・ゼノビアを救え3
結局、カプセルのもとへ辿り着くことはなく。
倒れたゼノビアは、どこか安らかな表情で自らの敗北を受け入れた。
怒り狂うファーストクイーンの心を感じながら、微かに残っていたゼノビアの心は、安堵を得た。
これで、眠れる。
寄生されてから、悪夢のようだった長い旅路が、ようやく終わる。
(ありがとうございます……)
自分を止めてくれた者たちに、ゼノビアは礼を言いたかった。
死にかけのゼノビアには、もう声を出すことはできないけれど。
幸せな心地だった。
揺り籠に揺られているような安らいだ気持ち。
微かに、声が聞こえる。
目を開いたゼノビアが見たのは、治癒の力を行使し、自分の身体からファーストクイーンを取り除こうとしている、アレクスと愛菜の姿だった。
アレクスが、ゼノビアに語りかけてくる。
「眠りにつくには、少しばかり早いぜ」
「……どうして?」
災厄を招く存在だと知っていて、何故助けようとするのか。
愛菜の小さな声が、ゼノビアの疑問を解消した。
「あなたを、殺したいわけじゃないから。悪いのは、ファーストクイーン。あなたじゃない」
少し前までのゼノビアだったなら、理解できなかっただろう。
心を侵食され、ほとんど自分とファーストクイーンを同一視するところまで、ひとつになっていたから。
次々に、自分の意に反する感情がまるで自分の感情のように湧き出るのは恐怖でしかなく。
その恐怖でさえ最後には喪失してしまって。
「死なせるものか……! 我儘だとしても、俺は諦めたくない……! 生きろ、ゼノビア!」
最高位の治癒の力が、貫からも行使される。
温もりに包まれるゼノビアは、ファーストクイーンに侵食され、食い荒らされていた己の自我が、ゆっくりと癒されていくのを感じていた。
涙が頬を伝っていくのを、肌を濡らす感触から知る。
……また、涙を流せるようになるなど、思っていなかった。
そんなものは、とっくの昔に失われてしまったと思っていたから。
意識が、遠くなっていく。
自分から摘出されたファーストクイーンの卵が破壊されるのを見ながら、ゼノビアは目を閉じた。
(さようなら。これでお別れですね、ファーストクイーン)
思えば多くの人を犠牲にし、迷惑をかけてしまった。
残りの人生全て費やして、己の罪を償おう。
次に目覚めたその時には、きっと幸福な日々が始まっているだろうから。