・特異者たちの奮闘
リッケンバッカーにヒレイクリスタルを乗せ、
小山田 小太郎は飛ぶ。
狙うのはバルバロイの種類を問わず、その行動の妨害とかく乱を行うことだ。
「行きます。数は多くとも……その動き、必ずや捉え活路を拓きましょう」
「……うん。……仲間を護り、敵を惑わす守護となる星楽をここに示そう」
八代 優が、小太郎の動きに合わせて星詩の発動を準備する。
小太郎が星音:桜華鏡の守護領域を発動する。
淡い桜色に輝く花びらが、空から降り注いで光を屈折、反射させて小太郎と戦うバルバロイたちを包み込んだ。
華やかな花弁で彩られた空間が、小太郎自身やは自身や優、
八葉 蓮花、
防人 ホニらの姿を隠し、万華鏡の如く煌びやかな模様と色彩に変化していく。
惑うように、何もない場所にバルバロイたちが攻撃を繰り返した。
しかし、それらの効果を反射させたバルバロイ・リノセロスたちが、闇雲に突撃を行ってきた。
何体かは小太郎がいる場所を通過しようとしている。
バルバロイ・リノセロスたちに轢かれた小太郎の姿が掻き消えた。
「残念ですね。そちらは分身です」
涼やかな声と共に、本体の小太郎がチューニングフォークの振動音を背中を向けた突撃後のバルバロイ・リノセロスへ浴びせた。
ほぼ乱戦に近い状況になっている戦いでは、どれだけ攻撃に耐えられるかがものをいう。
その耐久力を確保するのは、優の役目だ。
小太郎の星音に合わせて星詩:闘うアナタに春夜の帳を使用し、抜群の歌唱力で星詩の歌声を響かせていく。
春告げる麗らかな陽気を思わせる歌声が、活力を溢れさせ小太郎や蓮花、ホニらの背中を押す。
さらに春夜の闇で周囲を満たした。
甲虫型故に視覚以外の感覚で大雑把に優の居場所の見当をつけたバルバロイたちが、遠距離攻撃を一斉射し闇の中へ撃ち込んでくる。
酸や、炎が、電撃が春夜の闇を吹き飛ばすものの、狙いが甘く優は冷静に攻撃を避けて駆け出した。
「……傷ついても、片端から癒やす。……戦線は、崩壊させない。……わたしを信じて」
動きながらも舞い踊り、癒やしの力を振り撒いていく。
踊りながらもバルバロイたちの隙間を縫って常に安全な位置へと移動し続ける優は、バルバロイたちが誰を狙っているかを把握し、その対象から己が漏れるように立ち回った。
正面に立って興味を引かないよう、側面や背後に位置取りする。
そんな優の思惑を汲んで、実際に足場であるエイヴォンMVを操縦し、蓮花がバルバロイたちに対して回りこみを徹底して繰り返した。
「優の命は私が預かる。その代わり、私の命を預けるわ!」
轟雷砲<G>で砲撃を行い、積極的に攻撃参加する蓮花のエイヴォンMVは、優をステージに乗せていることもありバルバロイたちに優先して狙われた。
それらをなるべく回避していくものの、すべてを避けきることは、さすがの蓮花にも不可能。
味方の助けが必要だ。
「ホニ君、カバーをお願い!」
「任せてくれ!」
故に、エスカリボールを駆るホニがマギ・ダブルカリヴァ<D>による追撃を行うことで、バルバロイたちの狙いを分散させると共に、蓮花と狙いを合わせることで撃破する個体を増やし、蓮花が逃げ込む空間を作り、支援する。
バルバロイ・グラスホッパーが跳躍し、上空からホニを狙おうとする。
エスカリボールを操るつもりなのか。
「貫け!」
素早くインファントキラー<D>持ち替えたホニは、手首の捻りで回転突きを放ち、衝撃波を発生させて上空のバルバロイ・グラスホッパーを迎撃する。
打ち抜かれたバルバロイ・グラスホッパーは衝撃で破裂し、目的を果たすことなく墜落する。
星音と星詩を維持する小太郎、優らの支援を受けつつ、蓮花のエイヴォンMVとホニのエスカリボールが暴れまわる。
自衛は最低限に、二人とも小太郎と優がしっかり対処してくれることを信じて、自分たちのキャパシティを攻撃面に全振りし、一体でも多くのバルバロイを倒そうと激闘を繰り広げた。
そしてそんな蓮花とホニの期待に小太郎と優もしっかりと応えてみせ、妨害と回復で幾度となく迫り来る致命打に対処し、二人のピンチを救った。
バルバロイたちもそんな連携を断とうと何体かは小太郎と優を狙う動きを見せるものの、そんな目立つ動きをする個体を蓮花とホニが見逃すはずはなく、真っ先に攻撃対象に取って注意を引き、小太郎と優の安全を確保している。
小太郎の妨害がいかに優秀でも、それで完封できるほどバルバロイたちも弱くはない。
完全に被弾を防ぐことはできず、一撃また一撃とダメージが積み重なり、蓮花とホニの機体は疲弊していく。
だが、二人が被弾しているのは小太郎と優が選別した、いわゆる当たっても問題ない攻撃ばかりで、バルバロイ・リノセロスの鱗粉やバルバロイ・グラスホッパーの針、バルバロイ・ツインカノンのサンダーネット弾といった致命的な追加効果を持つ攻撃はその他の被弾を許してでもしっかりとシャットアウトしている。
積み重なる負傷も優の回復を受ければ問題なかった。
* * *
ナハイベル・パーディションは、スタンドガレオンを操縦する
【使徒AD】マーチングバンドと共に、バルバロイの群れを後方から攻撃する。
狙うのは主に、バルバロイ・ツインカノン、バルバロイ・モスの二種類。
「そこっ!」
マーチングバンドの援護砲撃に合わせ、Tフォースブラストライフルの引き金を引いた。
輝くエネルギー弾が発射され、飛翔する。
ナハイベルが狙ったのは、鱗粉を振り撒かれると厄介なバルバロイ・モスだ。
ひらり、ひらりとどちらの攻撃も避け、鱗粉を放出するバルバロイ・モスだが、それは想定内。
ナハイベルも含め鱗粉の範囲外に逃れ、被害は出ていない。
「これで!」
続くナハイベルの銃撃は、フォース弾によるものだ。
弧を描く弾道から逃れきれず、バルバロイ・モスは撃ち抜かれた。
しかしナハイベルの攻撃の隙をついて、バルバロイ・グラスホッパーが飛びかかってきた。
狙われたのは、マーチングバンドのスタンドガレオン。
砲撃で応戦するものの、落とし切れない。
ステージ上に着地したバルバロイ・グラスホッパーを前に、咄嗟にナハイベルは夢螺雨を発動させた。
流麗な歌声が雨を降らせ、バルバロイ・グラスホッパーの針を封じ込める。
針を出せずに一瞬動きを止めたバルバロイ・グラスホッパーに対し、【レリクス】ブリドゥエンの水の拳を叩き込んだ。
* * *
風間 瑛心はカゲミツに搭載されたドラグーンレーダーと、第六感によってバルバロイたちの殺気を感じ取り、攻撃が飛んでくる方角を予測することで、バルバロイたちの群れを相手に大立ち回りを演じた。
「……そう簡単には、当たらんよ」
突進してきたバルバロイ・リノセロスを、カゲミツを宙返りさせて避けた瑛心は着地と同時に背後を取り、炎を纏わせたインファントキラー<D>を手に一気に機体を加速させ、突進の勢いそのまま逃げ去ろうとするバルバロイ・リノセロスを追撃した。
その背に追い付き、大上段からの振り下ろしで両断する。
二つに別たれたバルバロイ・リノセロスの残骸が炎上した。
直後に、感じる殺気から数体のバルバロイたちに狙われていることを感じ取り、呼応式加速装置<D>で一気にその場から離脱する。
数瞬遅れて、飛来した酸や炎弾がカゲミツがいた場所に着弾した。
瑛心を狙ったのは、バルバロイ・フォリジャーとバルバロイ・ツインカノンの二種。
だが、他に優先して狙うべき敵がいる。
星詩を歌えなくする鱗粉を振り撒いてくるバルバロイ・モスだ。
バルバロイ・フォリジャーとバルバロイ・ツインカノンのは攻撃直後なので再攻撃までまだ間があることもあり、優先順位は低い。
「……させん」
今まさに鱗粉を振り撒こうとしていたバルバロイ・モスに対して、瑛心は先手を取った。
斬撃で幾重ものかまいたちを発生させ、射出し鱗粉をごとバルバロイ・モスを斬り刻んだ。
* * *
【レリクス】アメノオハバリを身に纏い、
苺炎・クロイツはバルバロイの群れを睨む。
『即死してくれれば楽なのだけれど……』
生命の流れを逆転させ、培養カプセル内にいるものを含めて肉体と精神を崩壊へと導こうとした。
しかし、培養カプセルの中身も、既に動き出しているバルバロイたちも、即死することはなかった。
耐性があるようだ。
『まあ、そう上手くはいかないわよね』
元より決まればラッキー程度の気持ちで放ったので、苺炎は動揺せず即座に回避行動に移った。
苺炎がいた場所に、バルバロイ・グラスホッパーが降ってくる。
放たれる針を避けると、苺炎は離脱しながらキラー・ザ・ヨーヨー【Rs】をぶん回し、バルバロイ・グラスホッパーに斬りつけた。
再びバルバロイ・グラスホッパーが跳躍態勢を取る。
光の翼で飛翔した苺炎が、空中でバルバロイ・グラスホッパーを間合いに捉えた。
【使徒AI】お局様に弱点を聞いてみたものの、甲虫型特攻武器以外では特にないとの答えが返る。
ならばとキラー・ザ・ヨーヨー【Rs】を絡みつかせ、跳躍から急降下するバルバロイ・グラスホッパー自身の力をも利用して、斬り刻みつつ地面へと投げ落とした。
地上の状況を確認した苺炎は、そのまま流れるように
レナ・ポーレの援護に入る。
大量の細かい泡を出現させ、歌と踊りを介して操作し、レナと戦うバルバロイたちへと向かわせた。
「ありがたいことですわ。利用させていただきます」
自身が作り出した神殿を弾避け代わりに戦っていたレナは、上手く神殿を遮蔽物として扱い、バルバロイたちの遠距離攻撃から身を守っていた。
装備によってある程度の強化が成されているとはいえ、神殿はそれほど強固なものではないので、精々一発耐えられれば御の字ではあるが、その一発から身を守るだけでもレナにとっては意味がある。
元々甲虫型バルバロイ全般が、視覚以外にも複数の鋭い知覚器官を持ち状態異常が有効作用し辛い敵だ。
そのため妨害の最大効果を狙うなら、全ての知覚器官を潰す必要がある。
一定範囲内の光を万華鏡のように屈折、反射させ、幻惑する試みは、バルバロイたちが嗅覚や聴覚による索敵に切り替えたことで最大限の効果を発揮できてはいない。
レナは大きな音を立てて爆発する火球を積極的に周囲にばらまき、バルバロイたちの聴覚を潰そうとする。
一度では意味がないので、何度も連発する構えだ。
「嗅覚だけにするだけでも違うはずですわ」
あまりバルバロイの群れの行動自体に混乱は見られないものの、位置把握方法が嗅覚のみになったことで、やや遠距離攻撃の命中精度が低下した。
* * *
各自の奮戦が身を結び、戦いの天秤が特異者側に傾き出す。
破壊したカプセルの数が増えていくたび、バルバロイ側の増援は減り、天秤が傾くその速度は加速していった。
こうなると、もうバルバロイ側にできることはない。
特異者側は、あとは詰め将棋をするかのように、自分たちの損害を減らしながらバルバロイ側を追い詰めていけばいいのだから。