・オーバーチュア騎士団&オワリ武芸団1
バルバロイの群れが攻め込んでくる少し前。
変装セットで変装し、身分を隠した
リズ・ロビィは、一般人を装いホウライの領民を観察していた。
彼らの中には、他に行き場がなく安住の地を求めて流れ着いた者もおり、そういう者たちにとっては、唯一の安らげる場所。
皆、オーバーチュア騎士団に深く感謝しているようだった。
そして、襲撃の一方が届き、リズは正体を現す。
「オーバーチュア騎士団団長リズ・ロビィ……。ちょっと敵に地獄絵図を描きに行ってくるさー!」
本当の姿を見せたリズは、領民たちの歓声と、大音量の拍手で送り出される。
……実は、領民たちはリズの正体には初めから気付いていた。
変装セットによる変装は、それ単体ではパーティーグッズによるもの程度の変装効果しかないから、領民たちからしてみればバレバレだったのだ。
しかし本当にオーバーチュア騎士団に深く感謝していた領民たちは、正体を知られたくないリズの気持ちを変装しているという事実そのものから汲み取って、敢えて気付かないふりをしたのである。
* * *
アイリス・シェフィールドは、オワリ武芸団の一員として、まずカオルコ団長に挨拶しにいった。
「あのー、カオルコ団長……」
「うん? 準備できたでゴザルか?」
振り向き、アイリスの姿を見たカオルコは目を丸くした。
「オヌシ、その姿は……」
「色々行き違いがあって……」
なさけなさそうな表情のアイリスは、思いきり事前準備を失敗していた。
予定していた武装やスキルの構成ではない。
そもそものメインアバターすら違い、さらにレベルが低すぎるので、これでは何もできない。
無理に戦場に出たところで、アバター死亡になるだけだ。
「これからオーバーチュア騎士団の要請を受けて助けに行くのでゴザルが……どうするでゴザルか?」
尋ねられ、アイリスは思案する。
「ひとまず行って、領民の避難誘導を手伝おうと思いマス」
「それがいいでゴザルな。拙者らはバルバロイと戦わなければならないから、そういう痒いところに手が届く気遣いは有難いでゴザルよ」
おそらく励ましの意味もあるのだろう。
カオルコに褒められ、アイリスははにかんだ。
次こそは、ちゃんと活躍してやる。
そんな決意を、胸の内に宿して。
* * *
オーバーチュア騎士団は、住民を迎賓館に集め、その周囲を守る戦法を取った。
駐屯地の中でも頑丈な作りの建物なので、避難場所としては悪くない選択だ。
ツヴァイハンダー・エグザを身に纏うものの、自分の実力ではまともに戦えばバルバロイに対抗するのは難しいと、
クラウス・和賀は知っている。
『私にできることを、ですね』
自主的に迎賓館の防衛を選択した。
後から、オワリ武芸団から援軍が来ることになっている。
それまでの辛抱だ。
【レリクス】クリュサオルを身に纏い、
川上 一夫は
川上 実麗が操縦するセンペリットURのステージに立っていた。
一夫と実麗の役目は、領民たちが避難している迎賓館を防衛することだ。
数ある駐屯地の中から、彼ら彼女らはオーバーチュア騎士団の駐屯地を、己の植民先に選んでくれた。
その事実は、何よりもオーバーチュア騎士団に対する領民たちの信頼の証となっている。
『命を預けてくださったその期待には、応えねばなりません』
『そうでございますわね。それでこそ、わたくしの夫でございます』
同意して一夫を褒める実麗の心中には、一抹の不安があった。
一夫があまり戦闘の得意ではない、平和的な人間であることを知っているからこそ、足手纏いになってしまったり、戦死してしまわないか心配なのだ。
守るべき者を見捨てて、己の命を優先できる男ではないと、実麗は一夫のことを知っているから、余計に。
だからこそ、実麗はいつも一夫の傍にいる。
川上 三枝としては、一夫の生死はどうでもよい。
むしろ日頃ウザいので死んで欲しいという気持ちも、ないわけではない。
とはいえ実麗に死なれると悲しいし、亜莉沙に死なれるのも困るので、やはり一夫が死ぬような事態にはなって欲しくない。
何故なら、一夫が死ぬような事態が起きるということは、相応の強敵と戦っていた、あるいは厳しい状況にあるということを意味し、その事実はオーバーチュア騎士団そのものが壊滅状態に陥いるということと、容易にイコールで繋がってしまうからだ。
『……まあ、クソ親父もふたりのついでに守ってやるか』
ブラックオニキスから、ぽつりと三枝の声が漏れた。
* * *
迎賓館の上空から、クラウスはツヴァイハンダー・エグザの望遠機能を用いて索敵を行う。
『うわあ。来ていますね、わらわらと』
群れとなって押し寄せるバルバロイの姿は、拡大されると余計に迫力が凄まじい。
すぐに見つけた方角を亜莉沙へ報告し、地上に降りて迎賓館の入口前に陣取った。
オーバーチュアに搭載された
【使徒AI】バロックのサポートを受けながら、
今井 亜莉沙はバルバロイの群れ相手に奮戦する。
『これ以上、バルバロイに荒らされてたまるもんですか! ここからは一歩も引かないわよ!』
スピットファルクスを地面に突き刺した亜莉沙は、ドラグーンアーマーと同じくらいの高さのバリアを発生させ、バルバロイ群れに対して駐屯地への侵入を阻む防壁とした。
『バルバロイ・ヘッジホッグとバルバロイ・ポジトロンはゲルハルトさんが叩いて! バルバロイ・リーパーは茜さんと三枝さんで交互に! バルバロイ・キリギリスと一緒にいるみたいだから、ゲルハルトさんとも連携して! バルバロイ・スカラーについてはミハイルさんお願いね! バルバロイ・サーペントの相手はオワリ武芸団の人たちで頼むわ!』
立て続けに指示を出した亜莉沙は、移り変わる戦況をじっと観察した。
バルバロイたちのの攻撃の軌道や、タイミングを読み、いざ自分が戦う場合の糧とする。
【使徒AI】お局様を搭載したネブカドネザルⅤ世改を操縦する
ゲルハルト・ライガーは、
千波 エルミリアをステージに乗せて飛翔する。
『データを寄越せ! 出せるものは全部だ!』
ゲルハルトの要請に応じて、お局様からご機嫌斜めながら、渋々バルバロイに関するデータが送られてくる。
オペレーションAIとはいえ人格がある以上、命令口調で言われれば腹が立つのである。
それでも渡してきたデータは主に、甲虫型バルバロイと人型バルバロイに関するデータだ。
そのデータを確認し、遠くに見えるバルバロイの群れから確認できる情報とすり合わせを行いながらひとりごちる。
『むう……。バルバロイ・ヘッジホッグとバルバロイ・ポジトロン。この二種に好き放題撃たれるのは厄介だな。一種だけ竜型が混じっているのも不安要素になる』
バルバロイ・サーペントに関するデータはさすがにお局様も持っていない。
『とはいえ。どちらにしろ、アウトレンジ作戦に変更はないな』
戦闘の準備を進める。
一方、ステージではエルミリアが小さな光の妖精を召喚していた。
エルミリアの周囲を楽し気に飛び回る妖精たちは、可憐な声で歌いゲルハルトやミハエル、エルミリアらの攻撃力と魔法攻撃力を上昇させていく。
「いつ見ても思うんだけど。可愛いよね、この子たち」
エルミリアが差し出した手に、光の妖精が腰かけてにこりと笑った。
* * *
水瀬 茜の竜装騎“暁参式”が、神護鞘に納めた竜装騎刀“彩雲”の柄に手をかけた姿勢のまま、迅雷外装で加速してその姿を消失させる。
『バルバロイ・リッパーとバルバロイ・スカラーを叩くよ!』
竜装騎“暁弐式”を纏う
ガーベラ・スカーレットは、深呼吸すると気を落ち着かせた。
『大丈夫よ。やることは模擬戦と同じ。訓練通りにやればいい……』
炎の槍が、竜装騎“暁弐式”の手元に生まれる。
それを掴んだ竜装騎“暁弐式”は、先行する竜装騎“暁参式”を追いかけ、飛翔していく。
瞬間移動と見紛う速度で飛翔した竜装騎“暁参式”は、すれ違いざまに抜刀の竜巻でバルバロイ・リッパーのバランスを崩しつつ、居合斬りを浴びせて背後へ抜ける。
反転して再度バルバロイ・リッパーを狙ってもいいし、更に奥へ突っ込んでバルバロイ・スカラーに狙いを切り替えてもいい。
悪くない位置だ。
『まあ、敢えて突っ込む必要はないんだけどね!』
六本腕の鎌による斬撃を、茜は側面に刃を滑らせ受け流すと、交差法で立ち位置を変えて死角に回り、僅かに生まれた反転までの時間を利用して、バルバロイ・スカラー目掛けて渦潮を放った。
そのまま居続けても袋叩きにされるだけなので、機体を側面に傾けて回転させ、追撃を避けながら一気に離脱していった。
『よし、命中!』
続けて追撃を加えた竜装騎“暁弐式”も、同じように後退する。
亜莉沙の指揮下に入った三枝は、指示通りにバルバロイの群れと交戦状態に入った。
インファントキラー<D>の人型特攻が効果的な、バルバロイ・リーパーを中心に、その奥、バルバロイの群れ全体でいえば側面に位置するバルバロイ・スカラーまで注意の対象に入れつつ、利き手とは逆の手に握ったクリアマインドソード<D>を使って、二刀による流れるような連撃を仕掛ける。
とはいえバルバロイ・リーパーは二刀どころか鎌の腕六本による六刀流の使い手だ。
手数でいえば、約三倍で勝ち目はない。
『なら、反撃をなるべく受けないように一撃離脱。これしかないね!』
鋭い一閃で空気を裂いてカマイタチを発生させた三枝は、空気の断層を作り出して周囲のバルバロイ・リーパーたちを纏めて斬りつけた。
ミハエル・ゴッドバルドのエスカリボールは、バルバロイ・スカラーの排除を担当する。
カーネリアンマント<D>の隠匿性能を活かし、静かに静かに物陰から物陰へと移動し、奇襲の機会を窺った。
(リズ団長の星音と、エルミリアの星詩が展開されるタイミングが良さそうだな……)
バルバロイ・スカラーたちが混乱していればベストだが、そうでなくとも切っ掛けとしては悪くないだろう。