■大気圏突入戦闘訓練(1)
大気圏突入にすら耐えうる宇宙服を身に着け、既に突入コースに入っていたシャトルに張り付いていた
桐ヶ谷 遥が
イコンの機影を確認し対応に当たる。
(ただ強いだけなら、契約者じゃなくてもいい。
契約者だからこそ至れる何かがきっとあるはずよ)
遠隔操作されたイコンの砲撃が、シャトルを掠める。パートナー契約したパイロットを搭乗させていないイコンはせいぜい、動かせる砲台程度の性能しか持たないが今は極限状態であり、非常に強力な障害となって襲いかかる。
(落ち着きなさい……どこに居ても、一度繋がった絆は決して失われないわ)
履いた靴の推進装置で、自身をイコンに向けて飛ばす。同時に自身の幻影を周囲に出し、イコンの攻撃を逸らす補助とする。地上とも空中とも違う空間の中、遥はイコンへ距離を詰め身の丈ほどもある剣を抜き力を解放する。直線を描いて連続した落雷が生じ、イコンの装甲が剥がれ飛んだ。
(狙いも考えないと、飛んできた装甲で被害を負いかねないわ)
できれば密接距離から、イコンの動力炉を停止させる一撃を叩き込みたい。だがそのためには力が足りない。
(まだよ……私にはまだ、解放していない力があるはず)
イコンの砲口が、遥を捉える。防御手段を持たない遥がこのまま撃たれれば、宇宙のデブリとなって散る――。
『――――』
繋がった、そんな感覚と同時に遥の全身が赤く発光する。思念が遥の身体能力を強化し、直後飛んできた砲弾に反応して回避する。
(この力なら……行ける!)
確信を得た遥が自身を加速させ、赤い光を後方に残してイコンへ急接近。幾重にも重なったソニックブレードを放ち、イコンの動力を断つ。完全に行動を停止したのを確認して、遥は機体を熱から守る盾代わりにし、一気に身体を襲う疲労感に耐えつつ帰還を目指す――。
(ついに宇宙まで来たか。契約者ヤベエな。
環境適応に関しちゃちょいと煩いが、やっぱ勝手がちげぇな。熱に衝撃……比べもんにならねぇ)
シャトルに取り付いていた
キョウ・イアハートが地上とは比較にならない消耗に肝を冷やす。ただ取り付いているだけでも厳しい上に、突入コースに入ったシャトルを撃墜せんとイコンが近づいてきた。
(けどな。この痛みも、負荷も『生』のうち。
これまでの戦いで培ってきたもん全てが、『契約ありき』だった、なんて言わせねえ。
こっちも相方も等身大の人間、けど、退く道理もねえ)
サポートプログラムを起動させ、射撃能力を向上。構えた銃から貫通力の高い魔法の弾丸を放ち命中させることで、イコンの体勢を崩す。同時に広がる光の煙幕で自身を紛れさせ、相手の次の攻撃タイミングを遅らせる。
ここまではキョウの想定通り、だが効果的な移動手段を持っていないため、次の攻撃に適切な距離を取ることができない。こちらが退いていると認識させることで敵のパターンを絞り、左右からの挟撃で仕留めるプランに不安が生まれる。
(なら――もう一発!)
魔法弾を直撃させるのではなくあえて弾けるようにして、二重の煙幕とする。こうして撃つ瞬間を相手から見えないようにして、キョウは二発の弾丸を左右から挟撃するように放ち、武装を破壊されたイコンはそれ以上積極的な行動を起こすことなく地球へ落下していった。
(……、なんとか退けたか。疲れた……)
気を抜くと意識が飛びそうになりながら、キョウはシャトルから振り落とされないよう懸命に取り付く。
(我が盾は力無き声を守り、我が杖はその心を癒す――。
……はぁ……ですが、この極限状態ではさすがに……)
シャトルの壁面に取り付く
ディード・グランナが、普段は決して揺らがない矜持すら危うい状態で耐える。本来は光条兵器の盾を片手に持つ予定だったが、突入コースに入ったシャトルは効果的な移動手段なしには満足に動けず、片手をシャトルに取り付かせていなければ弾かれてしまうことがわかってからは星杖エウロパを片手に持つに留めていた。
(……いいえ、私は牡牛座を継ぐ身。星の加護がある限り、最後までこの力を振るいましょう。
この船を守ります……たとえ独りであっても)
直後、ディードの周囲をつむじ風が舞う。熱にやられかけていたディードにとってこの風はまさに救いの風となり、思考もクリアになる。既に出現していたイコンの向ける砲口に、星杖エウロパを盾に変形させることで対応する。発動させた結界の力もあって、砲弾を自身が吹き飛ばされず耐えることに成功した。
「決めます!」
すぐさま星杖エウロパを、光弾発射に適した形態に変形させる。無数に発射される光弾に撃ち抜かれたイコンが吹き飛び、地球へ落ちていった。
(……、なんとか、退けられましたね)
星杖エウロパを収納し、ディードは両手でシャトルに取り付き帰還を目指す。
大気圏突入にすら耐えうる宇宙服を身に着け、既に突入コースに入っていたシャトルに張り付いていた
小山田 小太郎が、イコンの出現に対応するべく自身の周囲につむじ風をまとわせる。
(この風があれば熱にも耐え、移動手段とすることもできます)
周囲を見渡し、熱に苦しんでいる仲間へも同様のつむじ風をまとわせ、無事に訓練を乗り越えられるようにする。
(皆で生き延び、乗り越えましょう。
パートナーとの絆が感じられなくとも、パートナーは――ヴィー君は確かに存在しています。
常にあったものがなくとも……こんなところで挫けていてはそれこそ対等なパートナーとして顔向けできませんから)
心を無の状態とし、あらゆる邪念を払い、小太郎が一つの境地に到る。遠隔操作されたイコンのさらにその先――イコンを遠隔操作している者の想念を読み、動きを捉えることで次の攻撃を必中のものとする。
(無駄撃ちはできません……確実に撃ち抜きます)
長杖をイコンへ向け、出現した魔力の陣から石の矢を放つ。鋭く飛ぶ矢はイコンの動力炉を撃ち抜き、石化の力が全身に作用してイコンは行動を停止した。そのまま地球へ落ちていくのを見やり、小太郎はつむじ風が保たれるように意識を集中させた。
(へっ……大気圏突入が何だってんだ。
兄貴に、兄貴のパートナーは一人でも立派に訓練を乗り越えられるってとこ、見せられるんだからな! オレは今、やる気に満ちてるぜ!)
小太郎同様、大気圏突入に耐える宇宙服を身に着け、突入コースに入ろうとしているシャトルに張り付く
ヴィーリヤ・プラジュニャーが目標を達成するために挫けない心をもって事態に対応する。
(誓った後は、動くだけだ! イコンがオレたちの妨害をしてくるんだったか?)
直後、遠隔操作されたイコンがヴィーリヤの取り付いているシャトルに向かってきた。動きは単調でヴィーリヤの目には的に見えたが、ここは戦い慣れたフィールドではない。
「うおっ、ととと……!」
シャトルから手を放してイコンに向かおうとするも、勝手が違いうまくいかない。その間にイコンが砲口をヴィーリヤに合わせるのが見えた。
「早速のピンチ、だがここで挫けるオレじゃねぇ!」
ヴィーリヤが獲得した、小太郎のとは別ベクトルの境地――体力の消耗と引き換えに全力を超えた動きや思考が可能となる――の力を発動させ、発射された弾丸をかざした大剣と体幹で防ぐ。
(進めなければ――あえて、落ちる!)
ヴィーリヤが意識することで、落ちる際の浮遊能力をあえて切り、結果ヴィーリヤの身体はイコンへ真っ直ぐ落ちていく。
「くらええぇぇ!」
すれ違いざまに大剣を叩きつけ、イコンの動力炉を停止させる。すぐにこのままではシャトルに戻れないと判断したヴィーリヤは先程無力化したイコンを熱から守る盾代わりにし、地球への帰還を目指す――。