・アルガス騎工団&キルデア騎士団1
【使徒AI】メルセデスを搭載したシュワルベWRzwieを操縦し、
成神月 鈴奈は駐屯地の防衛準備を急ぐ。
『駐屯地が襲われているのは、私たちだけではありません。戦力を回してくださったキルデア騎士団の皆さんのためにも、ここを撃退して恩返しに向かいましょう』
全体通信で全員に語りかけた後、鈴奈はキルデア騎士団の面々に通信を繋ぎ、個別に改めて手短に礼の言葉を伝えた。
続けて作戦を説明し、両騎士団の認識を共有して鈴奈の合図を切っ掛けに、全員で戦闘に突入する認識を共有した。
* * *
アロンダイトに搭載された
【使徒AI】駆け出しアシスタントと協力しつつ、
邑垣 舞花はバルバロイの群れを迎え撃つ用意をする。
『どれだけ火力に行動を全振りして、殲滅速度を維持できるかが鍵になりそうですね……。殲滅が間に合わずに、大量に駐屯地に雪崩れ込まれると為す術がありません。必ず水際で止めなくては』
効果を発揮できるなら足止めも有効だろうが、それも火力が足りていることを前提にした戦術だ。
殲滅速度が遅いと、結局ジリ貧でいつか防衛側が決壊するだろう。
鈴奈のシュワルベWRzwieのステージ上に立つ
ノーン・スカイフラワーも、そのことは熟知していた。
「そうだね! 絶対に、ナルカミを守らないと!」
ノーンがスプリング・ウィンドを発動させる。
優れた呼吸法と歩行技術で、揺れる足場をものともせず、ノーンは朗々と星詩を歌う。
壱与とのシンクロナイズを前提に楽曲された春風のメロディーが、星音と混ざり合って相乗効果を発揮していく。
清らかな風のもと花びらが舞って、フルール・歌劇団の仲間を癒やしつつ、風の加護でアシストした。
* * *
カリバーンⅡに
【使徒AI】鬼姫(通常コピー)を搭載し、
西村 由梨はアクアオーラマント<D>【カーネリアンマント<D>】で熱源探知から逃れ、バルバロイの群れ奇襲を決めるタイミングを窺う。
鬼姫(通常コピー)から甲虫型バルバロイと人型バルバロイについての情報を聞き出して味方と共有してあるから、騎士団全体でほぼ優先順位の条件付けは完了している。
完了していないのは竜型バルバロイであるバルバロイ・サーペントくらいであるが、これは状況に応じて臨機応変に動けばよいだろう。
『開墾している農地を荒らされたらたまったものではないのだわ』
気は急くものの、後先考えず飛び出すわけにもいかない。
逸る気持ちを落ち着かせて、静かに時を待つ。
その間に、
高天原 壱与がブリーズ・プランタニエールを発動させた。
展開された花園を駆け抜ける華やかな春の風が、アルガス騎工団のメンバーを包み込む。
乱れた心を癒やし、戦うための力を高めていく。
「準備は済んだ。行け」
チェーンサークルを落下防止柵代わりに、壱与がノーンと共に衝撃に備え身構える。
しばらくして、鈴奈のシュワルベWRzwieが加速しバルバロイの群れを射程に捉えた。
『総員、戦闘開始してください!』
鈴奈が合図を出した。
* * *
ヒルデガルド・ガードナーのデュランダルが、淀みない動きで疾駆する。
愛機の調子は上々だ。
カーネリアンマント<D>で熱源探知とレーダー探知から身を隠し、物陰に隠れて視覚探知から逃れ、さらにじっとするとことで物音の探知からも逃れたヒルデガルドは、完全に背景の一部になりながら鈴奈からの合図を待っていた。
「アルガス騎工団一番槍! 迎撃するわ!」
合図が来たのを確認して、一気にフレキシブル・バーニアの勢いを全開にし、最大効率で加速を行った。
機体をトップスピードに乗せると、ここからはヒルデガルド自身の技量で速度を上乗せする。
雷の力を発生させ身体を強化し、それを機体の反応速度にまて適合させると、トルネード・シースに納めたアイス・カンプガイスト<D>を用いた居合斬りに繋げた。
バルバロイ・キリギリスに狙い定め、すれ違いざまに抜刀する。
斬線が走り、バルバロイ・キリギリスの胴体を抜ける。
避けようとしたバルバロイ・キリギリスだったが、巻き起こったトルネード・シースの竜巻に邪魔され、動けなかった。
しばらく止まっていたバルバロイ・キリギリスの身体がふたつに別れ、崩れ落ちる。
「一丁上がり、と。次はどうしようかしら」
戦場を俯瞰し、戦況を確認し、速やかに状況を把握すると、さらに次の敵を狙えると判断したヒルデガルドは、続けて近くにいたバルバロイ・リッパーに斬り下ろしと斬り上げをほぼ同時に放った。
二本の鎌に受け止められ、さらに四本の鎌を振り上げられたので、フレキシブル・バーニアをふかして離脱する。
* * *
龍の翼膜【D】で防御性能を上昇させ、さらに加速の切り札としたノーマ・クラリッサを、
水野 愛須は鈴奈の合図と同時にバルバロイ・の群れに突っ込ませた。
『ダイエットがてら害虫駆除するとしましょうか!』
愛須の目的は、バルバロイたちのヘイトを集め、多くの注意を引いて囮となること。
特に、愛須を含めた前衛部隊の第一目標がバルバロイ・キリギリスなので、できるだけ多くのバルバロイ・リッパーを、バルバロイ・キリギリスたちの傍から引き離しておきたかった。
バルバロイ・リッパーが振るう六本腕の鎌の軌道を読んで、スタンドガレオン並の高速性能を生かし、ショートダッシュを繰り返してジグザグに回避しながら【青藍】アムド・フレクスランスによる刺突を繰り出す。
『遅いですよ!』
移動に緩急をつけ、バルバロイ・リッパーたちを翻弄する愛須は、次の瞬間にはその背後を取っていた。
その背中を突き刺しつつ、再度離脱する愛須は、一撃離脱を繰り返しつつも、バルバロイ・リッパーたちの六本腕の動きを観測し続けていた。
戦況が不利になっていないことを確認しつつ、充分にバルバロイ・リッパーたちの攻撃パターンを観察したところで、再突入する。
敢えてバルバロイ・リッパーたちの周囲をうろちょろすることで、少しずつバルバロイ・キリギリスたちから引き離していった。
* * *
ドラグーンレーダーで得たバルバロイの反応を元に、敵味方の位置関係を把握した舞花は、針鼠のような武装を全展開した。
『掃射準備開始……。出し惜しみはしませんよ』
主武装である小口径艦砲。
機体の固定武装であるガストラフェテス砲。
さらには、孫の手<D>に装着したドラグーンアーマー用ボウガン。
これら全てを展開したアロンダイトの姿は、とても物騒な針鼠に違いなかった。
大腿部側面から地面に撃ち込まれた固定用アンカーの存在が、これから行う一斉攻撃の剣呑さを増している。
『前武装展開完了。砲撃ポイントを味方に通達。全機、巻き込みに注意してください』
警告の後に一斉攻撃が行われ、無数の砲弾とボウガンの矢が飛び、広範囲に命中し種類を問わずバルバロイの群れ全体へダメージを与えた。
着弾箇所によって当たっていなかったりそのダメージ量にはばらつきがあるものの、一番被害が大きい箇所はこの一撃でバルバロイが弾け飛んだところもあった。
ちなみに、倒れたのはバルバロイ・サーペントである。
バルバロイの群れが反撃を行う。
エコーサテライトを掲げたノーンが、光の楯を形成して鈴奈のシュワルベWRzwieを守った。
「ちょっとでも足しになればいいんだけど……」
主にバルバロイ・スカラー対策に、ノーンは真白のドレスの光を振り撒き、自分と味方の毒と精神異常への抵抗力を高めた。
実際に、多種多様な魔法を斐鶴バルバロイ・スカラーは、状態異常を引き起こす魔法も心得ていたので、これはバルバロイ・スカラーに対する牽制となった。
* * *
バルバロイの群れは、浸透戦術を取っている。
鈴奈はそれを見て取ると、すぐに動いた。
『駐屯地内で乱戦を起こすわけにはいきませんね。なら、これでどうでしょうか』
シュワルベWRzwieから放たれたのは、数えきれないほどの無数の光線だ。
弧を描いてまるで牢屋の檻のように全方向からバルバロイの群れを包み込んだ光線の束は、収束して鉄槌のようにバルバロイの群れの中心地点に突き刺さった。
ちょうど位置的には、バルバロイ・ヘッジホッグとバルバロイ・ポジトロンの先頭集団がいる辺りだ。
遠目に少なくない数の爆発が連鎖して起こっている。
驚いたように隊列を乱すバルバロイの群れに対して、鈴奈は攻撃の手を休めない。
先ほどは拡散させて放ったレーザーを集束させ、極太のレーザービームとして放つ。
『薙ぎ払いますよ!』
レーザービームは身を挺して先頭のバルバロイ・リッパーが受け止め、その身を犠牲に六本腕で斬り払われた。
『……なるほど。迂回させて庇われない位置に当てる必要がありますか』
バルバロイ・リッパーの反応を見た鈴奈は、続けて近接ドラグナー組への支援としてビットボマー<G>を射出した。
遠隔操作して、あらゆる方角からオールレンジ攻撃を仕掛ける。
それとほぼ同時に、アルガス騎工団の近接ドラグナー部隊がバルバロイの群れと激突し、交戦を開始する。
* * *
ステージで星詩、星音を維持しているノーン、壱与らを意識してドラグナー組全体を範囲外に置かないよう意識して位置取りを保ちつつ、鈴奈は撃破されたバルバロイ・キリギリスの死骸をシュワルベWRzwieのマニュピレーターで掴み、掲げて盾とした。
『即席の遮蔽物としては充分ですね』
蛇のようにうねって回避機動を行いつつ、フレアデコイ・プロトコル<G>を射出して被弾の可能性を下げ、さらにはいざという時アイアンカイト<G>で受けれるよう、注意深く位置取りを調整していく。
由梨が動いた。
『今なのだわ!』
何が何でもここで止める。
その強い意志で持って、バーングラディエーターで斬りかかり、バルバロイ・リッパーと斬り結んだ。
手数は六本腕を持つバルバロイ・リッパーが圧倒的に多いが、奇襲の勢いでもって強引に突破し、バルバロイ・キリギリスに到達して幾重ものカマイタチを斬撃に乗せて放ち、その首を刎ねた。
熱源反応と身を隠しての奇襲を中距離から繰り返し、由梨はバルバロイ・リッパーの護衛を掻い潜って着実にバルバロイ・キリギリスの数を減らしていく。
周囲を見渡してもバルバロイ・キリギリスの姿が見当たらないことを確認した由梨は、さらに進撃し、今度はバルバロイ・スカラーに襲いかかった。
『搦め手は厄介。さっさと落とすのだわ!』
斬撃と同時に移動を行い、ヒットアンドムーブで動く由梨は、あらぬ方角へ魔法を放つバルバロイ・スカラーを手玉に取る。
鬼姫(通常コピー)がカリバーンⅡの魔力ドライブ炉のリミッターを一時的に解除し、出力を上げる。
『合わせるのだわ!』
「成し遂げてみせよう」
壱与がステージ上から由梨へ向けて、虹色の光のラインをつなぐ。
ブリーズ・プランタニエールが由梨へ収束し、爆発的に効果を高めた。
由梨のカリバーンⅡが一気に加速し、バーングラディエーターに炎を纏わせ、一撃でバルバロイ・スカラーを焼き斬った。