コンペティション ナユタ&コウの試練 1
フェイシアとノエルを見送ったナユタへ接近する者の気配を感じ取った彼女が振り向くと、そこには
納屋 タヱ子が存在した。
タヱ子にはひとつの推察が心の裡にあった。
合同コンペに勝てば“外”に行けるということだが、ナユタの様子から見るにこれは黒幕が覚醒した個体を選別する機会で、思うような結果が出ずに何度もリセットをかけているのだと。
ループを終わらせるにはおそらく覚醒体の頭数が要る。
ナユタとコウを覚醒に導いて結果を操作し、相手の出方を見てようか。
以前のお茶会で素敵な方達だと知ったので補佐をしたくなったというのもあるがそれは横に追いやって。
「ごきげんよう。この後にお茶会なんていかが? またオーガニック茶葉が入ったので是非一緒に楽しみたいと思って」
「こんな時でも呑気だな」
「いいではありませんか。わたしももう一度あなたの入れるお茶が飲みたいですし」
「まぁナユタがそれでいいなら、私も構わない。で、その誘いをするためにここに来たんじゃないだろ。何が目的なんだ」
「あまり警戒しなくてもいいんですよ。ただ、わたしはお茶会をした縁もあることですし、ナユタさんとコウさんへ情報面での補佐をして差し上げようかと思って参っただけですから。ブレインが別にあった方が負担は軽くなるでしょう? お二人をいつか倒してみせると言った手前ですけれども、“次回”の為のデータ収集の意図もありますが」
「次回もなにも戦うのはこれが初めてだろう。なんか含みがあるな」
「まあまあコウ。確かにブレインがいた方がなにかと動きやすいのは本当でしょう。当分わたしは守りに集中できますし、コウだって敵情視察の手間が省けるのはいいのではないですか」
「確かに。あまり変な動きをするようなら撃つからな」
「しませんから。ただウォッチマンを飛ばし、周囲の情報を収集するだけですよ。それを逐一報告致しましょう。わたしは正面きっての戦闘は出来ませんから」
そうタヱ子が言い、ナユタの許可もあったこともあり渋々コウも許可を出すのであった。
そしてタヱ子はAAパーカーで探知されにくくして隠れながらウォッチマンを飛ばし、周囲の情報を収集しにかかる。
得た情報から情況予測してナユタとコウが有利に動けるよう助言をしていくうちにコウの警戒心も徐々に溶けていった。
「止まってください、そこに誰かいます。わたしがあぶり出しますのでそしたらコウさんが」
「わかった」
タヱ子はステルスする敵を察知するとナスヨイチの追尾射撃で位置を明らかにしてコウに撃ってもらう上ですぐに移動して狙撃されないよう立ち回ることで足手まといにはならないようにブレインとしての務めを果たしていく。
そうして信頼関係を結んでいくがタヱ子の真の狙いは此方の現実で彼女たちを本物にしてみせること。
連想するのは自身の不足を旅の中で埋めたオズの魔法使いといったところか。
タヱ子とナユタとコウにリアルを付与して覚醒扱いになるかどうか試してみたところ問題なく強化された。
強化されただけというのがミソである。
ナユタはこのスキル自体に強い興味を示す反面、コウはこのことを受け入れたくはないとばかりに怒りの表情を浮かべた。
リアルの付与という現実を書きかける行為。
自分で手に入れなければならなかった力がこうも簡単に与えられた屈辱感。
守る対象のナユタ自身が満更ではない顔も気に入らない。
タヱ子が思い描いた覚醒扱いにはならなかったが、コウからはタヱ子をここで潰すのもやぶさかではない程の怒気を発した。
「よくもナユタを危険にさらしたな。ナユタが許しても私が許さない……次の勝負なんて必要ない。ここで、潰す」
「コウ、落ち着いて」
ナユタがコウを宥めようとするが既にナユタの声も聞こえない程にコウの怒りはタヱ子に向いていた。
ここはバトルロイヤル。
参加者の一人が減るだけの話でしかないではないか。
人一人を撃ち殺すには十分な殺傷能力のある銃をアクティベートしたコウは照準をタヱ子に向けて容赦なく発砲した。
一発どころではなく無数の穴が開いたタヱ子の綺麗な部分は顔面国宝並の顔だけだった。
「フー……フー……」
「少しは満足しましたか」
「ああ。こいつはここに置いて別のポイントに移ろう。どこかに情報を流していた可能性だって考えられる」
「そう、なのでしょうか。タヱ子さんは十分にブレインの役目は果たしてくれていましたが」
「それもこちらを油断させるための方便だったというだけ」
「……コウ。怒りを鎮めるのは大変かも知れませんが、敵襲です」
召喚している二体の機械鳥が
ビーシャ・ウォルコットを発見。
ビーシャの方はコウに狙いを澄ませていた。
全力でぶつかり、全力で暴れる。
それを真似る者がいても構わない。お好きにどうぞだ。
ただこちらも生半可な覚悟で戦っているわけではない。
せめて限界の一つくらいは乗り越えなきゃいけないものとしてコウに狙いを付けたのだ。なんとなくだが。
基本的に勝ち抜くとかは考えず、全力を叩き込むことだけを意識してディラックポインターで威力を上げたDD:サテライトブレイカーをアクティベート。
物理演算とクアンタロスの性能とで取り回し自体に問題はない。
サテライトブレイカーで牽制射撃しつつギアシフトの加速で相手との距離を詰めていく。
コウも寸分の狂いなく銃砲をこちらに打ち込んでくるが砲自体が非常に頑丈なため、この強固な盾ともなる代物にビーシャの口角もつい上がってしまう。
「この砲便利ですね、盾にもなるなんて!」
十分詰めたらコウを中心にディメンションブレイクを発動。
と同時に砲でコウに殴りかかるがそう簡単にコウを落とすことはできない。
コウの方には護りのナユタが存在するから。
サテライトブレイカーの鈍器がナユタの盾と衝突。
身に着けた防具のメビウスクラインで多少なりともディメンションブレイクの効果を軽減しながら攻撃を続行していたが、様子がおかしい。
なぜディメンションブレイクの中にいるナユタも同じように動き続けられるのだろうか。
ビーシャには分からなかったが、ナユタは高い防御能力とハッキングでサテライトブレイカーの鈍器を弱体化させてダメージを軽減させ攻撃を捌いていたのだ。
この一連の流れでコウの所まで向かい、一気に仕留める算段だったが甘かったことが浮き彫りとなる。
負荷自体もしかすればこちらの方が大きいかもしれないと判断したビーシャはメビウスクラインのシステムをアクティブにすることで専守防衛モードに変更しあらゆる攻撃を無力化することにした。
その間にサテライトブレイカーのリミット解除フルチャージを始めておきディメンションブレイクの効果が切れるまでの時間を有効に使おうと思っていたが、ここでも予想外のことが起こった。
アクティベートしていたサテライトブレイカーが武装解除されてしまったのである。
「なんで!?」
「ふふ。何回この武器で私の盾としのぎを削っていましたか? もうすでにその範囲はわたしの干渉範囲なんです。威力を半減させた上で攻撃を捌いていましたが、危険そうでしたのでこの武装は解除させていただきました。コウ」
「準備はできている」
「チェック? ……とはなりませんか、残念~」
そう遺言を残しビーシャはコウの射撃に倒れるのだった。