■エピローグ■
――楽園シャングリラ、アーク、王都レンスター
ロミア・レンスター王女をはじめ、各駐屯地を守り抜いた騎士団員、そしてバンラッティー廃坑で破壊主マグナ・マテルを倒した“外法の者”たちが、王都レンスターに凱旋した。
王都レンスターは、各騎士団の駐屯地などに入植し、当初の人口の半分以下になっていたが、それでも民が総出で“外法の者”たちの凱旋を拍手で出迎えた。
ロミア・レンスター王女は王家直属のオペレーションAI・
ミレナスを通じて、全国民に“オリジン”の存在や創造主マグナ・マテルとバルバロイについて説明した。
オペレーションAIやアンドロイドを通じて、それらは全国民の知ることとなった。
「バルバロイを生み出していた破壊主マグナ・マテルは、勇気ある騎士団員、そして“外法の者”たちによって倒されました。まだ楽園シャングリラ内に生き残りは居るでしょう。ですが、この楽園シャングリラは真の意味でわたくしたちの第二の故郷となったのですわ!」
再び拍手喝采が起こる。
バルバロイの生き残りとはまだ戦わなければならないが、これ以上バルバロイが増えることはないのだ。
そして今まで保留にしていた即位を行い、ロミア・レンスター王女は
ロミア・レンスター女王となった。
「ノトス兄上……あなたの娘は、立派に即位しました。儂は侮っておりました」
その姿を見て、あの、
ゼピュロス・マンスターは人知れず泣いていた。
ノトスとはゼピュロスの兄にして、ロミア女王の父親、前国王ノトス・レンスターのことである。
ゼピュロスからすれば、アークを起動した直後のロミア王女はあまりにも頼りなく、楽園シャングリラへの道半ばで年老いた騎士たちと共に謀反を起こして討たれ、ロミア王女と
クローヴィス・キルデアをはじめとした若い騎士団の結束を固める礎になるつもりでいた。
しかし、その機会は様々な要因が重なって失われたが、こうして楽園シャングリラへと民を導き、即位した姿を見るに、彼自身ロミア女王や“外法の者”たちのことを見誤っていた、と改めて思うと共に、生き残ったからこそこの姿が見られたのだと感慨深く思うのだった。
△▼△▼△
「女王さんよ、1つ頼みがあるんだけど」
ロミア女王にそう切り出したのは、
イペタムだった。
「“ミルキーウェイ”に住んでるバンデッドを連れてきたいんだ。奴らだってなりたくてバンデッドになった訳じゃねぇし、バルバロイがいなくなりゃ、“ミルキーウェイ”で海賊紛いのことをする必要はねぇだろ」
バンデッドは、木の浮遊大陸ユッピテルと火の浮遊大陸マールスの間に位置する浮遊群島(アステロイドベルト)
“ミルキーウェイ”に済む、バルバロイに故郷を滅ぼされた人間の末裔だ。
彼らはバルバロイを喰らい、バルバロイに寄生されるのではなく、バルバロイの力を得た特異な者たちだ。
イペタムは彼らを楽園シャングリラに迎え入れたというのだ。
「彼らもわたくしたちと同じ境遇ですものね。楽園シャングリラにはまだまだ土地はございますから、是非ともお願い致しますわ」
ロミア女王は快諾すると、イペタムに移民用浮遊大陸ベーダシュトロルガルが貸し与えられ、お供として『三竜䰠』の
地竜䰠ジルニトラと
水竜䰠スピンドルストン、
空竜䰠アララルが同行することになった。
バンデッドだけではなく、まだほかの浮遊大陸にいる種族たちも楽園シャングリラへ呼び寄せたいようだ。
△▼△▼△
「ロミア女王、頼みがある」
続いて切り出したのは、ロディニアからやってきた
オルグキングであった。
「儂らミュータントの戦いは、もうここではない。戦いしか知らぬミュータントは無用の長物だ。ロミア女王は異世界召喚の儀が行えると聞き及んでおる。ある程度の復興は手伝わせてもらうが、済んだ暁には儂らミュータントと異界へと送って欲しい」
「……分かりましたわ。破壊主マグナ・マテルとの戦いに協力して下さったオルグキングを始めとしたミュータントの願いは、極力叶えますわ」
「済まぬな。やはり我々は平和は肌に合わぬ。まだ見ぬ戦いの場で構わぬよ」
△▼△▼△
「で、テッサはどうするんだい? 破壊主マグナ・マテルを倒した今なら、アークもキミを開放してくれると思うけど?」
『ウォルフが言ってくれたわ。私は私だって。それにもう“オリジン”は要らないでしょ? だから私はウォルフのオペレーションAIであり続けるわ』
カラドボルグを整備する
クロト・アーマースミスの前に、平面ホログラフィー画像として現れたテスタロッサはそう答えた。
彼女の肉体はおそらくアークの最深部に眠っている。
アークは最後の“オリジン”であるテスタロッサを守るために造られたのではないかと、クロトの予想していた。
アーケディア王国の文明レベルは中世だが、アポストル(使徒)がおり、ドラグーンアーマーやスタンドガレオンがある……全てはテスタロッサを守るため、と考えると、これらの文明レベルと不釣り合いなものやアークの今までの自律的な行動もしっくりくるのだ。
それに、これはクロトの推測レベルなのでロミア女王やウォルフには言ったものの、テスタロッサには言っていないが、彼女の見立てでは、テスタロッサの身体はアークの中枢そのものと言っても過言ではない。下手に開放すれば、アポストルたちが現在の機能をそのまま維持できるか予想が付かないこともある。
『ウォルフは私がいないと何もできないから、しっかりサポートしないとね』
「……テッサがそう決めたならボクが口を挟むことじゃないよ」
テスタロッサは“オリジン”ではなく、カラドボルグの、いや、ウォルフのオペレーションAIとして生きる道を選んだ。
それが彼女にとって幸せならそれでいい、と思うクロトだったが、「あの朴念仁のどこがいいんだか……」と内心半ば呆れていた。
「ところで、肝心のウォルフはどうしたんだい?」
『ジェニーと騎士団の駐屯地の甘味処の開拓に出掛けてるわ。ジェニーは王都レンスターの甘味を出すパブはほぼ抑えたから、今度は騎士団の駐屯地に新たに造られたパブなどを回るんだって』
「……ま、今まで戦い続きだったから、良いんじゃないかな」
長い旅路の果てにようやく訪れた平穏を、ひょんなところで感じつつ、クロトは創造主マグナ・マテルとの戦いで損傷したカラドボルグの修理を再開するのだった。
【真の楽園への重要な一歩 完】