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観測者の葛藤

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観測者の葛藤
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ブルーガーデンの日常 4


 弥久 ウォークスはナユタを労わるために熟考していた。
 少し前にナユタが思い悩んでいるようだったのが気に掛かるのだ。
 こう言う時は誰かに話したり自分で解決するのが良いのだろうが、コウと言う友達が居て、本人も有能だと言うのにそれが出来ないという事は一筋縄ではいかない問題なんだろう。
 何にせよ、腹が減っては戦は出来ぬともいう。
 肉体的な栄養だけではなく、精神的に少しでも心身を満たすモノが必要と言う事だ。
 ちょっとセッティングして、温かい飯でも作って誘ってみるか! と考え付いた先はプランク学院でおでんの屋台を引く事にした。
 ライドオンで九七式炊事自動車を作って。
 皿と机と椅子は自前で、料理はナチュラルシーフードセットで作った練り物中心のおでん。
 それだけではなく、大根や卵、こんにゃくに白滝、牛筋などブルーガーデンで買えるのは出来るだけそろえておく。
 それからギアストーン?:カツオブシで薫り高い鰹節をメインに繊細に取った出汁に昨日から漬けこんであるので後は温めるだけだ。
 料理上手なウォークスは、コウにナユタの好物を聞いて好みの味に心当たりを付けて、おでんも好みに合わせた味付けに仕上げてある特別仕様である。
 友達に話せない事も、一人で思い悩む時間も必要だが、誰かが作ってくれた温かいご飯が目の前に有ると多少は違うものだと信じて。

「いらっしゃい、三色ナユタ」
「今度は名前を間違えませんでしたね。コウから聞きましたよ。あなた、わたしのこと三食ナユタと言っていたのでしょう。困りますよ。人の名前はキチンと覚えてくださらないと」
「それはすまなかった! だが今はこうしてちゃんと覚えたのだ。些細なことは水に流そう!」
「あまり些細なことではないのですが、それもそうですね」

 そしてナユタは流れるように着席する。
 誘導するまでもなく座ってくれたのは行幸。
 スッと純米吟醸『神殺し』を添えておでんタイムが始まる。

「……ずいぶん古いものを知ってるんですね」

 豊葦原はほぼ日本と変わらないが、現在ではオーガニック食材が貴重なためにおでんや和食は資源戦争以前の、歴史上の代物と言っても過言ではない。
 それが目の前にある。
 驚きはしたが、相手はあのウォークスだ。
 船盛を弁当として持ち込んだ前科がある。
 古代の代物を再現してもおかしくはない気がしてくる。

「どうだ、食べにくかったりしないか。こういう物も用意してあるんだが」

 ウォークスが差し出したのは串の1本の具材は小さく、温かい出汁汁を湯呑に入れたものだ。
 もし食事を済ませた後と言うパターンも考えてのことだったが。

「お気遣いありがとうございます」
「なんだか深刻な顔をしているが、俺では話し相手にはなれないか」
「そうですね……わたし、実は世界の真実に耐え切れずに自我が崩壊する様を過去に何度も見ているのです。もしこの世界に囚われた人たちを解放できれば……なんてことを考えていました。非現実的な妄想ですよ。選ばれし者だけが真実を知り、箱庭を出ればいい、なんてことは」
「難しいことを妄想しているのだな。それではおでんも不味くなるだろう。もっと楽しいことを妄想してはどうだ」
「それもそうですね。……ごちそうさまでした。次は奇をてらわずに純粋に料理を振舞ってみては。せっかく料理が上手なのですから。それでは」

 ナユタは席を立ちそのまま去っていった。



◇          ◇          ◇




「今日は。良かったらまた少し話せないか?」

 フォーゼル・グラスランドはそうナユタに話しかける。
 傍にはコウの姿はない。

「いいですよ」
「覚えているかな? この間君が零した『この飴のようにこの世界もまた、存在しているように見えて実際は存在していない。なんてあり得るのですかね』という言葉。あれがどうにも心に残ってね……まぁ仮定の話を前提にした、ただの雑談だと思ってくれ」
「そういうことでしたら」
「君の疑問通り、“もしも、仮に”この世界が『存在しているようで、実は存在していない』とする。なら『この世界に存在するもの』もまた、『実は存在していない』となるのか? そうして一つ一つに疑問を呈し、存在を疑っていった時、最後に何が残るだろうか」
「ふふ、何が残ると思いますか?」
「恐らくそれは『全てに疑問を呈した君自身』。ならばその『君自身』は、確かに存在する『確固たる個』だと断定して良いのではないか。何故ならその『君自身』が存在するからこそ、『全てに疑問を呈する』ことが可能なのだから」
「全てを疑っていたら、きっと何も残らないでしょうね。私自身さえも。この体も意思もまやかし、となるでしょう」

 そこで互いに一息入れる。
 そして意識を集中して話を再開する。

「さて、視点を転じよう。君と同じく、俺もまた『確固たる個』として存在している。君と俺は今、互いを確固たる存在として認識し、観測しあっているわけだ。例えばここに、あるタグがある」

 アドバンスド・タグ【アドバンスド・タグ】を見せるフォーゼル。

「君はこのタグを認識し、俺もまた認識している。つまりは、君と俺という『確固たる個』が相互に認識出来ている物だ。ならばこれは、確かにここに存在しているとして良いだろう。そうして認識を拡大していけば──君と俺が……『確固たる個』が共通に認識し存在している『この世界』も、今この瞬間、確かにここにあると断定して良いのではないか」
「さて、どうでしょうか。実存性の証明というのは、そう簡単なことではありませんよ」
「故に、この間の君の言葉に俺はこう答えるよ」

『“もしも、仮に”それがあり得たとしても、世界は確かにここに在る。“存在していなくとも、存在している”なんて、矛盾を孕んだ答えだとしても』

「大切なのは『確固たる個』としての自分を持つこと、なのだと思うよ。ああ、それと。もし『最後に残った自分』にすら疑義を抱いたのなら──声を上げるといい。そうすればきっと、君は君だ、と。他の誰でもない、『三色 ナユタ』という『確固たる個』なのだと認識してくれる人達が駆けつけるさ。……勿論、俺もな」
「ふふっ、下らない精神論と切り捨てることもできますが……自分がここにいると信じることは大切なのかもしれませんね。覚えておきましょう」

 そう総括するとナユタは別れを告げフォーゼルに背を向けて歩き出した。

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