・ベイグラント騎士団
アーラ・フィオリーニのシュワルベWRzwieのステージ上に、
ユファラス・ディア・ラナフィーネの姿があった。
セーフティチェーンで振り落とされないよう対策をしつつ、戦いを始めたベイグラント騎士団の戦況を見守る。
「前線へ行ってくれている仲間のためにも、オレたちで帰る場所を護るぞ」
この駐屯地は、団員たちにとって大事な帰る場所だ。
植民している住人もいる以上、絶対に失ってはならない。
「行こう、全てが終った後、ここで皆と祝杯が挙げられるように」
『勝って、また帰ってこよう。今日のこの出来事を、またひとつ良い思い出にするために。……悲劇には、させないから』
「……ああ。そうだな」
ユファラスとアーラは心をひとつに、決意を固めた。
チェーンサークルを落下防止柵代わりに、
恭司・プラズランはアーラが操縦するシュワルベWRzwieのステージ上に立っていた。
「色んなことがあったよね。築いてきたもの、手に入れたもの、全部、大切なものだよ。失うわけにはいかない……!」
大きく息を吸い込んだ恭司の身体が、青いオーラに包まれる。
アーラのシュワルベWRzwieのステージ上に、
アリーチェ・ビブリオテカリオの姿があった。
『いつもありがとう。今回もよろしくね』
アリーチェがステージから手を振る。
恭司もアーラに今までのことも含め、礼を告げた。
「今までありがとう……!」
『お互い様。今回も頼りにしている』
アーラもアリーチェと恭司へ手を振り返してくれた。
マーメイド・スフォルツァートから発せられた青いオーラが、アリーチェの全身を包み込む。
* * *
演説を始めようとしているユファラスに合わせ、恭司は静かに歌唱を始めた。
ハミング程度の声量ではあるものの、シャングリラまでの遥かなる道のりを偲ばせる、雄大で荘厳な詩が響く。
アーラがライトトラップ<G>でシュワルベWRzwieを発光させる。
そのステージから、ユファラスは領民たちに見えるように、パラメトリック・スカイハイを掲げた。
「団長はこの事態を収束するために前線へ向かった。オレたちはここで生き残ることが戦いだ。オレたちが力を貸す。今生きることに全力を尽くしてくれ!」
恭司の詩はユファラスの演説を盛り上げ、相乗効果で皆の勇気を奮い立たせ、バルバロイに立ち向かう勇気を与えた。
演説を聞いていた人々に恭司が笑いかける。
「ユファラス参謀は今までの戦い、一度たりとも負けてないんだよ! だから皆安心して待っててね! 必ず勝利を皆に届けるよ!」
鼓舞する声が領民たちに届いたかどうか、ユファラスには分からない。
だが、爆発するかのように地上で巻き起こった歓声が、その答えなのだろう。
安堵の感情を隠しつつ、ユファラスは仲間たちに方針を告げた。
「領民への被害を防ぐことが最優先だ。オレたち自身が囮となり、バルバロイを引きつける。充分に引き離した後に殲滅するぞ」
当然、ユファラスたちにかかる負担は大きくなる。
だが誰からも異論の声は出ない。
気持ちは皆同じなのだ。
* * *
アリーチェはサベージツイスターを発動した。
『さて、と。やるわよ、恭ちゃん!』
恭司がアリーチェに頷いて答える。
「うん、やろう。星詩を響かせて必ず勝とうね!」
複数方向から突風が巻き起こり、中央に終結して渦を巻く。
続けて導火線のように伸びていく火が、集合して大きな竜巻となった風に巻き込まれ、融合して炎風となった。
勢いは留まらず、巨大な炎の竜巻に成長すると、炎の大竜巻は渦を巻く模様の焼け跡を地面に残しながら自ら意思を持つかのように移動を行い、バルバロイの群れを引き裂くように飲み込んでいく。
炎の大竜巻の中に閉じ込められたバルバロイたちは、業火に焼き尽くされていった。
優しいアリーチェの歌声が同時に響き、クォルコネリア<D>の光線を連発してごりごり削れていく潤也の精神力を回復していく。
「合わせよう」
アリーチェの星詩発動を確認し、ユファラスが空に輝く太陽の如き大火球を打ち上げ、ステージを照らした。
バルバロイの群れからは、遠距離攻撃がひっきりなしに飛んでくる。
飛んできた荷電粒子砲に対し、ユファラスは巨大な盾を形成し、受け止めさせることで防いだ。
一撃で破壊された盾が、その役目を終えて消えていく。
その衝撃冷めやらぬ間に、生体ミサイルが雲霞の如く押し寄せる。
「また来るか……! 気が抜けんな!」
ユファラスは無数の水の並を起こし、水鉄砲のように放射して対空射撃を行う。
『回避する。……掴まって』
アーラがフレアデコイ・プロトコル<G>を射出しつつ、シュワルベWRzwieの船体を蛇のようにくねらせ、残りの生体ミサイルを回避した。
反撃とばかりに、ゼッフィーロ<G>で攻撃する。
バルバロイ・ポジトロンまでは届かず、バルバロイ・リッパーに斬り払われた。
アリーチェと被らないようタイミングを測り、恭司は不死鳥を発動した。
壮大な響きの歌と共に、全身が燃え盛る炎の鳥が現われ、その両翼を広げた。
舞い散る羽のように、小さな炎が飛び散り、翼に触れた者たちが癒やされていく。
「何度でも支えるよ。守るべきものが後ろにある限り」
ユファラスはフィオリトゥーラを発動した。
恭司の星詩を拡張すると共に、バルバロイの群れの視界を万華鏡のように変化させ、六つの水の波を起こして六方向から押し寄せさせた。
「逃がすものか!」
雲を放ち、範囲外へ逃れようとしたバルバロイ・リッパーを絡め取りその場に固定する。
すかさず飛来した大量の光線が、バルバロイ・リッパーに降り注いだ。
六本腕とはいえど、到底全て斬り裂ける量ではなく、その姿が爆発する光の中に消え去る。
『倒した』
アーラの淡々とした、でもどこか誇らしげな声が、シュワルベWRzwieから聞こえた。
* * *
【使徒AI】敏腕サポーターを搭載したエスカリボールⅢに乗り、
星川 潤也はバルバロイの群れを相手に獅子奮迅する。
『どこからでも来やがれ! 俺たちがいる限り、ここから先へは一歩も通さないぜ!』
大量の生体ミサイルや、荷電粒子砲が飛び交う中を、針の穴に糸を通すような複雑かつ繊細な経路で回避を全成功させていく。
それを可能とするのは、エスカリボールⅢの高い機動力と、さらにそれを高める呼応式加速装置<D>、そして敏腕サポーターと息を合わせて難易度の高い回避を行うことのできる潤也のドラグナーとしての腕だ。
『反撃だ! 食らいやがれ!』
クォルコネリア<D>から放たれる銀色の光弾が、流星のように飛翔してバルバロイの群れに着弾する。
爆発に巻き込まれるバルバロイたちだったが、バルバロイ・リッパーだけは六本腕の鎌で光弾を斬り払い、直撃を免れていた。
バルバロイ・リッパーに狙い定め、潤也はエスカリボールⅢを突撃させる。
迎撃に放たれたバルバロイ・スカラーの魔法を常識外の加速を見せて置き去りにすると、バルバロイ・リッパーに肉薄する。
相対したバルバロイ・リッパーは、その六本腕を駆使して近接戦闘を挑んできた。
だが、斬撃の軌道よりも、最短距離を進む刺突の軌道の方が、到達が早い。
『遅いぜ!』
中段に構えたクォルコネリア<D>を潤也が怪力を発揮して連続で突き出し、バルバロイ・リッパーの鎌による六連撃を嘲笑うかのように、空振りさせながら無数に刺突を決めていった。
ミーラル・フォータムを乗せたガンデッサが、勢いよく空中を飛翔する。
『なるほど、なるほど。かなり危険ですわね? ここで押し戻さなければ、駐屯地が大損害ですわ』
戦況を見定め瞬時に視界内の敵味方を識別したミーラルは、機体を急降下させながらバルバロイの群れ目掛けて固定武装のガトリング砲を乱射する。
着地と同時にマギ・グレネード<D>を投擲した。
遠目に爆発が起きたのを確認すると、突然の上空からの奇襲で一時的に混乱しているバルバロイの群れへ、インファントキラー<D>を引き抜き突貫した。
その頃にはバルバロイの群れも落ち着きを取り戻しているものの、そんなことミーラルは知ったことではない。
『ぎゃふんと言わせて差し上げますわ!』
人型特攻を活かして、バルバロイ・リッパーからバルバロイ・スカラーへと流れるように斬撃を繋げ乱舞を放っていく。
自然と敵陣へ斬り込む形になったので、どうせならそのまま抜けてしまおうと、足を止めずにむしろ加速していく。
リボルバーの弾倉が回転するかのように回避を行いつつも、斬撃を放つ手は止めない。
圧倒的な機動力で正面突破し、バルバロイの群れの陣形を引き裂いて分断していった。