■プロローグ■
――リュクセール王国、マッセン平原
アイオーンは冒険者たちを伴って、黒鋼鉄を超える鉱石である
精霊銀と
カンサスの在り処へと、
ナンガと
ブルナといった
神聖セレスティア皇国の特務機関
“ブランコスモス”から救出したドワーフたちを案内していた。
「フィルにはああ言ったが……」
『『再び世界が闇に包まれようとしている』と我が主はご神託を下されたのに、王族同士で争うなどと……』
『物は考えようだ。国を2つに割る全面戦争ではなく、小競り合いで済んでいる。これは、ユーフォリア王女派もエイブラム王派も国を割ることを避けたいと考えている表れだろう。そして神竜の神託通り、世界が闇に包まれようとしているのなら、準備は必要だ』
アイオーンは別行動を取り、
アクイテイン黄金宮にあるという“譜”を取りに行っている
フィルツェーンとのやり取りを思い出していた。
ドワーフたちが必要としている特殊な金属は、それぞれユーフォリア王女派とエイブラム王派の増産要請から来ているものだ。
つまり小競り合いとはいえ、リュクセール王国内での戦いに使用されるものである。
「もちろん俺だって、全ての人間がセレスティーヌのように、裏表のない清らかな心の持ち主でないことくらいは分かる。だが俺はセレスティーヌの側に居続けたばかりに、世の中を見ていなかった」
冒険者たちと冒険をしてきた今なら、悠久の命を持つ大魔道士
エスターシャへ会いに行った時に言った言葉、
『あんたがこの地を守ったのは認めるわ。
それで人々が平穏に暮らして豊かになったのは確かだけど、
他人によってもたらされた安寧を当たり前のように享受するだけで、籠の中の鳥と変わらないわ。
そして籠に守られた鳥たちは、より豊かな暮らしを追求するようになり、個々人の孤立を招いた。
あたしに言わせれば、歪んだ至福の世界ね』
の意味が少し分かった気がする。
アイオーンが他国の侵略から守り続け、千年王国と謳われたリュクセールの人々はそれに慣れきってしまっていたのだ。
だからこそ、ユーフォリア王女派とエイブラム王派に分かれて小競り合いをするといったことも平気で行う。
「……だが、それでもセレスティーヌはこの世界が好きで、この世界のために命を賭した。ならば俺はセレスティーヌの愛した世界を守りたい」
目をつぶり、大好きな女性の姿を思い浮かべる。
『再び世界が闇に包まれようとしている』
しかし同時に、フィルツェーンが神竜から聞いた神託が改めて思い返された。
暗躍する
神聖セレスティア皇国の
特務機関“ブランコスモス”。彼らが千年王国リュクセールを闇に包もうとしているのか。
ならば闇を斬り裂く“力”が必要だ。しかも自分ではなく、リュクセールの人々が、だ。
アイオーンの独白に近い言葉を、“ブランコスモス”に捕まり強制的に発掘を手伝わされていたドワーフの二人、
ナンガと
ブルナは抑揚のない表情で聞いていた。
しかし、その瞳は不気味に爛々と赤く染まっているのだった。
■目次■
プロローグ・目次
【1】アクイテイン黄金宮を探索する
◇◆◇ 竪琴ひき ◇◆◇
◇◆◇ 迷える魂に救済を ◇◆◇
◇◆◇ 月夜の影 ◇◆◇
◇◆◇ 亡王に捧ぐ竜の鎮魂歌 ◇◆◇
◇◆◇ 伏龍の巣 ◇◆◇
【2】失われた都を再調査する
1.再調査開始
2.精鋭部隊VS冒険者(1)
3.精鋭部隊VS冒険者(2)
4.精鋭部隊VS冒険者(3)
5.精鋭部隊VS冒険者(4)
【3】ドワーフたちの採掘を手伝う
1.危険な採掘作業(1)
2.危険な採掘作業(2)
3.危険な採掘作業(3)
4.危険な採掘作業(4)
5.豹変(1)
6.豹変(2)
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