渋谷駅までへの道のり4
一方、渋谷駅へと向かう全能神たちを佐門とシャブダが先行しながら護衛していく。
佐門はムシュマッヘで鬼もどきたちを相手取り、ザンザスに乗りながらもマークスマンズドクトリンの射撃技能と追尾する毒蛇弾、カラリの使い手により複数の武器が使用できることで、鬼もどきたちを確実に押しとどめることに重きを置く。殲滅よりも全能神たちが駅に到達することの方が目的だからだ。
「……とはいえ。まだ神域の手前ではあるが、世界を創るシュミレーターであるヴェーダの影響下にある。
この空間で暴れ過ぎんよう、少々気にしておいた方がいいかもしれんな」
三千界を守るとは、特異点を守る地球を守ることでもある。
特異者たちがワールドホライゾンに呼ばれるよりも少し前の時代の再現とはいえ、神々のシュミレーターの直近で地球を傷つけるということがどんな影響を与えるかわからない、と佐門は考える。そのため、できれば大技は控えたい。佐門は羅刹鬼眼王による手数の多さで鬼もどきたち押さえながら、継続性の毒での弱体化を狙っていった。
「そういえば、カミサマに会うのも久しぶりな気がしますね。元気でしたか?」
「ああ、変わりないさ」
「俺は、はじめまして、になるか? よろしくな、至高の神よ」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
先行する佐門たちの後ろで、流れ弾や敵からの攻撃にアイギスを構えて警戒しながら、砂原は全能神に声をかけた。初対面のヤクモも、オハンを構え挨拶する。全能神の変わらぬ様子に砂原は安堵し、「私も一応元気です」と返した。
「さて、結構厄介な相手に狙われていますが、カミサマはすべてを受け入れると言っていますし、
とりあえず、守ることを受け入れてもらいますか」
「行くべきところがあるんだろう?
なら、そのために守らせてくれ。受け入れるのはとりあえず、今はこっちの行動だけで頼む」
佐門たちからとは別方向から出現した鬼もどきを、砂原とヤクモは相手取る。基本行動は防御。しかし押し戻さねば先には進めない。
砂原とヤクモは互いに構えていた盾で全能神を守ると、砂原は数珠丸で、ヤクモは叫騒の鋸刀で迎撃した。二つの斬撃を受けた鬼もどきは勢いのまま突き飛ばされるが、すぐさま立ち上がり再び突進してくる。ヤクモは使霊術の力を一体に絞って光の狼を作り出すと、鬼もどきと正面から激突させた。鬼もどきは、足に食らいついた狼を払い落すように暴れるが、牙を剥いた狼はしつこくしがみつく。
「光属性の方が効果がありそうですね」
数珠丸に魔力を注ぎ込み、性質を光に変えると、ようやく狼を振り払った鬼もどきに一太刀を浴びせた。妖やマカガミの性質を持つ鬼もどきには効果があり、断末魔を上げて形を崩した。
直後、前方に閃光が走る。砂原は咄嗟に祓円を展開。自身とヤクモ、有栖や全能神たちを防御圏に入れた。
光ったのは佐門のゴッドベインだった。大通りとはいえ曲がりくねった道も多い渋谷の街中で、高層ビルに挟まれた道の真ん中に立ちはだかる鬼もどきは、どうしても撃破しなければ進めない。黒江や亜蓮と比べれば雑魚だが、それでもそう簡単に倒せる敵ではない。
高速で距離を詰めてきた鬼もどきに、佐門はザンザスと融合。シャブダも神霊化し、試製AAツクモデバイスを取り込んだ。二人の力を乗せたムシュマッヘによるゴッドベインは、立ちはだかる鬼もどきを消し炭にした。反動でシャブダの憑依が解除され、佐門も息を乱す。ヤクモが「気休めだが」とサカイヤチョコレートを手渡し、二人は礼を言ってそれを口に入れた。
「少し力を使ったが……致し方ない。
全能神殿が神域に引かれ向かうならば、それは止めようあるまい」
一息ついた佐門の言葉に、全能神が自然と頷く。その表情に、やはりどうにもカミサマはほっとけないと佐門は思った。それに九鬼一族にこれを利用されては、どう転んでもロクなことにはならないだろうとも。
目の前の鬼もどきたちを退けた一行は、再び警戒態勢を取って先へ進む。渋谷駅まではもう一息だ。