1.機先を制する(1)
木の葉のように魚の群れが舞う水中を何体もの武装した機影が潜航する。
メタルキャヴァルリィのアルバトロス、ドラグーンアーマーのシャムシール、イコンのガネットがそれぞれ複数体、そしてその水上をフローユニットで移動する汎用型アーマードスレイヴの部隊が変幻の守護者グラナートに率いられて隊列を組んで進んでいた。
それらの後方の水中に、上陸様の機材を積み込んだ複数のピンネース型飛空艦ピンネース型飛空艦が位置する。
その中央のピンネース型飛空艦の内部で、
デキムス市長はモニターに示される広域の海図を冷ややかに眺めていた。
「流石はルミナス王朝、反応が早いですね」
モニター上にこちらに接近してくるいくつかの機影を示す光点が表示される。
互いの先頭に位置する光点の距離は刻々と接近していた。
デキムスの部隊に対応するために【ヤークトフント連隊】が最前線へ向けていち早く出撃していた。
部隊を率いる【ヤークトフント連隊連隊長】
柊 恭也はシュヴァリエ・メイジに搭乗しフローユニットで水上を移動する。
「先の戦闘では痛み訳だったってのに、今度は強行渡河か。連盟は随分強気だな」
「だねぇ。連盟の連中は何でこんなにも好戦的なんかねぇ?」
シュヴァリエ・マーメイドを纏って出撃した
朝霧 垂も連盟の真意を測りかねていた。
「一部が勝手にやってる事なのか連盟全体の意思なのか実際のところは分からねぇけど。
王朝と皇国、両方敵に回しても十分戦えるだけの自信でもあるんだろうか……まぁ、今は目の前の敵を殲滅する事に集中しないとな」
「侵略行為以外の何物でもありませんものね。必ず渡河上陸作戦を阻止致しましょう」
中願寺 綾瀬が準備行動として鼓舞踊で味方を鼓舞し士気を高める。
オデット・アーリンゲのピンネース型飛空艦に乗り込んで出撃した
キョウ・イアハートも黙々と出撃準備を整えるオデットの傍でうんざりした表情でボヤく。
「王朝に吹っ掛けてくるあたり、勝算たっぷりなんだろうなあ。はぁ……舐められたもんなんだかな。三国仲良しこよし、なんてするつもりはねぇクセにビジネスライクに首元にナイフ突きつけるとか……ヤだねぇ」
デキムスが経済の円滑の為に渡河用の橋の建造を持ちかけるという時点で既に詭弁すぎるという印象があった。
「準備が万全どころか過剰じゃないのか、連盟はさ」
汎用型アーマードスレイヴで出撃した
馬飼 依子が指摘する。
「最初からドンパチやらかすつもりだったなら遠慮はいらんな、ヤークトフントの名を広める足場になって貰うだけよ」
「仮にも都市一つを任される市長ほどのやり手なら、王朝にとって聞こえのよい方便の用意もできたでしょうに……。
それをしなかったということは建前上の責任をこちらに擦り付けて開戦するつもりだった、ということでしょう」
依子の言葉にシュヴァリエ・マーメイドで出撃した
納屋 タヱ子も頷く。
「騎士の誉れを、シュヴァリエを舐められていたと見るべきでしょう。
許せません。
わたし達ヤークトフント連隊が誇りを以て戦います」
波の彼方の水上にはすでに幾つかの機影を視認できる。波打つたびにその数が増えていく。
今回仕掛けてきたユニウスの街とルミナス王朝の王都の位置を地図を確認して恭也は息を吐いた。
「連盟の対岸……ここを奪われると王都まで直ぐそこだし、何がなんでも迎撃せんと不味いな。
そのままついでに連中の領土も奪いに行くか。そうすりゃ連盟の市長も馬鹿な真似は慎むだろうよ」
「シュヴァリエを進化・覚醒させるための遺跡の島に行く権利をもらうとか?」
依子は既にこちらが勝った場合の賠償の提案の中身までを考えていた。
『今回の作戦はあくまで渡河の阻止です。くれぐれも敵を侮らないようご留意ください』
通信機からソラン・ラッグスの声が響いた。
ソランはバルタザール国王の代理として岸で作戦指揮を執っている。
「わーってるよ」
恭也の合図でヤークトフント連隊が行動を開始する。
作戦は渡河作戦の為に攻めて来ている敵に対し逆にこちらから打って出て混乱している隙を突いて敵ピンネース型飛空艦を堕とすというものだった。
オデットの飛空艦には【ヤークトフント連隊整備長】の
ヴァレリー・ノーデンスが乗り込んでいた。
ヴァレリーもデキムスの言動には呆れていた。
「利益と打算のみで人間が動いてくれるなら苦労はねーです。
その上で交渉決裂でキレるとか、どうしようも……はあ」
気分を切り替えてオデットと挨拶を交わす。
「あーりんげさん、よろしくです」
「よろしく、ヴァレリー」
スチールライナーのオデットが敵ピンネース型飛空艦の位置把握の役割を担うのだが、オデットは索敵のタイミングを考えていた。敵の目的が艀の設置である以上、上陸部隊の後方に護衛機を伴って潜航してる筈である。
「敵機、複数接近!」
汎用型アーマードスレイヴの部隊を捉える。後方水中に護衛機を伴う大きな機影が見えた。
恭也が指示を出す。
「オデット、敵の位置を調べてくれ。できるだけ正確に。
敵ピンネース型飛空艦の周りにいる護衛機を排除する」
連隊の機体が敵機と接敵、交戦の開始に合わせてオデットがパッシブソナーを打つ。
数体の機動兵器を確認する。
オデットはその中でも一際大きいピンネース型飛空艦の反応の位置情報を全員に通達する。
狙いは爆雷で敵ピンネース型飛空艦を沈めることだが、護衛機がいると爆雷を迎撃される可能性が高い。それを防ぐ為にも護衛機を減らす必要がある。
ピンネース型飛空艦の位置の情報を受けて試製スカイライダーⅡで後方の空中で待機していたソルジャーの
ミシャ・ルメイが全力で駆け付ける。
「今回の渡河阻止作戦で致命的なのは、ピンネース型飛空艦から艀を設置される事。
それを防ぐには水際で敵機の上陸を防ぐか、ピンネース型飛空艦自体を沈めちゃえば良い訳さ」
敵のピンネース型飛空艦、ピンネース型飛空艦を狙う。だがアーマードスレイヴがマシンガンを放ちながら迫る。
ミシャは一旦回避する。
オデットは位置情報を伝えたと同時にこちらに向けられて発射された魚雷を察知する。
「魚雷来ます! ヴァレリー! 気をつけて!」
回避した直後に近くで爆発が起こり大きな衝撃に揺らされてヴァレリーが砲座にしがみ付く。シートベルトが食い込んで苦しげにうめく。
「うぐぐ」
オデットも壁にぶつかるがいざという時の為にヘルメットを着用していて助かった。
即座にデネボラドリフトで元いた場所から移動して砲戦を開始する。
カバリングファイアーで牽制し最初の反応があった地点の上空で再度パッシブソナーを打つ。
敵艦の位置情報を修正してそれをミシャに伝える。
「こっちの役目は水中の目であって、敵を吹っ飛ばすのは仲間の役目ですもの」
ミシャはオデットからの視認情報を元に爆撃位置を修正する。
「さーて、爆雷12発で何隻沈められるかなー?」
ランディングショット投擲型デプス・チャージ3基から同時に3発を投下する。
「3発同時なら爆圧の範囲も広がるでしょ」
一発が敵機に当たり爆発した。
投下し終えたら直ぐに投下地点を離れ再爆撃の準備をする。
敵のピンネース型を全部沈めるまでこれを繰り返すのだが、水中の敵機の数が多く護衛機によって爆雷を破壊されてしまう。
たとえ当たっても撃沈出来ない可能性もあり、他にも敵潜水艦は複数いる。
「投擲型デプス・チャージが残ってる内はまだまだ沈めないとね」