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≪セレクター編≫神域への扉

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≪セレクター編≫神域への扉
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― 憂仁 ―


 『Temporary peace』と同盟を結んだ『ハーヴェスト』もまた、元々のパーティを二つに分割していた。こちら側はリーダーのベルベットが不在ではあるが、それでも共に戦ってきた絆で連携し憂仁との戦いを繰り広げていた。
 先に戦っていた者たちとスイッチして前に出た『ハーヴェスト』は、前衛のヴィオ(古城 偲)が憂仁の攻撃を防いでいる間に、後衛の壬生 杏樹、ミシェル(ミシェル・キサラギ)、火屋守 壱星が遠距離攻撃を仕掛け、回復を担うマイナデス(イクリマ・オー)が万が一に備える陣形だ。

「僕の筋肉で、お前に理解(わか)らせてやる!!」
「何を訳の分からないことを!」

 なにやら筋肉に拘りがある様子のヴィオは、後衛潰しに動こうとする憂仁の前に立ちふさがる。身を覆うほどの大盾で殴打を防ぎ、突き刺した相手を手元に引きずり込む力を持つ槍で攻撃することで自分から離れる事を許さない。
 やはり一発一発が重く、防ぐたびに盾を持つ腕に痺れが走るが、自分が抜かれてしまえばパーティの壊滅は必至なのだと己を奮い立たせ、憂仁の攻撃に耐え続ける。

「暫くはそれぞれに専念していた方がよさそうね…」

 憂仁から最も離れたところで、ちらりと『Temporary peace』の戦いを見て杏樹はそう呟く。なにか星仁と憂仁には何か秘密があることは確かだが、それを見破るまではとにかく戦って情報集めるしかないのだ。
 弓を引き絞って矢を放つ。狙いは敢えて憂仁から少し逸れた場所。解き放たれた矢は、途中で軌道が曲がりヴィオを避けて憂仁へと迫る。
 自動誘導を活かし、ヴィオから守りやすい位置からの変則的な攻撃だったが、憂仁は矢の風切り音に気付くと手刀で打ち落とす。

「凍てつけ!」
「くらいやがれ!」

 杏樹の一射は叩き落されてしまったが、そこにミシェルと壱星が畳みかける。
 スナイパーライフルのようにも見える杖の戦端を憂仁へと向けると、大量の水球が鋭い鏃のように凍結して憂仁へと殺到し、さらに予めミシェルが空中に撒いておいた置いた銃弾が別方向から迫る。
 目にも止まらぬ乱打でそれを一つずつ弾く憂仁だが、メール山に生える木やその辺を転がっている岩をものともせずに側面に回り込んだ壱星が刀を振るう。
 憂仁がいるのは刀の間合いの外側だが構わない。秘めたる力を開放した刀の刀身は無数の小さな刃の群れへと代わり、壱星の操作によって憂仁へと向かう。
 憂仁と近いヴィオもまきこまれそうなものだが、守護霊を介して精密な操作をしているため、器用にヴィオを避けて憂仁のみを攻撃することが可能だ。

「まずはあなたからどうにかするべきですか…」
「どうにか出来るならやってみるがいい!」

 一発の威力はさほどではないものの、圧倒的な数の暴力によって憂仁は少しずつ傷を負ってゆく。
 早いところ後衛からの攻撃を止めたいところだが、それにはまず立ちふさがるヴィオを躱さねばならない。後衛からの攻撃に対して無防備になることも厭わず、ぐっと力を込めた憂仁はヴィオの構える盾の中心に狙いを定めて正拳突きを放つ。

「ぐっ、だがこれくらいなら…!?」
「暫くご退場願います」

 衝撃に数歩ほど後ずさりするヴィオだが、この程度ならまだ耐えられる。と思ったところで、盾が憂仁によって掴まれる。盾ごと投げ飛ばされたヴィオは、不測の事態への備えも考えていたため、咄嗟に鉤付きのロープを地面に向けて伸ばしすぐに体勢を立て直すが、憂仁にはその一瞬で十分だった。ヴィオを引きはがした一瞬の間に山に生える木々の影へと姿を隠していたのだ。

「狙いは俺か!」
「やはりあなたは目が良いようですね」

 憂仁を見逃すことがなかった壱星は、木を避けるように小刃を操り迎撃を試みるが、ミシェルや杏樹の攻撃が届かない状況では接近を阻止することが出来ない。
 完全に近付かれる前にと、木の幹や岩を足場に森の中を軽やかに飛び回りながら距離を取る。が、そういったものを力任せに粉砕しながら直線で迫ってくる憂仁に遂に追いつかれてしまう。

「まず一人です」
「ごはっ!」

 小刃を集めて元の刀に戻した壱星が迎撃を試みるが、完全に見切られて躱された上で反撃を入れられる。
 壱星の生み出した幻影を打ち砕き、炎に焼かれながらも怯むことなく間合いを詰めて、捩じりこむようなレバーブローが炸裂したのだ。
 骨が軋み内蔵が潰れたかと思うような衝撃を受け、殴り飛ばされた先で岩に叩きつけられたことで意識も朦朧としてしまう。早く立ち上がらなくてはという思いとは裏腹に体がいうことを聞かず動けない。
 それでもなんとか意識を保っていると、憂仁はとどめを刺さずに壱星から離れてゆく。なぜだ、という疑問は憂仁の目指す先を見て氷塊する。
 憂仁の狙い。それはマイナデスであった。なんとか伝えようと声を振り絞ろうとする壱星だが、ダメージが大きくか細い声しか出てこない。
 待て、と手を伸ばすも完全に無視され憂仁は一気に加速してゆく。

「二人目です」
「!?!?」

 憂仁の動きは杏樹も察知していた。しかし、察知出来たからと言って対処出来るとは限らない。杏樹が声を上げるよりも早くに森から抜け出した憂仁は、驚きの表情を見せるマイナデスの顔面を打ち抜こうと拳を振るう。完全に不意を突かれたために、マイナデスは反応が遅れ回避は不能。
 一瞬の後には、なにが起こっているのかも理解出来ぬままに頭部が吹き飛んでしまうだろう。

「ほほっ。やっぱり、ぎりぎりのところで助けるのが格好良いじゃろう?」
「あちらに届け物をしていたから遅れただけであるがな:P」

 しかし、マイナデスの頭が胴体と泣き別れすることはなかった。老成した口調に似合わぬ少年がハイキックで憂仁の拳を逸らし、二丁拳銃で追撃をしたからだ。
 後方へ跳んで銃弾を躱した憂仁に、上空から無数の矢が降り注ぐ。ケンタウロスのような姿をした黒い人影の放った矢は、地面に突き刺さると轟音響かせ炸裂する。
 RWOとは異なるゲーム世界、KODCにおいてクラン「イレブンズ」を率いる伝説的プレイヤーGGGと、KODCを巡る事件の黒幕と目されたこともある、トップクラン「ファイト・クラブ」のリーダーKONだ。
 ミシェルと杏樹の救援要請に答え、ゲームの境界を越えて助けに来てくれたらしい。あちらへの届け物、とは恐らく『Temporary peace』の元へ送り届けたフェリペの事だろう。特徴的な高らかな笑い声がここまで響いている。

「待たせてしまったのう、姫?」
「ふふっ。こうして間に合ったのですから構わないわ」
「来てくれてありがとう!」
「余を倒したリコリスの頼みだ、断るはずがなかろう;)」

 ミシェルの装いから趣向を察したGGGがミシェルに笑顔を向け、KONも顔の電光表示をウィンクに変えてリコリスへ向ける。このまま旧交を温めていたいところだが、憂仁をこれ以上放置は出来ないだろう。

「まだ息はある。早く彼を回復させるのだ。その間は余たちであれを引き付ける:)」
「もちろんですわ! 決して死なせはしません!」
「さて、儂もいくとするかの。姫たちも少し休んでいるといいぞい」

 森の中で倒れていた壱星を回収していたKONが、瀕死の壱星をマイナデスに預けるとGGGと共に憂仁との戦いへ向かう。
 マイナデスが『ハーヴェスト』の全員を集めて回復を行っている間に、KODCの伝説的プレイヤー二人と憂仁が繰り広げた戦いは凄まじいものだった。
 GGGは二丁拳銃と格闘術に影の呪いを組み合わせたカゲ=カタで憂仁と真っ向から打ち合い、二人がぶつかるたびに周囲を揺らすほどの衝撃が広がった。
 空を駆けるKONも一発で地形を変えるほどの威力を秘めた矢を上空からこれでもかと降り注がせる。
 時折ちかちかと光るように三人のうちの誰かが見えたかと思えば、激しい衝撃や爆発が巻き起こりもはや何が起きているのかも分からない。

「皆様、これで大丈夫ですわね?」
「あぁ、助かったぜ」

 KONとGGGが戦っている間に最も重傷であった壱星が戦える程度に回復し他のメンバーも完全回復して、『ハーヴェスト』は体勢の立て直しに成功したと言える。ここからはGGGやKONと協力し、一気に逆転を狙いたいところだ。
 が、その前に『ハーヴェスト』の下へマイカが訪れた。本来いるべき『Temporary peace』から離れてこちらに来たということは、星仁と憂仁を倒す算段がついたのだろう。
 『ハーヴェスト』と『Temporary peace』の共同作戦は終局へと向かっていた。
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