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≪セレクター編≫ブラフマンの断片

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≪セレクター編≫ブラフマンの断片
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渋谷駅までへの道のり6

 爆発の影響で視界が悪い。そこへ間髪入れずに黒炎を纏った松永 焔子が、仕掛けた繋蟲丙五郎零式の糸を手繰って亜蓮に接近した。構えた失楽炭刃で火闌穿咢を放つ。切っ先に集約された霊力は、まるで炎の鮫のごとく亜蓮に襲い掛かる。
 亜蓮は視界に頼らずとも松永の位置、攻撃を察知できた。しかし、耐えたとはいえ爆発を直接受けた体では即回避は難しく、そのまま腕で受けようとする。が、この炎に触れてはならぬと察知した。受けの姿勢から迎撃に変更し、同じく突きの形で拳を突き出す。亜蓮の拳に集約されたオーラの気弾が鮫を散らした。同時に亜蓮は後ろに飛び退き、松永と距離を取る。
 
「……さすがは九鬼一族。一瞬で憤怒の業火を察知しましたか。
 あなた方とは相容れませんが、その苛烈な生き様には敬意すら感じたものです」
 
 松永は落ち着いて、黒く染まったへし切長谷部・真打に手をかける。
 
「だからこそ、相手に不足無し。我が憤怒の大罪の全霊を以て挑みます!」

 双天の構えで飛び出した松永に亜蓮も踏み込む。しかし亜蓮は黒炎を警戒してか、大きく距離は詰めてこない。拳を振るうたび砲撃とも言えるようなエネルギー弾を飛ばし、松永はそれを二振りで切り裂いていく。

 小山田 小太郎も亜蓮に食らいつく。己に嵌めた手甲は、亜蓮のはじき出す気弾をオートカウンターし、その攻撃を明鏡止水で見極めようとするが、亜蓮の弱点はそう簡単に分かるものではなかった。
 もしかしたら、彼に弱点などないのかもしれない。そう思えるほどに亜蓮の攻撃は勢いを増し、より苛烈になっていく。オートカウンターでは捌ききれず、漏れた攻撃は水流円舞で受け流そうとするが、亜蓮の攻撃は受け流せるような代物ではなかった。
 
「小太郎さんッ――!」

 間一髪、ザンザスと人騎一体となった堀田 小十郎が、アイギスによるグレートウォールで小山田への攻撃を弾いた。小山田は礼を言うが、堀田はそれが自分の役目だと、彼らが攻撃に転じられるよう守りを固める。
 
 小山田は亜蓮からの攻撃に耐えながら、ちらと神代を見る。傷ついた仲間たちの治癒に専念する人見たちを守るよう、神代もまた亜蓮の攻撃の盾となっていた。
 
 小山田は知っている。「誰かを守りたい」と言った神代を。「君は、君だけの自分を目指せ」と静かに笑った神代を。
 もう大分前の話だが、小山田にとっては今でも鮮明に思い出せる。
 だからこそ。
 
――もし、君も作戦に加わるようなら、共に戦えるといいな。

 かつて神代に言われた言葉。今この言葉に応えたい。
 その思いを同じくするのは、八代 優、そして彼女の降神の剣に憑依した八葉 蓮花だ。神代はかつて、八代の呼びかけに応えてくれた。だったら、今度はわたし達が応える番だ。

「有栖さん達を守るために……そして己が信念を貫く為に、共に戦います」
「……有栖さん達は追わせない。……わたし達皆で、貴方を止める」

 神祇である八葉は、能動的に行えることは少ない。それでも、亜蓮の一挙手一投足に注意を払い、彼について何かが分かれば、何か綻びが見えればと、知覚拡張ゴーグルによる分析を行う。しかし、亜蓮の挙動は見切れなかった。多彩な攻撃、防御。なにより圧倒的な力。一見、特殊な武装や大掛かりな技は確認できない。己の肉体、己の拳、そしてアバターのオーラ。たったこの三つであるのに、その力は対神、アンチアバターの力を有するほどに見える。
 八代も鳳天雷火を纏った八葉の降神の剣でガールズラッシュを繰り出そうとするが、亜蓮の猛攻の前では身を守ることが優先された。
 
 なかなか攻撃に転じることができないまま、体力、気力共に消耗していく。
 ついに亜蓮が、アバターオーラを練り上げ長刀ような形にすると、それを横一線に薙いだ。全員が防御の体勢に入るが、およそその場に留まれる威力ではなく、特異者たちは吹き飛ばされ、地面や建物に打ち付けられた。
 
「……想定よりも煩わせられたな」

 亜蓮は呟き、有栖や全能神の気を探る。方角に当たりをつけ、その場を後にしようとした。
 その時、コル・スコルピィの集束砲撃が亜蓮を襲う。人見の治癒を受けた焔生とローレンティアが再び同調して放った一撃だった。完全回復には至っておらず、威力も規模もかなり小さいものだったが、亜蓮の気を引き、足止めをする分には十分だ。焔生とローレンティアは再び同調が解除され、意識を失う。
 
 亜蓮は初めて表情を変えた。振り返ると、僅かに声を荒げ、周囲の特異者を睨み付ける。

「そんなに死に急ぎたいのなら、望み通りに――!」
「……自衛隊。
 その掲げし理念を忘れた今の貴方に、この水龍はどう映る?」

 立ち上がった堀田が、無風境地の集中もと、寵剣イザナミ・改で清き水龍を放った。亜蓮はそれを一払いするが、続けて小山田が明鏡止水で迫る。

「この拳が届くまで……お付き合い頂きますよ、亜蓮さん」

 不屈の指輪から還元された力と、黒衣の僧衣のアシストで本来の力よりも強固となった明鏡止水の一撃は、受け止められながらも亜蓮の進行を妨げた。
 拳を掴まれ、小山田は痛苦の表情を浮かべる。ギチギチと骨が悲鳴を上げそうだが、亜蓮はぱっとその手を外した。小山田が亜蓮を留めている間に立ち上がった焔子が、再び二振りを構えて肉薄していた。

「……黒田官兵衛より継いだこの刀、彼の不壊の意志の如く折れはしません!」

 松永の体はボロボロだったが、なんとか黄地の加護で耐えていた。亜蓮を行かせてはならない。ここで抑え込まなければならない。松永は亜蓮からの迎撃をへし切り、返す刀で黒焔光背を突き出した。
 小山田に抑え込まれていたせいで初撃が遅れた。ここまで特異者たちのフルパワーを受けてきた影響もあるだろう。亜蓮は警戒していた松永の黒炎をその腕に受けた。内側に走る焼けつくような痛みに、厄介なものに当たったと亜蓮の脳裏に疑念がよぎった。その時。
 
「……アバターの本質的力を、今開く。……一緒に行こう、蓮花」

 八代がソハヤノツルギを開放した。アバターズアンリーシュで力を引き出し、亜蓮の防御を無視した斬撃を放つ。
 
「ぐっ……ッ」

 僅かに亜蓮がうめき声をあげた。それは誰にも聞こえない程度のものだ。けれど、亜蓮本人には聞こえていた。
 防御を貫通する一太刀。そして己の腕を焼く黒い炎。いなせるはずだったものが、受けきれずに声に漏れる。自身を一瞬でも追い込んだ現実だ。
 
 亜蓮は腕を払って黒炎をかき消す。調子を見るように二、三動かし、ぐっと拳を握った。途端、今までとは比べ物にならない程の殺気が張り詰めた。亜蓮の眼光が特異者たちを射貫く。満身創痍の特異者たちも身構えた。
 しかし、亜蓮はそれ以上特異者たちを攻撃することはなかった。何かを察知するように視線を巡らせると、亜蓮はその場を後にした。
 
 特異者たちは、糸が切れたように地面に倒れる。誰も動くことができなかった。
 亜蓮はどこへ行ったのか、有栖たちは駅にたどり着いたのか。不安や焦燥感が募るが、激闘の反動で動ける者はいない。
 
 しばらくして、有栖たちの無事が知らされた。
 亜蓮や黒江の行方、士堵との決着がどうなったのかは分からないままだが、自分たちの死力を尽くした戦いが功を奏したのだと、ようやく特異者たちは安堵感を得られたのだった。

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