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楽園の覇権争い

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楽園の覇権争い
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・キルデア騎士団とリーシュ騎士団1

 忌枝 徒長は皆を手伝っている。
 キルデア騎士団が動いていた。
 他方 優はイペタム本人を狙うのではなく、彼女の周囲にいるバルバロイを駆逐しようとしていた。

『再装甲化は厄介だけれど、幸いにも材料になりそうなバルバロイの数は多くない。その回数を削るという意味でも、行う価値はあるはずだよ』

 関節部や継ぎ目など、比較的防御性能が脆弱な箇所を、追加装甲である龍の瞼<D>を装着するチューンアップが施されたパラーシュが、ハラキリブレード<D>を納めたトルネード・シースを手に、バルバロイを狙って閃光のごとく飛翔する。
 優の機体だ。
 狙われている個体以外のバルバロイたちも、黙ってはいなかった。
 そのパラーシュを、四方八方から爪が牙が、遠距離からは飛来する弾丸が襲いかかる。

『この程度!』

 飛んできた弾丸を、パラーシュを操縦する優は、弾丸の軌道から逃れるように側面を向けながら大きく急上昇して避け、即座に急制動をかけて減速する。
 凄まじいGに歯を食い縛りながら即座に急降下に移り、続く突撃してきたバルバロイたちの近接攻撃を空振りさせた。

『そこだっ!』

 トルネード・シースから、白刃が抜き放たれる。
 周囲に発生した竜巻にバルバロイたちが翻弄される中、斬撃がバルバロイの肉体を断ち斬る。
 永見 玲央は、野外整備拠点の設立を急いでいた。
 キルデア騎士団の団長であるクローヴィスや、副団長のガストンらと交渉を事前準備として行い、根回しして野外整備拠点設立が成功しやすいように状況を整えておいた。
 その結果は、人手の確保や、野外整備拠点の設立に必要な資材の提供という形で帰ってきている。
 野外整備拠点がある程度の形になり、運用可能な段階に達すると、玲央はその運用を永見 博人伏見 光葉のふたりに放り投げた。

『よろしく頼みますよ。私は後方からの観測と、支援戦闘に行って参りますので』

 出発準備を整える玲央のツヴァイハンダー・エリートを、博人の整備専用ピレリWSが見送る。

『任せてよ。デスマーチになっても、僕たちでしっかり乗り切ってみせるからね』

 玲央が心配しないで向かえるよう、操縦席から博人は敢えて笑顔で手を振った。
 それぞれの機体に搭載されている【使徒AI】ヴァレット【使徒AI】お局様が、何やら会話のやり取りを行っていた。
 互いにサポート対象から目を離さないよう、意思を確認し合っているようだ。

「俺も手伝うからな。気兼ねなく行ってこい」

 整備専用ピレリWSのステージからも、玲央へ光葉が声をかける。

『ええ、任せましたよ』

 ツヴァイハンダー・エリートが去っていく。


* * *



 リーシュ騎士団も動いていた。
 ナハイベル・パーディションの姿は、【使徒AD】マーチングバンドが操縦するスタンドガレオンのステージにあった。
 ナハイベルが様子を窺っているのは、イペタムの動向だ。

『タヱ子ォォォ……! どこだよぉおおおおお!』

 イペタムはバルバロイと融合し、異形と化した機体を駆り、戦場の一角で破壊を振り撒いている。
 執着する対象を見つけるまでは止まらない様子だが、その割には全然関係ない味方を執拗に追い回すなど、行動に一貫性がなく、目についた敵を片っ端から狙っているように見える。
 明らかに、精神状態が悪化して言動が支離滅裂さを増していた。

「なんか、前回見た時より大変なことになっているような……? でも、助けられるなら助けないとね!」

 直接イペタムと戦っている味方の無事な帰還を祈りながら舞い、星素で回復支援を行っていく。

「マーチングバンドちゃん、今回は思いっきり激しい運転しても大丈夫だよ! ロックな歌には、激しいパフォーマンスで勝負するんだから!」

 許可を得たマーチングバンドの表情が喜色に満ちる。
 激しく揺れるステージの上で、チェーンサークルを掴みながらナハイベルは紫紅雨を発動した。
 ステージの床を濡らす雨を浴びながら、軽やかなステップを踏むナハイベルの足元から花が咲く。
 舞い散る花びらと雨がステージを艶やかに彩る中、ナハイベルの清らかな歌声が周囲の味方を癒し戦意を高揚させていった。


* * *



 早くも博人と光葉は運ばれてきた機体の整備に追われていた。

『そっちだけ頼むよ! 他は僕がやるから!』
「おう、任せろ!」

 整備デッキに改造されたステージへ出てきた博人が、パワーアームズを背負い、手にはグレートモンキーレンチという完全武装整備姿で駆けていくのを横目に見つつ、光葉も指示されたとおりに機体へと走り寄った。
 やはりアマゾナス・インターセプターとイペタムという、強敵がふたりもいるせいか、損傷して運ばれてくる機体の数が多い。
 それでも滞って詰まることがないことに、博人と光葉の整備する腕の高さが窺える。
 治癒魔法を行使し、破損個所を修理していく。
 強大な治癒の力は、生身ではない機械の鎧にも作用し、元の状態へと回帰させた。

「……凄いぜ、こりゃぁ。まあ、消耗も相応に凄まじいが」

 サカイヤチョコレートを取り出し、さっそく一口齧りつつ、次の機体の修理に取りかかる。
 精神力の消耗が大きいとはいえ、予想はしていたので境屋印のWH栄養ドリンクも準備しており、長期戦の備えに抜かりはない。
 そんな光葉の作業風景を、自分も手を動かしながら、博人が見ていた。
 まずは簡易点検で異常個所を洗い出してから、本格的な修理に取りかかる。
 戦闘に大きな支障が出ると判断した箇所を重点的に、取り外して予備のパーツに換装し、駆動試験を行い問題なく動くことを確認していく。
 応急処置なので、十全に実力を取り戻すまでとはいかないものの、戦闘行動に問題ないレベルへ復帰させた。
 額に浮かぶ汗を拭いながら、そろそろ休憩したいなと思い始めた博人へ、お局様が無慈悲に次の機体の元へ向かうよう急かしてくる。

「うん、デスマーチだね!」

 休んでいる場合ではないのは分かっているので、博人は疲労を溜め込む身体に鞭打って、駆け出した。
 修理方法は治癒魔法で一発な光葉の方が単純明快に済むが、疲労度で言えば似たようなものだ。
 いや、光葉の方が多いかもしれない。

「ゼェ……ゼェ……。まだ、倒れるわけにはいかねぇ……」

 荒い息を吐く光葉は、空になった境屋印のWH栄養ドリンクの瓶をゴミ箱に投げ捨て、疲労による隈が浮かび座った目で口元を拭う。
 光葉の場合は、機体の修理だけでなく、それに伴い操縦者が負傷していた場合その治癒も行うことになるので、そいう意味でも負担が半端なかった。
 ふたりのデスマーチはまだまだ終わりを見せない。
 作業をこなしてもこなしても新たに運ばれてくる機体は後を絶たず、並行して治療しなければならないパイロットも増えていく。

「……もう、負傷者の治療に集中して。機体修理は、僕がやるから」
「……すまん。悪いが、頼むぜ」

 どっちもげっそりした表情の博人と光葉は、顔を見合わせると、どちらからともなく役割分担をし直し、死んだ目で次の作業に取りかかった。


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