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≪セレクター編≫神域への扉

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≪セレクター編≫神域への扉
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― 八大竜王 ガルグイユ ―


 メール山に、九鬼によって操られた八大竜王が現れた。その報せを聞いたセルリアン(谷村 春香)は、クリムゾン(谷村 ハルキ)、ラベンダー(秋光 紫)と共にそのうちの一体を抑えるべく動いていた。
 狙うべきはガルグイユ。かつて戦い、そしてセルリアンが聖剣を譲り受けた相手だ。
 居並ぶ八大竜王を眺め、その中に岩山を思わせる岩塊が鎮座しているのを見つけると、他の特異者たちへ向かわぬようにとセルリアンは先制攻撃を仕掛け、ガルグイユの意識を自分たちへと引き付ける。

「きゃ!」
「! 僕に掴まって!」
「歩くだけで地震が起こるなんて…」

 ガルグイユを引き連れ三人はメール山の奥へと進んでゆくが、ガルグイユはその巨体と岩石のような甲殻によって非常に重い。一歩進むたびに山が鳴動し、バランスを崩して転びそうになってしまうほどだ。
 セルリアンが倒れそうになると、重装備で安定感のあるクリムゾンがそれを支え、ラベンダーにも差し伸べる。そうして耐えながら十分に他の竜王から引き離すことに成功すると、三人は反転しセルリアンを先頭にクリムゾン、ラベンダーと続く陣形を取った。

「やるよ、二人とも!」
「うん!」
「疲れたら言ってね?」

 セルリアンの号令と同時に三人は動き出す。
 まずはセルリアン。先手必勝とばかりに距離があるうちから果敢に攻める。右手の中に現れた光の球を投擲すると、瞬く間に加速して流星のようガルグイユへ向かって飛んでゆく。
 光の球はガルグイユの甲殻へと当たると光が炸裂しそのHPを削る。が、岩石の鎧を纏っているかのようなガルグイユの甲殻は非常に硬く、思ったよりもダメージが入らない。
 光の球を何度か放ちながら接近するセルリアンの後ろにはクリムゾン。しかし、クリムゾンの役割はラベンダーを守ることであり、両手に盾という防御特化の装備をしているため、攻撃に参加することはない。ある程度まで近付くと、クリムゾンは足を止めてセルリアンを送り出し、その背中にラベンダーを隠すように盾を構える。

「相変わらず硬い…!」

 聖剣所持者を攻撃することの出来ないガルグイユに対して、セルリアンは一方的に攻撃することが出来る。しかし、先ほどまでの光球での攻撃でも分かる通り、ガルグイユの甲殻は非常に硬く、聖剣の一撃であっても僅かなダメージしか与えられない。
 聖剣と甲殻のぶつかる衝撃で右手に鈍い痺れが走るが、それでもブレイブのジョブ特性を活かした高速の連続攻撃を叩き込んでゆく。
 一方のガルグイユはというと、攻撃することが出来ないセルリアンは完全に無視し、クリムゾンとその後ろにいるラベンダーに狙いを定めたようだ。
 黒曜石を思わせる黒い爪を地面に突き刺すと、それをシャベルのように使って大量の土砂を投げつけてくる。

「絶対に陰から出ないで!」
「分かってるわ」

 二枚の盾を構えたクリムゾンが、ラベンダーを背中に庇いながら土砂を受け止める。
 竜王による一撃の威力は凄まじく、辺りに轟音が響き地面が揺れる。が、土煙が晴れたその場所には変わらずクリムゾンが立っていた。
 対ガルグイユを想定し、地属性に対する備えは万全にしていた上に、元々の防御能力の高さも相まってほぼ無傷で耐えきる事が出来ていたのだ。この程度なら、まだラベンダーの回復は必要ないだろう。

「このままなら多分倒せるけど…!」
「もの凄く時間がかかりそうだね…」

 ガルグイユからの反撃がないことをいいことに、光速に迫る速度による一閃を何度も叩き込むセルリアン。だが、ガルグイユのHPはなかなか減らない。
 クリムゾンが攻撃を一身に引き受け、その間にセルリアン攻撃をし続け、クリムゾンのHPが減ったらラベンダーが回復する。完全にパターンが出来上がっているため、このまま戦い続けても負けることはないだろうが、火力が足りず倒すには多くの時間を要することは想像に難くない。
 しかし、三人はそれでも構わないと考えていた。こうして時間を稼いでいる間に他の誰かが恵都を見つけて倒してしまえばいいのだから。

「ブレス来るよ! 気を付けて!」
「! っと危ない」

 もはや、時間が掛かるだけの単調な作業と化してしまったガルグイユ戦だが、ガルグイユのHPが三割を切った辺りで動きが変わった。
 何か力を溜めるような動作を下かと思うと、閉ざされた口の隙間から土砂が僅かに溢れ始めたのだ。それを察知したセルリアンが声を上げると、単純作業の連続で集中力の落ち始めていたクリムゾンは気を取り直し、全神経を集中して防御の構えを取る。
 盾の力を解放し、地属性に対する防御膜も展開した完全防御の体勢だ。
 その直後、ガルグイユの口から山津波を思わせるような土石流が放たれた。大小さまざまな岩や礫の混じったブレスは、凄まじい圧力でクリムゾンごとラベンダーを押し流そうとする。
 それを鎧の靴底に仕込まれたローラーを全速力で回して踏ん張る。ここでクリムゾンが押し負けると、その背後にいるラベンダーはブレスの直撃を受けることになり、高い確率でHPを全損してしまうからだ。
 それだけは何としても防がねばならない、と全精力を注ぎ込んでクリムゾンは耐え忍ぶ。

「はぁ…はぁ…。これで、トドメ…!」
「漸く終わったね…」
「それじゃあ、回復するわね」

 終わって見れば、危うかったと思えたのはブレスの時のみだった。それも、強いて挙げればというレベルであり、手強かったのはガルグイユよりも疲労と退屈さだっといえるかもしれない。
 漸くガルグイユのHPを削り切ったセルリアンは、聖剣を杖のように地面に突き刺すと肩で息をしているが、ガルグイユの総HP
に対して微量のダメージを休みなく与え続けていたのだから仕方ない。
 その様子を見てラベンダーが最上位の回復魔法を放ち、辺りが光に包まれる。回復魔法が疲労に効くかというと疑問が残るが、目減りしていたクリムゾンのHPも同時に回復出来るのだから無駄ではないだろう。

「他の竜王は…もういないね」
「やっぱり私たちが最後だったかー」
「まぁいいじゃない? 取り合えず、山頂を目指しましょう?」

 クリムゾンが周囲を見渡してみると、八大竜王の中でも特に巨大で目立つアンフィスバエナを始め、他の竜王の姿は見当たらない。当然と言えば当然だが、八大竜王戦はセルリアンたちが最後だったようだ。
 とはいえ、ここに来た目的は本来竜王たちを倒す事ではない。竜王たちはあくまでも障害の一つである。ラベンダーの言葉でそれを思い出すと、セルリアンを先頭に三人は山頂に向けて歩き出す。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「…最後の竜王もやられたかー」

 メール山の山頂にいた恵都は、八大竜王との繋がりが全て消え失せ、竜王たちが特異者によって倒されたことを知る。
 RWOにはもう、これらを上回る駒はない。
 しかし、その表情に絶望はない。多少の悔しさはあっても、自身に与えられた役目を全うしようとして全力をぶつけた結果、特異者たちがそれを上回ってきたというだけなのだから。
 最期にドラゴンを手懐けることができただけでも、動物使いとしては十分だ。

「せーじにいさま、ゆーじんにいさま、そしてくくりのば……ねーさま。先に行ってるねー」

 “手の内を晒した上での敗北には死あるのみ”
 九鬼の掟に則り、さも当然だとでもいうかのように毒を呷ると、恵都はそのまま静かに息を引き取った。
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