・フルール歌劇団&ダブリン聖歌団1
ベネディクティオ・アートマのパルトナーのステージ上で、
数多彩 茉由良は駐屯地に侵攻してきたバルバロイたちの迎撃に当たっていた。
【使徒AI】ロゼッタが、レーダー反応を注視しながら戦況の把握に努めている。
『激しく揺れちゃうかもしれないけど、ごめんね?』
「大丈夫ですよ。これがありますから」
申し訳なさそうに声をかけてくるベネディクティオに、茉由良は答える。
チェーンサークルを落下防止の手すりとして活用しつつ、星音を発動した。
バルバロイたちの視界を塞ぐように、一定範囲内の光が屈折し、発射する。
星音の対象とするのは、
カラビンカ・ギーターの星詩だ。
深呼吸して気息を整えると、カラビンカはルミナス・コンプレッツァを口元に寄せ、歌い出す。
「皆様に、勝利を届けますわ」
星詩を聴いた味方が獣型のオーラに包まれ、身体と視覚が強化される加護を得た。
さらに茉由良が空中の光をぐにゃりと歪ませ、文字や記号を象った。
ステージ上で舞うカラビンカの動きに合わせて変化させていき、星詩を引き立て、その威力を高めていく。
回転する万華鏡のように、色鮮やかに変化する視界に惑わされたバルバロイたちは、視覚は役に立たないと判断し、それ以外の索敵方法に切り替えた。
代替方法として主にふたつ上げられるのは、聴覚と、嗅覚による索敵だ。
バルバロイたちの敵意が膨れ上がる。
「攻撃、来ます……!」
茉由良が警告すると同時に、無数の生体ミサイルが空中に撃ち上げられ、弧を描いて天を飛翔する。
山なりに落ちてくるその行き先には、パルトナーのステージも含まれていた。
『デコイ、射出するよ!』
ベネディクティオがフレアデコイ・プロトコル<G>を使い、ステージの周囲に発熱、発光するデコイを巻き散らして囮として、直撃する確率を少しでも低下させようとした。
デコイに反応し、あらぬ方角に逸れたミサイルが次々に先んじて爆発を起こす中、茉由良やカラビンカ、ベネディクティオらを対象に捉え、惑わされなかったミサイルが突っ込んでくる。
ひとつはパルトナーの操縦席を狙い。
残りはステージの茉由良とカラビンカを襲ってきた。
『か、回避ー!』
パルトナーを旋回させて何とか自分へのミサイルを避けたベネディクティオは、ステージ上に急いで目をやった。
チェーンサークルに縋りついた茉由良は、パルトナーの回避機動もあってミサイルの直撃軌道から外れていたが、カラビンカはあと少しのところで茉由良の伸ばした手を取れず、慣性のままステージ上を滑って、ミサイルの軌道上に身を晒してしまっている。
『大丈夫よ! あたしが守る!』
デーヴィー・サムサラのカゲミツが颯爽と現われ、カラビンカを庇いショルダーSシールド<D>でミサイルを受け止めた。
爆発で生じた煙をカーネリアンマント<D>を翻し、吹き散らす。
「回復しますわ!」
カラビンカは星詩を維持しつつ、自身の背後に美しい光をまとった女性の幻を出現させた。
女神のような神々しさを見せるその女性を伴い、舞踊を行うカラビンカは、デーヴィーの体力を徐々に回復させ、さらにバルバロイたちから受けるダメージを減少させる。
援護を受けたデーヴィーは、積極的にバルバロイたちと交戦し、その注目を集めた。
ノクターンフルートを演奏する茉由良は、バルバロイたちの知覚を潰そうとする。
「時間を稼いでください」
効果がはっきりと出るまで時間がかかるため、デーヴィーに囮役を頼んだ。
『あたしが狙われれば、その分茉由良たち後衛陣が楽になる。望むところよ!』
カゲミツの獲物であるビートルバスター<D>は、奇しくも甲虫型特攻武器。
甲虫型であるバルバロイ・ヘッジホッグやバルバロイ・ポジトロン、バルバロイ・キリギリスの三種類に狙いを絞り、果敢に攻撃を仕掛けた。
デーヴィーの全身から発生した雷の力が身体を強化し、カゲミツへと伝わる。
次の瞬間、突風を巻き起こしてカゲミツの姿は消えた。
姿を現すと同時に、始点と終点を結ぶ直線状にいたバルバロイたちが一斉に鮮血を噴き上げる。
高速の居合斬りを受けたのだ。
しかし奮戦するデーヴィーをすり抜け、バルバロイ・サーペントがパルトナーを射線に捉えた。
バルバロイ・サーペントが放った炎のブレスは、パルトナーのステージ上をも巻き込んだ。
迫る炎を前に、カラビンカは冷静にファイアープルーフを使って因子データを登録してある人数分、半透明の耐熱フィルムを形成させ、自分と味方の身を守った。
「そう簡単に、倒されると思ったら大間違いですわよ」
熱気の余波で珠のような汗を流しながら、カラビンカはステージに立ち続ける。
気丈に立つその背中を、炎で赤く染まった風景が照らし、煌々と照らし上げて美しく彩る。
『これでもくらえーっ!』
アンチドラゴカノン<G>の照準をバルバロイ・サーペントに合わせたベネディクティオが、固い鱗をぶち抜き砲弾を貫通させた。
茉由良が皆の体力と精神力の双方を整え、連戦に備えた。
* * *
領民の避難誘導を
【使徒AD】アラウンダーに頼んだ
フレデリカ・レヴィは、避難用地下シェルターの様子について報告を受けていた。
「良かった。大きな混乱はないのね? なら、引き続きメンタルケアをお願い」
続けて、フレデリカが次に行ったのは、ダブリン聖歌団への応援要請だ。
「忙しい忙しい。説明用の資料を纏めないと」
忙しなく、フレデリカがダブリン聖歌団へ説明する防衛計画説明のため、作業を行う。
完成するとフルール歌劇団全体に共有し、到着の知らせを受けてダブリン聖歌団を迎え入れに行った。
フルール・バーンに標準搭載されているドラグーンレーダーの反応を監視しつつ、
草薙 大和は味方との連携を意識して戦った。
応援要請を出したダブリン聖歌団は、きちんと駆けつけてくれたようだ。
『よし、ダブリン聖歌団はあの位置だな』
新しいレーダーの反応の位置から、ダブリン聖歌団の登場を把握した大和は、実際に通信でやり取りを行いつつ、まずは目の前のバルバロイたちの対処に当たる。
バルバロイたちは遠距離攻撃を中心に組み立てつつ、大集団で駐屯地に押し入り、無差別攻撃を行うという浸透戦術を使ってきている。
戦術なんてあってないようなバルバロイたちの戦い方だが、守るべきものも多いフルール歌劇団にとって、この無差別攻撃というのは思いの他厄介だった。
しかも、攻撃範囲が広いバルバロイが多いので、カバーしなければならない範囲も膨大だ。
『手分けするしかないな。僕たちはこっちに行く!』
『わたしも行きます!』
フルール・シェットを操縦する
草薙 コロナが、すぐさま後に続いた。
大和のフルール・バーンがいて初めて真の力を発揮できるフルール・シェットの特徴からしても、大和とコロナの関係からしても、ふたりセットで動くのは極めて理に適っている。
『僕たちが守る駐屯地には、戦えない人も数多くいる! 決して犠牲を出すな!』
『新たな悲しみを引き起こしてはいけません……。必ず、守り切りましょう!』
人型バルバロイに対して特攻を持つアルクス・カエレスティスを主武装としている関係上、コロナが狙うのは主にバルバロイ・リッパーとバルバロイ・スカラーの二種だ。
中でも、最前線に多くいるバルバロイ・リッパーに対して、攻撃する機会が多い。
愛菜のファルケンHTのステージ上から、
虹村 歌音は大和とコロナの戦いを援護する。
発動させるのは、花乱れ咲くパストラーレ。
「打ち合わせ通りに進めるよ!」
歌音がステップを踏む都度、その足元から色取り取りの小さな花が咲き誇る。
風に揺られて散った花びらが、空中を舞いステージを彩った。
響くアップテンポのメロディは、星詩を聴いた味方に元気を与え、強力な癒しと活力をもたらした。
ステージ上を吹く風は味方に風の加護を与え、同時にバルバロイたちの動きを抑え込む。
ウィンドライズ・ヴィヴァーチェが、星詩の効果上昇を後押しし、バルバロイたちの攻撃力を低下させる。
フレデリカへお膳立てする準備は、充分に整った。
二重、三重に高めた星素の力をフレデリカは如何なく発揮する。
フルール・ヴェルジェを発動させた。
植物の力を操り、フレデリカは周囲の桜の果樹園を出現させた。
果樹園から降り注ぐ太陽光は、浴びた者に活力を与えていく。
同時に空からは花びらが降り注ぎ、活力だけでなく戦意をも漲らせていった。
しかしこの花びらは、バルバロイにとっては毒に他ならない。
毒を浴びたバルバロイたちが混乱し、余計に負傷した。
「さあ、正念場ですよ」
フレデリカは星音を維持しつつ、味方を鼓舞した。
その間も、アラウンダーからは避難用地下シェルターの様子が現在進行形で報告される。
とりあえず大きな混乱は起きておらず、今後も起きそうにないということが分かって、フレデリカは漸く安心して胸を撫で下ろした。