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創世の絆~オーバーチュア~

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創世の絆~オーバーチュア~
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■ロケット発射台制圧作戦(1)

「やれやれ……旧式の発射台にはひなびた美しさがあると思って来てみれば。
 あれは、美しくないな」
 自身専用のイコンに搭乗するジェイダス・観世院が示す先、旧式――といっても燃料を満載したロケットを飛ばすこと自体が旧技術であるだけで、設備そのものはロケットを飛ばすのに十分な完成度を保っている――のロケット発射台には無骨なデザインのロケットが既に設置されていた。
『ルドルフ、偵察より戻りました。
 前方の設置されたロケットに乗り込む人の姿が確認できました』
 通信が開き、ルドルフ・メンデルスゾーンが頭を垂れ報告を行う。
「こちらが本命というわけか。ならばロケットの発射を阻止せねばなるまいな」
 ロケットは複数あり、一部のロケットにはコンテナが設置されている。それが何であるかはわからないがろくなものではないだろう。
『ハッ。早速出撃準備を通達します』
 ジェイダス校長の言葉に応えるべく、ルドルフが再び頭を垂れ通信が切れる。
 ――だが、たとえジェイダス校長に認められた精鋭“イエニチェリ”の一人であるルドルフでも、この状況は少々手を焼いた。


(それにしても戦いは、いつ終わるのでしょうね。平和はいつになっても、訪れることはなく)
 薔薇の学舎の精鋭たちが出撃準備を進める中、自身も同様に機体の最終チェックを行うリオン・ヴォルカンが今なお世界中で続く戦乱にモヤモヤとした気持ちを忍ばせる。
(戦いの中でも、敵を倒した人には功績が与えられる一方で、力弱き人を守った人にはスポットライトが当てられない。
 正直、何のために戦っているのかわからなくなる時があります)
 戦闘前に持ってはいけない気持ちであるとわかりつつも、なかなか消えてはくれない。
「まさか、こっちが本命だったとはな。戦力は足りてるのだろうか」
 九曜 すばるの疑問で意識をようやく別のところに向けることができたリオンが、正直な懸念を口にする。
『足りている、とは言えないですね。マスドライバーが囮であるとわかった以上、マスドライバー側よりも少ない戦力で鏖殺寺院の月への侵攻を阻止する必要があることになりますから』
 それはルドルフが手を焼いている状況でもあった。現状、ロケット発射台の戦力はマスドライバーのそれよりも少ない。その状況でロケットが発射されるまでの間に、既に展開を終えている魔術系の契約者による飛行部隊を突破する必要がある。
「そうか。けど、やるしかないな。これでも一応、薔薇学生だし」
 すばるはそう言うものの、薔薇学生の搭乗するイコン、シパーヒーに混ざる形で並んでいるすばるとリオンの搭乗するシパーヒーは、数々の戦いを生き残った貫禄が備わっていた。薔薇学生は二人のイコンを目の当たりにして、ある種の美学を感じ取りいつか自分も同じ位置に立ちたい、と心に抱く。
「問題は敵の戦力が、見えている飛行部隊だけなのかということだ。
 偵察によれば、彼らは何かを召喚しているそうじゃないか」
 すばるの続けての疑問に、リオンは端末を操作して共有されている情報を確認する。
『……真紅の幻影……これは、まさか!?』
 馬らしき形状が確認された画像をすばるにも共有すれば、すばるはマジかよ、とうめき声をあげた。
「確かこいつは――」
 交戦記録を引っ張り出し、そこに書かれていた特徴を確認する。

 機動力は現行のイコンを上回り、斧槍のような武器は見た目以上の“不可視の間合い”が存在する

 身に着けている鎧は生半可な攻撃では傷さえつけられず、体と繋がって常に修復され続けている

「攻撃が命中しにくい上に、中途半端な攻撃では傷付かず修復される。
 これってアレだ、地球のゲームだったかクソゲーって言われるような敵だよな」
 それほどの敵が召喚されるような事態になれば、ロケット発射を阻止することは非常に厳しくなる。
『全機、出撃準備を完了しました!』
『よし。薔薇学機動部隊、出撃!』
 直後、出撃準備を完了した薔薇学イコン部隊が次々と飛び立つ。
「俺たちも行くぞ」
『ええ』
 呼応して、すばるとリオンの搭乗するイコンも、スラスターを吹かして飛び立った――。


 各所で味方のイコンと、敵の飛行部隊が交戦を開始する。
(某国と手を組んでまで、なおも平和への道を阻むとは……。
 寺院の名を冠してやりたい放題されてはたまったものではない。ここで出鼻を挫いておきたいものだ)
 魔法の杖を掲げ、佐門 伽傳が前方の飛行部隊に光の刃を放つ。大部分は展開されたシールドに阻まれるも、戦女神の威光でもある光の刃はそれを受けた者に畏怖をもたらす。反撃はごく僅かのみ行われ、向かってくる魔弾は騎乗するヒポグリフの羽ばたきでかき消えた。
(何を仕掛けてくるか、見極める必要がある)
 事前の情報にあった、馬らしき形状の真紅の幻影が現実に召喚されるとなれば、作戦の成否に関わる。伽傳は模像のフラワシを使役し、周囲の戦闘で生じた瓦礫や岩を固めイコン大の動く石像を作り上げる。これに支援用マジックカノンを載せ、あたかも石像が自立して攻撃しているように見せた上で、自身は周囲の気配や魔力を肌で感じられるようにしながら飛行部隊へ接近を試みる。
(……強大な魔力の流れを感じる。この先か)
 展開している飛行部隊の一部が、不自然な円陣を形成している。その中心に向かって魔力の流れが発生しており、召喚の儀式が行われているのは確実であろう。
(私一人では確実に止めるのは難しい。ここは味方の援護を待ちつつ足止めを図ろう)
 伽傳が杖を掲げ、空中に魔力の陣を形成する。これは味方への目印でありつつ、敵へは石の矢を降らせ、直撃した者の動きを鈍らせる効果を発揮する。

『リーダー、向こうに魔力の陣が見えまふ』
 ヒポグリフのグレンヴィーに騎乗するリイム・クローバーの示す方角を向いた十文字 宵一の先で、魔力の陣から石の矢が降り注ぎ、先に居た飛行部隊の動きを鈍らせた。
「足止めを図っている……真紅の幻影が召喚されつつあるのか!
 リイム、急行するぞ!」
『はいでふ!』
 宵一がリイムに指示を行い、騎乗する咎竜タルア=ラルを羽ばたかせ速度を上げる。その動きを察知した飛行部隊が魔弾を放って阻止を試みるも、リイムの展開したシールドが防ぎ、リイムの意識とシンクロするビーム兵器が反撃を行い敵のそれ以上の攻撃を阻止した。
「ブレスだ、タルちゃん!」
 可愛らしい呼ばれ方とは真逆の、荒々しい咆哮から放たれたブレスが飛行部隊を襲う。ブレスは展開されたシールドの上から損害を与え、召喚の儀式を担当する部隊の守りを剥がす。
「飛び込むぞ!」
 宵一が神狩りの名を冠する大剣を抜き、円陣を形成する部隊へ飛び込む。――だが召喚の儀式はギリギリのところで完成され、出現した人馬型の真紅の幻影が繰り出す斧槍に宵一の突撃は阻まれた。
「チッ、間に合わなかったか!」
『リーダー、一旦態勢を整えた方がいいでふ!』
 リイムの声に従う形で、大剣を力いっぱい振るって真紅の幻影の斧槍を弾き、リイムと合流する。
(嫌な攻撃だ……見えない間合いが攻防を狂わせる。
 それにあの鎧、生半可な攻撃では破れないだろう)
 一度斬りあっただけで、宵一は真紅の幻影が厄介な相手であると悟る。味方の数が揃い、万全な対応を取り続ければ決して勝てない相手ではないが、現状を鑑みれば最悪の相手だった。

「はわわ、出てきちゃいました。非常にまずいのですよ」
 飛行部隊に光と闇の魔弾を放ち、目印となっていた魔力の陣へ向かおうとしていた土方 伊織だが、真紅の幻影の出現に行動方針の転換を余儀なくされる。真紅の幻影が人馬型インテグラルであるなら、味方一丸となって当たらねば各個撃破されてしまう。
『お嬢様、先程マスドライバーの制圧が済んだとのことです。そちらへ向かっていた契約者が援軍として駆けつけてくださるそうです』
 情報収集に当たっていたサー ベディヴィエールの報告が、伊織の心を少しずつ落ち着かせていく。味方が合流すれば少なくとも、こちらの撃破敗北は免れるだろう。数で上回りかつ対応ができれば、勝てない相手ではない。
(うーん、でもそれじゃダメなのですよ。相手はロケット発射が目的なのですぅ)
 ロケットが発射され、迎撃不可能な高度まで上昇してしまったらもう、阻止する手段は無い。そして味方の陣容と敵の特性と、情報が揃っているからこそ伊織は、現状が非常に厳しいものであるとわかってしまっていた。
(失敗したら怒られますかね……でも、ごまかしたり嘘ついたりはもっと良くないのです)
 ロイヤルガードとして、状況を確認し報告を上げられるよう、伊織は首を振って気持ちを切り替え、事に当たる。
「ベディさん、真紅の幻影との相手、お願いできますか?」
『承知しました』
 伊織から主操作を引き継ぎ、ベディヴィエールが騎士として真紅の幻影に立ち向かう。
『加勢する! 協力して対処しよう』
『ええ、共に戦いましょう』
 ドラゴンに騎乗する宵一と共闘する形で、ベディヴィエールは聖なる光の力を有する剣を振るい、真紅の幻影と斬り合う。剣戟を飛ばしてからの強力な剣戟は難敵と称される相手であっても、防戦を強いることができた。
「リイムさん、ヴォラーゴから魔法発動の気配が察知されたです」
『わかりました、オーロラのカーテンで皆さんをお守りしまふ』
 レーダーの感知した情報から、伊織が敵の行動を予測しそれを伝えられたリイムが即座に反応し、降り注ぐ脅威を前に七色に輝くカーテンを設置して防いだ。
「この連撃を、受けてみろ!」
 味方の援護を受け、一気に距離を詰めた宵一の目にも止まらぬ早業の三連撃が、真紅の幻影を襲う。一撃目二撃目は阻まれるも三撃目が真紅の幻影の体勢を崩し、そこにベディヴィエールの剣戟、接近しての強力な剣戟が重なる。鎧が大きく切り裂かれ、修復が始まるもその間は動きが大きく鈍った。
「今だ!」
 宵一が剣を天に向け、神の光を宿した一撃を放つ。同時にリイムと合流した伊織がベディヴィエールから主操作を譲渡され、二機の周囲に黄金色のオーラが生じる。増幅された魔力が奔流として解き放たれ、真紅の幻影を包み込んだ。
『……真紅の幻影の反応、消失しました』
 光と魔力の奔流が消え、ベディヴィエールが真紅の幻影の魔力反応の消失を報告する。伊織は一息つく間もなくロケット発射台に意識を振り向けるが、時すでに遅し。
「行っちゃいました……」
 遥か上空に伸びる、燃料の炎。飛び立ったロケットは鏖殺寺院の戦闘員と何らかの物資を月へ運ばんと上昇を続けていた。


 その後、援軍として駆けつけた味方と協力し、ロケット発射台は難なく制圧することができた。
 しかし、ロケット発射を阻止することはできなかった。月にあるというニルヴァーナのゲートを巡る戦いは、より激しさを増すことだろう――。
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