― 星仁 ―
クラン『Temporary peace』は二つのチームに分かれていた。片方はリーダーであるフェイツイが率いて竜王との戦いに向かい、もう片方はアクアマリンと共に山頂へと向かっている。
そして、アクアマリンと共にいるこちら側の『Temporary peace』は、『ハーヴェスト』と同盟を組んで星仁と憂仁の分断と各個撃破を狙っていた。
「ここからは俺たちが受け持つ。後退して休んでくれ!」
「後はあたしたちに任せなさい!」
「ここで仕留めますわよ!」
「新手ですか。まぁいいでしょう」
先に星仁と戦っていた者たちの消耗が激しくなってくると、ジュンヤ(
星川 潤也)、アリーチェ(
アリーチェ・ビブリオテカリオ)、
エリシア・ボックが前に出た。
先行したエリシアが盾を構えつつ空からグレイブで強襲すると、時間差で地上から迫るジュンヤとアリーチェが仕掛ける。
エリシアの持つグレイブはアンチアバター能力を有しているほか、アリーチェのサーベルはそれそのものがアンチボディとなっており、RWOの仕様外の存在たる星仁に対しては高い効果を発揮する。鋭い三連撃にガードが間に合ったにも関わらず、想定よりも大きなダメージを受けたことで星仁は眉をしかめていたが、『Temporary peace』はそこへ更なる攻撃を仕掛ける。
「そこです!」
「狙い撃つよ!」
「覚悟しなさい、九鬼!」
「皆様ハ私ガオ護りシマス!」
光の翼を羽ばたかせて空へと昇った
影野 陽太が、狙いを定めて引き金を引くと、弾丸は星仁の腕に当たる。対ユニークアバター特効を持つその弾丸は、高いダメージを与えるだけでなく当てた相手の能力を下げる効果もある。
僅かに動きの鈍ったところへ今度はそこへ側面に回り込んだ
小鳥遊 美羽とツバキが同時攻撃を仕掛ける。大口径のライフルと、二門の浮遊マジックキャノンを使った美羽の狙撃と、ツバキの持つ杖の先端から放たれた五つの火球が星仁を襲う。
『Temporary peace』の攻撃を防御や回避で凌いでいた星仁が反撃をしようとしても、ツースリー(
DDM- 23)がタイタンのジョブ補正で得た巨大な体と二枚の盾でがっちりと守りを固めているため被害はほとんどない。
「…なるほど。おおよそは分かりました」
「ナニヲ言ッテ…!」
「うおあ!?」
「きゃあ!」
「なんてことですの!?」
だが、星仁が様子見は終わりだとでもいうかのように、眼鏡をきらりと光らせるとジュンヤたちの攻撃をいなしたうえで強烈なアッパーを仕掛ける。
すかさず守りに入るツースリーだが、あまりの衝撃に盾が浮き上がってしまった。その隙を見逃さず星仁は更に一歩踏み込むと、ツースリーの脚を掴み振り回す。
巨大化したツースリーを打撃武器のように扱い、接近していたジュンヤ、アリーチェ、エリシアが纏めて吹き飛ばされると、要は済んだと今度はツースリーを放り投げる。
「~ごめん!」
投げられたツースリーが向かう先には美羽がいたのだが、流石にツースリーの巨体を受け止めることは出来ないため、逡巡の末に横へ跳んで回避する。
「遠距離攻撃の手段がないとでも思いましたか?」
「くっ!」
星仁の攻勢を止めようと上空から銃撃を続ける陽太だが、星仁は陽太の呼吸や銃口の向きから銃弾の軌道を予測し、まるで銃弾の方が星仁を避けているかのように見えるほどの動きで躱すと、近くにあった一抱えもある岩石を片手で一つずつ持ち上げ、陽太目掛けて続けて投げつけた。
野球のボールでも投げるかのように投げられた岩石は、凄まじい速度で陽太に迫る。この質量と速度ならば、大砲の一撃とそう変わらない。直撃はなんとしても避けなければと翼を羽ばたかせて右へ左へと飛び回る。
「チッ、また新手ですか」
「オーッホッホッホ! 私がきたからにはもう安心ざます!」
「フェリペさん!」
瞬く間に半壊状態となった『Temporary peace』を救ったのは、マイカ(
邑垣 舞花)が救援要請を出していたフェリペであった。
エレガンス倶楽部のリーダーでもあり、RWO内屈指の資産家でもあるフェリペは、”金は力”を体現するかのように金にものを言わせて集めた最高級装備で身を固め、一発一億Gもする銃弾を乱れ撃つ。
その銃撃は掛かった費用に比例して威力が上昇しており、星仁としても無視はできない。
「回復するよ!」
フェリペが星仁を抑えている間に、ノーン(
ノーン・スカイフラワー)が杖を掲げると、周囲に光の大爆発が巻き起こる。
最上位の回復魔法は傷付いた『Temporary peace』のメンバーを癒し、再び戦える状態へと戻したのだ。
「いい加減、諦めたらどうです?」
「はぁ…はぁ…。誰が諦めるかよ!」
フェリペの参戦で持ち直した『Temporary peace』だが、星仁を倒すまでには至らなかった。
再び包囲網を敷いたまでは良かったものの、他の特異者と同じように何度致命的な一撃を与えても完全回復して復活してしまうのだ。
『Temporary peace』の攻撃を受けて深い傷を負った状態でも余裕の表情をみせるに、ジュンヤが噛みつくように叫ぶ。
その時、これまで状況の分析を続けていたマイカが遂に口を開いた。
「これまでの戦いぶりから察するに、恐らく彼らは双子で生命力や魔力を共有しているのでしょう。片方が無事であればもう片方が倒れても即時復活が可能…。つまり、目指すべきは同時撃破です!」
「なるほどな。攻略法が分かればこっちのものだぜ!」
「…後ろで立っているだけと放置したのがいけませんでしたか」
「私はこのことをハーヴェストの方々へ伝えてきます!」
星仁と憂仁の不死身の秘密は暴けた。あとは復活させないように倒すだけ。しかし、それは言うほど容易いことではない。手の内を暴かれた星仁はこれまで以上の殺意の波動を放っている。これからが本当の戦いということだろう。