クリエイティブRPG

楽園の覇権争い

リアクション公開中!

 148

楽園の覇権争い
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last


・ベイグラント騎士団と二振一具2

 四肢と肩からブースターユニットのバーニアが発する光を放ちながら、高速で潤也のエスカリボールⅢがイペタムの周囲にいるバルバロイへ肉薄した。
 腰だめに構えたクォルコネリア<D>を振るい、轟音を上げて瀑布の如き刺突の連撃を繰り出す。
 円を描くように放たれた刺突の嵐が、刹那のうちにバルバロイを穴だらけの残骸へと変える。

『さあ、次はどいつだ!』

 直後、潤也の耳元で警告音が鳴り響く。
 敵味方の位置関係から気付いた宵一も潤也へ警告を発した。

『後ろだ、避けろ!』

 そこでようやく潤也は気付く。

『っと、危ねぇ、助かったぜ!』

 死角から飛んできたバルバロイの弾を、敏腕サポーターの助力を受けて回避した。

『俺が始末する!』

 潤也へ遠距離から不意討ちをかけてきたバルバロイへ、宵一のエスカリボールⅡは突進した。
 迎撃として放たれる弾丸を身を屈めて回避すると、勢いを殺さず突っ込み、ビートルバスター<D>を振るって斬りつけ、その動作を予備動作に勢いよく身体を回転させ、さらにもう片方のインファントキラー<D>を振るう。

『変幻自在の動きについてこれるか!』

 華麗な二刀流剣技は、疾風の如く。
 弧を描きながら、対となって鋭角な軌道を描く連斬が、瞬く間にバルバロイを斬り刻んだ。
 突進乱撃の勢いのまま駆け抜けたエスカリボールⅡが動きを止めると同時に、その背後で全身の裂傷から血飛沫を噴き上げたバルバロイが絶命する。
 明らかに数減らしの意図が見て取れる潤也と宵一の意図に、イペタムが気付かないはずもない。
 襲いかかろうとするイペタムのドラグーンアーマーを、死角から伸びてきた木の根が拘束せんとする。

『誰だい!?』

 振り向いたイペタムは、アーラのシュワルベWRzwieのステージから、じっと自分を見据える恭司の姿を見た。

『チマチマとうざいんだよ……っ!?』

 恭司を狙い、その快速性を活かして急行しようとしたイペタムだったが、動き出す前に何かに気付いて、弾かれたように顔を上げる。
 空を飛んでいるイペタムのドラグーンアーマーの、さらにその頭上。
 雲よりも高い高度に、何かがいる。
 漂う雲が移動していき、隙間から機影が見えた。
 伊織のデュランダルⅢだ。
 イペタムを目視で捉えた伊織は、すぐさま機体を急降下させた。

『まずは一撃……ぶちこむです!』

 大上段に振り被ったバーングラディエーターを、数十メートルの急速落下による勢いを乗せて振り下ろす。
 自由落下ではなく、機体の動力による加速を加えた一撃だ。
 とっさに両腕のミスリル製パイルバンカーを盾代わりに受け止めるイペタムを、その勢いのまま力で押し切り地上へ打ち落とした。

『いいよぉいいよぉ! 遊ぼうじゃないかあああああ!』

 地表に叩きつけられたイペタムのドラグーンアーマーだったが、奇声と共に、すぐさま急上昇をかけて戻ってくる。
 そのさまアッパーの要領で片方のパイルバンカーを突き上げてくるのを、伊織はバーングラディエーターで受け止めながら側面に刃を逸らし、身体を半身にして体を入れ替え、瞬時にイペタムの真下へ潜り込んだ。
 この動きは、イペタムの目線では突然伊織のデュランダルⅢが、瞬間移動したかのように姿を消失させたかのように見えた。
 さらに攻撃の力をすかされたことにもより、イペタムが体勢を崩す。
 イペタムが隙を見せたのは一瞬だ。
 しかしその一瞬で、伊織はバーングラディエーターをトルネード・シースに納め、次なる一手を取っている。
 周囲に発生した風が渦を巻いた。

『破っ!』

 鞘走りする刃は閃光の如く。
 涼やかな納刀音に遅れて、解放された狼の闘気がイペタムを襲った。
 機体の装甲が受けた斬撃の形に沿ってひしゃげ、さらに狼の闘気で粉砕されて、部品が大きく飛び散る。
 凄まじい威力と衝撃に、イペタムが大きな隙を見せた。
 イペタムへ治癒の星詩と星音を叩き込むチャンスだ。
 千載一遇の機会を、ベイグラント騎士団も逃しはしない。

「さあ、納屋さん。決着をつけてください。私たちがお手伝いします」
『援護に響かせますわ。私たちの、魂の音と歌を』

 秋良が星音を、デューンが星詩を、それぞれ発動させる。
 紡がれるのは、想奏星譚・癒しの風が導くは。
 歌い上げられるのは、想響星譚・大空に響く癒し詩。
 旋律に合わせて、秋良の周囲に高い治癒力を宿した旋風が巻き起こった。
 生身と機械の身体を問わず、平等に治療する奇跡とも呼べる癒しの力は、イペタムにも確かに作用した。

「この風が、きっと導いてくれるでしょう。流浪の果てに辿り着いたその旅路の終わりに、希望の花が咲くように。今こそ奏でます。風が巡らせる、星の息吹を」

 奏でられた旋律に共鳴するかのように、デューンの高い治癒力を誇る癒しの詩が重なって響く。

『歌いますわ。バルバロイに侵された、その身を取り戻せるように。それが望んでいる結果ではないのだとしても、未来への選択肢を増やすために。響かせますわ。遍く空の果てまでも』

 ふたりの星詩と星音が、高く、遠く響いて広がっていく。
 こうして、バトンは二振一具に託された。
 信道 正義は、常々考えている。
 イペタムは倒すべき敵だ。
 救う対象ではない。
 迷えば逆に、自分たちが殺されることになるだろう。
 そもそもイペタムは殺意を隠そうともしていないうえに、語る言葉は支離滅裂で、もはやまともな思考状態にないことは、傍目から見ても分かるほどだ。

「……それでも、昔の俺だったら、声をかけ手を伸ばしていたのかもしれないが」

 それなりに長く生きていれば、嫌でも思い知る、現実という名の冷たく高い壁が、正義に否応なく突きつけてくる。
 夢物語に過ぎないのだと。
 実際に起こるのは、優しさや理想だけではどうにもならない残酷なことばかりなのだと。
 かつては正義も抱いていた理想の残骸が、無慈悲にそれを語っているのだから。

「理不尽だよなぁ、本当に。……くそったれめ」

 それでも、分の悪い賭けをするのならば。
 あるかどうかも分からない奇跡の実現を夢見るのであれば。
 それは納屋 タヱ子のために他ならない。
 正義は頭を振って、己を戒めた。

「いや、違う。俺の行動の責任を、タヱ子に押しつけてなるものか。これは、俺のためだ……! タヱ子の助けになりたいという、俺だけの……!」
「どんな結果になろうとも、背負いましょう。ふたりで、平等に。……本当なら、ひとりで背負うべきですのに。駄目ですね、わたし。正義さんがいてくれて、とても嬉しく思ってしまいます」

 横に並んだタヱ子が、正義の手をそっと握った。
 正義に比べれば、遥かに小さく華奢な手だ。
 その手を精一杯伸ばして、イペタムを救わんとしている。

『タヱ子ぉぉぉ……みぃぃぃぃぃつけたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』

 イペタムの声がする。
 振り向けば、静まり返った空気の中、不気味に佇むイペタムのドラグーンアーマーの姿がある。
 前回や、つい先ほどまで見せていた激情が、嘘のように鳴りを潜めている。
 それは正気に戻ったとか、落ち着いたとか、そんな理由からではない。
 ただ単に、ついに念願のタヱ子を見つけたことで、前回の鬱憤も重なって、吹き出し口が詰まってしまっただけのこと。

『ケヒャ、ケヒャヒャ』

 それは、爆発の前兆。
 一拍の間を開けた後に。

『今度こそ、終わりにしようねえええええええええええ!』

 感情を爆発させて、イペタムが襲いかかってきた。

『させるか!』

 割り込んだツヴァイハンダーⅡ【A】が、インファントキラー<D>でイペタムのパイルバンカーをがっちりと受け止める。
 膝で衝撃を吸収し、勢いを削いで受け流そうとする正義だったが、そうはさせじとイペタムがぐいぐいとパイルバンカーを押し込んでくる。

『ぐっ……! 相変わらずの、馬鹿力め!』
『邪魔邪魔邪魔邪魔あああああ!』

 バルバロイと融合したことによるものか、機体の性能によるものか、あるいはその両方か。
 圧倒的なフィジカルの差を見せつけ、イペタムは強引にインファントキラー<D>ごとパイルバンカーを持ち上げ、ツヴァイハンダーⅡ【A】を空中に浮かした。

『まずい!』
『ケヒャ! ケヒャヒャ!』

 走る悪寒に正義が身を捻ると同時に、パイルバンカーの引き金が引かれ、轟音と共に発射された杭が豪快にツヴァイハンダーⅡ【A】を吹き飛ばす。
 並のドラグーンアーマーとドラグナーであればそれだけでバラバラにされかねない一撃だったが、ツヴァイハンダーⅡ【A】は五体満足のまま、空中で姿勢を整え着地した。
 ばらばらと、弾け飛んだショルダーSシールド<D>の残骸が地面に転がる。
 咄嗟に着打点をずらした正義が、パイルバンカーをショルダーSシールド<D>で受け止めていたのだ。
 代償にショルダーSシールド<D>が使い物にならなくなったものの、ひとまず初撃を凌ぐことには成功した。

『わたしはわたしの信念を貫きます。それが、わたしの人生、歩む道。これからも続く、未来という名の旅路です。……イペタム。あなたの前には、どんな道が広がっているのでしょうね』
『っ!』

 正義に守られながら、静かに語りかけたタヱ子へ、イペタムは憤怒の視線を向けた。
 道など、有りはしない。
 バルバロイと融合した自分に、ろくな未来はない。
 そんなことは、誰よりもイペタム自身が理解している。
 だからこそ、人のままでいられるうちに終わらせて欲しいのに。
 ……終わらせて、欲しかったのに。
 激高しかけたイペタムだったが、クモキリマル弐式の全身から噴き上がる青いオーラに気圧された。

『道を見失ったというのなら、わたしが照らしましょう。この力で』

 聖リンカネーションが発動する。
 イペタムが抱く怒りや悲しみが癒されるように。
 未来がないのだと、思い込んでいるイペタムに、違うんだよ、見えていないだけで、道はそこにあるんだよと、教えてあげるために。

『──いつかまた。どこかで。お話しましょうね』

 光が満ちる。
 機体から、ぼろぼろとバルバロイが零れ落ちていく。
 身体から、バルバロイが離れていく。
 信じられない光景を見て、イペタムは、ついに自分にも終わりが来たのだと悟った。
 死に行く自分を、壊れゆく機体を、バルバロイたちは見捨てたのだろう。そう思った。

『ようやく、アタイも行けるんだね……。皆の、ところ、に……』

 白く染まっていく視界の中、イペタムは。
 慈愛に満ちたタヱ子の笑顔を見た。
 意識を失う瞬間、一筋の涙がイペタムの頬を伝った。
 完全に動きの止まったイペタムのドラグーンアーマーを見て、タヱ子が叫ぶ。

「シース!」
『触るでないわ!』

 【使徒AI】シースの助けを借りて、タヱ子はクモキリマル弐式をイペタムのドラグーンアーマーに組み付かせようとする。
 隣を見れば、正義も同じようにしている。
 正義と同時に外に飛び出し、コックピットハッチを抉じ開けてイペタムを助け出そうとしたタヱ子の前で、鬼姫の声と共にひとりでにハッチが開き出す。

『良き乗り手ではなかったが……妾の腹の中で死なれては目覚めが悪い』

 それは、イペタムだけでなく、己の肉体ともいえる機体をバルバロイから解放してくれたことに対する、鬼姫からの礼であったのかもしれない。
 中には、強制分離させられてそのまま息絶えたらしいバルバロイの死骸を揺り籠のようにしたイペタムが、あどけない表情で目を閉じていた。
 タヱ子が慌てて耳を澄ますと、小さな寝息が聞こえていた。
 その手にはメモリーチップのようなものが握られていた。


First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last