・オーバーチュア騎士団&オワリ武芸団2
【使徒AI】女教師を搭載した空艇“蒼鷹竜”を操縦する
壬生 杏樹は、指揮を執る亜莉沙のフォローに動いた。
『前衛組を援護するよ!』
杏樹が狙うのは、バルバロイ・サーペントだ。
甲虫型と人型がほとんどのバルバロイの群れの中で、この種類だけが竜型で異彩を放っている。
オワリ武芸団とも協力する。
『情報を得るには、直接戦うのが一番手早そうだね……。それじゃあ、いくよ!』
杏樹は空艇“蒼鷹竜”でバルバロイ・サーペントを相手取るため、その側面へと移動を始めた。
バルバロイサーペントたちは、バルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーで構成された群れの前衛と戦う味方に対して、炎のブレスを吐いて攻撃を仕掛けている。
前衛を構成するこの二種の撃破に手間取っていれば、両翼を構成するバルバロイ・スカラーとバルバロイ・サーペントに攻撃され、さらにはバルバロイ・ヘッジホッグの生体ミサイルやバルバロイ・ポジトロンの荷電粒子砲まで飛んでくる。
言い換えれば敵の照準をコントロールできるともいえるので、前衛陣が耐え忍んでいる間に、敵の火力を沈黙させていく必要があった。
『武装のコントロールを回すよ! 照準よろしく! 私は機体の操縦に集中するから!』
女教師が杏樹から指示を受け、射出されたビットボマー<G>の操作を引き継いだ。
バルバロイ・サーペントに照準を合わせ続け、空艇“蒼鷹竜”が移動を完了するまでの囮の意味もこめて、積極的に砲撃を行わせた。
炎のブレスが標的を変え、ビットボマー<G>狙っていることを確認すると、女教師は空艇用圧縮空気砲の照準を静かに合わせ始めた。
射程はそんなに長くないので当てるのならもう少し近付く必要があるものの、杏樹は自ら近付くことはしない。
『先手を取られたら炎のブレスで攻撃されちゃうかもしれないからね……。ここは、向こうから近付いてくるのを待つべき!』
それまでは、散発的に飛んでくる攻撃を避けながら機会を窺うのがベストだ。
飛んでくる攻撃は、そのほとんどがバルバロイ・ヘッジホッグの生体ミサイルや、バルバロイ・ポジトロンの荷電粒子砲のみ。
警戒するバルバロイ・サーペントの炎のブレスは、上手く女教師がビットボマー<G>で釣ってくれている。
お陰で、攻撃範囲も掴めてきた。
『よーし。そのまま、少しずつこっちに誘導して』
指示を受けた女教師が頷き、少しずつビットボマー<G>を後退させていく。
釣られてバルバロイ・サーペントが群れから引きずり出された。
『今だよ! 発射ぁ!』
杏樹の声と共に、すかさず女教師が空艇用圧縮空気砲で、空気の塊を砲弾として発射した。
同時に杏樹は光を尾のようにたなびかせながら、空艇“蒼鷹竜”にダイナミックな回避機動を取らせる。
飛んできたバルバロイ・ポジトロンの荷電粒子砲が、回避した後の何もない空間を薙ぎ払い、抜けていった。
* * *
【使徒AI】駆け出しアシスタントを搭載したコールクラークの親機に乗り、
火屋守 壱星は飛翔する。
「夏鈴、状況はどうだ?」
尋ねると、駆け出しアシスタントからはあまりよくないとの回答が返ってきた。
「そうか……まあ、駐屯地が攻められているだしな。当然といえば当然か。領民の被害は?」
これの返答も、軽微とのこと。
避難の際に転倒したなど、些細な原因による怪我はあれど、バルバロイに襲われ重傷を負うなど、深刻な被害は今のところ報告されていない。
行方不明の領民も、今のところは出ていないようだ。
「なるほど。分かった、引き続き頼むぞ。俺たちもまずは、領民の避難誘導からだ」
駆け出しアシスタントにドラグーンレーダーの反応監視と戦況の把握を任せ、壱星は駆け出しアシスタントの道案内を頼りに、領民の避難誘導を行った。
毛玉場から毛玉たちを避難させるのも忘れない。
ふわふわもこもこの毛玉たちは、避難した領民たちの不安を和らげるという意味でも役立った。
「こいつらのことは任せるぜ。俺は、戦いに行ってくる」
自分に万が一のことがあっても、これなら毛玉たちが路頭に迷うようなことはあるまい。
そんなことを考えているとは表情からは微塵も窺わせず、壱星は味方に合流するため戦場へ向かった。
* * *
【使徒AD】エアバスタードの操縦するスタンドガレオンのステージ上にリズの姿はあった。
「あたしらの駐屯地に土足で踏み込んで来るはいい度胸じゃないか……。纏めて血の海に沈めてやるよ!」
駐屯地を脅かすバルバロイの群れへ明確な殺意を具現化し、オーラとして放出するリズは、普段とは違い口調を乱暴なものに一変させていた。
リズはバルバロイに対して頭にきていた。
完全にブチ切れている。
カオルコ・オワリもオワリ武芸団を率いて駆け付け、共闘態勢を取った。
オワリ武芸団は、迎賓館を攻めるバルバロイの群れに対して、一丸となって側面から喰らい付いた。
行きがけの駄賃とばかりにバルバロイ・スカラーの集団を真っ先に蹴散らして機能不全にすると、そのままバルバロイ・サーペントの集団を目指して前進を続け、その進路選択でもってバルバロイ・キリギリス、バルバロイ・リッパーの前衛組とバルバロイ・ヘッジホッグ、バルバロイ・ポジトロンの後衛組を分断する。
『今のうちに畳みかけるでゴザルよ!』
カオルコの呼びかけは、好機が来た証だった。
「こっちですヨー」
アイリスも、きちんと領民たちの避難誘導に当たっていた。
* * *
静かに、エルミリアが豊穣と試練の星シンカーを発動させる。
豊穣と試練をもたらす星への荘厳な祈りを捧げる歌声が流星を呼ぶ。
それは最初、僅かな予兆から始まった。
エルミリアの踊りに合わせ、少しずつ空に見えるその大きさを増していった流星たちは、間近に迫ると確かな轟音と熱量を放ち、響き渡らせながら、次々にバルバロイの群れへと降り注いでいく。
「おー! すっごい威力。でも、狙って当てるのは、ちょっと無理かな……」
直撃する度に広範囲に爆発してバルバロイたちを吹き飛ばす光景を見ながら、エルミリアは感想を述べる。
とはいえ回転する風のエネルギー波を利用して、流星の向きを変えて誘導弾のようにし、集弾性能を高めているので、群れ全体でいえば命中する確率自体は高い。
そして積み重なっていく分、総ダメージが凄まじい。
巻き込まれたバルバロイたちは、その悉くが倒れていた。
リズが星音を使おうとしているのを見て、杏樹は即座に全体通信繋げて叫んだ。
『皆、退避、退避ー! 巻き添えになるよ!』
充分に味方を巻き込まないことを確認した上で、リズはミルキーウェイの感情を発動した。
揺るぎない殺意が星音によって表現され、穏やかな風の音色に混じってスローテンポのピアノの音色が優しく響く。
一見穏当な効果に見える星音は、強酸の霧が指向性をもって領域展開されていくに従い、その攻撃性を剥き出しにする。
「このクソ共が……あたしのもんに手ぇ出しに来るんじゃねぇ!!」
まるで生き物のように蠢き、獲物となるバルバロイを求めて移動する強酸の霧は、リズの殺意そのものだ。
飲み込まれたバルバロイ・キリギリスが、たちまち全身を焼け爛れさせてぐずぐずに輪郭から溶け崩れていく。
「皆殺しにしろ! あたしたちの家を踏み躙った奴らを、一匹たりとも生かして返すんじゃないよ!」
バルバロイを殺すことに意識を割いていても、リズは本来の役割も忘れず、きちんとエルミリアの星詩の範囲を拡大させた。
* * *
エルミリアの星詩がリズの星音に増幅されて響き渡る中、ゲルハルトは果敢に攻撃を仕掛ける。
狙いは当然、バルバロイ・ヘッジホッグとバルバロイ・ポジトロンの二種だ。
最後方にいようが、針の穴を通して撃ち抜くだけの狙撃力を、ゲルハルトは持っている。
『まずは一撃、入れさせてもらうぞ!』
虹色のエネルギーを一点に集中させ、強力な光線として放つ。
直進する虹色の光線は、バルバロイ・リッパーの鎌をすり抜け、バルバロイ・スカラーとバルバロイ・サーペントの間を横切り、狙い過たずバルバロイ・ポジトロンの一体を撃ち貫き、爆散させた。
『光学迷彩は効果が薄い! とにかく回避しながら攻撃だ!』
飛んでくる生体ミサイルの雨と荷電粒子砲を、殺気を頼りに感知して掻い潜り、横に宙返りして射線を合わせ、大量の光線を射出する。
等間隔で飛ぶ無数の光線は、屈折して弧を描きながらバルバロイ・ポジトロンたちへ殺到した。
玄武鱗甲の性能を信じて杏樹は空艇“蒼鷹竜”を強酸の霧の中へ突撃させた。
『逃がさないから!』
正面に飛び出してきたバルバロイ・キリギリスを機体ごとぶちかましをして霧の中へ叩き返し、そのまま自らも突入する。
霧の中では、バルバロイ・たちが全身を焼け爛れさせながら右往左往していた。
外に逃げようとするのを、片っ端からマニピュレーターで引っ掴んて邪魔する。
* * *
強酸の霧に焼け爛れながら、バルバロイの群れは死に物狂いで反撃してくる。
『いったん下がりなさい! 空いた穴はあたしが埋める!』
修理を受けるため実麗のところに下がっていく味方と入れ替わりで前に出た亜莉沙は、ローレライ・シールド<D>を掲げてディフェンシブに動き、臨時で指揮を取るカオルコや杏樹の声を聞きながら、時間を稼ぐ。
自らの回避技術に、バロックのサポートまで受けた亜莉沙は、オーバーチュアをバルバロイたちの攻撃に直撃させない。
防御を固めたオーバーチュアに、バルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーが近付いてくる。
『さすがに迂闊過ぎない? 防御一辺倒だと思ったら大間違いよ!』
即席の砂の壁を立ててバルバロイ・キリギリスとバルバロイ・リッパーを分断すると、突進突きからの横薙ぎ、一回転してからの唐竹割りに繋げる三連斬りを目にも止まらぬ速さで放ち、生かしておくと厄介なバルバロイ・キリギリスを斬って捨てた。
ひたすら待ち続けた甲斐あり、ミハエルは居場所を隠したまま、まだ生き残っているバルバロイ・スカラーを射程に納めることに成功した。
空間を穿ち、斬撃を飛躍させて先制攻撃を仕掛ける。
突然の奇襲は、バルバロイ・スカラーにしてみれば寝耳の水な出来事だった。
『ミハエル・ゴッドバルド参る!』
スピットファルクスの斬撃をまともに浴びたバルバロイ・スカラーは、少なくないダメージを負った。
使われたのが人型特攻武器でないだけ、バルバロイ・スカラーにしてみれば幸運だったろう。
『使うなら……今よね?』
ガーベラが舞闘曲“光焔万丈”を発動した。
聞く者の心に焔を灯す詩を歌い、自らの心の焔を奮い立たせていく。
盛んに燃え盛るガーベラの心の焔が、槍を模りその形を変えた。
炎の槍を手に、青いオーラを纏い竜装騎“暁弐式”が翔ける。
『気焔……万丈っ!』
全力で、バルバロイの群れ目掛けて炎の槍を投擲した。
彗星の如く飛翔する炎槍が、バルバロイの群れに直撃し、大爆発を起こしてその焔を噴き上げさせた。
* * *
大きく息を吸い込んだ一夫は、黙って俺について来なを発動した。
コブシを利かせた演歌がバルバロイの群れに届き、一時的のそのスキルを封じ込める。
同時に味方の士気を向上させ、精神攻撃に対する耐性を付与した。
『これ以上、好きにはさせませんよ』
特殊行動を禁止させられ、単調に攻撃を繰り返すしかなくなったバルバロイの群れから、進軍する勢いが無くなっていく。
星詩を発動させた一夫に合わせ、壱星も旋水焦波陣を発動した。
「一気に決めるぜ!」
巻き起こる旋風が水の波を起こし、水鉄砲のように勢いよく放射する。
旋風や水鉄砲うの直撃を受けたバルバロイたちは、突如出現した炎の竜巻に閉じ込められ、足止めを受けながら焼き焦がされた。
味方を援護するため、一夫もTフォースブラストライフルで銃撃し、支援射撃を行った。
星詩を維持しながら器用に戦うその様子は、一夫の高い練度を示している。
こう見えても、歴戦のスプリガンなのだ。
ようやく余裕が出来てきたので、損傷したドラグーンアーマーやスタンドガレオンの修理に取りかかった実麗は、堂々とした一夫の【レリクス】クリュサオル
の勇姿にくすりと笑みをこぼした。
『馬子にも衣装でございますね。もちろん、あなたはつまらない者では決してございませんが』
『ははは。ありがとうございます。これはもう、性分ですからねぇ……』
珍しく悪戯っけが混じった実麗の言葉に、一夫は苦笑する。
円満な熟年夫婦を思わせるやり取りを一夫と行いながらも、実麗は手を止めず、次から次へと点検と応急処置を行った。
ここだけ、穏やかな雰囲気が流れていた。