クリエイティブRPG

≪セレクター編≫神域への扉

リアクション公開中!

 124

≪セレクター編≫神域への扉
リアクション
First Prev  17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27  Next Last


・第一サーバ攻防戦5

 キョウの矢の威力が、グレムリンの余裕な態度を剥ぐ。
 ダメージが積み重なり、グレムリンは本気を出して戦闘形態に移行した。
 姿が怪物に変貌していく。

「セルジュ、みらりん! 俺も前に出るぞ!」

 勝負所と判断した竜一は、グレムリンに攻勢をかけた。
 冠紋の大盾で剛腕による打撃を防ぎつつ、打撃の角度を変えて表面を滑らせることで巧みにいなした。
 反撃の剣閃が瞬く間にグレムリンに襲いかかる。
 その数十二回。
 
「魔人だからといって、浄化の力を使えぬわけではないのじゃ!」

 回避など許さぬとばかりに、リリムローズがグレムリンの足元から黒い錨を出現させ、四肢を捕縛しようとする。
 同時に上空からは光柱が真っ直ぐグレムリン目掛けて降りてきていた。

「ちょっと痒いねぇ」

 錨を容易く引き千切り、グレムリンが光の柱を避ける。
 少年形態の時よりも機敏になっており、運動性能の上昇を窺わせた。
 何かをしようというのか、力を全身に込めるグレムリンの身体中で、筋肉が隆起する。
 身体を沈ませて、跳躍したグレムリンが両手をハンマーのように組み、打ち下ろしてくる。
 狙われているのはみらりんだ。
 みらりんは一歩も引かず、受け止める構えを取っている。
 轟音が鳴り響き、グレムリンの渾身の一撃を受けたみらりんの身体が深く沈み込む。
 だが四つ足で膝をついたところで耐えきり、全力を込めて押し返した。

「そう簡単には倒れませんわよ!」

 気丈に立ち上がるみらりんだったが、余波だけで周囲の地面が吹き飛んでいることが、グレムリンの攻撃の威力を現していた。
 魔力を圧縮し、詠唱を短縮して即時完了させたルキナが、凄まじい光と熱波をグレムリンへ放射する。

「受け取れ。グレムリン…いや、ギャラルホルン。極限の一撃を!」

 超新星の輝きがグレムリンへと降り注ぎ、一点に集中する極光を生み出す。
 さすがに危険に感じたのか避けようとするグレムリンだが、それをモリガンが許さない。

「もう少しだけ、私のお相手を願いましょうか!」

 ユグドラシルに残る神々の魂を自身に宿らせ、神の恩恵を受けて攻撃を仕掛け、足止めを試み、寸前で離脱する。
 照射された極光がグレムリンへ直撃した。
 光に焼かれながら、グレムリンがルキナへ飛びかかってくる。
 光弾を次々当ててくるモリガンに邪魔されてザ・ブックに触れるに留まるも、効果が中断されることはない。
 直接ルキナの身体に触れられていたらどうだったかは分からない。
 何らかの精神作用を弾いたようだったが、それが何かも分からなかった。
 ただ、怪物の姿になっても魔法防御や耐性自体は高いようだ。


* * *



 怪物形態になったグレムリンは、【赤青白のクインテット】に対してもその凶悪さを如何なく発揮した。
 浄化に弱くなった形態とはいえ、戦闘能力に秀でたこの形態は、防御能力そのものが高い水準で纏まっており、さらに接近戦も強い。
 イルファンは慎重に仕掛けるタイミングを測っていた。
 それに気付いたアリシアが、イルファンに魔力を補給した。

「今だ!」

 白兵戦を挑み、キャリバー・オブ・メサイアを振り翳すと、斬撃を放つと見せかけて空中から黒い錨を引きずり出し、グレムリンの四肢に絡みつかせようとする。

「げっ」

 降り注ぐ光の柱を見て、嫌な顔をしたグレムリンが無理やり戒めから脱出した。
 その先に、イルファンが先回りしている。

「受けろ!」

 斬撃と同時に、聖なる波動が放たれた。
 仕掛け時を心美も見失わなかった。
 動き始めたイルファンと時を同じくして、体内の闘気と魔力を瞬間的に爆発し、全身から真紅の闘気を噴出させる。

「限界を超えたこの力……受けられるものなら、受けてみせなよ」

 次の瞬間、心美の姿が消え失せた。
 現われたのは、グレムリンの真上。

(なっ!? 何の兆候もなく……!)

 グレムリンが驚愕の表情を浮かべ、気配に気付いて顔を上げた。
 恐ろしいのは、その速度。
 風もなく、衝撃もなく、ただ熟練した歩法でもって、跳躍して頭上を取るまでの、その動き。
 そしてそれほどの速度を出せるということは、攻撃にも相応の威力が乗るということに他ならない。

「逃がしはしないよ」

 避けようとするグレムリンの動きよりも早く、紅虹の剣が凄まじい熱を帯び、炎を纏う。
 紅の斬撃が、イルファンの斬撃と合わせて放たれた。
 それらの攻撃に対する回避行動を兼ねグレムリンはユウを狙い走り出そうとした。
 回復や支援を行う者から落とすのは、判断としては間違っていない。
 だからこそ、行動としては読まれやすいというのもある。
 無色の杖の結界術式を展開し、ユウはグレムリンの接触を阻んだ。

「私を狙って来ましたか。でも、そんな暇があるんですか?」

 グレムリンに、イルファンと心美の斬撃が迫っている。
 さらに、グレムリンの退路を断つように織羽が瞬間移動で現われ、アルテラの海を讃える唄を歌う。

「キミには戦う力がないはずだ! 思い上がったね!」
「やっぱり、そう思うよね」

 忍ばせていた空蒼の細剣を閃かせる織羽を見て、グレムリンの表情が凍り付く。

「あなたが何度暗躍しても、その度にわたしたちが抗って、世界を救ってみせる。今まで皆と、そうやって頑張ってきたのよ。……今を生きる者たちを、甘く見ないで!」

 放たれるのは、六方向からの同時刺突。
 先に放たれた氷塊に気を取られたグレムリンの、中途半端に腕が上がって露出した脇腹へ、全力へ突き込んだ。

「あなたに浄化の雷を」

 印を結んで神罰術式を行使したアリアシが、落雷を落としグレムリンに直撃させた。
 千羽矢も動く。

「……逃がさない。“弓導師”の矢は、射るべきものを射抜くためにある」

 ジ・アリージャンスを飛ばし、それを狙おうとするグレムリンに、逆に自ら触れて浄化の力を直接流しこんだ。

「騙して悪かったな」

 矢で来ると思わされていたグレムリンが、唖然とした表情で千羽矢を見上げた。


* * *



 有効打を所々与える特異者たちだったが、グレムリンの戦闘能力は陰りを見せなかった。
 怪物形態になったグレムリンの耐久力が、変身前の比ではない。
 変身前はどちらかというと直接戦闘よりも搦め手を好んでいたのに対し、変身したグレムリンはゴリゴリの近接特化タイプとなっていた。
 打撃を加える遥に怯みもせず、真っ向から打ち返してくる。
 もちろん遥もグレムリンも防御や回避は適宜行っているものの、互いの攻撃の質が高過ぎて、結果回避を捨てた打ち合いのように、打撃を受け止めた衝撃すら攻撃に利用して反撃する、乱打戦になっていた。

「あぶなっ」

 寸でのところで、グレムリンの手が身体を掠めていく。
 遥が注意しているのは、グレムリンに直接身体に触れられることだ。
 それでアバターを機能不全にさせられたらたまらないので、グレムリンの打撃は全て止めるか避けるかするしかなく、直撃だけは絶対に許してはいけない。
 防御するだけでも、打撃に込められた凄まじい威力の余波が、遥の肉体に浸透し傷つけていく。
 その衝撃を界霊の戦装束で堪え、さらに【神格】ヤルングレイプで減った生命力の分の回復を賄うことで、遥はグリムリンと真正面から殴り合った。

「そのまま攻めろ。補填はなんとかする」

 ごりごりと削れていく生命力を回復させるために精神力が目減りするのを、ロワは自分の分を割譲することで補った。

「いやあ、備えてこれかい。やばいぜ」

 生命力のジェットコースターをする遥を心配しつつも、アルフレッドは機能停止で遥の攻撃が止まり、グレムリンの前で致命的な隙を晒すことにならないよう、全力で支援を続ける。
 押されるのはキョウもそうだ。

「ここは踏んばりましょうや」
「わたくしたちが支えますわ」

 ホークがキョウに力を貸した。
 アントーニアの存在も、キョウにとって精神的な護りとなる。
 とりあえずは遥ひとりを集中攻撃し、落としてしまいたいグレムリンだったが、レベッカがそうはさせなかった。

「うざったいだろう? 来てもいいぞ。来たら逃げさせてもらうがな」

 陽動射撃でグレムリンの気を逸らし、挑発する。
 それで逆上するほどグレムリンは短絡ではないものの、やりにくそうにしている。

「最後まで油断できひん。回復はできる時のしとかんとな」

 ハーフエリクシルを一気に飲み干したロージィが、乱暴に口の端から零れた液体を腕で拭った。


First Prev  17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27  Next Last