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≪セレクター編≫神域への扉

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≪セレクター編≫神域への扉
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・ブリッジディフェンス3

 凄まじい物量で攻め込んできた敵プレイヤーの集団を退けようと、茉由良は必死に応戦する。
 放った霊力の矢は、迫る敵プレイヤーのひとりに直撃したものの、そのプレイヤーが昏倒する様子はない。
 精神を縛っている糸が、結果的にある種の護りとなって外部からの精神干渉をし辛くしているのだ。

「くっ、留まっていられませんね……! 戦線を下げるしか……!」

 妖気に形を与え、敵プレイヤーたちの攻撃を防ぎながら周囲を見回し、味方との位置関係を確認する。
 できるだけ自分たちで敵プレイヤーの数を削り、味方に楽をさせて力を温存しておいて貰いたかったものの、それで茉由良たちが倒れるのは本末転倒なので、後退せざるを得ない。
 下がった茉由良たちに対し、敵プレイヤーの集団が取った選択は、主に二つに分かれた。
 即ち、残って茉由良たちを狙い続けるか。
 それとも移動して、他の場所を狙うかである。
 個々に判断しているというより、糸によって全体的に統率されているかのような動きを見せる敵プレイヤーたちは、ちょうど半々くらいの集団に分離する。
 茉由良たちに既に接敵している敵プレイヤーが含まれている方の集団が残り、残りの集団はこの場から移動していった。

「追いかけて、どこに行くのか確認してください! 行き先が分かったら、そちらで戦っている味方に一刻も早く連絡を!」
『分かった! 行ってくる!』

 パルトナーを操縦するベネティクティオが、飛行性能を活用して移動する集団を空から追いかける。
 敵プレイヤー集団の最後尾付近にいた者たちがベネティクティオの動きに気付き、撃墜しようと銃撃や魔法などでパルトナーを狙ってきた。

『そう簡単には、当たらないもんね!』

 フレアデコイ・プロトコル<G>をばらまきながら回避機動を取るパルトナーが、次々に攻撃を避けていく。

『シールド展開!』

 回避を優先させるのは主に魔法攻撃で、銃弾など回避し切れないものをバリアを張って防ぐ。
 【同盟【季節同盟】】が護っている砦の方へ向かっていくのを確認すると、急いで警告を発した。
 役目を終えてパルトナーを引き返させ、今度は茉由良たちを襲う敵集団の背後から奇襲をかける。
 大量の光線が放たれ、屈折しながら敵集団の頭上へ降り注いだ。
 予測していなかった方角から突然の攻勢を受けて、敵集団の動きが鈍る。

「今ですね。弱らせます」

 ナイアがしびれ薬を散布し、足止めを試みた。
 大した効果は得られなかったものの、多少足を鈍らせる者が出た。
 強引に進んでくる者を、携行型対怪物榴弾砲で吹き飛ばす。
 さすがに砲声を近接戦用の消音戦闘技術で消すことはできなかったので、かなり大きな音が出た。
 携行型対怪物榴弾砲はどの世界でも一定の効果で使えるようになっているものの、それ故に決め手にできる武装ではないので距離を取ることくらいにしか使えないが、この場合はかえってそれが好都合だった。

「間に合ったか。加勢する」

 そうやって時間を稼いでいるうちに、メナトが援護に入って転倒させたり、弾き飛ばしたりして本格的に時間を稼ぐ。

「結局、放っておいてはまたすぐに起き上がって攻撃してくることに変わりはないようでございますね。やはり橋から落としましょうか」

 ブレイブアタックを使用して、空から橋全体の戦況を窺っていたティスラスが、冷静に転んだ者を捕縛し、橋の上から落とすことを茉由良たちに進言する。
 自らも敵プレイヤーひとりに狙い定め急降下し、両足を掴んで引きずると、橋から落とした。
 一番妨害役としての効果を発揮しているメナトに動きを合わせ、茉由良たちは転んだり弾き飛ばされたりして体勢を崩した敵プレイヤーのうち、孤立している者を集中して襲い、数に者を言わせて無理やり海へ突き落としていく。
 大きなしぶき音をあげて、敵プレイヤーたちは海へと沈んでいった。
 海に落ちても糸があるお陰で死にはしないので問題ない。
 実際に、ベネティクティオが全員生きていることを確認した。
 敵プレイヤーの数は膨大で、いくら海に投げ捨ててもキリがない。

「苦しい時だからこそ、笑顔が肝心!」
「主導権、頂きます!」

 大量の敵プレイヤーたちを目前に、サクラもジルは怯まなかった。

『Yaaaaaaaaa!』

 ≪星獣≫クラリネットネコを出したサクラが、味方を鼓舞しようとジルと一緒に声を合わせた。
 艶やかなサウンドが流れる。
 背後に大規模なオーケストラ楽団の幻が浮かび上がり、シーケンサーの音楽に合わせてハーモニーを奏でた。
 敵プレイヤーたちに向けて、きらびやかな五線譜のエフェクトがばらまかれる。
 エフェクトに当たった敵プレイヤーたちは、五感を揺さぶられて少し速度が乱れる。
 しかし精神を縛られて統率されているせいか、前に進む動きそのものは止まらない。
 進んでくる敵プレイヤーたちの数は物凄く、撃退速度が鈍ると次々砦の中に入りこんで収拾がつかなくなる。
 そうならないように敵プレイヤーたちの足を鈍らせるのも、サクラとジルの役割だった。
 下手にダメージを与えすぎて気を引いてもいけないので、注意しながらジルがイメージの雨を降らせ、敵プレイヤーたちの速度を鈍らせる。
 歩みが鈍らなかった敵プレイヤーは、突如足元から湧き上がった水柱によって吹き飛ばされ、氷結してしばらく動かなくなった。
 水でできたジルの幻が現われ、本体と同時に連携攻撃を放ち、敵プレイヤーの足元を凍結させていく。
 サクラとジルが行っているのは、豊富な妨害手段による敵プレイヤー集団の移動速度コントロールだった。


* * *



 雪崩れ込んでくる敵プレイヤーたちの数はかなりものだ。
 小太郎は大量の敵プレイヤーを前に、静かに目を閉じた。
 あらゆる執着を捨て、ただ自然体でいることのみを意識し、目の前の光景から感じる恐怖をコントロールする。
 緊張のあまり強張ることなく。
 されど気を抜きすぎて弛緩することもなく。
 ただあるがままに、現実を受け入れる。
 静かに、気が広がっていく。
 それは、小太郎が反応して自動的に攻撃を叩き込める間合い。
 例え先に攻撃されたとしても、水流のように身体の回りを漂うオーラを突破できなければ、小太郎には届かない。

「巻き込まれただけの人々を、殺める拳は持ちません。食い止めてみせましょう」

 ただ佇んでいるだけの小太郎の傍を敵プレイヤーが通り過ぎようとした時、不思議なことが起きた。
 小太郎が展開した気の外周に触れた瞬間に宙を舞ったのだ。
 敵プレイヤーたちは糸から下される指令に従い、がむしゃらに突破を目指しては投げられ、ならばと小太郎の排除を狙って襲いかかっては、揺蕩うオーラに受け流され、攻防一体のカウンターを喰らって張り巡らされた気の外へと弾き飛ばされる。
 身体の柔らかな箇所を的確に拳によって打ち抜かれたプレイヤーが、意識を刈り取られて倒れ伏していく。
 ならばと小太郎を避けて進もうとした敵プレイヤーたちには、霊力の隠蔽によって気配を絶っていた優と陽介が襲いかかる。

「……狙い撃つ」
「来ると思ったぜ!」

 優の裾縫によって放たれた矢は、目視だけでなく気配でも敵プレイヤーを捉え、逃さない狙撃力によって、狙い違わず敵プレイヤーに当たった。
 ちらりと視線を向けて直撃していることを確認すると、素早く移動を始めて自分の現在地を敵プレイヤーたちに悟らせないよう努めた。
 ヒットエンドランを繰り返し、距離を保ちながら狙撃を続ける。
 敵プレイヤーたちも優を狙いたいのだが、それには小太郎の存在が邪魔過ぎた。
 文字通り障害物のごとく有り続ける小太郎の存在が、敵プレイヤーたちに迂回を余儀なくさせる。
 その迂回の隙を、今度は陽介が突くのだ。

「行かせねぇ。邪魔させてもらうぜ!」

 投擲された札を中心に、重力場が展開される。
 中央に位置していた敵プレイヤーが重力にたまらず倒れ、比較的外周に近い場所にいた敵プレイヤーも、一気に動きが鈍った。
 うっかり小太郎を範囲に含めないよう注意しつつ、陽介は敵プレイヤーの動きを鈍くし、次に繋げやすくした。
 圭二は動きが止まった、あるいは鈍った敵プレイヤーから順番に、移動速度を下げようとひたすら足を狙って狙撃していく。

「悪いが、やったもの勝ちなんでな。汚い手だとか言うなよ。これも戦術だ」

 徹底的に足を狙われた敵プレイヤーがよたよたと頼りない足取りで、走るというより歩くと表現した方が正しそうな速度で進むのを見て、優先順位を切り替え別の対象を狙う。
 個別に倒れるまで攻撃するよりも、一か所に纏まるよう移動速度を攻撃しながら調整して、一網打尽にする方が早いし味方の消耗も少なくて済む。
 敵プレイヤーの中にも回復役はいるはずなので、そううまくいくこともない場合はあるだろうが、それはそれで回復役の位置を知ることができるので、圭二としてはどちらでも良かった。
 それでも抜けてくる敵プレイヤーは皆無ではなかったものの、それでもこれ以上先に進むことは許されない。
 瑛心がいて、糸を張り巡らせているからだ。
 蜘蛛の巣に絡め取られた獲物のように、敵プレイヤーが引っかかって藻掻いている。

「……安心しろ。死ぬことはない」

 ブレード・レティスターの柄で殴りつけ、気絶させる。


* * *



 天蝎のシャウラを鋭く突き出し、次々に穿って敵プレイヤーたちを傷つけるセナリアは、注意深く自分が攻撃した敵プレイヤーたちの様子を見守った。
 もちろん敵プレイヤーたちは様子見中だからといって待ってくれるわけもなく、セナリアへ向けて攻撃を放ってくる。
 毒を受けた敵プレイヤーはしばらく待てば衰弱していってくれるからそれでいいが、問題は毒を受けていない者たちだ。
 ひっきりなしに攻撃されるのは、面倒この上ない。

「観察の邪魔ね。追っ払うわよ」
「ああ、分かった」

 ニューロチップを活性化させたセナリアは、演算能力と情報処理能力を劇的に高め、さらにスコルピイ・ジュバで強化し、脳への負担を軽減する。
 コル・スコルピイに魔力を注ぎ込み、各砲台を一斉に射出した。
 飛行する砲台は整然と空中で一列に整列すると、一斉に散開し各自が独立した動きで以て、セナリアを狙ってくる敵プレイヤーを狙い定め、四方八方から襲いかかり砲撃を浴びせた。

「スイッチ」
「受け取った」

 身体の主導権を受け取ったローレンティアが、再生能力を前面に押し出し、砲撃を抜けてきた敵プレイヤーへカウンター気味に斬撃を合わせる。
 爆発に巻き込まれながら、冷静に状況を確認する。

「間合いが開いた。返すぞ」
「ん。動くわよ」

 再生が続く身体から煙を上げつつ、セナリアは自分が毒状態にして動きが鈍くなった敵プレイヤーたちを橋から海へ投げ落としていく。
 長刀形態のブレード・レティスターを手に、アリシアヒメは橋の縁に立っていた。
 すぐ後ろは海。一歩下がって足を踏み外せば真っ逆さまだ。

「よし、来たわね……!」

 魔力の渦を巻き起こしたアリシアヒメは、海からは海水を、橋の上からは敵プレイヤーを、自分のもとへと引き寄せていく。
 海水を防御膜として纏い、防御面を補強したアリシアヒメは、引き寄せられる力に自ら前進する力を合わせ、猛スピードを出す敵プレイヤーを待ち構えた。
 メール山側の岸ではレミィが次々ブロックを作成し、壁を築いていた。

「よっし、こんな感じでオッケーっしょ! 橋の様子見に行こっと!」

 ドラゴンを旋回させ、レミィは橋へと向かう。
 橋ではアリシアヒメやおじさんが橋の上から敵プレイヤーたちを落としていた。
 ひらりひらりと華麗に避けては反撃して突き落とすアリシアヒメとは対象的に、おじさんは逃げ惑っているうちに気付けば敵プレイヤーが落ちている、妙な展開になっている。
 いい感じに敵の数も増えているようだ。

「こっちは順調よ。よろしくね」
「おりゃー!」

 アリシアヒメの合図を確認したレミィは、炎のブロックをブレス状に吐き出し、アリシアヒメやおじさんの回りにいた敵プレイヤーたちを海へと叩き落としていく。

「落ちた方の対処をお願い」
「はーい!」

 作業が終わると、片手を一振りしてアリシアヒメへ了解の意を込め、レミィは敵プレイヤーたちが落ちた海へと急降下してブロックを落として蓋にし、さらにそれをどんどん広げていくと、床代わりにしてドラゴンを着地させた。

「せーの!」

 マジカルクラッシュハンマーを担いで、登ってくる敵プレイヤーを再び海へ叩き落としていった。


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