■プロローグ■
――リュクセール王国、フェゼルシア、トロージャン
ユーフォリア王女は護衛に
シルヴィヤンカを伴い、トロージャンをぐるりと囲む城壁の上を歩いていた。
千年前に造られたといわれる城壁は、街の観光名所にもなっており、普段であれば一般開放されていて、ユーフォリア王女たちのように散歩をする観光客も少なくない。
晴れていれば、北西に万年雪で覆われたノーボス山脈、南にレドル火山を頂くスタカルゴー山脈、南東に緑豊かなフェンリルの森など、風光明媚な景色を楽しむことが出来るからだ。
しかし今は、ロニキス・バアトル将軍率いるリュクセール軍が出陣している。1週間後には開戦となるだろう。
眼下では、
恭司・プラズランをはじめ、
葉月 聖愛と
マリリス・アンジェリカと
ニャン・カルバレットが城壁の補強を行い、
クロネシア・ルースと
マリーダ・ハーストは炊き出しを行い、作業をする傭兵やナイトアカデミーの生徒らに食事を振舞っている。
「……いいのですか?」
「わたしが城門で指揮を執っている限り、ロニキス将軍は城門は狙えまい。そこが狙いだ」
シルヴィヤンカは、ユーフォリア王女が城門の上で指揮を執るのに反対していた。
ユーフォリア王女はユーフォリア王女派の象徴である。失う訳にはいかないからだ。
しかし、それは同時にロニキス将軍にも言えた。ロニキス将軍はユーフォリア王女を殺すことはできない。
ロニキス将軍がユーフォリア王女を殺めてしまえば、ユーフォリア王女派は一斉に蜂起するだろう。それこそ、彼が危惧する
『国を二つに割りかねない事態』に繋がるのだ。
大公カシウスが胸の内でどう思っているかは定かではないが、あくまで『ユーフォリア王女の態度を変える事』が彼に与えられた今回の遠征の目的である。
(この方は恐怖という感情を見事に抑え込み、ロニキス将軍の弱みを逆手に取られた……だが、こういった策が毎回成功するわけではない。側仕えではなく守る存在が必要だ)
8歳の少女が矢面に立つことでトロージャンを守る……聞けば、傭兵やナイトアカデミーの生徒たちの言動から多くのことを学んでいるという。
それが今回の行動に繋がったのだと、シルヴィヤンカは思うと同時に、ユーフォリア王女の親衛隊の設立を視野に入れるのだった。
■目次■
プロローグ・目次
【1】トロージャンに防衛線を構築する
1.王女への進言
2.防衛戦の作戦提案
3.防衛戦の実作業
4.防衛戦の実作業・堡塁隊
【2】シルヴィヤンカと防衛戦に参加する
1.静かなる攻城部隊(1)
2.静かなる攻城部隊(2)
3.静かなる攻城部隊(3)
4.シルヴィヤンカの【紅玉団】(1)
5.シルヴィヤンカの【紅玉団】(2)
6.潜在する危険とは(1)
7.潜在する危険とは(2)
8.攻城兵器を討て(1)
9.攻城兵器を討て(2)
【3】ロニキス将軍と攻城戦に参加する
1.攻城兵器周辺の攻防(1)
2.攻城兵器周辺の攻防(2)
3.忠義の行方
【4】アイゼル夫人とロビー活動を行う
1.ジェイムズの輸送関係の噂を辿る
2.議員を味方に付けよ!
エピローグ