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≪セレクター編≫神域への扉

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≪セレクター編≫神域への扉
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― 動き出す暗殺者 ―


 メール山には鬱蒼とした森が広がり、集落跡のようなオブジェクトが各地に点在している。それは人や物を隠すには都合がよく、暗殺者たる玖繰にとっても有利な条件となっている。
 見える糸と見えない糸、実体ある鋼糸とオーラを練った非物理の糸。それらを組み合わせて各所に罠を張ってキルゾーンを作り出し、更には玖繰自身も陰に潜みながら山頂を目指す特異者達を仕留めようと打って出ていた。

「くそっ、糸が絡みついて…」
「危ない!」

 山頂を目指す特異者の一人、マサヨシ(葵 司)は、ノーネーム・ノーフェイスとイテ(七種 薺)を連れて森の中を進んでいた。
 しかし、三人の中に玖繰の仕掛けた罠を見破れるほどの技能を持ったものはおらず、玖繰が惑わすために設置しているであろう見える糸だけを避けて進むしかなかったが、やはり透明化した糸にまでは対処できずにいた。
 糸への接触に反応して糸に括りつけられた大岩や丸太が司に向かって迫ったところを、ノーネームが強引に引き寄せて間一髪のところで回避する。が、回避した先を狙い済ましていたかのように鋭い短剣が飛び出してきた。
 短剣には強力な毒が塗られていたようで、刺されたマサヨシとノーネームはぐらりとふらつく。

「わしもこういったことは得意ではないのだがなぁ」

 司からの救援要請を受け取ったRWOプレイヤーの一人、じいさんは司たちよりかは見えているようだが、それでも専門職ではないため完璧にとはいかない。
 それでも、見える範囲で糸を避けながらマサヨシとノーネームに駆け寄ると、手の先から光を放ち二人の傷を癒すと共に解毒もしてゆく。

「まったく。年寄りの冷や水とはよく言ったもんだ!」

 完全に玖繰の術中にはまっていると自覚し苛立つノーネームは、回復を終えるとおもむろに立ち上がると声を張り上げる。これだけ罠に引っかかったのなら、恐らく近くには自分たちを仕留めようと接近する玖繰がいるはずだろうと怒声を飛ばした。
 それは挑発でもあり、言葉を繋げ玖繰の反応を見極めようとするが、隠形を極めた玖繰の動きを捉える事は出来ず、玖繰からすれば隙を晒しているようにしか見えない状態である。

「なん、だと…?」
「ノーネームさん!?」
「待つのじゃ!」

 ノーネームの言葉など一切意に介さずに、冷徹に暗殺者としての役割をこなす玖繰は、その隙を見逃さずにノーネームをあっさりと仕留める。
 螺旋を描きながら束ねられた糸が槍のように背後から襲い掛かり、ノーネームの胸に風穴を開けたのだ。
 明らかな致命傷を受けて倒れるノーネームに、取り乱したイテが駆け寄るがそれも玖繰の罠であった。じいさんの制止は間に合わず、一人孤立したイテは手足を糸で絡めとられ、空中に大の字になって浮かべられてしまう。

「苦し…助け…」
「ノーネーム! イテ!」
「ダメじゃ! あの二人はもう間に合わん!」

 手足が縛られ抵抗すらできなかったイテは、首に糸を幾重にも巻き付けられるとそれを締め上げられて窒息状態に陥る。藻掻くことも許されぬまま糸の首を締める力は強まり、最後にはごきりという鈍い音と共にイテの全身からちからが抜けた。
 恐らく、頸椎が破壊されたのだろう。幸いだったのは、イテの身体はあくまでもRWO内でのプレイヤーアバターだった事だろうか。ノーネームとは違い、イテは光の粒子となって消えて遺体が野ざらしになることはない。
 それは、仲間の死を見せつけられたマサヨシの精神的ダメージを幾らかは軽減させてくれるかもしれない。

「姿さえ見えれば…!」
「儂らにはちと荷が勝ちすぎていたようじゃのう…」

 マサヨシは槍を構えて玖繰からの攻撃に備え、じいさんはいつでも回復出来るように準備を整えておくが、それも気休めにしかならないだろう。
 二人が玖繰を正確に捉えられない以上、玖繰からは一撃必殺の急所攻撃を狙いたい放題なのだ。一か八か、突撃してみるという選択肢もあるが、マサヨシはメール山の地形特性である加速に対応し得る技能も持っていない。ストラダーのジョブ補正も加わり、一気に制御出来ない速度まで加速して木や岩に激突してしまうことは目に見えている。
 背中を流れる冷や汗を感じながら周囲を警戒していると、がさりと近くの茂みが動きそこへマサヨシが槍の穂先を向ける。

「そこか!」
「待て、俺たちは敵じゃない!」

 茂みから現れたのは、アルヤァーガ・アベリアテスラ・プレンティスシュナトゥ・ヴェルセリオスの三人だった。
 交戦の気配を察してこちらに移動してきていたのだろう。
 司たちと合流して互いに背中合わせとなることで玖繰の襲撃に備える。が、アルヤァーガたちもまた、玖繰や見えざる糸を完璧には捕捉できていない。

「シュナ、分かるか?」
「…悔しいけど、まったく」

 空間認識能力の優れるシュナトゥが索敵の役割を引き受けることになってはいたのだが、玖繰がわざと見えるように設置した糸を認識できる本数がアルヤァーガたちよりも多いくらいが精々で、隠された糸や玖繰本体の居場所は全く掴むことが出来ない。
 アルヤァーガの操るギアは玖繰の反応を捉えて狙いを定めている状態だが、隠れた糸がどこにあるかまでは分からない。下手に攻撃を仕掛けようと接近すれば、隠された糸に絡めとられてしまう可能性は非常に大きい。
 さらに言えば、ギアが目標として捉えているのみで、アルヤァーガが自分の目で見えている訳ではないということも大きいだろう。大雑把な居場所が分かるだけで、正確な場所を仲間に指示できるほどではない。

「やれるだけはやってみるか…」

 アルヤァーガはブレスレットに触れて自身の周囲を飛ぶドローンを操ると、ドローンから放たれる魔力弾が玖繰に向かって飛んでゆく。それと同時に、周囲の空気を球状に圧縮しこちらも弾として放つ。
 魔力弾と空気弾は、ギアの捉えた標的に向かって飛んでゆき、途中でその軌道をぐにゃりと曲げる。アルヤァーガの攻撃を察知した玖繰が回避を試みたのだろうが、自動追尾機能を付与されている二つの弾は移動する玖繰をどこまでも追ってゆく。

「やはり厳しいか」

 だが、追尾は都合よく障害物を避けてはくれない。最短を進む性質を利用され、間に障害物を挟まれるとそこで止まってしまう。
 多少の障害物ならば貫くことも可能だが、二度三度と繰り返されれば威力は落ちるし、玖繰が直接迎撃すれば一撃で落とされる。
 まずは様子見の攻撃ではあったのだが、どうやら玖繰は思った以上に手強そうだ。
 アルヤァーガが自分のもつギア二つをそれぞれ複製し、合計四つのギアを手元におくと、一つは残して残りの三つの自動攻撃機能を起動する。これで、アルヤァーガの魔力が続く限り魔力弾や空気弾が間断なく発射されることになる。
 それらは僅かずつではあるが触れた相手の動きを鈍らせることが可能であり、直撃せずとも当てることが出来れば次第にアルヤァーガたちが有利となるはずだが、玖繰ほどの相手となればそれもどこまで通用するかわからない。
 だが、その弾幕のお陰でシュナトゥは狙うべき敵の位置がある程度絞り込むことが出来たようだ。アルヤァーガのギアが攻撃する先を見据えると弓を構える。

「…貫け!」

 シュナトゥの構えた機械弓はその姿を変えて篭手と一体化した。シュナトゥの持つ神聖武装である。
 黄の元素を宿した魔力矢はアルヤァーガのギアが狙う先を目掛けて飛ぶが、玖繰に当たることはなくその先にある木の幹に矢が突き刺さる。
 攻撃対象を追尾する矢も、対象を正常に認識しマーキング出来ていなければ正しく動作しない。元々狙いがずれていたのか、それとも玖繰が躱したのかは分からないが、やはり目標が見えていないと狙い撃つことは難しいようだ。


「効いてるのかどうかも分からないなんて…!」

 テスラの愛馬に跨った状態で剣を振るう。剣技を極めし者一撃は凄まじい剣圧は、空気の対流を生み出し渦となって残る。その渦に捉える事が出来れば、多少なりとも動きを鈍らせ他の攻撃も当てられるのではないかと思ったのだが、射程が短いこともあってか今のところそれらしい手応えはない。

「仕掛けてくるか!」

 これまでの玖繰の戦いはあくまで小手調べだったのだろう。アルヤァーガたちの戦力分析を済ませた玖繰は、自分を感知出来るだけの能力が無いと分かるや苛烈なまでの攻撃を仕掛けてきた。
 アルヤァーガは攻撃指示を出さずにおいていた最後のギアで、周囲の大気を操り結界を作っていたのだが、玖繰が鋭く伸ばした糸がそれに弾かれた音でそれを察すると、テスラも幅広の剣を盾のように構え、シュナトゥも神聖武装の持つ黄の元素を結界として展開し身を守る。

「ぐぅ…」

 始めに倒れたのはシュナトゥだった。着実に一人ずつ倒そうと、玖繰が執拗なまでに攻撃が集中させたのだ。結界や強い元素の加護があるとはいえ、玖繰ほどの相手に集中砲火されればひとたまりもない。
 アルヤァーガも結界を広げて守ろうとするが、一点に集中させた糸によって大気の結界は貫かれ、糸がシュナトゥに届いてしまう。じいさんの回復魔法や、自前で持ち込んだ霊薬で傷を癒すも焼け石に水の状態だ。

「シュナ! このままではジリ貧か…」
「なんとか攻撃を当てたいところだけど…」

 幸いにも一命を取り留めたシュナトゥを抱えてアルヤァーガは唇を噛みしめる。テスラの言う通り、攻撃さえ当てることが出来れば、少なくともこの一方的な状況は覆せるとは思うのだが、そのための手段を持ち合わせていないのが現状だ。
 なんとかして現状を変えようと思考を巡らせるが、いいアイディアは浮かんでこない。

「遅れてすまない! 玖繰、お前の思い通りにはさせない!」
「おっと。きみが来たということは、私様も少し本気を出さないといけないかな?」

 窮地に追い込まれたアルヤァーガたちを助けたのは、ユファラス・ディア・ラナフィーネだった。ユファラスはコンチェルトと名付けた鳥型のロボットを通して、上空からから偵察を行っておりアルヤァーガたちの様子は知っていた。
 本来ならばすぐにでも駆けつけたいところだったのだが、遅れてきたのには意味がある。

「へぇ。きみがそこにいるってことは、恵都ちゃんたちは負けちゃったのか」
「恵都が何者かは知らないが、竜王なら全滅したぞ」

 ユファラスの隣に立つ人物。それは恵都の使役する八大竜王との戦いを終えたバウアーであった。ことRWOという世界の中において、これほど心強い存在はいないだろうと救援を頼んでいたのだが、他にも救援を頼んでいた特異者がいたらしく、先にそちらに向かっていたため、ユファラスとの合流に遅れてしまい、結果としてユファラスが動き出すタイミングも遅れてしまった。
 しかし、どうやらアルヤァーガたちの全滅という最悪の事態を避けることには成功したようである。

「奴はとんでもなく強い。バウアーも警戒は怠らないようにしてくれ」
「あぁ。ひしひしと感じているところだ」

 ブランク襲撃の際に、玖繰と直接戦った経験のあるユファラスはそう言うと周囲を見渡す。
 ユファラスの瞳には周囲の魔力の動きが手に取るように分かる。そしてそれは当然、姿を隠す玖繰や隠された糸の位置も把握できるということだ。
 玖繰を視認したユファラスはそのまま攻撃を仕掛けたいところだが、周囲に張り巡らされた糸はどのような罠が仕掛けられているか分かったものではなく、動きにくいこと極まりない。まずはこの糸たちをどうにかするべきだろう。

「やっぱりきみの眼は厄介だね」
「そう思わせられたなら行幸だ!」

 魔力や霊力への干渉力を高める力を秘めた能面で顔を隠したユファラスは、まず手始めにと近場に向けて霊力を練り上げた炎を放ち糸の焼却をしてゆく。
 糸は燃えて消えてゆくが、それに反応して様々な罠が起動する。岩や丸太に短剣や毒煙などがユファラスに向かうが、糸の繋がる先も視えておりある程度予測出来ていたため、コンチェルトが変形した機械翼を広げて上空に逃げることで回避する。

「お前も視えているのか?」
「いや、勘だ」

 一方で、バウアーもまた糸の切断を行っていた。ユファラスが問いかけたように、まるで糸が視えているように剣を振るうバウアーだが、全てが視えている訳ではなくプレイヤーとして研ぎ澄まされた第六感によるものらしい。
 その勘も含めたプレイヤースキルは常軌を逸しているとしか言いようがなく、切断に失敗し罠が作動したとしても、明らかに死角を突いている罠すら、起動してから回避するという離れ業をやってのけてしまっている。

「そっちのもなかなか出来るみたいだね。いいよ、私様が遊んであげる」
「その余裕がいつまで持つか見ものだな」
「このRWOでこれ以上の好き勝手は許さん」

 心底バウアーに救援を出して良かったと思いながら、ある程度の糸を排除したユファラスは遂に玖繰との直接対決に臨む。
 翼を広げ玖繰へ向かうと、バウアーもそれを追って駆け出した。
 森という地形を最大限に活かし、玖繰が木や茂みを利用して後退しながら銃弾のように放つ糸を、ハンマーで弾きながら前進を続ける。
 こういった入り組んだ地形での戦闘はユファラスも得意とするところであり、バウアーも化け物じみたプレイヤースキルでそれについてくることが可能。
 少しずつ距離を詰めて遂に玖繰を間合いに捉えると、脳天目掛けてハンマーを振り下ろす。

「ちっ、仕留めそこなったか」
「大丈夫だ、まだチャンスはある」
「いいよいいよ、きみたち。それでこそだよ!」

 ユファラスの一撃はあやとりのように玖繰の指の間に張り巡らされた糸で防がれるが、搭載された推進器による加速も加えた一撃の威力によって地面に押さえつけられた玖繰に、側面からバウアーが仕掛けた。鋭い一太刀は八大竜王を容易く倒せるほどの威力を持っている。
 だが、深く斬り裂いたにも関わらず次の瞬間には玖繰は傷一つ無い元気な姿となって復活する。ブランクで戦った時も思ったが、やはりこの無敵の秘密を暴かなければ玖繰を倒すことは出来ないだろう。
 バウアーと共に、ユファラスは戦いながらその秘密を探ろうと眼を見開く。

「俺たちも援護をするぞ!」
「そうはしたいけど…!」
「この娘は儂に任せておけ。必ず治して見せるぞい」

 ユファラスとバウアーが共に玖繰に張り付いているお陰で、アルヤァーガとテスラも随分と狙いを定めやすくなった。
 じいさんにシュナトゥの治療を任せ、アルヤァーガは自分が魔力弾と空気弾で牽制している間に、テスラに接近するように促す。しかし、テスラはメール山に働く加速の力を制御しきれない。突撃をしても加速に振り回されてまともに玖繰を狙うことなどできないだろう。

「バウアー!」
「いいだろう」

 その動きから、アルヤァーガたちにも何か手札があるのだろうと察したユファラスは、アイコンタクトでバウアーへ意志を伝えると、森の中を無尽に駆け回りながら玖繰をアルヤァーガのいる方向へと誘導してゆく。
 玖繰も誘導されていることには気付いているようだが、二人の圧に押されて少しずつアルヤァーガたちの方へと押し込まれていった。

「来た! 影操流渦ぁ!」

 ユファラスたちの狙いに気付いたテスラはすぐに準備を開始していた。全身をナノマシンへと置換し、強制的にフルパワー以上の力を引き出すと、愛馬と融合を果たし鎧として纏う。
 そうして己の力を限界以上まで引き上げた上で、玖繰が間合いに入るのを待っていたのだ。ユファラスたちの動きを見て玖繰が間合いに入ったと思ったその瞬間、テスラは溜めていた力の全てを解き放った。
 己の影を剣と化し十字に斬り裂く。テスラの必殺技は確かに玖繰を捉えた感触があった。

「まだだ!」
「何度でも斬る!」

 玖繰は例によって間違いなく復活するだろう。それを見越してユファラスは追撃するために接近し、バウアーもそれに続く。
 対神シリーズとして開発されたユファラスのハンマーは補助装置でもあるコンチェルトによってその力を引き出され、明らかなユニークアバター持ちである玖繰には高い効果が期待できる。
 ハンマーに搭載された推進器を全開にしたユファラスは、玖繰が現れたその瞬間からハンマーの乱打を浴びせ続け、そこにバウアーも目にも止まらぬ早業で何度も斬撃を叩き込む。

「うおおおおお!」
「はあああああ!」

 流石は玖繰と言ったところか、二人掛かりの猛攻を前にしても反撃をしてくるほどであった。
 ユファラスは分身を使ってその反撃をやり過ごし、別方向から更に乱打を仕掛ける。
 しかし、これだけの攻撃を受けてなお、玖繰は無傷でその場に立っているのだ。

「あともう少しで、なにか掴めそうなんだが…」
「ならばそれまで続けるぞ」
「残念だけど、もう時間切れだよ。そろそろあっちへ行かないと」

 玖繰の復活を何度もその眼で見たユファラスは、無敵の謎の答えに近付きつつあった。
 だが、核心へと至る前に玖繰はこの場は撤退することを選んだようだ。あっち、と視線を向けた先には多くの特異者たちの反応がある。
 恐らく、彼らは玖繰が看過できないところまで登ってきたということなのだろう。
 しかし、ここでみすみす逃す訳にはいかない。「待て」と玖繰を追おうとするユファラスだが、玖繰は追撃を避けるために仕掛けていた罠を起動させた。
 周囲を取り囲む網状の糸が地面から現れ、その場にいる全員を包もうとする。最終的には網が閉じて内部に捕らわれた者が細切れにされてしまうのだろう。

「掴まれ!」
「逃げるなら…上か」

 逃げ道は真上しかないと即座に判断すると、空を飛べるユファラスと、最早なんでもありに近いスペックを持つバウアーで手分けして、その場に居る全員をなんとか抱えて真上へと飛ぶ。
 なんとか犠牲者は出さずに脱出は出来たが、抱えた者たちを無事に地面へと降ろした頃には、玖繰は遠くへ行っていた。

「ぐぅ…!」
「無理のしすぎじゃ! お主もこっちで暫く休め」

 玖繰を追いたいユファラスではあるが、ここに来て無理が祟ったようだ。
 玖繰を捕捉し続けるために眼を使い続けていたユファラスだが、視え過ぎる眼から入ってくる膨大な情報によって脳が焼き切れる寸前でもあったのだ。
 戦いに集中することで意識しないようにしていたが、中盤ごろから凄まじい頭痛に襲われていた。それが、戦闘状態から抜けて緊張の糸が緩んだ瞬間に、堰を切ったように溢れてきたのだ。
 これ以上はどうやっても戦えぬほどに消耗したユファラスは、気休め程度ではあるがじいさんから回復魔法を受けつつ、瞼を閉じて脳を休めるしかなかった。玖繰もこれも見越したうえでこの場を引いたのだろう。
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