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≪セレクター編≫神域への扉

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≪セレクター編≫神域への扉
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・ブリッジディフェンス2

 もうここを通せば後がない覚悟で臨むのは敵も味方も同じこと。
 いや、小山田 小太郎は常にその境地で戦ってきた。
 失敗してもよい任務などなく、また敗北してもよい戦いなども、一度も存在しなかった。
 そこに、誰かの命がかかっているのならば。

「不退転なのはこちらも同じこと……。ならば目的への思いの強さが勝敗を分けるでしょう。我が思いに、揺らぎはありません」

 静かに精神統一する小太郎は、その時を待つ。
 その横に並ぶのは、八代 優だ。

「……メール山には生かせない。……遺恨はここで断つ」

 気配を消し、橋に集った味方に紛れ、いつでも奇襲をかけられるよう潜んでおく。
 優と同じく、隠れてからの奇襲を睡蓮寺 陽介も狙う。
 純粋にゲームを楽しんでいたであろうプレイヤーたちを巻き込んだことに、陽介は怒りを抱いていた。
 同じプレイヤーとしても、人としても、見過ごすことのできる行為ではない。

「別ゲーの連中とバトるのはこれで二度だ……今回も、わりぃが釘付けになってもらうぜ!」

 ただの小枝にしか見えなかった降天の小杖が、長杖へと姿を変えていく。
 変形した降天の小杖を手にし、敵プレイヤーの集団が見えてくるのを待つ。

「死ぬことのない、操られたプレイヤーか……。本当かどうかは分からんが、死なないと仮定して動くしかねぇな。まあ、威力を調節すりゃ何とかなるだろ」

 テンタクルアタッチメントをフォトンスニッパーRに装着させた島田中 圭二は、障害物の位置を確認する。
 橋という戦場の特性上、見晴らしは大変よろしいので敵を狙う分には銃手としてよろしい半面、狙われたときの対応の難しさでいうと、大変よろしくない。
 味方がバリケードや砦、タレット、罠といった様々なものを作り、障害物が多い戦場も多々ある。
 その付近で、同じように戦っている味方と連携しつつ戦おうと決めた。
 不殺を信条とする風間 瑛心にとって、今回の戦いはうってつけだった。

「……人を殺さない戦いというのは、慣れている。……足止めすればいいのだろう。……得意分野だ」

 蜘蛛のごとく待ち伏せし、その時を待つ。


* * *



 戦闘が始まる前の時間を利用して、燈音 春奈永澄 怜磨はアヴィとアヴィ=ワンに共闘を持ちかけにいった。

「久しぶり! ……って、話には聞いてたけど、本当に分裂したんだね」

 片手を上げて挨拶した春奈だったが、同時に振り返ったふたりを見て、しげしげと見つめてしまう。
 ゲームでもリアルでもアヴィとは面識のある中だったので、こうして並び立つ姿を見ると、元は同一人物だったとは思えない違いがあった。

「まあな。あたいにとってもこれは予想外だったよ。というか、理屈としてそうだった分かってはいても、中々信じられないよなぁ。話し方も違うし」
「……くっ。キャラメイクに拘り過ぎてロールプレイをしていた自分の過去を、こんな形で見せつけられることになろうとは、わたくしも思っていませんでしたわ。傍から見ると気恥ずかしいと言いますか……いえ楽しかったのは確かなんですけれど」

 アヴィ=ワンがアヴィが目の前で動いているのが恥ずかしいのか、顔が赤い。
 まあ、身バレしているも同然なので、恥ずかしく思うのは当然かもしれない。
 ロールプレイは自分でその役柄に没入するから楽しいのであって、それを第三者視点で見せつけられるのは半ば拷問である。
 最後のアヴィ=ワンの台詞を聞いたアヴィは、にやにやと笑いながら横目でアヴィ=ワンを見ていた。
 
「元がどっちにせよ、私達にとっては両方同じ存在だよ。繋いだ縁や思い出は両方嘘じゃない。それだけは先に言っとく」
「そうだな。ひとりの時だってふたりに増えた今だって、過去は変わらねえ。同じ心を持って、同じ目的のために動いた事実は違わねえだろ。変わるのはこれからの未来だけだぜ」

 春奈も怜磨も、分裂したからといってどちらかを贔屓したり、どちらかを冷遇したりするつもりは毛頭ない。
 ロールプレイ時の言動がそのまま人格として定着したアヴィも、アヴィ=ワンと同じ心を持っていたことに変わりはない。

「嬉しいことを言ってくれるぜ。ここから先はあたいの人生だ。アヴィ=ワンの手を借りずとも、ひとりで歩んでいくさ」
「……たまには手を貸して差し上げても構いませんのよ?」

 ひとつだった頃の経験はあっても、実質アヴィとしての人格の彼女は、まだ独り立ちを始めたばかり。
 希望と期待で満ち溢れている心境なのだろう。
 ワクワクを隠し切れていない。
 横でそんなアヴィの様子を見ていたアヴィ=ワンが、ちょっとだけ物言いたげな顔をした。
 アヴィ=ワンにしてみれば、アヴィは自分が拘ってキャラメイクし、ロールプレイしていた、とても強い思い入れのあるキャラクターである。
 それが今や自分の意思とは別に、まったく新しい意思をもって生きている。
 ある意味では、自分の娘のように感じていた。
 もっと頼って欲しいのだ。構いたいのだ。
 そして元々ひとつだったので、アヴィ自身もアヴィ=ワンの気持ちは予測できる。

「なんだ? 寂しいのか?」
「まっ! そんなことありませんわよ!」

 からかったアヴィに、アヴィ=ワンは顔を赤くしてムキになって否定する。
 微笑ましいやり取りにほわほわした気分になりながらも、春奈は用件を切り出す。

「まあ、それはともかく、一緒に戦ってもいいかな!?お互い猫の手も借りたい状況だし!」
「おう、いいぜ」
「わたくしからも、お願いしたいくらいですわ。共に頑張りましょうね」
「よし、じゃあ戻るか。皆待ってるだろうしな」

 ふたりを連れて、春奈と怜磨は移動する。
 そこでは、ソルフェ・セフィーラ篠宮 千咲ルドラ・ヴァリオスらが、一足先に準備を始めていた。

「お帰りなさい。その様子ですと、首尾は上々のようですね」
「本当に助かるわ。今回の戦いは、体力敵にも精神的にもきつくなりそうだし」
「よろしく頼む」

 ソルフェが四人を出迎え、千咲とルドラも春奈と怜磨が連れてきたアヴィ、アヴィ=ワンのふたりを歓迎した。

 行坂 貫は過去を思い返す。
 自分が助けることのできた者、できなかった者のことを。

「……また、守り切れないなんてのは御免だ。責任は果たさないとな」

 今回の作戦は、勝ち負け自体ははっきりしている。
 橋を防衛し、敵プレイヤーたちがメール山に向かうのを阻止できれば勝利。
 敵プレイヤーたちの攻勢を抑え切れず、浸透を許し橋を渡り切られてしまったら敗北。
 簡単なことだ。
 しかし貫を含めた者たちの中には、どちらの結果になろうと死者を出してしまった時点で負けと考える者も少なくない。
 もちろん味方に犠牲を出すよりかはマシだろうが、後味が悪い結果なのは確かだろう。


* * *



 焔生 セナリアローレンティア・ベルジュは、どんな戦い方が一番戦闘を有利に運べるか考えていた。
 単純な火力はそれほど重要ではないが、それでも一定はあった方がいい。
 妨害手段の確保も重要だ。
 敵プレイヤーたちの数は多く、いちいち倒していては絶対に自分たちの方が先に力尽きてしまうことは明白。
 そのために、いかに力を節約しつつ、効果的に敵を無力化していくかが鍵となる。

「……毒で弱らせてみるのはどうかしら?」
「悪くないとは思うが、毒をかけるのならば攻撃を控える必要がある。毒の進行はコントロールが難しい。致死性とはいえ、うっかり殺してしまうやもしれんぞ」

 セナリアが思いついた作戦をローレンティアに相談すると、大事なことを指摘された。

「ああ、死なせちゃったら意味がないわね……。毒自体で死ぬことはなくとも、別の攻撃と組み合わせたら死んじゃうこともあるか。気をつけないと」
「その場合は、味方の手を借りずに戦った方がいいな。味方の誤射を避けるためにも、毒で動けなくなった敵はどんどん海に落としておくことを勧めるぞ」
「そうね。そうするわ。じゃ、ユニゾンするわよ」

 ローレンティアの身体がセナリアに重なっていき、やがて同調が完了してひとつの存在になった。
 セナリアとローレンティアの会話を、偶然アリシアヒメ(エリカ・クラウンハート)とレミィ(レミリア・メイクラフト)が聞いていた。

「海に落とす、か……。同じことを考えている人はいるものね」
「なら私たちは同じようにしつつ、海に落ちた敵のケアをしとこ!」

 殺すことができない以上、海に落としておくのは最善のように思えるが、そのまま泳がれてメール山に行かれてしまう可能性を考えて動く必要があると、ふたりは判断する。
 ふたりが考えついたのは、ブロックを落として物理的に海から上がれないようにしておくことだ。
 ブロックが壊されても、アリシアヒメとレミィの二人がかりで止める二段構えの作戦だった。

「あ、おじさんにも連絡しておくのはどう?」
「いいじゃん。手は多い方がいいし」

 レミィの賛成を得て、アリシアヒメはメールでおじさんを呼び出した。
 メールには、簡単にアリシアヒメたちの作戦内容も書いておく。

「頑張ってる女の子の頼みを、断れるわけないよね」

 可愛い女の子ふたりにホイホイ釣られ、すぐにおじさんがやってきた。
 見事な一本釣りである。

「私のターン! ブロックドラゴンパピーを召喚!」

 カードゲームのように叫んでブロック製のドラゴンを作ったレミィが、その背に乗って空へ飛び立っていった。


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