【3】対 グレムリン―2
水城 頼斗は鬼もどきの群れの中へ飛び込む。
「お前らの相手は俺だ! かかってきやがれ!」
声を上げながら霊盾・祝融の炎を纏わせた逆神槍を手に、風雷で一閃。鬼もどき達の注意を纏めて引きつける。
すぐに囲まれて鬼もどき達から猛攻を受けるが、三井流伍ノ型・青嵐で全てを相手する。穂先で受け流し、柄でいなして体捌きで攻撃を避け、敵に囲まれた状態で粘りを見せる。
だが鬼もどき達はタフな肉体と怪力で徐々に頼斗を押し込んでいく。防戦一方になった頼斗は囲まれている為に逃げる事も難しく、危機に陥っていた。
不意に眩い光が辺りを照らし、鬼もどき達の注意が逸れる。その隙に頼斗は包囲から抜け出し光の主、
陽渡 鳴姫の下へ駆ける。
「無茶しすぎや! 織羽はん、頼むわ!」
「はい!」
織羽・カルスがヒーリングブレスを使い頼斗の傷を癒す。その間に、頼斗とすれ違うように鬼もどきの前に躍り出ていた
心美・フラウィアが紅焔を放ち鬼もどき達を薙ぎ払う。頼斗の攻撃で弱っていた鬼もどき達が纏めて倒れ、心美はそのままグレムリンの所まで一直線に駆けていく。
「神聖武装、形成。繋げ――ウィンクルム!」
聖句を唱えた
リルテ・リリィ・ノースが神聖武装の性質を発動し、御霊鎮めを行う。その性質は仲間を信頼し、共に在ることで強くなる。そしてこの場に同様の術式が多いほど、範囲を拡大し、より効果が高まる。
(抜け殻だけになっても利用され続ける、憐れな怪物……もう、安らかに眠らせてあげましょう)
大きく広がった浄化のための清浄な空間。そこにいるグレムリンの魂を清め、そして弱らせることで仲間達を支え、彼を安らかに眠らせてあげられるようリルテはこの場を浄化し続ける。
浄化が不快なのだろう、グレムリンはリルテを睨みつけてそちらへ向かおうとする。心美がその行く手を塞ぎ、突き出された爪を心眼で軌道を読んで回避しつつ、剣で反撃してその場に留める。
ふいに辺りに歌声が響きだした。ハルモニア・ドレスの効果で音が反響し、効果範囲の広がった織羽のステラ・カデンツァが仲間達の魔力を活性化させ、内なる力を引き出す。
(グレムリン……器だけになっても、サヤに利用され戦い続けるなんて……もう、終わりにしないと)
聖唄『ラクシアの祈り』を広げ、仲間に元素の加護をもたらすよう願い、織羽は唄う。鬼の血によって理性なきモンスターと化してしまったグレムリンを、今度こそ終わらせる為に。
「“白騎士”イルファン・ドラグナ―――推して、参る!」
織羽の唄声を背に、
イルファン・ドラグナが【神格】ザンザスに跨りグレムリンへ突撃する。高い機動力を生かしすれ違いながらグレムリンを斬りつけると即座に離脱。攻撃に使用するのは強い浄化の力を持つキャリバー・オブ・メサイア。鬼の血が濃いグレムリンには効果的だ。
さらにもう一刀。【神格】数珠丸を対の手で持ち、闇の性質を持たせた状態で振るう。与えられるダメージこそ少ないものの、斬りつけた相手に与える呪いの効果はグレムリンにも発揮できるようだ。斬られた部位の回復力が落ちており、傷が自然治癒せずそのまま残っている。
部位ごと切り落として呪いを解く事は可能な筈だが、グレムリンは滅多にその行動を取らなくなっていた。あまり余力が残っていないのだと判断し、イルファンは両の刃を構え猛攻を仕掛ける。
リコ・ハユハが【神格】ムシュマッヘから水弾を放ちイルファンをサポートする。追尾弾で確実に命中させ、牽制と共に能力低下の毒を与えていく。
その背後から鬼もどきが近づいていた。戦闘の音に引き寄せられてきたのだろう、他にも複数体、この場に集まってきている。
「リコちゃん、後ろ!」
魔力感知で鬼もどきに気づいた
アリシア・ヴァレンベリが叫び、はっと振り返ったリコがバスターメイスで鬼もどきの横っ面を殴る。咄嗟の動きだったからか良い当たりとはならず、僅かに身体を傾けただけの鬼はそのままリコへ襲い掛かった。
水弾を連射しながら後ろへ下がるリコ。
ジェイク・アルバがカバーに入り、ブリューナクを鬼もどきへ突き刺す。触れた部位から炎上し怯んだ鬼もどきへスコーピオンボディの尾を使って攻撃。毒を与えて弱らせる。
「助かった。……こちらの対処が優先だな」
リコはジェイクと共に鬼もどきの排除を開始する。水弾で牽制し、鬼もどきの動きを制限してジェイクが近づきやすいように。無事鬼もどきへ接近したジェイクは発火能力のあるブリューナクと毒を持つサソリの尾で攻撃していき、鬼もどきを倒す。
オハンの叫びで別の個体の接近に気づき、盾を持ち上げて振り下ろされた拳を受け止める。サソリの尾で反撃すると鬼もどきは尾を避けて後ろに下がった。すかさずブリューナクを投擲し、稲妻へと変化させて鬼もどきを追撃する。感電した鬼もどきへ戻ってきたブリューナクを突き刺してさらに追撃、炎上させる。
「リルテ、下がって!」
鬼もどきは織羽とリルテの近くにも現れていた。鋭い爪を振り上げて二人に迫ってくる。リルテを守る様に立ちはだかった織羽がオータスストラを硬化させ、鬼もどきの攻撃を受け止める。そのまま鬼もどきの腕にオータスストラを巻き付けて攻撃を封じようとするが効果は無く、すぐに振り払われてしまった。飛び掛かってくる鬼もどきを見たリルテは御霊鎮めを止め、アクアリアで大量の水を生成し鬼もどきを押し流す。
「後は任せて」
そこへ駆けつけたリコがステラーコラプスを使い爆発で鬼もどきの姿勢を崩させる。そのまま水弾で攻撃を始め、相手の意識が自分に向けられるとバスターメイスでの迎撃に切り替える。敵の拳を避けながら隙を窺っていると、ふいに鬼もどきの動きが鈍った。バスターメイスで頭部を殴打し、脳を揺さぶられてふらついた相手へ水弾を立て続けに撃ち込んで体力を削りきる。
倒れた鬼もどきの背中には銀の鏃を持つ矢が突き刺さっていた。矢の主は
遠近 千羽矢。千羽矢は導きの刻火で刻印を刻み、自動的に追尾する必中の矢で着実に鬼もどきを弱らせていく。
「……邪魔は、させない。君の相手は、俺達だ」
セイクリッドアローを放ち鬼もどきの体内の魔力を乱す。弱った鬼もどきをジェイクやリコが追撃し、打ち倒す。一体が倒れても気は抜かず、ホークアイで戦場を見渡して優先して倒すべき個体を判別し矢を放って行く。
集まっていた鬼もどきを一掃するとグレムリンへの攻撃に参加する。今はイルファンと心美が治療のために一度下がり、
イーラ・ヴェンデッタが前衛を担っていた。
霊醒でグレムリンの動きを読み、先手を打つように矢を発射。意識を逸らしたり攻撃の軌道をずらして味方の攻撃する隙を作る。
「そこっ!」
隙を突いたイーラが振るった神罰の聖杖がグレムリンの腕に命中。杖を介したパニッシュメントスタンプにより、回復能力を封じる光の呪いと、継続してダメージを与える光の毒がグレムリンを侵食する。
グレムリンは唸り、呪いを受けた腕を切り落とす。切断面から新しい腕が生えてくるが戦い始めた時よりも再生能力が落ちているのか、治りきるまで随分と時間がかかっている。
(弱ってきている……ならば)
千羽矢はセイクリッドアローに清滅の力を込めて放つ。代償として大量の霊力を消費し、暫く意識が朦朧とするが覚悟の上だ。
放たれた矢は再生中の腕に命中。強すぎる浄化の力が回復を止め、生えかけていた腕が崩れ落ちていく。
「畳みかけるわよ!」
イーラとアリシアがジャッジライトニングを放つ。浄化の雷が直撃し、グレムリンの動きが止まる。そこへジェイクが駆け、リゾーブオブマナでグレムリンの生命力を奪いに行く。
「ぐっ!?」
しかし相手は動く死体。生命力を吸収するリゾーブオブマナは逆効果となり、逆にグレムリンに大量のマナを吸われてしまった。急いで離れ、コンヴィクションでグレムリンを拘束。負ったダメージを回復するために後衛の味方の所まで下がる。
光の輪に縛られたグレムリンは大きく吼えると力ずくで輪を破壊する。そして雷での攻撃を続ける二人を睨みつけ、近くにいるイーラの方へ襲い掛かった。
スケイルスキンで鱗の生えた腕を盾代わりにし、イーラはあえてグレムリンの攻撃を避けず防御する。衝撃で鱗が砕け、吹っ飛ばされて地面を転がる。両腕が痺れて感覚が無く、すぐに起き上がる事ができない。
「イーラちゃん、しっかり!」
アリシアがパーゲイションを使用しグレムリンを止めようとする。しかしグレムリンは僅かに動きを鈍らせたものの止まりはせず、真っすぐに倒れたイーラへ向かっていく。
ふいに弦を弾く音が聞こえ、グレムリンが見えない結界に衝突する。
「あんまり長くは抑えられへんよ!」
鳴姫が溌呼の為に構えていた八咫梓弓を持ち直し、弦を引いて浄化の炎を宿した霊力の矢を形成。グレムリンへ撃ち放って注意を引き付ける。その間にアリシアがイーラを治療しようとするが、イーラはそれを拒否した。
「まだ、駄目!」
震える腕で杖を構え、グレムリンへ突貫。ディヴァインカウンターを放った。
受けたダメージを強化して跳ね返す神罰術式。イーラが先ほど受けた攻撃よりも大きな衝撃がグレムリンを襲う。
振り向きざまに腕を叩きつけられ、イーラの身体が宙を舞う。だがその時、グレムリンの身体がぐらりと傾き、ふらつく様子を見せた。
「チャンスや!」
鳴姫が八咫梓弓の矢を上空へ放ち周囲に霊力のドームを形成。自身の霊力を高め、猫丸参式の霊力も使用して日輪を発動させる。強力な浄化の光に照らされ顔を顰めたグレムリンへ、さらにリコがムシュマッヘの能力を使いゴッドベインを放つ。7体の巨大な水蛇がグレムリンへ襲い掛かり、毒でその能力を大きく減衰させる。
それでもグレムリンは止まらない。既に回復能力は殆ど発揮されず全身の傷から血が流れ出しているが、一切気に留める様子もなく暴れ続ける。
傷の癒えたイルファンが戦闘に加わり【転霊技】ジストレス・聖錨を発動。グレムリンの四肢を拘束し空から降り注いだ光の柱でグレムリンを浄化する。すぐにグレムリンは暴れ出し拘束を解こうとするが、その前に槍を構えた頼斗が突撃を開始した。
「トドメは任せた! ――切り拓くのは、俺の稲妻だぁ!」
黒漆の霊篭手を握りしめ、駆けながら潜能解放で身体能力を強化。一気にグレムリンとの距離を詰めると雷光閃を放つ。
拘束を破ったグレムリンに雷を纏った一閃が命中。だが頼斗はまだ止まらない。
「もう! いっ! ぱぁぁぁつ!」
篭手で負荷を抑えた一撃。身体はまだ動かせる。加速し、もう一度雷光閃を放つ。感電し、吼えたグレムリンが頼斗を突き飛ばす。「いい加減、ここらで引導を渡してやるよ……!」
心美が剣を構え、傷だらけのグレムリンへ最後の一撃を仕掛ける。さらに挟むように位置取ったイルファンがザンザスと融合し、アバターズアンリーシュで全身に光を纏って突撃を開始する。
「我が剣を以て、その身を縛る鬼の血……断ち切ってみせよう! この一撃、その身で受けよ……グレムリン!」
魔力を注がれた数珠丸が浄化の力を宿した光の刃へと変貌する。一瞬で加速したイルファンは瞬きの合間にグレムリンとの距離を詰め切ると、その勢いを乗せて二つの武器を同時に突き出した。
二つの刃がグレムリンの身体に深々と突き刺さる。一泊置いて心美が紅虹の剣を振り上げ、自身の魔力と生命力を代償に必殺の剣技、業焔斬を放った。
「今度こそ眠れ……グレムリン」
紅い炎を纏った刃が、グレムリンの肌を深く長く切り裂く。
斬撃の痕が残るグレムリンの巨体が傾ぎ、ゆっくりと倒れていく。
地響きをたて、仰向けに転がったグレムリンはもう、二度と起き上がる事は無かった。
怪我をしたイーラと頼斗の治療を終えた織羽が、グレムリンの遺体に歩み寄る。
そうしてゆっくりと、レクイエムを唄い始めた。リルテもその隣に立ち祈りを捧げる。
その魂がどうか、安らかな眠りにつけるようにと、願って。
「……ゆっくり、おやすみなさい」