クリエイティブRPG

カルディネア

忍び寄る崩壊の序曲

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忍び寄る崩壊の序曲
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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1.争闘に沸き立つ舞台(1)

◇◆◇ 星川 潤也アリーチェ・ビブリオテカリオ ◇◆◇

 潤也は大剣に伝わる痺れによって表情を顰めた。
 構え直せば追撃が直ぐに寄越され、体勢を整える間すらも訪れない。
「ふふん、あたしから学びたいんだよね? ほらほら頑張りなよ」
 キャロルは竜を分かつ大剣を振りかざした。
 相手は滅竜士を名乗るキャロル。駆け出しの冒険者である潤也にとっては天と地ほどの差があった。しかし元よりこの戦いに勝算は無い。欲しいのは彼女の強さ、その鍵である。

 キャロルは潤也の攻撃を全て読み、流れるようにカウンターを仕掛けてくる。防ぐのでいっぱいいっぱいの潤也に対し、彼女は余力を残した状態で相手取ってきた。
 どう足掻いても勝てる見込みもない。狙うのであれば一発逆転の策のみ。
 そうして潤也が放ったのは目にも留まらぬ連続攻撃だったが、キャロルはそれを全て躱した。そして最後には潤也の大剣を思いっきり弾き飛ばす。
 勝負あったと判定が下されると、控えていたアリーチェが治療の為、潤也へと駆け寄った。
「ねぇ、キャロル。奮闘したことに免じて教えて頂戴」
 治療の傍らアリーチェは問うた。
 レグルダの伝承を知れば竜は倒すべき存在だろう。何故なら竜は人のみを守ってくれる存在なのである。それ以外の種族は守ってくれず、だからといって竜の管理にそぐわなければ人も排除対象になり得るものだ。それならば共に戦い、竜の管理から世界を解放してはくれないか。アリーチェがそのように問えばキャロルは真面目な表情でそれに答える。
「んー、レグルダの伝承を知っている上で、竜の管理云々っていうのはちょっと違わなくないかな? リュクセール王国は神竜に守られた千年王国だし、魔族が神竜に従えばいいだけの話だよね? そういう考えの人に話す舌はないかな」
 仲間になるのは構わない、だけれどもそれはあくまで人のため。魔族と手を結ぶつもりなどないと彼女は静かに言ってのけた。


◇◆◇ 柊 恭也納屋 タヱ子 ◇◆◇

「闘技場か、オレとしては賞金なんぞよりレアな装備が欲しい所なんだがな」
 恭也は観客席から闘技場を眺め、呟いた。
 戦う事に異論は無い。しかし報酬そのものは興味をそそるものではなく、裏で暗躍している者達に関しても己には関係の無い話だと考えている。
「ですが、仕事としては良い舞台ですよね。常連にも知られた顔ぶれをニュービーが打ち倒せば人目を引きつけられるでしょうし、名も売れるでしょうから」
 そうすれば冒険者としての立ち位置も定まってくるだろうと、タヱ子は口元に手を当て微笑みを零す。
「まぁ、そうかもしれないな。……とにかく派手にぶっ殺してやればいいだけだろ?」
「そうですね。油断せずに行きましょう」

 二人は控え室から闘技場の入り口へと降り立った。
 観客の声援やら罵声やらが飛び交う只中、戦いの舞台へ上がったのは軍馬に乗った恭也だ。その後ろには側仕えのように付き添うタヱ子の姿がある。
 闘技場に紛れ込んだニュービーを祝福する者、または哀れみの目を向ける者。はたまた血が見たいだけなのだと怒声と共に何かを叫ぶ者――周囲は大変賑やかである。
 しかしそれも直ぐに鳴りを潜める。反対側の入り口が開かれ、牙を剥いたサーベルタイガーが現れたのだ。
 交戦の合図は恭也の竜煽りだ。別の言語で罵声を捲し立てれば獣にも通じたのだろう、サーベルタイガーは駆け始めた軍馬を追い始める。合わせ、タヱ子も準備を始めた。足音を立てぬよう注意し、サーベルタイガーの背後を取ろうと移動を始める。
 恭也は今回の戦いに於いて囮である。軍馬を使って上手い具合に注意を引き、警戒が疎かとなった所をタヱ子に狙わせるつもりだ。彼女の足音を馬の蹄で消しながらも追従しやすいよう手綱を操り、動きを止めぬよう立ち回る。時折、翠刃の居合刀で獣の牙を弾き、馬を守りながらも対処していけばサーベルタイガーの向こうにタヱ子の姿を見た。
 彼女はショートソードを振りかぶり、獣へと突き立てた。痛みに藻掻く獣は我を忘れて四肢を暴れさせている。
「手負いの獣は怖いですからね」
 軽業師のように軽快な足さばきでそれを避け、確実に仕留めるべくもう一本のショートソードを縦に構えた。剣に塗布した毒が回り始めたのだろうか。獣は血を吐きながらもタヱ子に飛びかかったが、それを阻んだのは恭也の軍馬だ。獣を飛び越え、その途中で居合刀によって打ち落とす。獣の身体は大きく揺れ、体勢を崩しながら地面へと落ちていった。そこを狙うのはタヱ子のショートソードである。
 脇腹に狙いを定め突き刺せば、大量の血液が無機質な闘技場の床を彩った。
「後は……仕上げでしょうか。折角ならそれっぽく振る舞った方が盛り上がりますよね」
 タヱ子は失血によって動けなくなった獣へと近寄り、脇腹に突き刺さったショートソードを抜き取る。そのまま獣の首筋へとあてがい、力任せに押し切った。
 ぼたぼたと零れ落ちる血を気に留めず、タヱ子は関係性を誇示するように生首を抱え、主である恭也へそれを捧げた。


◇◆◇ 紫月 幸人 ◇◆◇

「対戦相手……それならばキャロル殿に挑みましょう。そこに頂が在るのなら挑まずにはおられませんからなぁ!!」
 紫月 幸人は闘技場での一件を聞き、キャロルと戦う事を選んだ。
 己が実力を鑑みればやや無謀とも言える判断だったが、どうせならば実力を計りたいと思う気持ちもある。無茶は承知の上、幸人は意気揚々と闘技場へ上がることにした。

「一手、ご指南お願い致します!!」
「ふーん、とんだ無謀者もいたもんだね」
 キャロルは幸人に向かって大剣を構えた。
 対する幸人は拳を握りしめ構えを取る。自分が挑む側なのであれば待ちの姿勢は無礼にあたるだろう。そう考え、掌底を打ち込もうと駆けた。
 あと三歩、二歩――そしてもう一歩目を踏み出そうとした瞬間、感じ取ったのは荒々しい風。否、キャロルが振るった大剣だった。
「――でもその意気やよーし!!」
 キャロルは不敵に笑い、振り抜いた大剣によって幸人を場外まで吹き飛ばした。緩やかに描く放物線、そして地面に叩き付けられた幸人。
 キャロルの鮮やかなカウンターを以て、此度の試合は幕引きとなってしまった。

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