・守り通したもの
【使徒AI】学級委員長を搭載したカゲミツを身に纏い、
青井 竜一の姿はウィックロー魔法師団の駐屯地にあった。
「ウィックローで数少ないドラグーン乗りとして、前衛の役割は果たすさ」
学級委員長と共に、ドラグーンレーダーの反応を注視してバルバロイの陣形を予測し、視界の映る情報と照らし合わせて確認する。
星詩と星音を妨害してくるバルバロイ・キリギリスたちとその護衛のバルバロイ・リッパーたちを先頭に、両翼中衛をバルバロイ・スカラーたちとバルバロイ・サーペントたちが固め、一番安全な最後方に、バルバロイ・ヘッジホッグたちとバルバロイ・ポジトロンたちが控える。
まずは固定武装の火縄銃で銃撃する。
ある程度バルバロイ・リッパーたちに斬り払われるのは計算に入れた上で全弾発射し、斬騎剣<D>に持ち替える。
龍の瞼<D>による加速を行った竜一が、カゲミツを突撃させた。
狙うは最後方のバルバロイ・ヘッジホッグやバルバロイ・ポジトロンだ。
一度の発射数が多く、範囲が桁違いに広い生体ミサイルや、威力の高い荷電粒子砲を、いつまでもばかすか撃たれてはたまらない。
「そろそろ黙らせておく必要があるか……」
斬騎剣<D>を手に、一気に加速してまずはバルバロイ・キリギリスやバルバロイ・リッパーが屯する最前線を突破する。
当然バルバロイ・スカラーやバルバロイ・サーペントが、魔法や炎のブレスで攻撃してくるものの、向けられる殺気を頼りに全力回避し、避けられないものは学級委員長のサポートを受けて、リボルバーに装填される弾丸の如くバレルロールして避ける。
被弾を龍の瞼<D>の追加装甲で耐え、回避と防御の三段構えで凌ぎ切り、中衛の突破も成功させた。
斬騎剣<D>の刺突に手首の捻りを加えて回転突きとし、衝撃波を放ってバルバロイ・ヘッジホッグたちとバルバロイ・ポジトロンたちへ攻撃を加えていく。
貫通特性で複数攻撃を行える利点を生かし、速やかにダメージを重ねると、囲まれて逃げ場がなくなる前に一気に離脱に転じた。
* * *
コールブランドに搭載している
【使徒AI】駆け出しアシスタントに、ドラグーンレーダーによる敵味方の反応情報で戦況を監視してもらいつつ、
朔日 弥生は駐屯地の防衛を行っていた。
戦場には、マンスター騎士団所属のトルバドールやジオマンサーらが奏でる、星詩と星音の旋律が響いている。
バルバロイのテリトリーは中和が済んでおり、弥生が戦うには支障ない状態だ。
『……さて。始めましょうか』
弥生はバルバロイ・スカラーを最優先目標に定めた。
バルバロイの群れは侵攻している全ての駐屯地で似たような戦略を取っており、それはこの王都レンスターに近いマンスター騎士団の駐屯地も例外ではない。
そのため、バルバロイ・スカラーを狙うためには、位置関係的にバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーに狙われることを、ある程度許容する必要がある。
『状態異常のばらまき、能力の低下……。こちらの行動の妨害。残しておいていい結果になるとは思えませんから、多少のリスクを背負ってでも早期撃破しておきませんと』
どの道、バルバロイ・キリギリスは優先対象としては次点に入っているし、バルバロイ・キリギリスを攻撃していれば、それを護衛するバルバロイ・リッパーにも自ずとダメージが蓄積していくだろう。
バルバロイ・リッパーよりバルバロイ・ヘッジホッグとバルバロイ・ポジトロンを狙いたいが、それが許されるかどうかは戦況次第だ。
どの道、状況次第で優先順位など容易くひっくり返るもの。
それを弥生は熟知していた。
呼応式加速装置<D>による加速で間合いを調節しつつ、携行する二挺のマギ・シャドウハックバス<D>を使い、器用にバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーを掻い潜って、弥生のコールブランドはバルバロイ・スカラーへ狙撃を決めていく。
魔法で反撃を試みるバルバロイ・スカラーだったが、バルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーへの警戒も兼ねて、執拗にヒットアンドアウェイを繰り返すコールブランドへ、高精度の攻撃を行うことができない。
代わりとばかりにバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーが間合いを詰めてくるも、その歩みも一斉に射出されたマジックミサイルで止まった。
『近寄らないでください』
射撃と同時に弾丸を装填する一連の動作を集中して行う関係上、どうしても近寄られると脆い弥生は、徹底していかに間合いを保つかを追及していた。
そのため、圧倒的有利の状況を維持したまま、遠距離から淡々とダメージを伸ばしていく。
火力を発揮する役目としては、十分な働きだった。
バルバロイ・スカラーの数が、目に見えて減っていく。
* * *
【使徒AI】駆け出しアシスタントを搭載した銀装竜を操り、
綾瀬 智也はマンスター騎士団駐屯地の防衛に当たる。
『戦局の把握とレーダー反応の監視は頼みましたよ』
駆け出しアシスタントがドラグーンレーダーの監視を行う中、智也はバルバロイの群れを構成する種類のうち、バルバロイ・キリギリスに狙いを絞った。
奇襲をかけるため、カーネリアンマント<D>の熱源隠蔽効果を用いてバルバロイたちの監視の目を欺き、障害物も利用して死角へと移動を試みる。
聴覚や嗅覚、視覚による探知に関しては無防備なため、慎重過ぎるほどの確認を行い、時間はかかっても確実に見つからずに進める進路を探す。
『その分味方へは負担をかけてしまいますが……。それは、これからの働きで相殺するとしましょう』
マンスター騎士団の味方も智也の動きには気付いているようで、積極的にバルバロイの群れを引きつけてくれているようだ。
ゆっくりと進み、バルバロイ・スカラーの集団がいる方の側面を取った智也は、充分にバルバロイ・スカラーたちの動きを確認した。
人型なので、甲虫型とは探知方法がやや異なる。
バルバロイ・キリギリスの近くにいるバルバロイ・リッパーの存在もネックとなった。
配置情報を伝え、マンスター騎士団の面々に、バルバロイ・キリギリスを孤立させることができないか頼んだ。
騎士団の面々がバルバロイ・リッパーをある程度だが誘導してくれた。
『仕掛けます』
殺気への感知能力を頼りに、智也は突撃を決行する。
間合いを詰める際に四方八方から突き刺さる殺気を置き去りにし、スピットファルクス二刀流による連撃をバルバロイ・キリギリスに叩き込む。
本当なら追撃したかったものの、マンスター騎士団の協力を得てもバルバロイ・キリギリスのみを孤立させるのは難しかったようなので、ヒットアンドアウェイに切り替え離脱した。
* * *
どれほど戦っていただろうか。
気付けば、各駐屯地に押し寄せていたバルバロイの群れは、嘘のように姿を消していた。
残っているのは、夥しい数のバルバロイの死骸と、戦いの激しさを物語る、余波で破壊された駐屯地の建物が少々。
幸いなことに、領民たちはもちろん、戦った特異者たちにも犠牲者は出なかった。
その事実に比べれば、物損被害など大した問題にはなるまい。
ようやく、各駐屯地にも、マグナ・マテル撃破の一報が伝わってきた。
誰もが、勝利を祝福する。
戦える者、戦えない者、その区別なく皆で喜びを分かち合った。
勝ったのだ。