち着いた後、ネフェルティティの座る席を訪れる。
「おつかれさん。出所祝いに一曲プレゼントしていいか?」
「ああ、ありがとう。聞かせてもらおう」
微笑むネフェルティティに頷き、アリヤが
魔法のギターを構え、聞く者の心を温かくする慈愛の唄を響かせる。清らかな唄声は抗争に明け暮れていた不良たちの耳にも届き、手を止めるきっかけにもなった。
「素敵な歌。……はい、ラスターラーメン三丁、お待ち」
一曲歌い終わるまで待っていたリフルが、湯気を立ち上らせるラーメンの器を三つ持ってやって来る。三人はネフェルティティと一旦別れて自分たちの席につき、リフルからラーメンを受け取る。
「リフルさん、ありがとうございます。では、頂きましょうか」
「ああ」
「うん」
「「「いただきます」」」