― 同時に討て ―
マイカより伝えられた星仁と憂仁の攻略法、それは二人を同時に撃破することだ。しかし、それは言うほど簡単なことではない。ただでさえ強敵な二人を、どちらかが先に倒れないように加減しつつ体力を削り、とどめを刺すときは同時に攻撃を当てなければならないのだ。
だが、それでもやらなければならない。『Temporary peace』と『ハーヴェスト』で力を合わせて。
幸いにも、星仁はフェリペを加えた『Temporary peace』との戦いで傷付いており、憂仁もKONやGGGとの激闘によって消耗している。ここから同時撃破を狙うことは十分に可能なはずだ。
二つのクランの連絡役であるマイカと杏樹が互いの戦況を合図で伝え合いながら、少しずつ星仁と憂仁の体力を削ってゆく。星仁も憂仁も倒し方を知られことは察知しており、それを阻止するべく激しい抵抗をみせるが、救援に来てくれたフェリペ、GGG、KONらと共にどうにかそれを凌いでゆくと、遂にその時は訪れたようだ。
一気に倒せるだけの状態に追い詰めたとマイカが判断すると右手を挙げ、それを見て杏樹も右手を挙げる。
「「5、4、3、2、1…0!」」
マイカと杏樹の合図からファイブカウントが総攻撃の合図。ゼロのカウントと同時に『Temporary peace』と『ハーヴェスト』は持てる力の全てを星仁と憂仁に叩き込む。
「離しなさい!」
「離すものかよ! ツバキ、合わせてくれ!」
「言われなくても分かっているわよ!」
星仁の拳を盾で受け止めたジュンヤは、その力を開放して衝撃をそのまま跳ね返すと、体勢の崩れた星仁に魔力の鎖を巻き付きその動きを封じる。とはいえ星仁の力であればそのまま放置すれば即座に引きちぎってしまうだろう。それを防ぐためにも、鎖を引き星仁を手元へと手繰り寄せつつジュンヤが剣を振るうと同時に、既に準備を済ませていたツバキが攻撃魔法を起動。業火球が連続して星仁へ向かい炸裂する。
「少しでも弱ってくれれば!」
「参りますわ!」
陽太が弾切れになるまで拳銃の引き金を引き続けている間に、エリシアが纏う鎧の力を開放する。これまで星仁から受けたダメージの一部がエネルギーとして蓄えられていたのだ。
全身に力が漲るのを感じつつ、ジュンヤに続いて星仁へと迫ると渾身の力を込めた大上段からの振り下ろしを放つ。
「私たちも仕掛けましょう、ノーン様、フェリペ様」
「うん! わたしだってできるもん!」
「ほほほっ! マネーイズパワーざます!」
マイカの放ったアバターのオーラを練り上げた光線に先導されるように、ノーンも背負う光背が放つ目も眩むような輝きを攻撃へと転化し、フェリペも大量の金を注ぎ込んで威力を上げた黄金の弾丸を乱れ撃つ。
「ぐぁあああ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「仕掛けてきますか!」
「ここはゲームの中だ。スマートにご退場いただこう」
カウントゼロと同時にヴィオが前に出る。ゲームの世界に血生臭い現実を持ち込むなという意志を叩きつけるように、槍を突き出しその先端に触れた憂仁を手元に引き付けると、反撃に振るわれる拳を盾で防ぐ。
先ほどのように投げられるへまはもうしない。もう一度盾を掴まれる前に、半歩引いてロープを投げつけ憂仁を拘束する。
「余たちから逃げ切れるとは思わないことだ>:(」
「伊達に伝説などとは呼ばれてはおらんぞ!」
とはいえ、ただのロープではすぐに引きちぎられる。そのため、憂仁の動きの止まった一瞬を狙ってKONとGGGが左右から挟んで連撃を浴びせる。
無数の銃弾と矢には二人が持つ影の力が限界まで込められており、一発の威力も必殺級だ。
「さっきのお返しだぜ!」
続く壱星は、靴底から霊気を放出して一気に加速すると、全霊を込めた一太刀をお見舞いする。先ほど、GGGとKONが憂仁を引き付けいる間に回復を受けた壱星は、この時のために敢えて回復を最小限に留めて貰っていた。
受けた傷が深く追い込まれるほどに霊力が高まるこの技の威力を最大限に引き出すために。
膨大な霊力が強い輝きとなって刀から迸り、壱星の一振りにあわせてその全てが放出される。
「いくわよ、滅びのワードスペル…!」
詠唱を完成させたミシェルが最上級の攻撃魔法を放つ。憂仁の頭上高くに現れたのは巨大な魔法陣から隕石が少しずつ姿を現し、その全てが現れると急加速しながら真下へと落ちる。
隕石落下の衝撃とそれに伴う爆発は、本来敵味方を巻き込んで辺り一帯へと広がるが、ミシェルの掲げた杖の力によって拡散が押さえ込まれてその全てを憂仁一人で受けることとなるのだ。
「ぐぁあああ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
星仁は『Temporary peace』の、憂仁は『ハーヴェスト』の総攻撃を受けたことで戦闘不能級のダメージを受けたことは間違いない。
あとはそれが同時に着弾し、復活を阻止することが出来たかどうかだ。
「…生命反応なし」
「私たちの勝ちよ!」
索敵を得意とする壱星と杏樹が周囲の気配を探り、二人がどこかに潜んでいないか確かめるがそれらしい反応は見られず、勝利宣言に一同は大いに盛り上がったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
星仁と憂仁はそれぞれが元居た場所から離れた場所に横たわっていた。激しい攻撃の連続による衝撃で吹き飛ばされたのだろう。
偶然かはたまた必然か。吹き飛ばされた先はほぼ同じ場所となった二人は残された僅かな力を振り絞って地面を這う。綺麗に整えられていた七三分けは乱れ、スーツも傷だらけで眼鏡も砕けているがそれを気にすることなく、互いの手が届く距離まで近付くとどちらからともなく手を伸ばした。
「玖繰様には申し訳ないですが」
「どうやら我々はここまでのようです」
「「どうかご武運を」」
お互いの手を取り合った二人は、そう呟くと二度と動かなくなった。