・ブリッジディフェンス4
戦いは、内容の悲惨さとは裏腹に、ゲームらしい雰囲気を失わないよう行われていた。
だってこれは元々、ゲームだったのだから。
ゲームとは本来、楽しいものであるはず。
「オーバーチュア騎士団も、ハーヴェストも、ふぁいおーっ!!」
アリサは戦いながら笑顔で叫び、味方を鼓舞すると共に自らも戦意を奮い立たせた。
押し寄せる敵プレイヤーたちの数は凄まじく、既にアリサたちが防衛している防衛ラインにまで抜けてきている有様である。
やけくそ気味に叫ぶアリサの声は、指揮を執るベルベットの耳にまで届いた。
「敵の勢いには波があるさー! まずはこの第一波を押し返して、第二波が来るまでに態勢を整えるさー!」
冷静に、ベルベットは橋の最後尾から戦場全体の流れを観察していた。
分かったのは、敵の流れが均等ではないということ。
開幕の第一波こそ凄まじい数であるものの、そこを乗り切ればある程度敵の数は落ち着いてくる。
とはいえ流れが途切れるわけではないので程度の差でしかないものの、息つく暇があるというのは大事なことだ。
砦の補修やバリケードの建て直しなど、この間にやらなければならないことは無数にある。
「そう簡単には通さないわよ! 悪いけどね!」
スカイウォールで投網を発射したアリサは、命中したのを確認すると、砦の壁から水平方向に伸ばす形で砂の壁を二重に発生させ、増幅する衝撃で敵プレイヤーたちを進行方向とは逆方向に弾き飛ばした。
各所に置いたセントリースノウメンは、迎撃するためというより、敵プレイヤーの動きを誘導するための意味合いが強い。
敵プレイヤーたちはセントリースノウメンの攻撃範囲にあるバリケードを攻撃することはなく、全員迂回してセントリースノウメンの攻撃範囲から外れた侵入口、つまりアリサたちが守る砦を目指していた。
動きを制限しつつ防衛陣地を構築することで移動経路を限定して誘導場所に誘い込み、そこに最大火力を叩き込む。
防衛戦術の基本だ。
何も考えずただ真っ直ぐ突撃してくるだけなお猿さん思考の蛮族民には通用しないものの、糸によって操られている敵プレイヤーたちは、戦術的判断による動きを術者のコントロールに委ねている。
全体が連動して動いていることを利用して、【同盟【季節同盟】】は逆にそれを逆手に取っていた。
敵プレイヤーたちにも指揮官がこの場にいたなら状況を見て手を打つなり対策しただろうが、個々の判断は自動化されておりマニュアルで動けないため、変化する戦況に応じた有効な手が取れない。
故に迎撃が間に合う。
純粋にアリサたちは継戦能力を試されていた。
「よしよし、このまま撃ちまくれ!」
【BC】マシュマロザッパーで銃撃し、敵プレイヤーたちを押し留めるゲルハルトが、マシュマロ弾を広範囲にばらまく。
「まずはマークを付与。……その後に発動。一網打尽にするのだわ」
シュラハトビューネで丁寧に敵プレイヤーを射抜いていった由梨が、風刃の嵐で纏めて切り刻む。
風刃の嵐は条件が揃えば勝手に発動するので狙って起こすのは困難だが、それもやり方次第。
侵入口を限定してタレット能力を持つアイテムの配置にわざと穴を開けることで誘導し、一か所に集まってからアリサたちのところに来るようにしてやれば、集結地点で勝手に風刃の嵐が発動するようになる。
また、マークをつけておけばきちんとその敵プレイヤーが意図通りに誘導されているかどうかも確認することができるので、地味に由梨の働きも重要だった。
仕方のないことだが、誘導されて入ってきた敵プレイヤーに一斉攻撃を叩き込み続けていると、流れ弾で侵入口を限定するためのブロックに傷が増えてくる。
一撃で倒せない場合は敵プレイヤーも反撃してくるので、全体的にブロックの傷が増える。
ブロックが破壊されて壁に穴が開いてしまうと、そこから直接敵プレイヤーが流れ込んできて戦線が崩壊するため、維持するセリスもまた重要な役割を果たしていた。
当たり前だが、いてもいなくてもいい味方など、存在しない。
「補強するのです。壊されたら大変なのです。さらに二重に囲うのです。万が一壊れても再構築が間に合うように」
ハードブロックに変え、時間を稼ぎながら、ブロックの数を増やしていった。
一連の攻撃の後でもまだ動けている敵プレイヤーに、追撃を加えて完全に動けなくさせるのはアウローラの役目だ。
手早くスナイパーライフル形態の燐火で狙い撃ち、攻撃を加えていった。
やがて、押し寄せてくる敵プレイヤーの数が少なくなった。
第一波を乗り越えたのだ。
「今さー! 敵排除は続けたまま、バリケードや砦の補修を行うさ! 体力や精神力の回復も、余裕がある今のうちに忘れずにするさー!」
素早くベルベットが指示を出す。
「よし、最初の難所を突破した! 急ぐわよ!」
「はい!」
アリサとセリスが、急いで砦とバリケードの補修を始める。
その間の監視役にはゲルハルトがついた。
「第二陣が来るタイミングは我輩が見ておこう」
「……ふー」
敵の攻撃が止んだことを感じ取り、息を潜めて狙撃に集中していたアウローラが深く息を吐いた。
ベルベットが状況を見ながら指示を出す。
「倒れた敵プレイヤーが迎撃の邪魔になってる! どこかに移動させるさー!」
「保管場所などないぞ、海に落とせ!」
大量に発生した戦闘不能敵プレイヤーをそのままにしていると、第二陣の処理の際にオーバーキルで殺してしまう恐れがあるし、積み重なった身体がバリケード代わりにされてしまう恐れがある。
退かしておく必要があった。
かといって下手な場所に置いたらそこで目を覚まして背後から攻撃されるなんてことも有り得るため、橋から投げ捨てることに。
他のチームも同じことをしているため、これで正解のようだ。
* * *
光球が宙に放たれる。
そこから降下した光線が、地面に当たって拡散し敵プレイヤーたちに次々直撃していく。
止まらない敵プレイヤーたちを無理やり止めるのは、フェアの役目だ。
展開された糸に足を取られ、ばたばたと転倒していく先頭の敵プレイヤーたち。
そのまま糸を引っ張り、橋の縁の方へ纏めて絡め取って転がし、動けなくさせようと試みたフェアだったが、後続の動きはそれより早い。
倒れた敵プレイヤーたちを踏みつけ、それを足場にしながら新たに敵プレイヤーたちがやってくる。
「何それ、自分の身体を橋代わりにした!?」
「どの道経路を制限できていることには変わりはない! 迎撃しやすくなったと考えようぜ!」
驚くフェアに声をかけ、ライトは先頭に立って走ってくる敵プレイヤーに狙い定め、格闘戦を仕掛けた。
「おらあ! 吹き飛べ!」
いちいち撃破を狙っていてはキリがないので、とにかく寄せ付けないことを意識し、フェアが展開する糸の方角へ吹っ飛ぶよう立ち位置を調節しつつ、蹴り飛ばし、あるいは投げ飛ばしていく。
たまに吹く風が、敵プレイヤーの動きを阻害してライトを戦いやすくしてくれた。
「こっちよ! 動けなくしてやるわ!」
今度こそ引っぱることに成功したフェアが、ライトと連携し敵プレイヤーたちを次々橋の両側に寄せていく。
フェアが放つ糸の粘着力はかなりのもので、もがく敵プレイヤーたちは中々脱出することができない。
時間稼ぎの妨害役として、十分な役目を果たしていた。
カオルの戦術は単純かつ効果的なものだ。
自分の眼前に魔法の盾や氷の盾、雷の盾を掲げて身を守りながら突っ込み、蒼牙竜鉾を薙ぎ払って押し返し、距離を取る。
ノックバックによる浸透遅延に特化したその戦法は、敵プレイヤーたちの浸透率をコントロールすることに一役買っていた。
味方が戦力を集中させて敵プレイヤーの数を減らしている最中の場所を避けて、カオルが向かうのはそれ以外の場所。
コンビで動いているライトやフェアとも離れ過ぎないよう位置取りし、チームとしての連携を保っていた。
「……そこを退いてもらいます」
全力で体当たりするカオルに、またひとり敵プレイヤーが突き飛ばされる。
うまくいっているように見える戦況でも、よく見れば薄氷を踏むような危うい場面はある。
そこでチームが崩れないように立ち回るのが、ナリヒメとほえみの役割だ。
「さあ、いくで!」
「はい!」
豊富な範囲回復魔法を駆使して継続体力回復と、切り札の全体体力精神力回復を使い分け、チームを支援していく。
特に前衛のライト、フェア、カオルの三人は、敵プレイヤーの集団を相手取る関係上被弾する機会も多いので、ナリヒメとほえみの活躍は戦線を支える生命線となっていた。
ふたりがいるからこそ、三人とも自分の役割に集中することができていたのだ。