・第一サーバ攻防戦2
グレムリンの肉体は、元々はパーター、ペーターというふたりの肉体が元になっている。
ワールドホライゾンの得た情報では、そう推測されている。
「……今度こそ」
思うのは以前に相対した時のこと。
元に戻せると思った瞬間に邪魔された。
今ならば分かる。
それもまた、ギャラルホルンの意思だったということが。
「アレクちゃん、Aiちゃん、ヤマコロちゃん、あつやちゃん、かやちゃん、リイムちゃん、よいいっちゃん、さりばんちゃん、ぐしゃちゃん。……頑張ろう、皆で」
目を閉じて、頼もしく大切な仲間たちの名をひとりずつ呼んでいった
戦戯 シャーロットは、目を見開いていつもの表情を作る。
どんなに厳しい戦いでも、始まりはフルール歌劇団の団長らしく、元気いっぱいの笑顔で。
「フルール歌劇団の、出撃だよっ! 全員出て出てー!」
小さくピョンピョン飛び跳ねながら、後続の仲間たちを促した。
元気そうな素振りを見せているシャーロットの横に、
アレクス・エメロードは並び立つ。
「シャロ。無理すんな」
きょとんとした表情で振り向いたシャーロットは、アレクスの横顔を見て、一瞬だけ呆けた顔をする。
「俺たちがついてる。もっと頼れよ」
見上げてくるシャーロットの頭を、アレクスはわしわしと撫でた。
Ai(
アイ・フローラ)は決意を胸にグレムリンを見据えた。
「この世界を滅ぼさせはしません」
ヒーラーとして、回復を担う者として、そう簡単に脱落するつもりはなかった。
「この世界が滅びれば、その影響は他の全ての世界に波及して、多数の世界の滅びに繋がりかねない。ここで阻止しよう」
草薙 大和が、叢雲を抜き放つ。
大和に寄り添うのは
草薙 コロナだ。
「世界をひとつ滅ぼすだけでも大事件なのに、連鎖させて全部吹き飛ばそうという腹ですか……。許せませんね」
常立の柄に手をかけ、静かに抜刀姿勢を取った。
皆から少し離れた場所で、
迅雷 敦也と
迅雷 火夜は佇んでいた。
「セレクターだのなんだのは、強いやつに任せておけばいい……そう思ってたんだがなぁ。気が変わったぜ」
「それはいいけど、なんで火夜ちゃんまで戦わなきゃいけないの~? お留守番でいいじゃん~ぶーぶー」
気が進まなさそうな火夜に、グレムリンを見るまで同じ思いを抱いていた敦也は、シャーロットがいる方角を、火夜にそっと手で示す。
その方角を見た火夜は、遠くにシャーロットの姿を認めて表情を緩ませた。
「……しょうがないな~、シャロちゃんいるし、リトルフルールとしてのお仕事なら、火夜ちゃん頑張っちゃうよ~」
「俺も頑張らねーとな……。敵とキャラ被りしてるしな……。緑色の少年ってなんだ? 俺の真似でもしてるつもりか? ふざけんじゃねえぞ」
そんな冗談混じりの文句を口にしつつも、敦也が考えるのは、やはりパーターとペーターのことだ。
態度の裏に、因縁を断とうと僅かな本気を滲ませる。
リイム・クローバーの背中から、一対の光の翼が生えた。
「リイムも少しでも力になれるように、頑張ります」
翼をはためかせ、空中を飛翔する。
十文字 宵一は咎竜タルア=ラルに跨り、空中でグレムリンの様子を見ていた。
神狩りの外套が揺れている。
「できるだけの準備はした。あとは進むだけだ」
胸元のルドラの護符に目を落とし、静かに祈った後、グレムリンへ戦いを挑みにいく。
碧海 サリバンは、特段グレムリンやギャラルホルンに恨みがあるわけではない。
あるわけではないが、友人に戦う理由があるのなら、それがサリバンにとっては戦う理由になった。
十分すぎるほどに。
悲劇が起こるのを、傍で黙って見ていられるほどサリバンは達観していない。
「この世に実り豊かな安寧が続くことを願い、合掌する。我はアルティメッツの九代目、神魂命(カミムスビ)」
厳かに名乗りを上げ、グレムリンに相対した。
静かに張りつめる空気の中、
愚者 行進は歩いていた。
ヘラヘラと笑いながら。
「世界を滅ぼすねぇ。相変わらず規模の大きな物語を紡いでいるんだね~。ところで君は結局どっちなのかな? グレムリンなのかい? それともギャラルホルンかい?」
「……さあ、どっちだとキミは思う?」
似たようで違う笑いを共に浮かべながら、行進とグレムリンは見つめ合う。
先に目を逸らしたのは、行進の方だった。
「まあ、実を言うとどっちだろうとあまり興味はないんだ。ただ、これだけは伝えさせておくれよ」
満面の笑みを浮かべてグレムリンに投げかける。
嘲りと誇りの混じった言葉を。
「生まれてきてくれてありがとう。敵として現われてくれてありがとう。物語には、君のような悪役が欠かせない。例え君にとっての僕が脇役に過ぎなくとも、脇役には脇役の矜持というものがある。……決して譲ることのできない、矜持がね」
それは確かに、戦いを告げる宣戦布告の言葉だった。
道化が悪役に贈る、始まりと別れの言葉だった。
仰々しく、行進が両手を掲げる。
「さあ、それでは愚者の行進をはじめよう! 愉快に素敵に恍惚に! 例え世界が壊れても、僕ら道化は笑っていよう! 彼らの物語を見届けるために!」
フルール歌劇団の前衛陣が一斉に飛び出す。
「……勝手に配役を決めないでもらえるかい。この物語の主役は、世界の意思たるボクなんだから」
視線を険しくしたグレムリンが、フルール歌劇団を迎え撃った。