■イルミンスール頂上フラッグバトル(1)
「大変! リンネちゃんが持ち込んだギフトがアーデルハイトちゃんに取り憑いちゃった!
なんとかしなきゃ!」
イルミンスール魔法学校生徒、
リンネ・アシュリングが箒に乗り、世界樹イルミンスールの頂きを目指す。
(おぬしの力、見定めさせてもらおうか)
そこに
アーデルハイト――否、ギフトが憑依した
光輝くアーデルハイトが箒を駆り、妨害魔法を放ってきた。
「うわわわっ!?」
かわしたと思いきや、イルミンスールの枝で跳ね返る魔弾に追われるリンネ。枝葉がひしめく空間では思うような動きが取れず、徐々に魔弾が迫りつつあった。
(やられる――!)
『――――!!』
思わず目を閉じたリンネの後方で、閃光がいくつも生じる。
「……た、助かった?」
「大丈夫ですか、リンネ先輩!」
結界を張って魔弾を防いだ
サーハ・アルベールがリンネの横につく。
「うん、大丈夫! 助かったよ、ありがとね!」
「一緒に行きましょう。一人よりも二人で、です」
「そうだね! 火力はリンネちゃんに任せて! 魔法でばばーんってやっちゃうよ!」
「えっと、頼もしいんですけどイルミンスールを傷つけるのはちょっと――」
『構いませんよぅ。緊急事態ですぅ、多少の攻撃は認めてやるですぅ。
その代わり、ちゃんとフラッグを持ち帰ってきなさいよぅ』
イルミンスールを通して、
エリザベートの声が二人に届く。
「「はい!!」」
――こうして契約者は、光輝くアーデルハイトが開催するフラッグバトルに挑むことになったのでした。
「フレー! フレー! サーハ!! かっ飛ばせー! サァー・アー・ハッ!
おっ、今日はイルミンスールのダチと参戦か! 俺様はサーハのダチのノガロダだ、よろしくな!」
サーハと並走する
ノガロダ・テーゲの陽気な挨拶に、リンネも元気に答える。
「ノガロダちゃんは参加しないの?」
「だって俺様、イルミンスールの生徒じゃねーし。イルミンスール生徒のサーハが出るってんなら、応援に回った方が面白そうじゃねーか」
「応援するのは構わないけど……応援する側も最後まで付いていくなら、アーデルハイトさんの妨害に対処しないといけないのを忘れないでほしいなぁ」
「はは……そうだね。
私たちが頂上までたどり着けるかどうかは、優さんのサポートにかかってるから。大変だと思うけどよろしくね」
「ま、いつも通りにね。幸い妨害を受けながらゴールを目指すレースは最近経験があるから、それを活かせればいいな。
まずはアーデルハイトさんがどんな妨害を仕掛けてくるかまだわからないから、生存を最優先に行こう」
他方 優の示す方針に、サーハとリンネがそれぞれ了解の意思を示す。
「今日は俺様も付いてっから、ドラゴンの背に乗ったつもりでかっ飛ばしてけ!」
「! ノガロダ!」
ガハハ、と威勢よく笑ったノガロダへ、アーデルハイトの放った魔弾の跳ね返り弾が迫る。優の発した警告に反応したノガロダが強靭な精神力で魔法への抵抗力を高め、闇の炎をまとった槍を振るって魔弾を切り払った。
(ほう、おぬしもなかなかの力を持っているではないか。
それだけの力を持ちながら、おぬしはギフトを手に入れようとしないのだな)
「うおっ、急に喋ってくんじゃねぇ。
んなもんよりサーハとサーハのダチが勝てるかどうかの方が重要に決まってんだろ!」
なおも飛んできた魔弾を力を込めて切り払い、優が治癒魔法をノガロダに施す。
「それにだ。俺様が参加しちゃ俺様がダントツでトップになって、サーハが頑張る意味が無くなるじゃねーか」
「はいはい。ちょっとカッコいいこと言ったらすぐこうなんだから、もう。
リンネ先輩、騒がしくてすみません。私の友達はこんな感じですけど、とても頼りになりますから安心してください」
「ううん、とても素敵なお友達だと思うよ、サーハちゃん。
これからもずっと仲良しで居てくれたら、リンネちゃんも嬉しいな!」
リンネの言葉に、サーハはまるで自分が褒められた時のように嬉しそうに笑った。
『お嬢様。アーデルハイトさまがあのように物騒な事を言っておられますが、リクリエーションの一環と考えれば宜しいかと存じます。アーデルハイトさまの事ですから、もし万が一失敗したとしても対応を事前に用意してありましょう』
イコン、スフィーダに同乗する
サー ベディヴィエールの発言に、
土方 伊織がそ、そうですね、と頷いて落ち着きを取り戻していく。たとえ爆発四散しても次の瞬間に「こんな事もあろうかと」と何事もなかったように出てくるのがアーデルハイトなのだ、と。
「そうです、おししょーはそこかしこにスペアボディを用意してあるのでした。
だったらちょっとお焦げに……はわわ、バレたらお説教なのです」
伊織がぶんぶん、と頭を振ってやましい考えを意識の向こうへ飛ばしながらイコンの操縦に専念し、丁寧に聞かなかったふりをしたベディヴィエールがサポートする形で、二人は世界樹イルミンスールの内部を頂上目指して駆け上がっていく。
(この展開、最速&最遅決定戦を思い出すのです。
おししょーさまがどんな魔法を見せてくれるか、ドキドキしますけど楽しみでもあるのです)
魔法の研鑽を重ねる者にとって最も力を発揮できるといっていい場所で、アーデルハイトの変幻自在の魔法にどれだけ自分が対応することができるか――成長を見せるいい機会と位置づける伊織の前方で、枝の一部がまるで脈打つように動いたかと思うと人の腕のようにしなり、伊織とベディヴィエールの乗るイコンを掴み取ろうと迫った。
「とーーーっても熱烈な握手歓迎会なのです!!」
大型のブースターユニットと各部のスラスターが生み出す高機動を活かし、伊織は広がった枝に掴まれる前にすり抜ける。一息つけると思いきや後方の広げた枝が弾け、複数の跳ね返る魔弾が後方から襲いつつあった。
『握手を拒否されたら弾ける……お嬢様、これが厄介というものでしょうか?』
「合ってるかもしれないですけど今はそれどころじゃないですよぅ!」
直撃すればイコンであってもただでは済まない中、機体の周囲にまとわせた風による防弾効果が最大限に発揮されるように、かつ速度が最大になるように、伊織はベディヴィエールのサポートを受けながら機体を制御する。枝に跳ね返った魔弾がすべて伊織の機体の後方で弾けてから、ようやく伊織は一息つくことができた。
『次はどんな魔法が見られるでしょうか』
その口ぶりから、ベディヴィエールも楽しみにしている気持ちがあると察した伊織は、確かにこれはリクリエーションだなと思い至りながらベディヴィエールに同意の返事を返した。
「うえぇ!? アデルちゃんがギフトに乗っ取られちゃったーーー!」
事態を知った
戦戯 シャーロットががくり、と膝を折ってうなだれる。
「……アーデルハイト副校長様は、ミミの悩みを優しく聞いてくれたの……。
身体を乗っ取るなんて……許さない。絶対、元に戻す……」
「そうだな。恩もあるし、俺らはイルミンスール魔法学校生徒だ。母校と恩師の危機を放っておけねぇ」
静かに、しかし強い意思を秘めた瞳で頂上を見据える
ミーミル・リィの決意に
アレクス・エメロードが応え、なおうなだれているシャーロットに手を差し伸べ引き起こす。
「うん、ボクたちで助けよう!
んでもって、フラッグバトルとやらにも勝って魔法の箒をゲットだ!」
調子を取り戻したシャーロットの元へ、新型イコン、フィーニクスに搭乗して
草薙 大和と
氷上 美夜子、ワイバーンで随伴する
草薙 コロナが到着した。
「なるほど、事情は理解した。世界樹イルミンスールとアーデルハイトを燃やされてはたまらないな。
僕たちがその魔法の箒を手に入れたところで使い道がないから、僕たちはシャーロットのサポートに回ろう」
「おう、頼むぜヤマコロ。副校長はどんな手を使ってくるかわからねぇが、いやらしい手段なのは確かだ。
予想もしねぇところから撃たれてやられちまわないように気をつけてくれ」
「わかった。アドバイス感謝する」
「わたしとワイバーンが、大和さんと美夜子さんの機体の死角を補うように動きますね!」
「ありがとうございます、奥様。
旦那様と協力して、シャーロット様ご一行を頂上まで護衛いたしましょう」
それぞれの準備が整ったのを見て、シャーロットが出撃の合図を出す。
「よーし、リトルフルール出撃ー!! 今日は最速取りに行くよ!」
シャーロットとアレクスの搭乗するイコン、
AVジェファルコンとミーミルの騎乗するワイバーン、大和と美夜子の搭乗するイコンとコロナの騎乗するワイバーンの布陣で世界樹イルミンスール内部を進んでいた一行を、多方向からの魔弾が襲った。
(相応の実力者とそれを護衛する者の力、見極めさせてもらおう)
光輝くアーデルハイトからの声と共に、魔弾は勢いを増して一行に迫る。
「まさかアーデルハイトに仕掛けるわけにもいかないし、思った以上に厄介だな、これは」
『はい。先程神子の波動を使用してみましたが、効いている様子は見られませんでした』
「相手が相手だ、仕方ないさ。さて、これからどうするか」
今はまだ自分たちもシャーロットたちも、ある程度の余裕をもって回避できている。だが進むにつれ疲労の影響もあるだろう。途中でリタイヤという事態を避けるためにも、早めに手を打ちたいと大和は考える。
『守りを意識し、シャーロットご一行様が頂上近くまで最小限の消費で行かれることを第一とするべきかと』
「……そうだな。僕たちは付いていけるところまで付いていきながら、シャーロットらへの攻撃を防ぐとしよう」
『了解です! わたしは大和さんと美夜子さんが少しでも長く戦えるようにサポートしますね!』
「ああ。だがコロナも決して無理はしないでくれ」
直後、先程よりも大量の魔弾がイルミンスールの枝を跳ねながら迫る。これほどの密度でしかも限られた空間の中、避けるのは厳しい。
『結界を展開します』
美夜子に応える形で、機体の周囲に浮遊する光の剣がいくつも現れる。そして剣は魔弾のいくつかを串刺しにして消失し、再び機体の周囲に出現するを繰り返す。
(なるほど。ならばこれはどうだ――)
直後、魔弾がイルミンスールの枝に跳ね返るのではなく吸い込まれ、その部分が隆起したかと思うと動き回り、打撃を与えんとする。
「正面の枝は僕がやる。コロナ、他の枝の動きを警戒してくれ」
『はい!』
コロナに側面の警戒を任せ、大和は機体を人型へと変形させる。レーザーライフルを放って枝への牽制とした後、太刀を構え近接戦闘を仕掛ける。
「そうやすやすと、捉えられると思ってもらっては困るな」
掴み取ろうとする枝の動きをアクロバティックな動きで回避しつつ攻撃を繰り出す。斬撃が枝に食い込みそのまま切り落とし、短くなった枝の脇を抜けて先へ進む。その後ろを他の枝が追おうとするが、幾重にも重なったソニックブレードが枝をみじん切りに仕上げた。
「わたしを忘れちゃダメですよ!」
ワイバーンの羽ばたきを乗せて放たれたソニックブレードが、なおも追いすがる枝を切り裂く。魔力の供給を絶たれた枝が落ちていき、ようやく自機とシャーロット一行を襲うものが居なくなって、大和と美夜子、コロナは一息つくことができた。