・フルール歌劇団&ダブリン聖歌団2
【使徒AI】お局様を搭載したファルケンHTを操縦する
剣堂 愛菜は、応援として駆けつけてくれたダブリン聖歌団の面々に、フルール駐屯地の温泉の特別優待を与えることを約束した。
特に見返りを求めて援軍に来たわけではないダブリン聖歌団だったが、気持ちを示されて嬉しくないわけがない。
戦意を高めて配置についた。
小さな声で、愛菜はお局様にお願いした。
『今のうちに、敵について教えて……』
愛菜の要請を受け、お局様から甲虫型と人型バルバロイに対するレクチャーが行われた。
それをふんふんと頷きつつ聞く愛菜は、教えられたことを復唱して暗記する。
ついでに簡易点検を行い、機体やその武装に異常がないことを入念に確認した。
お局様にドラグーンソナーSIの監視を任せ、愛菜はなるべく丁寧にファルケンHTを操縦する。
ステージに歌音とフレデリカを乗せているため、あまり無茶な回避機動を行うのは気が引ける。
もちろん命には代えられないので絶対に当たってはならない攻撃は回避するしかないものの、そうでないものは防御で済ませたい、
そのためというわけではないが、ファルケンHTの防御性能は中々のものだ。
『うん。……このくらい?』
大和とコロナからつかず離れずの位置を保ち、歌音とフレデリカが支援しやすい位置取りを行うと、愛菜はビットボマー<G>を射出しあらぬ方角から攻撃して援護した。
ビットボマー<G>を囮に、強力な光線として虹色のエネルギーを一点に集中させて放ち、直撃させる。
愛菜のファルケンHTと肩を並べるのは、
サヤカ・ムーンアイルのシュワルベBFだ。
ステージに
キャスリーン・エアフルトを乗せ、駐屯地の防衛にあたる。
『ここは、私たちの返ってくる場所。シャロ団長の返ってくる場所。私たちで、お守りしましょう』
二機で協力し、前線のドラグナーたちを援護する。
ファルケンHTが防御、シュワルベBFが攻撃担当だ。
サヤカはステージにいるキャスリーンへ声掛けした。
『なるべく振り落とさないようにしますねぇ』
「気にせずとも大丈夫ですよ。私にはこれがありますので」
ステージに設置したチェーンサークルを、キャスリーンは手で示す。
「スタンドガレオンの景観を多少損なってしまうので、そこは申し訳ないのですが……」
『えっ、全然気にしなくていいんですぅ! 安全には代えられませんから!』
胸の前で、サヤカがぱたぱたと両手を振った。
歌音の星詩に合わせて星音を発動させたキャスリーンは、地面から石の柱を突き上げさせ、同時に強力な上昇気流を発生させることで、風に殴られるかのような強烈な衝撃と共に、バルバロイたちを宙へ打ち上げた。
次々に落下し、墜落のダメージを負うバルバロイたちは、同時に自分たちが巻き上げさせられた土煙に視界を遮られる。
「まあ、熱源探知をなんとかしないと隠蔽効果はあまり意味がありませんが……」
呟きつつ、さらなる支援攻撃を行う。
群れ後方のバルバロイ・ポジトロン目掛けて、邪魔されないようにバルバロイ・リーパーの動向を窺いつつ、タイミングを測って大火球を発射し、直撃と同時に発生した熱波で焼いた。
歌音の星詩、キャスリーンの星音がそれぞれ響き渡るのを聞きながら、サヤカはライトニング・ロア<G>をぶっ放し、着弾地点から雷を拡散させた。
ダイナミックに宙返りしつつ上下逆さまの状態で狙撃するという、何度の高い回避と攻撃を決めたサヤカは、ステージの歌音とキャスリーンのことを気遣った。
『お二人とも、大丈夫ですか?』
しっかりどこかに掴まっていたのだろう。
それぞれ問題ない旨の返事が返ってきた。
安全を確認すると、ライトニング・ロア<G>の連射性能を限界まで引き出し、全弾発射して落雷の音を連続で鳴り響かせる。
* * *
ファルケンHTを操縦する
ウィリアム・ヘルツハフトは、今回星音は封印して攻撃に専念し、大和とコロナを援護する。
『バルバロイ・キリギリスを全滅させん限り、俺の星音は役に立たんからな……。それならば、砲戦特化にして火力を出した方がいい。攻撃は最大の防御ともいうしな』
大きな音を立てて爆発する火球を周囲にばらまき、突入してきたバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーたちの群れをかく乱する。
途端に響き渡る異音に、ウィリアムは、やはり己の選択は正しかったのだと悟った。
バルバロイ側は、バルバロイ・キリギリスの星詩と星音妨害能力を最大限生かすため、この種を最前線に置くという大胆な戦法を取ってきた。
当然集中攻撃を受けて全滅させられる危険性があるものの、バルバロイ・リッパーたちの存在が、その可能性に歯止めをかけている。
遠距離攻撃に滅法強いバルバロイ・リッパーたちは、バルバロイ・キリギリスに対する護衛役として最適だからだ。
そして、この二種の連携に戸惑っていると、続々とバルバロイ・スカラーやバルバロイ・サーペントたちが突入してきて、魔法やら炎のブレスで暴れ始めるため、それより早くバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーの数を、最低でもある程度は減らしておかなければならない。
『どれほど難しいことであろうと、全力を尽くすまでだ』
パイプオルガンのような形をしたハーモニウムガン<G>を発砲し、四連続砲撃をしてバルバロイ・キリギリスの撃破を狙う。
バルバロイ・リッパーは相性の問題で、無視して他の味方に任せる方がいい。
的をバルバロイ・キリギリスに絞った。
砲撃から格闘戦に移行し、ファルケンHTに星型のフィールドを纏わせる。
機体そのものを手裏剣に見立て、高速横回転しながら突っ込んだファルケンHTは、バルバロイ・キリギリスの装甲をバターのように斬り裂き、真っ二つに両断した。
続けて、バルバロイ・リッパーを狙って攻撃参加する。
ファルケンHTのマニピュレーターでバルバロイ・リッパーを掴むと、空に舞い上がり、一回転して上下逆の姿勢を取って、そのまま急降下し機体そのものの回転力を使った振り下ろしで、バルバロイ・リッパーを地面に叩きつけた。
バルバロイ・リッパーの装甲がひしゃげ、破砕されると共に、地面が吹き飛んでできた地面の穴にバルバロイ・リッパーはすっぽりとはまった。
『後は任せたぞ』
通常飛行に戻ったファルケンHTが、勢いよく飛び去っていく。
トルネード・シースにスピットファルクスを納め、フルール・バーンが地を蹴った。
比翼の鳥のように、フルール・シェットが動きを合わせ、同じく地を蹴る。
瞬く間に駆け抜け間合いを詰めたフルール・バーンとフルール・シェットは、すれ違いざまに二機同士連携しながら穴から這い出てきたバルバロイ・リッパーへ斬りつけると、振るわれる六本の鎌を同時に掻い潜り、斬撃を放って幾重ものカマイタチを発生させた。
スピットファルクスを振るってカマイタチを飛ばす大和が狙うのは、すぐ傍にいるバルバロイ・リッパーではない。
そもそも斬り払われるのが、目に見えている。
本当の狙いは、バルバロイ・キリギリスだ。
『まずは一体、か』
虚を突かれたバルバロイ・キリギリスが、まともに受けて細切れになった。
『この調子で倒していきましょう』
アルクス・カエレスティスが振り抜かれ、大和に無視されてその背後から鎌を振り上げようとしていたバルバロイ・リッパーが、さらにその背後から逆に飛翔する、コロナのカマイタチを受けてバラバラに切断され、地面に散らばった。