3.争闘に沸き立つ舞台(3)
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島田中 圭二 ◇◆◇
圭二は闘技場の舞台へと上がり、周囲を見回した。
実力を鑑みればキャロルのように場を沸かせる事は適わないだろう。しかしやれる事はやっておきたい。そのついでに自分の実力がどの程度か試しておきたい。そう考えた圭二はジャイアントスコーピオンを対戦相手に定めた。
「少し前の試合であいつらの動きは見せてもらった、後は実戦でどのくらい動けるかだな」
圭二は反対側から現れたジャイアントスコーピオンを眺めた。
硬い部分は避け、尻尾の針には注意すればなんとかなるだろうか。
ガサガサという音を聞き圭二は精霊銀の剣を構えた。身軽さを生かし、敵の側面へと移動する。正面に立てばあの毒針が向かってくるだろう。出来るだけ側面に留まり、比較的柔らかな関節部を狙う事にした。華麗な足さばきを以て尾の針を躱し、反撃によって傷を負わせていくと、敵の動きが荒々しいものへと変化した。今度は振り払いの攻撃だ。
それを真上へと飛ぶ事で回避し、軽業師のように尻尾へと立った。毒針を捌き、半身を捻る形で再び宙へと飛ぶ。
狙うのは柔らかな部分。あの上向きに付いた目だ。
落下の速度を利用し、剣を突き立ててやれば蠍は大げさに身体を揺らし、その場へと崩れ落ちた。
「少しは盛り上がってくれたらいいんだけどな」
剣を抜き取ると同時に、周囲に響いたのは歓声である。
圭二は安心したかのように笑い、その剣を空へと掲げた
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暁月 弥恵 ◇◆◇
白を基調とした舞踏衣を翻し、弥恵はラオプティーアの格闘家と対峙する。
入場の時に奏でた横笛をそっと懐へしまい、嫋やかに衣装の布をはためかす。ふわふわとした生地が揺れ、透け感のある薄布が水のように踊る。軽やかなステップで身を彩り、観客に投げキッスを飛ばしてやれば拍手と共に歓声が生み出された。
「――世界照らすは夜明けの舞、暁月 弥恵の舞台をどうぞご覧遊ばせ」
ただの格闘術と侮るなかれ、この身に宿りしは舞姫の妙技。弥恵は美脚を晒し、ステップと共に格闘家へと詰め寄った。組み付きは踊りで往なし、滑らかな四肢で魅せるのは弥恵の特色でもある舞踊。ポニーテールを翻せば、広がったのは仮初めの闇だ。
合間合間に魅力溢れるポーズを決めれば歓声が響き渡る。
「どうせならばもっと歓声を……!!」
攻撃を躱しながらも弥恵は観客を魅了するようにあざといポーズを見せていく。もしかしたらここは闘技場ではなくそういった見世物なのかもしれない。そう思わせたのも束の間、放たれたのは拳での連撃と、美脚を誇示するかのような蹴り技のコンボだ。
格闘家が倒れたのはそれから暫くしてからの事。勝者である弥恵は嫋やかな礼を見せようとし――ビリッと裂く音が立つ。
「あっ、服が!?」
勝者への賞賛が瞬く間に下卑た歓声へと変わってしまった。
弥恵は慌てながらも破れた布を拾い集め、逃げ去るようにして闘技場を後にした。
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風間 瑛心 ◇◆◇
陽動らしく闘技場への参加を決めた瑛心はジャイアントスコーピオンと対峙していた。
硬いサソリは真っ向から向かっても大してダメージを与えられず、闘技場全体を使った動きでサソリの攻撃を受け流しながらも円上の端に陣取っている。
手に持つショートソードがその殻を撫でるに留まる事も多く、観客からすれば防戦一方の戦いに思えるだろう。
しかしそれはサソリとて同じ事である。
防御に重きを置いた瑛心の行動を受け、サソリも煩わしく感じているらしい。攻撃はどんどんと大振りなものへと変わっていく。
そろそろ頃合いだろう。瑛心がそう考えれば、サソリはその煩わしさを消し去ろうと強引に突進をしてきた。
それを見越し、瑛心は軽やかに宙へと飛び上がる。くるりとその身を丸め、着地するのはサソリの後ろ側だ。
相手が振り向く前に雌雄を決したい。ショートソードで狙い撃つのは硬い尾だ。
放たれたのは上段からの袈裟斬り。意表をついた攻撃、そして動きが雑になってしまったサソリが踏ん張ることは適わなかった。サソリはそのまま場外へと落ちていき、観客からの声援に包まれながらも瑛心による見事な逆転劇はここで幕引きとなった。